はじめに 2024年の診療報酬改定では、特定疾患療養管理料および特定疾患処方管理加算の対象疾患から糖尿病、脂質異常症および高血圧症が除外され、代わりにこの3疾患を対象として、検査などを包括しない生活習慣病管理料(II)が新設された。そして、糖尿病に係る管理料は、脂質異常症や高血圧症よりも多く、主な管理料は10にも及ぶ。よって今回は、糖尿病と内分泌疾患に係る管理料について、医科点数表告示・通知、施設基準を基に概説する。 1.B000 特定疾患療養管理料について 1~4)(表1) 特定疾患療養管理料は、表1の施設基準告示別表第一に示す「甲状腺障害」および「処置後甲状腺機能低下症」を含む厚生労働大臣が定めた疾患を主病とする患者に対し、治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合に算定し、管理内容の要点を診療録に記載する。 「地域のかかりつけ医師」 が管理を行った場合、「1 診療所の場合」は225点、「2 許可病床数が100床未満の病院の場合」は147点、「3 許可病床数が100床以上200床未満の病院の場合」は87点を月2回に限り算定するが、200床以上の病院では算定できない。 初診日または初診日から1月以内に行った管理の費用は初診料に、退院日から1月以内に行った管理の費用は入院基本料に含まれ、算定できない。 情報通信機器が整備され届け出た保険医療機関において、医学管理をオンライン指針に沿って診療情報通信機器を用いて行った場合は、「1」、「2」、「3」の所定点数に代えて、それぞれ196点、128点、76点を算定する。 必要やむを得ない場合には、看護している家族などを通して療養上の管理を行った時も、特定疾患療養管理料を算定できる。
はじめに ―ギッテルマン症候群の頻度と認知度― ギッテルマン症候群については、多くの医療関係者でもすでに理解している方は少ないかもしれない。しかし、日本人における患者数は約500人に1人とされており、遺伝性疾患の中では最も頻度が高い病気である。この病気は必ずしも軽症とは限らず、多くの患者が慢性的な症状に苦しんでいる。ただ、医療関係者が症状を正しく理解しないために患者が適切に診断されないことや、自らの症状を「体が弱いから」と捉え、患者が病気の可能性を考えてない場合もある。偶然の血液検査で低カリウム血症が見つかる患者の多くはギッテルマン症候群の疑いがある。医療関係者は低カリウム血症を見つけても、症状がないために無視してしまうことがあるかもしれない。しかし、そうした患者の中には日常生活に支障をきたしている方も多くいる。このようなギッテルマン症候群患者は、適切な治療によって症状が改善し、日常生活を取り戻すことができる。本稿では、ギッテルマン症候群について詳しく解説する。 1.ギッテルマン症候群とは? ギッテルマン症候群は、腎臓の尿細管でナトリウムを再吸収する役割を持つナトリウムクロライド共輸送体(NCCT)をコードする遺伝子(SLC12A3)の異常により、尿中に大量のナトリウムが漏れ出し、それを補おうとする過程でカリウムも尿中に流出する。その結果、低カリウム血症が引き起こされる。
はじめに 水バランスは、口渇による水分摂取とバソプレシン(arginine vasopressin:AVP)の作用による腎臓における水の再吸収で調節されている。水バランスの破綻が、血清ナトリウム(Na)濃度の異常となって現れる。血清Na濃度135mEq/L未満の病態が低Na血症 1)と定義される。 1.水バランスの調節 血清Na濃度すなわち浸透圧が上昇すると、①下垂体後葉からAVPが分泌され、腎集合管で水の再吸収が促進される、②口渇感が生じ水分摂取が促される、という2つの調節機構により血漿浸透圧は低下するように調節される 2)。血漿浸透圧が低下した場合(血清Na濃度は低下)はその逆が生じる。これらの調節機構により、日々の塩分や水の摂取量が変化しても血漿浸透圧は1~2%の変動に抑えられる。 AVPの分泌は、非浸透圧性の刺激、すなわち循環血漿量の低下によっても促進される。この非浸透圧性の刺激は、有効循環血漿量が15%以上減少すると活性化されるが 3)、この刺激は浸透圧性の刺激より強く、浸透圧が低い状況においてもAVPの分泌は促進され得る。これは、浸透圧調節よりも有効循環血漿量を維持することのほうが重要であるためと考えられ、一部の低Na血症の病態の発症に関与している。
はじめに 2023年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると肥満(BMI≧25kg/m2)の割合は男性31.5%、女性21.1%である。日本肥満学会は肥満の中でも糖尿病や脂質異常症、高血圧などの健康障害を合併する場合、または現在健康障害がなくても内臓脂肪型肥満と診断される場合は肥満症と診断し、医学的に減量を要する病態と定義している 1)。 肥満症の治療の基本は食事療法、運動療法を含めた生活習慣の改善であり、それでも困難な場合、薬物療法となる。しかし、肥満症治療薬として現在西洋薬で保険適用となるのはセマグルチド、チルゼパチド、マジンドールで、対象となるのがセマグルチド、チルゼパチドはBMI 27kg/m2以上、マジンドールは35kg/m2以上と高度の肥満症に限られており、早期からの介入で予後を改善し得る肥満症に対して西洋薬による対応は十分とはいえない。 一方、漢方医学には、本来肥満症や耐糖能異常、高血圧、脂質異常症といった疾患概念はないが、養生を基本とする独自の治療体系を有し、肥満症に対しても対応し得る薬剤が少なくない。つまり、陰陽、虚実、表裏、寒熱、六病位、気血水、五臓など漢方特有の概念に基づいて、漢方医学的診断である「証」を決定し、その人にあった養生を勧め、方剤を選択する。病名を診断して治療する西洋医学とは異なった、「随証治療」という独自の治療戦略をもつ。特に、「虚実」は大切な基本的概念で、病になった時に跳ね返す力、生命力の強さを表わし、「実」とは病に対する抵抗力が充実している状態、「虚」とは病に抵抗する力が衰えて虚ろな状態である。 防風通ぼうふうつう聖散しょうさんは「食毒」の薬で、実証の肥満の代表的方剤である。実証は体力があって筋肉質でがっちりし、血色や肌つやがよく、声は大きくて太い、胃腸が強くて食欲が旺盛、便秘気味、暑がり、少しぐらい無理をしても平気でつい食べ過ぎてしまう、などの特徴がある。一方、虚証は色白の水太りタイプで冷えてむくみやすく、体力がないため疲れやすい。虚証の肥満の代表的方剤は防己黄耆ぼういおうぎ湯とうである 2)。
はじめに 体重減少は日常的に遭遇する症候である。「医学的に対処すべき体重減少」に関する明確な共通認識は国際的に確立されていない。一般的に、「医学的に対処すべき体重減少」は「意図的な体重管理を行っていないにもかかわらず、半年から1年の期間で5kg以上の体重減少、あるいは、体重の10%以上の減少が見られる場合」と定義される 1)。体重は個人差が大きく、健康な状態で長期間にわたって安定的な低体重(やせ)を呈する場合は医学的に対処すべき体重減少とはみなされない。本稿では「医学的に対処すべき体重減少」に該当する可能性のある疾患群を概説し、特に、糖尿病・内分泌領域に関連する疾患群を詳述する。 1.体重減少をきたす疾患群 体重減少を引き起こす疾患群の中で頻度が高いものの筆頭格は消化器疾患である。高頻度に遭遇する疾患として胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群が挙げられる。また、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患や動脈硬化に関連する慢性腸管膜虚血も体重減少の原因となる。まれではあるが、ガストリン産性腫瘍や血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal polypeptide:VIP)産生腫瘍などの吸収不良症候群も体重減少を引き起こす可能性がある 2)。次いで種々の悪性腫瘍である。胃がん、膵がん、肝がんなど消化器系悪性腫瘍や肺がんなどの呼吸器系悪性腫瘍、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんが進行すると高度の体重減少(カヘキシア)を呈する 3)。カヘキシアは悪性腫瘍だけではなく、うっ血性心不全や慢性閉塞性肺疾患、慢性肝不全、慢性腎不全、関節リウマチや血管炎などの膠原病、制御不充分な慢性感染症(結核、HIV、寄生虫)など、持続的炎症を伴う疾患でも生じる 4)。 加齢自体もサルコペニアやフレイルを引き起こし、結果として体重減少をもたらす。高齢者においては歯牙の減少、嚥下機能低下、味覚・嗅覚の低下に伴い食欲も低下し、体重減少が生じることがある 5)。多くの高齢者が医薬を内服しており、副作用としての味覚障害が加齢に関連した食欲低下・体重減少の一因になっている場合も少なくない 6)。また、慢性便秘症に対する下剤の乱用やゾニサミドなどの抗てんかん・抗パーキンソン病薬による薬剤性の体重減少にも注意が必要である。高齢者において有病率が上昇するうつ病やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病などの精神・神経変性疾患も体重減少の原因となる。アルコール使用障害(アルコール依存症)や統合失調症、摂食障害も体重減少の原因となり 7~9)、特に神経性やせ症(神経性食欲不振症)では顕著な体重減少が必発である。体重減少をきたす疾患群の全体像を図1 10)に示す。以後は糖尿病・内分泌領域に焦点を当て、診療のポイントを解説する。
Q&A編はこちら はじめに 画像検査の普及により予期せず副腎腫瘍が発見されるケースが増えており、これを副腎偶発腫瘍と呼ぶ。成人での有病率は1~6%と報告されており、加齢とともに指摘される頻度は増加し、70歳以上では約7%となる 1)。新規に指摘された副腎偶発腫瘍では、悪性腫瘍やホルモン産生腫瘍の可能性を評価し、適切な対応を行う必要がある。本稿では副腎偶発腫瘍をみた時に評価すべきポイントと、どのようにマネジメントすればよいかについて、症例を提示しながら考える。 1.病因 本邦における副腎偶発腫瘍3,678例の疫学調査 2)によると、副腎偶発腫瘍の病因はホルモン非産生腺腫が約51%と半数以上を占め、以下コルチゾール産生腺腫、褐色細胞腫、アルドステロン産生腺腫の順であった(図1)。調査時点と現在ではサブクリニカルクッシング症候群の診断基準が異なるため、ホルモン非産生腺腫の中には現在のサブクリニカルクッシング症候群が含まれていると考えられる。その他の中には骨髄脂肪腫、嚢胞、交感神経系腫瘍などが含まれる。 図1 副腎偶発腫瘍の病因別頻度
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