1.糖尿病に伴う感染症リスク
https://doi.org/10.57554/2026-0035
はじめに
糖尿病は感染症の罹患および重症化の重要なリスク因子である。
腎臓感染症、骨髄炎、足の感染症などでリスク上昇が顕著であり、感染種別によって増加の程度が異なる。その背景には、高血糖に伴う免疫応答の変調に加え、皮膚・尿路を中心とした局所環境の変化、血管・神経合併症による防御低下、さらには併存疾患や治療要因が重なることが挙げられる。
本章ではこれらの疫学と機序を概説した上で、糖尿病で特に見逃しが予後に影響し得る気腫性感染症、糖尿病足感染症・壊死性筋膜炎、ムーコル症を中心に整理し、さらにSGLT2阻害薬使用時に注意すべき感染症についても述べる。
1.糖尿病が感染症リスクを上げる
一般集団と比較して、糖尿病患者は感染症関連の入院リスクが2~4倍、外来診療における感染症リスクが1.5倍高いとされる 1)。英国の大規模マッチドコホート研究では、糖尿病患者は全ての感染症の発生率が高く、特に骨・関節感染症、敗血症、蜂窩織炎で増加が大きかった。同研究では感染症関連入院の発生率比(incidence rate ratio:IRR)が1型糖尿病で3.71、2型糖尿病で1.88と推定され、1型糖尿病で相対リスクがより高かった。また、感染症関連入院の約6%、感染症関連死亡の約12%が糖尿病に起因し得ると推定されている 2)。1型糖尿病に限定したマッチドコホート研究でも、外来で診断される感染症がIRR 1.81、感染症入院がIRR 3.37と推定される。さらに同研究では、平均HbA1cが低い群(≦約7.0%)と比較して、高い群(≧約11.0%)では感染症入院がIRR 4.09と推定され、血糖管理不良が重症感染リスクを増幅し得ることが示唆される 3)。
肺炎による入院は糖尿病で増加し、デンマークの症例対照研究では糖尿病全体で調整相対リスク(relative risk:RR)1.26、1型糖尿病でRR 4.43、2型糖尿病でRR 1.23が報告されている 4)。また感染種別にみると、感染症関連入院のリスクは腎臓感染症(3.0~4.9倍)、骨髄炎(4.4~15.7倍)、足の感染症(6.0~14.7倍)が顕著だが、肺炎、インフルエンザ、結核、皮膚感染症、手術部位感染症、全身性敗血症のリスクも高くなる 1)。