副腎(皮質・髄質)の解剖学 ―マクロ・ミクロの視点から血管・神経支配・リンパ系と副腎内ホルモン制御―
https://doi.org/10.57554/2026-0040
はじめに
副腎は、後腹膜腔の深部に位置する親指大の小さな臓器であるが、その内部には生体維持に不可欠な多種多様なホルモンを分泌する精緻な機構が凝縮されている。近年、マイクロカテーテル技術の進歩と相まって、原発性アルドステロン症(primary aldosteronism)診療における側方性診断目的の副腎静脈サンプリングが広く行われるようになり、さらに超選択的副腎静脈サンプリング(super-selective adrenal venous sampling:SS-AVS)によって、副腎内のホルモン産生の領域的多寡(過剰産生領域と抑制領域)をマッピングすることも可能となっている 1)。すなわち、われわれ放射線科医が副腎の微細な組織学的血管構築を直接観察し、その血流動態、機能的診断(内分泌的理解)に触れる機会が飛躍的に増加しているのである。本稿では、日常臨床で遭遇する放射線解剖学的知見や、副腎の機能的診断の解釈に直結すると思われる動的な組織学的知見、内分泌学的知見について解説する。
1.マクロ解剖と画像診断のランドマーク
副腎は左右でその外観的形態がやや異なる。古典的な解剖学的論文では右副腎は錐体形(ピラミッド型)、左副腎は半月形を呈することが多いと記載されている 2)。右副腎は下大静脈(IVC)の直背側に位置し、肝右葉の内側面と密接する。一方、左副腎は膵体部の背側、脾動脈の近傍に位置し、左腎上極の前腹側に位置している。左右副腎とも他臓器に囲まれ、窮屈なスペースに挟み込まれているようなイメージである 3)(図1)。
①副腎、②右副腎中心静脈、③左副腎中心静脈、④左下横隔静脈、⑤下大静脈、⑥第12胸椎、⑦横隔膜
b, c:遺体の副腎の静脈へのバリウム注入像
矢印(b):左副腎腹側の溝(ventral sulcus)に沿って走り、左副腎の上方の領域を還流する静脈枝(上側支脈)
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1)画像診断上のピットフォール
CT横断像においては、正常副腎形態は、観察する断面によって連続的に変化し、スリムな「ノの字型」~「人の字型」~「Y字型/三ツ矢型」あるいは「三角形」を呈する。ボリューム・レンダリング(volume rendering)像では稜線状隆起を有する立体的形態を示す。10mm以下の微小の皮質腺腫は、副腎の実質内に埋没して認識しにくいことも多く、副腎のCT診断ではthin sliceや任意多断面再構成像(multi planar reconstruction:MPR)での観察、同定が必須となる。