低血糖

  • 辻本哲郎 Tsujimoto, Tetsuro
    虎の門病院分院 糖尿病内分泌科 部長
公開日:2025年8月7日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(4): 0062./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(4): 0062.
https://doi.org/10.57554/2025-0062

はじめに

 低血糖は糖尿病患者の血糖管理において大きな障壁であり、できる限り避けたい副作用である。以前より低血糖はけいれん、意識障害につながるだけでなく、放置すれば死につながる危険な状態であることが認識されている 1)。さらに、最近では低血糖の中でもより重篤な重症低血糖が心血管イベントと死亡と関連することが報告され、その予防や対応がより一層重要になってきている。本稿では低血糖の危険性や原因、低血糖時の対処法、低血糖を予防するためのポイントを中心に解説する。

1.厳格な血糖コントロールのリスク

 低血糖を考える上で、まずは今までの血糖コントロールに関する臨床試験を振り返りたい。1型糖尿病を対象にしたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)において、厳格に血糖管理を行うことで糖尿病網膜症や糖尿病腎症の進展を有意に抑制することが示された 2)。さらに、2型糖尿病を対象にしたUKPDS33においても、厳格な血糖管理により糖尿病網膜症や腎症といった細小血管症を有意に抑制することが報告された 3)。そこで、さらに厳格に血糖を管理することで心筋梗塞や脳卒中といった糖尿病患者の生命予後に大きな影響を与える大血管症も抑制することができるのではないかと考えられ、大規模なランダム化比較試験が施行された。しかし、その一つである心血管リスクの高い2型糖尿病患者を対象にしたACCORD試験において、予想とは逆に、より厳格に血糖を管理された強化治療群のほうが通常の標準治療群に比べて経過途中で死亡リスクが有意に高くなり、試験自体が中止されるという結果になった(図14)。さらに死亡に関しても強化治療群において全死亡が有意に増加していただけでなく、心血管死も有意に増加していた。ACCORD試験の結果は、糖尿病診療に関わる多くの医療者にとって衝撃的なものであった。

図1 厳格な血糖管理と標準的な血糖管理に対する死亡率(文献4より)
図1 厳格な血糖管理と標準的な血糖管理に対する死亡率文献4より)

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