2.糖尿病患者への推奨ワクチン
https://doi.org/10.57554/2026-0036
はじめに
糖尿病と感染症の間には「健康リスク」が存在することが古くから知られている。慢性的な高血糖状態は、感染症リスクや重症化リスクを高める 1)。その結果、糖尿病患者は各種感染症に罹患しやすくなるだけでなく、発症時に急速に重症化し、難治化する傾向にある。さらに、感染症罹患時には炎症反応とストレス反応によりインスリン抵抗性が増大し、血糖管理の悪化やケトアシドーシスをきたし得る。この点は、シックデイ対応としての頻回な血糖モニタリングと治療調整の重要性が指摘されている。
このような「健康リスクの連鎖」を断ち切る上で、ワクチン接種による発症および重症化予防は極めて重要な戦略である。米国糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)のガイドラインをはじめ、国内外の多くの指針で糖尿病患者への積極的な成人予防接種が推奨されている 1)。本稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックから得られた教訓を振り返りつつ、日常診療において糖尿病患者に推奨されるワクチンの種類、その予防効果、具体的な投与法、そして公費助成制度の現状について概説する。
1.COVID-19から得られた糖尿病における感染の特徴と教訓
COVID-19パンデミックを通じ、糖尿病患者の感染症に対する脆弱性が改めて浮き彫りとなった。ここで得られた知見は、ほかの呼吸器感染症対策を考える上での重要性を示唆するものである。
1)発症率と重症化リスク
大規模疫学調査の多くは、糖尿病自体がCOVID-19への感染感受性(罹患率)を一般集団より著しく高めるわけではないと報告している。しかし、一度感染した場合の予後は大きく異なる。英国における全人口ベースのコホート研究では、COVID-19院内死亡のオッズ比が1型糖尿病では2.86、2型糖尿病では1.80と有意に上昇し、糖尿病が独立した重症化および死亡リスク因子であることが示された 2)。
2)血糖管理と予後の関係
感染前の血糖管理状態は、感染後の予後因子となる。前述の英国の解析では、HbA1c(NGSP)が10.0%以上の群は、6.5〜7.0%の良好群と比較してCOVID-19による死亡リスクが有意に高まることが確認された 3)。また、入院時の高血糖や血糖変動の増大自体が予後不良因子となるため、感染時のシックデイルールに基づく適切なインスリン調整と頻回なモニタリングが、診療において非常に重要となる。
3)ワクチンの有効性と免疫応答への影響
メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、一般集団と同様に糖尿病患者でも高い発症予防および重症化予防効果を示す。一方で、ワクチンに対する免疫応答もまた血糖管理状態に依存することが知られている。イタリアの研究では、HbA1cが7.0%未満の患者群では接種後の中和抗体価やT細胞応答が十分に得られた一方、接種後1年間の平均HbA1cが7.0%以上の患者群では、ブレイクスルー感染のリスクが有意に高く、免疫応答が減弱していることが報告された 4)。すなわち、ワクチンの有効性を最大化するためにも、平時からの厳格な血糖管理が重要であることが示唆される。