3.インスリンポンプとCGM ―外来でみるべきポイントは―

  • 菅井啓自 Sugai, Keiji
    東京医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学分野 助教
    鈴木 亮 Suzuki, Ryo
    東京医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学分野 主任教授
公開日:2025年9月25日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(5): 0071./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(5): 0071.
https://doi.org/10.57554/2025-0071

はじめに

 近年、糖尿病治療に関わるテクノロジーの進歩は目覚ましく、中でも特に1型糖尿病の診療でテクノロジーの導入が進んでいるといえるだろう。代表的なものとしては持続血糖測定器(Continuous Glucose Monitoring:CGM)、インスリンポンプが挙げられ、本稿では主に両機器の概要、運用方法について述べていく。

1.CGM(Continuous Glucose Monitoring)

 近年テクノロジーの発展により、精度の高いCGMが登場し、臨床での活用が普及している。直近では本邦で2024年にFreeStyleリブレ2(以降リブレ2)、Dexcom G7(以降G7)が上市された。CGMの精度の指標として平均絶対的相対的差異(MARD)があり、10%未満が血糖自己測定の代替となる目安とされている。G7では成人患者でMARDが上腕後部で8.2%、腹部で9.1%、リブレ2は上腕後部のMARDが9.2%であり、血糖自己測定と遜色ないレベルになっている(表1)。一方でCGMは皮下組織のグルコース濃度を測定するため(図1)、血糖値と5~10分のタイムラグが存在する。そのため血糖低下・上昇時には血糖値と乖離が発生しやすく、低血糖・高血糖の際には注意が必要である。

表1 FreeStyleリブレ2とDexcom G7の比較
表1 FreeStyleリブレ2とDexcom G7の比較
図1 CGMによる間質グルコース濃度の測定(アボット社資料より)
図1 CGMによる間質グルコース濃度の測定(アボット社資料より)

 CGMの使用によりHbA1cや低血糖といった血糖関連指標の改善 1~3)だけでなく、低血糖への恐怖の改善などQOLの改善も得られることが報告されている 3~5)。また、1型糖尿病患者では経済的な観点からもメリットがある。G7、リブレ2ともに、C150-7血糖自己測定器加算(間歇スキャン式持続血糖測定器によるもの)の1,250点で算定可能なため、1日4回血糖自己測定(self monitoring of blood glucose:SMBG)を行うC150-6血糖自己測定器加算(月120回以上測定する場合)の1,490点よりも自己負担は少なくなる。よって特に1型糖尿病では、皮膚トラブルなどで使用できない場合を除いて、積極的なCGMの使用が望ましいであろう。実際米国糖尿病学会(ADA)の『Standards of Care in Diabetes-2025』では、診断時を含め早期からのCGMの導入を推奨グレードAで推奨している 6)
 CGMの日常診療での使用方法に関しては、2019年のAdvanced Technologies and Treatments of Diabetes(ATTD)から示された「TIR(time in range)に関する国際コンセンサスによる推奨」 7)を踏まえて、本邦では2024年9月に『先進医療機器により得られる新たな血糖関連指標に関するコンセンサスステートメント』が示された 8)。治療目標はTBR(time below range)を目標範囲内にした上で、TAR(time above range)を減少させ、TIRを増加させることとしている。TBRの目標は通常は4%未満とし、高齢者や合併症が進行した患者、無自覚性低血糖のある患者など、ハイリスクな1型・2型糖尿病患者では1%未満が推奨されている。妊娠中の糖尿病患者においてはより厳格な血糖コントロールが必要となるため、63~140mg/dLを目標範囲として設定されている。
 G7とリブレ2の違いとしては、センサの寿命、アラートのバリエーション、ウォームアップ時間などの違いがあり(表1)、患者の好みに合わせて選択してもいいであろう。スマートフォンを使用せず、それぞれの専用端末を使用する場合は、リブレ2は8時間に1回スキャンを要するが、G7では必要としないという点で異なる。リブレからG7への切り替えの研究で、G7の優位性が示唆されているが 5, 9)、同研究のリブレは本邦で発売されたリブレ2と異なり、アラート機能やリアルタイムCGM(rtCGM)機能は搭載されていない。よってアラート機能やrtCGM機能を有した本邦で使用可能なリブレ2とG7のどちらが優れているかは定まっていない。なお、本邦で使用可能なCGMとしてほかにガーディアンTM4センサーがあるが、CGMに連動する持続皮下注入(Sensor Augmented Pump:SAP)療法として使用することが多いため、本稿では割愛する。

2.インスリンポンプ

 インスリンポンプは、皮下に穿刺したカニューレから超即効型インスリンを持続的に投与することで、頻回注射療法では行えない、血糖トレンドにあわせたインスリン投与量のカスタマイズが可能になる。カニューレは2~3日に1回の交換のため、頻回注射療法と比較して穿刺回数が少なく、食事時もボタン操作のみのため、短時間で行える(図2)。これらのメリットから、インスリンポンプ療法ではQOLの向上が期待できる 10)。実際に当院では、針先恐怖のため自己注射ができない患者でインスリンポンプ治療による自己管理を実現し、高い満足度を得た症例を経験した 11)

図2 頻回注射療法とインスリンポンプの違い(メドトロニック社資料より)
図2 頻回注射療法とインスリンポンプの違い(メドトロニック社資料より)

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 2025年現在で、本邦で使用されている主なインスリンポンプはメドトロニック社のMiniMedTM780G System(以降780G)とテルモ社のメディセーフウィズ®である。近年のトレンドはCGMと連動し、インスリンの自動投与機能(Automated Insulin Delivery:AID)を有するインスリンポンプであることから、本稿では主に780Gについて述べていく。
 2022年に本邦で初めてのAID機能を有するポンプで、基礎インスリンの自動調整機能が搭載されているMinimedTM770G Systemが、2023年には高血糖時に補正インスリンを自動注入する機能に加えて、より厳格な目標血糖値の設定機能を搭載したAdvanced Hybrid-closed Loop(AHCL)ポンプである780Gが発売された(図3)。780GのAHCL機能のリアルワールドデータを踏まえると、目標血糖値100mg/dL、残存インスリン時間を2時間とした設定が15歳以下の患者ではTIR 78.9%、16歳以上の患者ではTIR 81.3%とほかの設定と比べて良好であったことから 12)、参考推奨値として推奨されている。従来のインスリンポンプ治療では高いカーボカウントの能力が必要とされていたが、AHCL機能を用いれば、糖質摂取量を大、中、小の3段階で入力する簡単なカーボカウントでもTIR 70%以上を達成しており、必ずしも厳格なカーボカウントの能力がなくても良好な血糖コントロールを実現できることが報告されている 13)。さらには80g以上の糖質を摂取した場合のみ、糖質入力をしてボーラスインスリンを投与した場合でもTIRは67.5%に達することが報告されている 14)。これらの結果はカーボカウントの能力が不十分な症例という、従来のインスリンポンプ療法では良好な血糖コントロールを得るのが困難であった症例においても、インスリンポンプの使用が有用とされてきていることを意味する。実際に当院では、学習障害があり血糖コントロールが不良であった症例で、Hybrid-closed Loop、AHCLポンプとデバイスの進歩により、血糖コントロールの改善傾向を示し、最終的にAHCLの使用でTIR 70%以上、HbA1c 7%未満を達成した症例を経験している 15)。デバイスの進化は、良好な血糖コントロール、適応患者の拡大につながっていると考える。
 また780Gで使用するCGMであるガーディアンTM4センサーでは、SMBGによる較正が原則不要となり、血糖入力を必要とされる回数も少ない(0.8回/日)。これらの機能により、血糖コントロールだけでなく、QOLも向上したことが報告されている 16)

図3 Minimed™780G SystemのAdvanced Hybrid-closed Loop(AHCL)機能
図3 MinimedTM780G SystemのAdvanced Hybrid-closed Loop(AHCL)機能

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 本邦のガイドラインでは、小児・思春期でのみ推奨グレードAでSAP療法が推奨されている。一方、ADAの『Standards of Care in Diabetes-2025』では、AIDについての記載があり、小児・思春期、成人ともに1型糖尿病でのAIDの使用が血糖コントロール改善、低血糖減少のために望ましいと推奨グレードがAとなっている 6)。また、でAIDは個人の状況、好み、必要性に基づいて行うべきとの記載もある。AIDの主なデメリットとしては費用が考えられる。費用面の問題が大きい場合は、まずはMDI(頻回注射療法)+CGMから始めて、その後血糖コントロール状態や患者の意向などに応じてポンプと連動しないCGM+CSII(インスリンポンプ療法)、AIDへと治療法をステップアップするのもよいと考える。

3.外来での運用方法 ―スマートフォンアプリとクラウドの活用―

 G7、リブレ2、780Gいずれも、スマートフォンアプリを有し、それぞれのクラウドにデータが蓄積され、医療従事者にデータが共有されるシステムを有している(表2)。これにより医療者は診察前にデータの確認や、レポートの作成を行うことができ、診察時間では生活状況の聴取などに時間をかけることができるため、結果的に診療時間の短縮につながる。残念ながら全てのスマートフォンに対応しているわけではないので、対応しているスマートフォンの機種については各CGM、インスリンポンプの製品ホームページを参照されたい。

表2 CGM、インスリンポンプのスマートフォンアプリとクラウドシステム
表2 CGM、インスリンポンプのスマートフォンアプリとクラウドシステム

4.レポートの確認方法とTIPS

 レポートから患者へのフィードバックに重要なのは全体像の把握を行い、そこから患者の実生活に合わせた局所的アプローチを考える。血糖トレンドの全体像の把握には、リブレView、CareLinkTM Clinicでは最初のページの「AGPレポート」、「評価と進捗状況」、Dexcom Clarityでは最終ページの「AGP」で確認できる。血糖変動を引き起こす要因をみつけるには、直近の具体的な日のデータを例に挙げて患者にヒアリングすると、具体的なエピソードが得られやすく、わかりやすい。その際にはリブレViewでは「AGPレポート」や「週間レビュー」、CareLinkTM Clinicでは「週間レビュー」、Dexcom Clarityでは「AGP」で連日のデータを1ページで確認することができ、有用である。
 CGM使用者での管理目標はTBRを増やさずに、TIRを増やすことであり、必要に応じてインスリンの増減、生活習慣への介入を行う。介入するポイントを見つける方法の一例として、AGPレポートから見つけていくアプローチを紹介する。具体的には日差変動が少なく、低血糖リスクが低い時間帯を狙って改善していく方法である。自験例を提示して説明すると、症例は緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)で、頻回注射とFreeStyleリブレで加療していた。初診時はSPIDDMの診断からまだ日が浅いこともあり、超即効型、持効型インスリンの投与は単位を固定して行っていた。初診時のAGPレポートでは実線で表記される日内変動は大きくなく、日中は25~75%タイルや5~95%タイルの帯が広く日差変動が大きい(図4A)。このような症例では日差変動が少なく、低血糖領域と5~95%タイルの間に開きがある時間帯が治療介入のしやすい時間帯といえる。本症例でみてみると、午前2時から11時頃の時間帯である。治療としては、まず食前の超即効型インスリン、持効型インスリンは変更をせず、就寝前である0時頃の補正インスリンを導入した。1カ月後、TBRを増加させずにTIRは39%から60%にまで改善した(図4B)。

図4 症例:緩徐進行1型糖尿病
図4 症例:緩徐進行1型糖尿病
眠前の補正インスリンの導入でTBRの上昇なく、TIRが上昇した。

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 AIDの場合は、目標血糖値、残存インスリン時間を確認し、参考推奨値で運用することが重要である。その上で糖質比を調整し、目標達成を目指す。参考推奨値でTBRが高い場合は、糖質比の調整や、場合によっては目標血糖値や残存インスリン時間を緩めることを検討する。2025年5月のCareLinkTM Clinicのアップデートにより、目標血糖値、残存インスリン時間はともに「評価と進捗状況」の解析で確認できるようになった。AHCL機能やセンサのアドヒアランスに関しても「評価と進捗状況」のスマートガード、センサ使用率から確認できる。また、ポンプ挿入部位の交換頻度は、アドヒアランスで交換頻度を確認することができる。ポンプ挿入部位の交換頻度は、血糖コントロール不良と相関することが報告されており 17)、2~3日に1回交換するよう指導を行うことが重要である。

おわりに

 1型糖尿病診療において、CGMの精度の向上、AIDの登場は血糖コントロールの改善やQOLの向上につながっている。特にAIDは血糖コントロールとQOLの両面で優れており、「楽に良好なコントロールを得やすい治療」であるといえる。またスマートフォンアプリ、クラウドシステムなどの活用は血糖コントロール、診療の質を担保しながら、診療時間の短縮につながっている。こうした診療技術の発展により、日本糖尿病学会の掲げる糖尿病治療の目標である「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」に確実に近づいてきている。一方で、それらを活用するために医療者側にはデジタルリテラシーが求められてきており、本稿がその一助になれば幸いである。今後は、デバイスのさらなる小型化やスマートフォンでのインスリンポンプの操作といった、より一層の技術の発展に期待したい。

著者のCOI(conflicts of interest)開示:鈴木亮;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、田辺三菱製薬、日本イーライリリー、アステラス製薬、住友ファーマ、グラクソ・スミスクライン、MSD、日本ベーリンガーインゲルハイム、サノフィ、第一三共、興和、帝人ヘルスケア)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム)

文献
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