第3回 DiRECT

  • 住谷 哲 Sumitani, Satoru
    大阪府済生会泉尾病院 糖尿病・内分泌内科 部長
公開日:2025年9月11日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(5): 0080./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(5): 0080.
https://doi.org/10.57554/2025-0080
今回の論文

Lean ME, Leslie WS, et al. : Primary care-led weight management for remission of type 2 diabetes (DiRECT): an open-label, cluster-randomised trial. Lancet. 2018; 391(10120): 541-551. [PubMed]

はじめに

 GLP-1受容体作動薬が登場してから、肥満を有する2型糖尿病患者の血糖コントロールにおける体重減少の重要性が再認識されるようになりました。特にGIP/GLP-1受容体のdual agonistであるチルゼパチド投与により、著明な体重減少と同時にHbA1c 5.7%未満、つまりほとんど血糖を正常化することが実現可能であることが明らかにされました。一方で、bariatric surgery(肥満外科手術)の有効性を検討した臨床試験の結果からも、著明な体重減少により2型糖尿病患者の血糖コントロールがほとんど正常化できることが示されています。
 GLP-1受容体作動薬とbariatric surgeryとは薬物療法と手術療法との違いがありますが、その血糖コントロール改善のメカニズムは摂取エネルギーの低下、つまりエネルギー制限に起因する体重減少と考えられます。GLP-1受容体作動薬が登場するまでは、外来でどうしても血糖コントロールがうまくいかなかった患者さんでも、入院して摂取エネルギーを制限すると血糖コントロールがみるみるよくなる経験をされた読者の方も多いと思います。
 2型糖尿病はインスリン抵抗性とインスリン分泌不全とによるインスリン作用の低下がその病態であると考えられています。インスリン抵抗性とインスリン分泌不全のどちらが先かは、「鶏が先か卵が先か」で現在も議論が続いていますが、結論が出ていません。本試験の主任研究者の一人であるTaylorは、以前から2型糖尿病の病態は過剰なエネルギー摂取による肝内脂肪の蓄積と、その結果として生ずる膵島内中性脂肪の増加であるとする“Twin-Cycle Hypothesis”を提唱してきました 1)。これまで彼が実施したproof-of-concept試験において、発症早期の肥満を有する2型糖尿病患者に低エネルギー食(~800kcal/日)を基礎とした生活習慣介入を実施することで、著明な体重減少により2型糖尿病を“寛解(remission)”することが可能であることが示されてきました。ここで“寛解(remission)”は「血糖降下薬の投与なしでHbA1c 6.5%未満を3カ月以上維持できた状態」と定義しています。そこで、このアプローチの臨床的有用性を検討するために実施されたのが本試験です。生活習慣介入試験であり、新しい薬剤も使用されていないのであまり注目(宣伝?)されなかったようですが、肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬のプロモーションが盛んな今、古い試験ですが原点回帰する意味でも今回取り上げました。

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