1.低血糖と副腎不全
https://doi.org/10.57554/2026-0018
はじめに
内分泌臓器である副腎は、ステロイドホルモンを産生する「皮質」と、エピネフリンに代表されるカテコールアミンを産生する「髄質」に分かれる。皮質は外側よりアルドステロン(鉱質コルチコイド;mineralocorticoid:MC)を産生する球状層、コルチゾール(糖質コルチコイド;glucocorticoid:GC)を産生する束状層、DHEA(dehydroepiandrosterone)などの副腎アンドロゲンを産生する網状層からなる。これらのホルモンのうち、その分泌不全が低血糖の出現と関連するコルチゾール、エピネフリンについて概説する。救急医療の現場で低血糖を認めた際には、鑑別診断のひとつとして、コルチゾールの低下によって引き起こされる副腎不全症があることを想起することが重要である。
1.血糖とエピネフリンの関係
血糖を低下させるホルモンはインスリンのみであるが、血糖を上昇させるホルモンには、カテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン)、コルチゾール、成長ホルモン、グルカゴンがあり、いずれも低血糖に対する防御ホルモンとして作用している。低血糖時には、まずエピネフリンとグルカゴンが分泌され、やや遅れて、コルチゾールと成長ホルモンが分泌される(図1) 1)。
副腎髄質から分泌されるエピネフリンは肝臓において、グリコーゲンの分解と糖新生を促すことで肝臓からグルコースを放出させ、血糖を上昇させる。末梢では、主に脂肪組織における脂肪分解と骨格筋におけるインスリン拮抗作用により血糖を上昇させ、血糖の恒常性維持に寄与している。一方、急激な低血糖の出現時には、最初の防御反応として副腎髄質からエピネフリンが放出されるが、同時にエピネフリンの急激かつ過剰な分泌は、低血糖症状として振戦、動悸、発汗、不安などの諸症状を引き起こす(図1) 1)。
副腎皮質から出るコルチゾールは、皮質から髄質への血流を介して、髄質のエピネフリン合成酵素のフェニルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)活性を刺激することで、エピネフリンの合成を高める方向に作用している(図2)。そのため、後述の副腎皮質機能低下症(副腎不全症)では、コルチゾールの分泌低下による低血糖に加えて、エピネフリンの合成、分泌低下も低血糖の発現を助長する。特に、原発性副腎不全症の成因が結核性の場合には、副腎髄質そのものが結核組織で破壊されている場合があり、より顕著に副腎髄質からのエピネフリン分泌が低下していることが知られている 2)。