2.非定型大腿骨骨折と低ホスファターゼ症
https://doi.org/10.57554/2026-0019
はじめに
骨粗鬆症は、骨量の減少と骨組織の微細構造の劣化を特徴とし、骨折リスクの上昇を招く疾患である。骨粗鬆症治療において、ビスホスホネート(BP)製剤やデノスマブなどの骨吸収抑制薬は、脆弱性骨折のリスクを有意に低下させる主要な治療薬として確立されている 1)。しかし、これらの薬剤の長期使用に伴い、まれではあるが重篤な副作用として、顎骨壊死や非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture:AFF)のリスク上昇が報告されるようになり、臨床現場での懸念材料となっている 2)。AFFは、大腿骨転子下または骨幹部に生じる特異な骨折であり、軽微な外力あるいは外傷なしに発生する。その発生率は低いものの、BP製剤の使用期間が長くなるにつれてリスクが増大することが疫学的に示されている。一方で、遺伝性代謝性骨疾患である低ホスファターゼ症(hypophosphatasia:HPP)においても、AFFに類似した骨折が生じることが明らかになってきた 3)。HPPはアルカリホスファターゼ(ALP)の欠損や活性低下を特徴とする疾患であり、骨石灰化障害を呈する。近年、成人のHPP患者が骨粗鬆症と診断され、BP製剤の投与を受けた結果、病態が悪化したりAFFが誘発されたりするケースが報告されている 4)。
1.非定型大腿骨骨折(AFF)の疫学とリスク因子
1)AFFの定義と特徴
AFFは、大腿骨の転子下から顆上部にかけての骨幹部に発生する骨折で、その特徴として、外傷が軽微であること、骨折線が横走または短斜走であること、外側皮質の肥厚(beaking)を伴うことなどが挙げられる 5)(図1)。完全骨折に至る前に、大腿や鼠径部の疼痛(前駆症状)を訴えることが多く、両側性に発生する傾向がある。
2)骨吸収抑制薬との関連
BP製剤の長期使用はAFFのリスク因子である。疫学データによると、AFFの年齢調整罹患率は、BP使用期間が2年未満では10万人年あたり1.8人であるが、8年以上の使用では113人に上昇すると推定されている 6)。デノスマブについても、BP製剤ほどの蓄積データはないものの、使用患者におけるAFFの報告が散見される。AFFの発生メカニズムとしては、強力な骨吸収抑制により骨リモデリングが過度に抑制され(frozen bone)、微細損傷(microdamage)の修復が妨げられて蓄積することが想定されている。