Q&A編はこちら はじめに 画像検査の普及により予期せず副腎腫瘍が発見されるケースが増えており、これを副腎偶発腫瘍と呼ぶ。成人での有病率は1~6%と報告されており、加齢とともに指摘される頻度は増加し、70歳以上では約7%となる 1)。新規に指摘された副腎偶発腫瘍では、悪性腫瘍やホルモン産生腫瘍の可能性を評価し、適切な対応を行う必要がある。本稿では副腎偶発腫瘍をみた時に評価すべきポイントと、どのようにマネジメントすればよいかについて、症例を提示しながら考える。 1.病因 本邦における副腎偶発腫瘍3,678例の疫学調査 2)によると、副腎偶発腫瘍の病因はホルモン非産生腺腫が約51%と半数以上を占め、以下コルチゾール産生腺腫、褐色細胞腫、アルドステロン産生腺腫の順であった(図1)。調査時点と現在ではサブクリニカルクッシング症候群の診断基準が異なるため、ホルモン非産生腺腫の中には現在のサブクリニカルクッシング症候群が含まれていると考えられる。その他の中には骨髄脂肪腫、嚢胞、交感神経系腫瘍などが含まれる。 図1 副腎偶発腫瘍の病因別頻度
Q&A編はこちら はじめに 食事療法は、2型糖尿病における治療の基本とされている。しかし、日本人の糖尿病の病態の多様化と患者の高齢化に伴って、一人ひとりに個別化した対応が求められている。本稿ではさまざまな属性を持った糖尿病症例を通して、糖尿病の食事療法の課題と在り方を考えてみたい。 1.糖尿病の病態の多様化 糖尿病はインスリン作用不足による代謝症候群である。2型糖尿病は、膵臓におけるインスリンの合成・分泌に制限のある体質的な要因(インスリン分泌不全)に、内臓に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満によるインスリン作用の低下(インスリン抵抗性)が加味することによって発症すると考えられている。従来、内臓脂肪型肥満の多い欧米人ではインスリン抵抗性が、やせ型の日本人糖尿病はインスリン分泌不全が糖尿病の主たる原因であり、両者は病気の成り立ちが異なると考えられてきた。しかし、最近ではそのように言い切れなくなっている。それは日本でも、肥満者が増えているからである。令和5年国民健康・栄養調査によると、40~50歳の働き盛りの男性に、BMIが25kg/m2を超える肥満者の増加がみられる 1)。現在の日本人の糖尿病には、肥満に伴うインスリン抵抗性が、大きく関与していると考えられる。このことは、糖尿病合併症の疾患構造にも表れている。以前は糖尿病性腎症や糖尿病網膜症といった細い血管の障害(細小血管症)が合併症の中心だったが減少傾向にあり、心血管疾患をはじめとする動脈硬化症(大血管症)が増えている。この変化の裏には、インスリン抵抗性を主因とする欧米型の糖尿病がある。一方、やせ型のインスリン分泌不全を呈する糖尿病患者も混在している。日本人の2型糖尿病の病態は、インスリン分泌不全からインスリン抵抗性まで多様であり、個別の対応が求められる。
はじめに 糖尿病性腎症の発症予防・重症化予防のためには、糖尿病や高血圧などの包括的な管理を行う必要があるが、糖尿病の治療継続者は7割以下である。このため国は平成28年(2016年)に糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定、現在では9割以上の市町村が取り組んでいる。令和6年(2024年)度にプログラム改定が行われた 1)ので、その要点について解説する。 1.糖尿病性腎症重症化予防プログラムと課題 「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」は、国民健康保険などの医療保険者が、健診・レセプトデータをもとに対象者を抽出し、受診勧奨・保健指導などを行うものである。国の実施要件として、①対象者の抽出基準が明確、②かかりつけ医と連携した取り組み、③保健指導には専門職が携わること、④事業評価の実施、⑤糖尿病対策推進会議などとの連携を図ること、の5項目がある。具体的な保健事業としては、糖尿病未治療者に対する受診勧奨、血糖コントロール不良者などに対する保健指導の2種類がある。 大規模実証事業による効果分析では、介入により医療機関受診が増加することが観察されたが、腎機能などのアウトカムの有意な差は認めなかった。その理由として、対象者抽出基準や介入方法などが標準化されていないこと、事業評価が不十分であることが挙げられる。そこで取り組みの標準化と質の向上に向けてプログラムが改定された。
はじめに 大分県では、高齢化と生活習慣病の増加により糖尿病や高血圧が慢性腎臓病(CKD)に進行し、透析導入が増加している。2018年末時点で透析患者数は4,057人、人口100万人あたり3,546人と全国5番目に多く、糖尿病性腎症の重症化予防が急務である。 1.大分県では 2019年12月、大分大学、大分県医師会、大分県は連携協定を締結し、「大分県糖尿病性腎症重症化予防推進に係る効果検討会議」を設立した。この会議では、かかりつけ医と専門医の連携を強化するため「大分県糖尿病性腎症重症化予防診療ガイド」の作成・改定を行い、県独自の紹介基準を設定。令和6年度の改定では新たな項目を加え、令和7年度初頭に県内へ周知予定である。
はじめに こむら返り(筋肉のけいれん)、筋肉痛、筋力低下といった運動器症状は、日常診療において頻繁にみられる主訴であり、多くは神経内科や整形外科、総合内科を初診する。しかし、その背後に内分泌代謝異常が潜在することは少なくなく、糖尿病・内分泌代謝内科医の的確な病態把握と診断介入が求められる場面は多い。 特に、低カルシウム血症、低マグネシウム血症、低リン血症、低カリウム血症といった電解質異常は、症候の多様性ゆえに鑑別が難しいこともあり、見逃されやすい。本稿では、これらの疾患に共通する症候の発現機序と、それぞれの病態に応じた診断・治療のポイントについて、他科からのコンサルト対応を念頭に置きながら解説する。 1.症状から内分泌代謝疾患へのアプローチ こむら返り、筋肉痛、筋力低下といった症状は、初期診療では整形外科あるいは神経疾患として評価されることが多い。また、救急外来や総合内科においては、症状の性質が非特異的であるため、病歴聴取と身体所見のみで診断に至ることは困難である。これらの主訴から内分泌代謝疾患を見逃さないためには、症状と内分泌異常との関連を想起した問診、ならびに電解質やホルモンを含む初期検査が重要となる 1~7)。 糖尿病・内分泌代謝内科医が他科からのコンサルトを受けた時点では、すでに神経学的検査や整形外科的検査が行われていることも多く、スクリーニング検査で評価されていない項目を補完する役割が期待される。非特異的な運動器症状の中に内分泌的異常が潜んでいることを想定しておくことが診断遅延を防ぎ、予後を改善する第一歩となる。優先的に鑑別すべきは代謝性ミオパチーや急性電解質異常であり、特に低カリウム血症や低リン血症は早期に補正すべき救急疾患である。一方、慢性的に進行する筋力低下や筋肉痛では、甲状腺機能低下症、糖尿病性神経障害、ビタミンD欠乏症などが背景にある可能性を鑑別すべきである(表1, 2)。
今回の論文 Adler AI, Coleman RL, et al. : Post-trial monitoring of a randomised controlled trial of intensive glycaemic control in type 2 diabetes extended from 10 years to 24 years (UKPDS 91). Lancet. 2024; 404(10448): 145-155. [PubMed] はじめに 2型糖尿病治療のエビデンスはUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)を抜きにしては語れません。1977年から英国で開始されたUKPDSは、2型糖尿病治療における血糖管理の重要性を初めて明らかにしました。新たに診断された2型糖尿病患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)であるUKPDS33 1)とUKPDS34 2)の2つの論文は、読者の方々にも是非一読していただきたいと思います。 UKPDS33では、10年間にわたり従来療法群(食事療法)とスルホニル尿素(SU)薬またはインスリン投与による厳格な血糖管理を目指した強化療法群とが比較されました。その結果、強化療法群では網膜症をはじめとした細小血管障害は有意に減少しましたが、心筋梗塞および総死亡の有意な減少は認められませんでした。一方で、過体重患者(標準体重の120%以上)を対象としたUKPDS34では、従来療法群とSU薬/インスリン投与による強化療法群に加えて、メトホルミン投与による強化療法群とが比較されました。その結果、メトホルミン投与群において細小血管障害の有意な減少は認めませんでしたが、心筋梗塞および総死亡の有意な減少を認めました。 1977~1997年の20年間の介入試験の結果はUKPDS33および34として報告されましたが、試験終了時に生存していた患者は全て10年間のpost-trial monitoring studyに移行しました。その解析結果が2008年にUKPDS80 3)として報告されました。介入試験終了1年後には従来療法群および強化療法群のHbA1cはほぼ同一になりましたが、メトホルミン群における心筋梗塞および総死亡抑制効果はそのまま持続していました。さらにSU薬/インスリン投与群でも、心筋梗塞および総死亡の有意な減少が認められました。これが今ではよく知られている遺産効果(legacy effect)になります。そしてpost-trial monitoring study終了時に生存していた全ての患者がさらなる延長試験に移行し、UKPDS80報告14年後のフォローアップの解析結果が本論文として報告されました。
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