はじめに 近年、インスリンポンプや持続グルコース測定(continuous glucose monitoring:CGM)など先進デバイスの進化により1型糖尿病の治療成績は向上し、以前と比較すると低血糖リスクを低減しながら安全かつ良好な血糖コントロールを実現することが可能になってきた。一方、低血糖リスクの高い高齢1型糖尿病患者には本来、先進デバイスを活用した安全な治療が望まれるが、認知機能低下やデジタルリテラシーの問題で先進デバイス導入の障壁となることも多く、大きな課題を抱えている。 本稿では、高齢1型糖尿病の治療について、先進機器の活用という観点も含めてその現状と今後の展開について解説する。
はじめに インスリンは糖尿病治療になくてはならない存在である。しかしながら、その投与手技の煩雑さゆえに患者のQOLを著しく損ない、実効性に乏しい治療法としての側面も併せ持つ。従来は黙認されてきたこうした課題も、複雑化し高度化する社会的ニーズの中で必然的に解決が求められてきた。こうした時代の変遷の中でインスリンは飛躍的な進化を続け、さらなる新境地を開こうとしている。本稿では実用化が目前に迫る週1回インスリン製剤の特徴や臨床試験データの紹介と、週1回投与という新機軸がもたらす変革について考察する。
はじめに 多細胞生物、特に高度に発達した生命体が生きるためには、環境に応じて生体の機能を素早く制御し、生体の恒常性維持を図る仕組みが必要である。そうした仕組みは異なる細胞同士が相互に情報をやり取りすることによって可能になるが、こうした細胞間情報伝達の方法の一つが液性因子を介した細胞間のコミュニケーションである。 こうした液性因子は古典的にホルモンと呼ばれるものに相当する。特定の細胞から分泌されたホルモンが標的細胞の細胞表面にある特異的な受容体に結合すると、受け手の細胞内ではホルモンに応じた特異的なシグナルが伝達され、特定の遺伝子発現、運命決定や蛋白の分泌が起きるなど、細胞応答として細胞の状態が変化する。では、このような細胞応答の過程で、シグナルはどのように細胞内を伝わり、その機能の発現を引き起こしているのだろうか。
はじめに SGLT2阻害薬は、尿糖排泄を増加させ血糖降下を期待する糖尿病の治療薬として開発された。しかし、その後の多くの大規模臨床研究により、SGLT2阻害薬には、その種類によらず、血糖降下作用に独立した心腎保護効果が証明され、その適応は慢性腎臓病、心不全にまで拡大された。一方で、浸透圧利尿に伴う脱水、エネルギーロスに伴うサルコペニアの懸念から、高齢者に対する安全性への懸念も存在する。本稿では、SGLT2阻害薬の臓器保護作用、高齢者における注意、そしてその背景にある病態について解説する。
高齢者の慢性疾患の長期にわたる診療をどのように実践していくかという課題は、世界共通の重要な社会的テーマである。その水準は、経済状況や利用可能な医療資源によって自ずと異なる。わが国は、国民皆保険制度や医療への良好なアクセスが達成された結果、国際的にも一二を争う長寿社会を実現してきたが、一方で超高齢社会において増大する医療コストへの対処を余儀なくされる課題先進国でもある。私たち医療従事者は、わが国固有の状況に適合した医療の在り方を新たに探っていく必要がある。 糖尿病は加齢関連疾患であり、わが国では糖尿病を有する人の約7割が高齢者である。高齢者は複数の合併症や併存疾患を持っていることが多く、治療に付随する低血糖に対して脆弱なため、高齢者糖尿病の診療はさまざまな配慮を必要とする。一方で、近年の治療薬やデバイスの進歩は目覚ましく、従来エビデンスが乏しいといわれてきた高齢者糖尿病についても、今後の診療に大きく影響を与えそうな結果が次々と報告されている。 本特集では、高齢者糖尿病に関するトピックスおよび課題として、6つの項目を取り上げた。まず、SGLT2阻害薬を高齢者でどう使うかについて、滋賀医科大学の久米真司先生に解説していただいた。心不全やCKDの併発例は珍しくなく、日々診療で直面する重要テーマの筆頭である。次に、製造販売承認を取得し巷間でも大きな話題となっている週1回インスリン製剤について、東邦大学の吉川芙久美先生と弘世貴久先生に執筆をお願いした。インスリンイコデクだけでなく開発中の製剤についても触れてくださっている。高齢1型糖尿病の問題については、岡山済生会総合病院の利根淳仁先生が、CGMやインスリンポンプなど先進機器の活用という観点も含めて、その現状と今後の展開について詳述してくださった。糖尿病専門医もしばしば悩むところだが、リテラシーに配慮しながら効率的に導入する体制構築のヒントが多く示唆されている。受診者や家族から多く質問される認知症の予防については、国立長寿医療研究センターの杉本大貴先生と櫻井孝先生に解説をお願いした。糖尿病治療と密接に関わる生活習慣介入のエビデンスについて、日本で実施された多因子介入研究 J-MIND-Diabetesを含めて、現在の知見が詳しく説明されている。高齢者のオンライン診療については、野村医院の野村和至先生に執筆をお願いした。「高齢者のオンライン診療に関する提言」が発表され、社会実装が進みつつある現在、第一線で実践する声は貴重である。最後に、医療スタッフが知っておくべき高齢者糖尿病の支援サービスについて、東京都健康長寿医療センターの豊島堅志先生に解説していただいた。介護や支援について、地域包括支援センターの重要性を含め、具体的なポイントがわかりやすく記載されている。 詳細かつコンパクトで読み応えのある記事をご執筆いただき、筆者の皆様に心より感謝申し上げるとともに、本特集が幅広い読者にとって診療の質の向上に役立つことを確信している。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:鈴木 亮;講演料(日本イーライリリー、ノボ ノルディスク ファーマ、住友ファーマ、MSD、日本ベーリンガーインゲルハイム、アステラス製薬、サノフィ、帝人ヘルスケア、興和、第一三共)、研究費・助成金(住友ファーマ)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム、田辺三菱製薬) 本記事のPDFをダウンロードいただけます
Q&A編はこちら はじめに 糖尿病の薬物療法においては近年新しいタイプの経口薬が次々と登場し、以前に比べるとインスリンの使用頻度は減少している。しかしながら、1型糖尿病患者はもちろんのこと、2型糖尿病においてもインスリン分泌低下を主たる病態とする患者に対しインスリンによる治療が必要となるケースは依然多い。 また、糖尿病発症時や高血糖持続時などの糖毒性*解除が必要な場合、感染症や手術などで厳格な血糖値管理が必要な場合、妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠で経口薬が使用できない場合などにもインスリンによる治療が求められる。 本稿では、現在本邦で使用できるインスリンの種類や、2型糖尿病診療におけるインスリン治療の考え方、使い方を模擬症例に沿って解説する。 *糖毒性:高血糖状態が続くことで膵β細胞からのインスリン分泌能が低下し、またインスリン抵抗性が高まることによりさらなる高血糖を招く悪循環の状態
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