第1回 FLOW
https://doi.org/10.57554/2025-0013
Perkovic V, Tuttle KR, et al. ; FLOW Trial Committees and Investigators : Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2024; 391(2): 109-121. [PubMed]
はじめに
今回から3回にわたって「エビデンスの裏側 ―眼光紙背に徹す論文読解学―」として論文を読んでいきます。エビデンスにはいくつかのレベルがあり、専門家の意見(expert opinion)もエビデンスに含まれますが、最も信頼度の低いエビデンスに分類されます。逆に最も信頼度が高いのは複数のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析とされます。しかし、専門家の査読(peer review)を経て学術ジャーナルに発表された臨床論文を正しく解釈することが肝要です。
臨床試験にはいろいろな試験デザインがありますが、RCT以外の臨床試験は介入と結果との因果関係を考察できないので、本連載ではRCTのみを取り上げます。臨床的問題を解決するために論文を選択して読む方法論としては、EBMの手順を使用することが便利です。EBM(Evidence Based Medicine)の実践手順は「STEP1:臨床問題の定式化」、これはPICO(Patient, Intervention, Comparison, Outcome)を用います。「STEP2:情報収集」、これは具体的には論文検索ですがPubMedにこだわらずGoogleでも十分可能です。「STEP3:論文の批判的吟味」、ここでは後述する論文の内的妥当性(internal validity)を評価します。「STEP4:情報の患者への適用」、ここでは結果の一般化可能性(generalizability)も評価します。そして「STEP5:STEP1~4のフィードバック」の5STEPになります 1)。
糖尿病性腎症(DN)は糖尿病の3大合併症の一つで、現在でも透析導入の主要原因疾患の一つです。しかし近年では疾患概念としては古典的なDNではなく、糖尿病関連腎臓病(DKD)とする捉え方が広まりつつあります。以前は蛋白尿を呈したDKDに対する薬物療法としてはレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(アンジオテンシン変換酵素〔ACE〕阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬〔ARB〕)のみでしたが、ご存じのようにここ数年はRAS阻害薬の次の一手としてのSGLT2阻害薬の位置づけがほぼ確立しました。さらに非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンの有効性も明らかになっています。
一方、GLP-1受容体作動薬は体重減少作用に加えて動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の再発抑制作用が明らかにされてきました。リラグルチドのLEADER試験はGLP-1受容体作動薬の総死亡抑制効果を初めて示した試験ですが、その試験の後付け解析でリラグルチドのDKD進展抑制効果が報告されました 2)。その後も複数の心血管アウトカム試験CVOT(cardiovascular outcome trials)のメタ解析でGLP-1受容体作動薬のDKD抑制効果が示唆されましたが、臨床的腎アウトカムを主要評価項目としたRCTはこれまで報告がありませんでした。それに答えたのが本試験FLOW(Evaluate Renal Function with Semaglutide Once Weekly)になります。