インスリン抵抗性とその改善 ―脂肪組織、インスリン作用の視点から
公開日:2025年7月17日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(4): 0058./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(4): 0058.
https://doi.org/10.57554/2025-0058
https://doi.org/10.57554/2025-0058
はじめに
インスリン抵抗性は、インスリンの血糖降下を含む代謝作用が低下している状態を示す。本稿では肥満に伴うインスリン抵抗性の成因を中心に概説し、臨床的に使用されるインスリン抵抗性の指標、およびインスリン抵抗性を改善する薬物とその薬理作用について紹介する。
1.脂肪細胞における糖・脂質代謝
脂肪組織は単に脂肪分が体内に蓄積しているだけでなく、脂肪細胞、血管などの間質細胞、免疫細胞など多くの細胞種により構成される。脂肪細胞は周囲を毛細血管や神経線維に覆われている。インスリンが脂肪細胞表面に存在するインスリン受容体に作用すると、インスリンシグナル伝達を介して細胞質のグルコース輸送体(glucose transporter:GLUT4)が細胞膜表面へとトランスロケーションし、血液中のグルコースが脂肪細胞内へと取り込まれ、血糖が低下する。グルコースは解糖系、TCAサイクルを経てクエン酸へと代謝され、これを基質として脂肪酸が合成・伸長されるが、インスリンはこの同化作用を促進する。脂肪酸はエステル化され中性脂肪となり、脂肪滴内に貯蔵される。一方で、脂肪組織の神経末端から分泌されるカテコラミンは脂肪細胞のβ3アドレナリン受容体に作用し、プロテインキナーゼA(PKA)の活性化を介して脂肪滴の表面に存在するホルモン感受性リパーゼなどのリン酸化を引き起こす。その結果脂肪分解が促進され、脂肪酸とグリセロールを血中に遊離することで、栄養素を必要な臓器に供給する(図1) 1)。このように、インスリンは脂肪細胞の代謝制御因子として重要な機能を担っている。
