第2回 認知症の感情失禁(イライラ)への抑肝散
公開日:2025年8月21日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(4): 0064./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(4): 0064.
https://doi.org/10.57554/2025-0064
https://doi.org/10.57554/2025-0064
はじめに
認知症患者における感情失禁(イライラ)は、患者本人の生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、介護者の負担を著しく増大させる症状である。特に糖尿病のある人においては、服薬や食事・運動療法の実施率が低下して血糖マネジメントが困難になるため、その対応は重要である。今回は、「抑肝散」の認知症に伴う感情失禁に対する効果について、糖尿病治療における臨床的な立場から解説する。
1.認知症と糖尿病の関連性
糖尿病と認知症は密接な関連性を持つことが近年の研究で明らかになっている。糖尿病では糖尿病のない人と比較して、アルツハイマー型認知症の発症リスクが約1.5倍、血管性認知症のリスクが約2倍高いとされている。この背景には、脳内のインスリン抵抗性によるインスリンシグナルの障害や酸化ストレス、慢性炎症などさまざまな機序が関連している 1)。
認知症では、記憶障害や見当識障害などの中核症状だけでなく、幻覚、妄想、焦燥、徘徊、暴力、抑うつ、睡眠障害、感情失禁、易怒性、社会的逸脱行動など周辺症状といわれるBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)が付随してみられることが多く、患者のQOLや介護者の負担に大きく影響する。
糖尿病に伴う認知機能障害では、前頭前野の機能低下が比較的早期から生じることが知られていることから、前頭前野は感情制御や行動抑制に深く関与しており、その障害がBPSDの出現、特に易怒性や感情失禁に関連する 2, 3)。