1.1型糖尿病の発症前介入 ―予防は可能か―
https://doi.org/10.57554/2025-0069
はじめに
現在、わが国における1型糖尿病の診断は、糖尿病の診断基準に基づく高血糖をもって行われており、治療としては、低下した自己インスリン分泌を補うインスリン自己注射療法もしくは膵・膵島移植が選択される。一方、欧米では発症早期の1型糖尿病に対して膵β細胞機能を保持させる目的で免疫修飾療法の臨床試験が盛んに行われていることに加え、臨床的発症以前のハイリスク者に対しても発症予防を目的とした免疫学的介入が試みられている。本稿では、予防的介入を前提とした1型糖尿病のステージ分類やスクリーニングを中心に、欧米の現状とわが国で始まりつつある取り組みについて概説する。
1.欧米における発症予防を目的とした臨床試験
これまで欧米では、1型糖尿病の発症予防を目的として、牛乳やグルテン曝露の回避、ニコチンアミドの投与、経口および経鼻的なインスリン抗原の投与、GAD-alum抗原の投与といった免疫学的介入に関する臨床試験が実施されてきたが(表1) 1)、2019年までは明らかな予防効果を示す報告はなかった。その後、2019年に欧米のTrialNet Study Groupより抗CD3抗体であるteplizumabの発症予防・遅延効果を示す画期的な試験結果が報告された。この試験では、リスク因子として(1)1型糖尿病の近親者、(2)膵島関連自己抗体を2個以上保有する、(3)耐糖能異常を有する(空腹時血糖値110〜125mg/dLまたは/かつ糖負荷2時間後血糖値140〜199mg/dL)、の3つの条件を満たす被験者に対してteplizumabが投与された。5年間の観察期間において、プラセボ投与群では32例中23例で1型糖尿病を発症したのに対して、teplizumab投与群では44例中19例の発症にとどまった(図1) 2)。発症を約2年遅らせる効果が得られたとして、同剤は米国においてFDAの承認を受けるに至った。