はじめに 2023年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると肥満(BMI≧25kg/m2)の割合は男性31.5%、女性21.1%である。日本肥満学会は肥満の中でも糖尿病や脂質異常症、高血圧などの健康障害を合併する場合、または現在健康障害がなくても内臓脂肪型肥満と診断される場合は肥満症と診断し、医学的に減量を要する病態と定義している 1)。 肥満症の治療の基本は食事療法、運動療法を含めた生活習慣の改善であり、それでも困難な場合、薬物療法となる。しかし、肥満症治療薬として現在西洋薬で保険適用となるのはセマグルチド、チルゼパチド、マジンドールで、対象となるのがセマグルチド、チルゼパチドはBMI 27kg/m2以上、マジンドールは35kg/m2以上と高度の肥満症に限られており、早期からの介入で予後を改善し得る肥満症に対して西洋薬による対応は十分とはいえない。 一方、漢方医学には、本来肥満症や耐糖能異常、高血圧、脂質異常症といった疾患概念はないが、養生を基本とする独自の治療体系を有し、肥満症に対しても対応し得る薬剤が少なくない。つまり、陰陽、虚実、表裏、寒熱、六病位、気血水、五臓など漢方特有の概念に基づいて、漢方医学的診断である「証」を決定し、その人にあった養生を勧め、方剤を選択する。病名を診断して治療する西洋医学とは異なった、「随証治療」という独自の治療戦略をもつ。特に、「虚実」は大切な基本的概念で、病になった時に跳ね返す力、生命力の強さを表わし、「実」とは病に対する抵抗力が充実している状態、「虚」とは病に抵抗する力が衰えて虚ろな状態である。 防風通ぼうふうつう聖散しょうさんは「食毒」の薬で、実証の肥満の代表的方剤である。実証は体力があって筋肉質でがっちりし、血色や肌つやがよく、声は大きくて太い、胃腸が強くて食欲が旺盛、便秘気味、暑がり、少しぐらい無理をしても平気でつい食べ過ぎてしまう、などの特徴がある。一方、虚証は色白の水太りタイプで冷えてむくみやすく、体力がないため疲れやすい。虚証の肥満の代表的方剤は防己黄耆ぼういおうぎ湯とうである 2)。
はじめに 体重減少は日常的に遭遇する症候である。「医学的に対処すべき体重減少」に関する明確な共通認識は国際的に確立されていない。一般的に、「医学的に対処すべき体重減少」は「意図的な体重管理を行っていないにもかかわらず、半年から1年の期間で5kg以上の体重減少、あるいは、体重の10%以上の減少が見られる場合」と定義される 1)。体重は個人差が大きく、健康な状態で長期間にわたって安定的な低体重(やせ)を呈する場合は医学的に対処すべき体重減少とはみなされない。本稿では「医学的に対処すべき体重減少」に該当する可能性のある疾患群を概説し、特に、糖尿病・内分泌領域に関連する疾患群を詳述する。 1.体重減少をきたす疾患群 体重減少を引き起こす疾患群の中で頻度が高いものの筆頭格は消化器疾患である。高頻度に遭遇する疾患として胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群が挙げられる。また、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患や動脈硬化に関連する慢性腸管膜虚血も体重減少の原因となる。まれではあるが、ガストリン産性腫瘍や血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal polypeptide:VIP)産生腫瘍などの吸収不良症候群も体重減少を引き起こす可能性がある 2)。次いで種々の悪性腫瘍である。胃がん、膵がん、肝がんなど消化器系悪性腫瘍や肺がんなどの呼吸器系悪性腫瘍、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんが進行すると高度の体重減少(カヘキシア)を呈する 3)。カヘキシアは悪性腫瘍だけではなく、うっ血性心不全や慢性閉塞性肺疾患、慢性肝不全、慢性腎不全、関節リウマチや血管炎などの膠原病、制御不充分な慢性感染症(結核、HIV、寄生虫)など、持続的炎症を伴う疾患でも生じる 4)。 加齢自体もサルコペニアやフレイルを引き起こし、結果として体重減少をもたらす。高齢者においては歯牙の減少、嚥下機能低下、味覚・嗅覚の低下に伴い食欲も低下し、体重減少が生じることがある 5)。多くの高齢者が医薬を内服しており、副作用としての味覚障害が加齢に関連した食欲低下・体重減少の一因になっている場合も少なくない 6)。また、慢性便秘症に対する下剤の乱用やゾニサミドなどの抗てんかん・抗パーキンソン病薬による薬剤性の体重減少にも注意が必要である。高齢者において有病率が上昇するうつ病やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病などの精神・神経変性疾患も体重減少の原因となる。アルコール使用障害(アルコール依存症)や統合失調症、摂食障害も体重減少の原因となり 7~9)、特に神経性やせ症(神経性食欲不振症)では顕著な体重減少が必発である。体重減少をきたす疾患群の全体像を図1 10)に示す。以後は糖尿病・内分泌領域に焦点を当て、診療のポイントを解説する。
Q&A編はこちら はじめに 画像検査の普及により予期せず副腎腫瘍が発見されるケースが増えており、これを副腎偶発腫瘍と呼ぶ。成人での有病率は1~6%と報告されており、加齢とともに指摘される頻度は増加し、70歳以上では約7%となる 1)。新規に指摘された副腎偶発腫瘍では、悪性腫瘍やホルモン産生腫瘍の可能性を評価し、適切な対応を行う必要がある。本稿では副腎偶発腫瘍をみた時に評価すべきポイントと、どのようにマネジメントすればよいかについて、症例を提示しながら考える。 1.病因 本邦における副腎偶発腫瘍3,678例の疫学調査 2)によると、副腎偶発腫瘍の病因はホルモン非産生腺腫が約51%と半数以上を占め、以下コルチゾール産生腺腫、褐色細胞腫、アルドステロン産生腺腫の順であった(図1)。調査時点と現在ではサブクリニカルクッシング症候群の診断基準が異なるため、ホルモン非産生腺腫の中には現在のサブクリニカルクッシング症候群が含まれていると考えられる。その他の中には骨髄脂肪腫、嚢胞、交感神経系腫瘍などが含まれる。 図1 副腎偶発腫瘍の病因別頻度
Q&A編はこちら はじめに 食事療法は、2型糖尿病における治療の基本とされている。しかし、日本人の糖尿病の病態の多様化と患者の高齢化に伴って、一人ひとりに個別化した対応が求められている。本稿ではさまざまな属性を持った糖尿病症例を通して、糖尿病の食事療法の課題と在り方を考えてみたい。 1.糖尿病の病態の多様化 糖尿病はインスリン作用不足による代謝症候群である。2型糖尿病は、膵臓におけるインスリンの合成・分泌に制限のある体質的な要因(インスリン分泌不全)に、内臓に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満によるインスリン作用の低下(インスリン抵抗性)が加味することによって発症すると考えられている。従来、内臓脂肪型肥満の多い欧米人ではインスリン抵抗性が、やせ型の日本人糖尿病はインスリン分泌不全が糖尿病の主たる原因であり、両者は病気の成り立ちが異なると考えられてきた。しかし、最近ではそのように言い切れなくなっている。それは日本でも、肥満者が増えているからである。令和5年国民健康・栄養調査によると、40~50歳の働き盛りの男性に、BMIが25kg/m2を超える肥満者の増加がみられる 1)。現在の日本人の糖尿病には、肥満に伴うインスリン抵抗性が、大きく関与していると考えられる。このことは、糖尿病合併症の疾患構造にも表れている。以前は糖尿病性腎症や糖尿病網膜症といった細い血管の障害(細小血管症)が合併症の中心だったが減少傾向にあり、心血管疾患をはじめとする動脈硬化症(大血管症)が増えている。この変化の裏には、インスリン抵抗性を主因とする欧米型の糖尿病がある。一方、やせ型のインスリン分泌不全を呈する糖尿病患者も混在している。日本人の2型糖尿病の病態は、インスリン分泌不全からインスリン抵抗性まで多様であり、個別の対応が求められる。
はじめに 糖尿病性腎症の発症予防・重症化予防のためには、糖尿病や高血圧などの包括的な管理を行う必要があるが、糖尿病の治療継続者は7割以下である。このため国は平成28年(2016年)に糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定、現在では9割以上の市町村が取り組んでいる。令和6年(2024年)度にプログラム改定が行われた 1)ので、その要点について解説する。 1.糖尿病性腎症重症化予防プログラムと課題 「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」は、国民健康保険などの医療保険者が、健診・レセプトデータをもとに対象者を抽出し、受診勧奨・保健指導などを行うものである。国の実施要件として、①対象者の抽出基準が明確、②かかりつけ医と連携した取り組み、③保健指導には専門職が携わること、④事業評価の実施、⑤糖尿病対策推進会議などとの連携を図ること、の5項目がある。具体的な保健事業としては、糖尿病未治療者に対する受診勧奨、血糖コントロール不良者などに対する保健指導の2種類がある。 大規模実証事業による効果分析では、介入により医療機関受診が増加することが観察されたが、腎機能などのアウトカムの有意な差は認めなかった。その理由として、対象者抽出基準や介入方法などが標準化されていないこと、事業評価が不十分であることが挙げられる。そこで取り組みの標準化と質の向上に向けてプログラムが改定された。
はじめに 大分県では、高齢化と生活習慣病の増加により糖尿病や高血圧が慢性腎臓病(CKD)に進行し、透析導入が増加している。2018年末時点で透析患者数は4,057人、人口100万人あたり3,546人と全国5番目に多く、糖尿病性腎症の重症化予防が急務である。 1.大分県では 2019年12月、大分大学、大分県医師会、大分県は連携協定を締結し、「大分県糖尿病性腎症重症化予防推進に係る効果検討会議」を設立した。この会議では、かかりつけ医と専門医の連携を強化するため「大分県糖尿病性腎症重症化予防診療ガイド」の作成・改定を行い、県独自の紹介基準を設定。令和6年度の改定では新たな項目を加え、令和7年度初頭に県内へ周知予定である。
当サイトは、糖尿病・内分泌領域において医師・医療スタッフを対象に、臨床に直結した医療情報を提供する電子ジャーナルです。
該当する職種をクリックして中へお進みください。