4.移植医療のリアル ―治療選択のための具体的アドバイス―
https://doi.org/10.57554/2025-0072
はじめに
1型糖尿病は若年で発症し、生涯にわたりインスリン治療が必要な慢性疾患である。インスリン療法の進展により多くの患者が日常生活を維持できるようになったが、長期間の高血糖は合併症を引き起こしやすく、とりわけ糖尿病性腎症は末期腎不全に進展するリスクが高くなる。糖尿病性腎症は透析導入の原因疾患として最多であり、2023年には新規透析導入者の38.3%を占めた 1)。
透析治療は生活の質(QOL)や生命予後への影響が大きく、特に1型糖尿病患者ではその傾向が顕著である。一方、腎移植は透析と比べ、生命予後の改善、QOLの向上、社会復帰率の改善が期待され、透析開始前の先行的腎移植(preemptive kidney transplantation:PEKT)も注目されている 2, 3)。
さらに、重症低血糖や血糖コントロール不良に悩む1型糖尿病患者にとって、膵腎同時移植(simultaneous pancreas kidney transplantation:SPK)は、腎機能だけでなく血糖自律性まで同時に回復できる画期的治療で、長期的な代謝改善や合併症進展抑制が報告されている 4)。
本稿では、日本における1型糖尿病患者への腎移植とSPKの現状、制度・登録方法・アクセス手段、患者・家族への説明ポイント、医療者としての具体的アプローチを概説する。
1.腎移植
1)意義と種類
日本では腎移植が慢性腎不全に対する標準的治療のひとつとして位置づけられている。移植方法は以下の2種類である。
- 献腎移植:脳死または心停止ドナーからの臓器提供。2023年は248件(脳死219件、心停止29件)実施された 5)。
- 生体腎移植:健康な親族からの腎臓提供。2023年には1,753件が実施された 5)。
献腎移植を希望する登録者数は約1万4,000人であるのに対し、年間ドナーは120名程度と著しく不足しており、登録者の約0.9%しか移植を受けられていない 6)。そのため、多くの患者が生体腎移植に頼らざるを得ず、献腎移植の選択肢は限られている。
2)PEKTの有用性
PEKTは透析開始前に移植を行う方針で、心血管合併症や透析関連合併症を回避し、生命予後を改善する利点が報告されている。メタ解析では死亡率が22%減少(HR=0.78)、移植腎喪失率も19%減少(HR=0.81)とされる 7)。
3)腎移植適応と課題
慢性腎不全で推算糸球体濾過量(eGFR)が20mL/min/1.73m2を下回るCKD stage 4では、移植を見据えた早期の移植施設への紹介が推奨される。なお、eGFRが15mL/min未満になると、PEKTの登録が可能である。