4.高コレステロール血症治療とスタチン不耐

  • 井上郁夫 Inoue, Ikuo
    埼玉医科大学 健康推進センター/予防医学センター/内分泌内科・糖尿病内科 客員教授
公開日:2026年4月16日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2026; 4(2): 0021./J Pract Diabetes Endocrinol. 2026; 4(2): 0021.
https://doi.org/10.57554/2026-0021

はじめに

 1973年、遠藤章博士が青カビ(Penicillium citrinum)の培養液からスタチンの原型となるML-236B(コンパクチン)を発見した。そしてこの発見が、1989年、平成元年世界的に画期的な高コレステロール血症治療薬のプラバスタチン(メバロチン®)につながった。これ以来、LDLコレステロール(LDL-C)値を安全に容易に約20%低下させることが可能になった。その後、strong statin(強力なスタチン)が、2016年には抗体薬のエボロクマブ(レパーサ®)が登場し、さらに2020年に欧州で、2023年にはわが国で、画期的な(innovativeな)siRNAである核酸医薬品のインクリシラン(レクビオ®)が登場し、LDL-C値をベースラインから約50%以上の低下維持が容易になった 1)。しかしながら、虚血性心疾患の発症は明らかに低下したが、わが国において、LDL・酸化LDL仮説(図1)に基づき上記の薬剤の発展がなされたにもかかわらず、平成から令和と約35年経過し、「心疾患(高血圧性を除く)」による死亡数の低下が認められないとの結果である。それどころか、コロナ感染後急増している(図2)。致死的不整脈や心不全にも目を向ける必要もあるが、本稿では「心疾患」による死亡率の低下が認められない理由として、スタチン不耐に注目し、わが国で策定された『スタチン不耐に関する診療指針2018』 2)を中心に解説して述べる。

図1 LDL・酸化LDL仮説
図1 LDL・酸化LDL仮説
LDL・酸化LDL仮説に基づく動脈硬化と内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)型動脈硬化とでは関与するリポ蛋白が異なる。
図2 わが国の死因別死亡数(厚生労働省: 人口動態調査、人口動態統計の概況より)
図2 わが国の死因別死亡数(厚生労働省: 人口動態調査、人口動態統計の概況より)

1.LDL-C管理達成率の低さの理由

 「心疾患」による死亡率の低下が認められない理由として、LDL-C管理達成率の低さにあることも考えられる。達成率を上げ死亡率を低下させるため、わが国では過去ガイドラインが何度か2002年以来5年ごとに改訂が繰り返されてきた。しかしながら、改訂がなされるたびに、LDL-C管理達成率の低さがいつも大きな課題となっている。その背後にある理由として、スタチン不耐 3)、スタチン感受性(薬剤トランスポータなど)、他薬剤併用スタチン薬物動態、LDL-C測定分析、医師の動脈硬化への認識(捉え方)の違いなどを問題とする必要がある 4)。その中でも、スタチン不耐問題は深刻である。スタチン不耐患者の冠動脈CT所見は著しく重症である。速やかに対処しないと突然死する場合が多く、海外ではスタチン不耐患者の頻度は10~30%と高い。わが国では『スタチン不耐に関する診療指針2018』 2)による診断に当てはまらないスタチン服用困難者が多く、スタチン以外の代替薬の開発が急務とされてきた。ようやく、2025年11月にベンペド酸 5, 6)(ATPクエン酸リアーゼ阻害薬、ネクセトール®)が薬価収載された。この薬剤は低分子医薬品で比較的安価であるため、PCSK9抗体薬の次の一手として注目されている 7)

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