降圧薬の使い分け
https://doi.org/10.57554/2025-0094
はじめに
高血圧は、日本人成人の約2人に1人が罹患する 1)とされる極めて一般的な疾患であり、放置すれば脳卒中や心筋梗塞、心不全、慢性腎臓病(CKD)など重大な合併症のリスクとなる。適切な治療によって血圧を下げることで、将来的な脳心血管イベント発症を大幅に減らし、生命予後や生活の質の維持につながることが数多くの研究で示されている 2)。2025年に改訂された日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』3)では、降圧目標(表1)が従来よりも厳格化され、患者背景によらず、全ての症例で診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)を目指すことが推奨された。JSH2019では、良好な血圧コントロールを得られているのは30%未満と推計されており、厳格化されたJSH2025の基準では、その達成率はさらに低くなると推定される。このような状況を踏まえた上で、本稿ではJSH2025の内容を中心に、降圧薬における各クラスの特徴と使い分け、新しく登場した降圧薬であるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)およびアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)に焦点をあて、その有効性と注意点、併用療法の実際について解説する。

1.降圧薬の分類とそれぞれの特徴
降圧薬の種類は多数あり、JSH2025ではCa拮抗薬、RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)、利尿薬、β遮断薬の4種類を主要な降圧薬として位置づけている。これらの薬剤を含めて、各クラスの薬剤の特徴を一覧表にまとめた(表2)。主要な降圧薬は、いずれも降圧効果のみならず脳心血管イベント抑制効果が臨床試験で証明されており、高血圧治療の第一選択となり得る薬剤である。一方、α遮断薬や中枢性交感神経抑制薬、血管拡張薬は一般的に第二選択以下の位置づけで、ほかの薬剤で目標血圧に到達しない場合に追加・代替する選択肢となる。
積極的な適応(明確な合併症や適応症)がない高血圧症の第一選択はCa拮抗薬、RAS阻害薬、利尿薬の中から選択する。β遮断薬はJSH2019上では主要降圧薬には含まれるものの、「頻脈や狭心症、心筋梗塞後、心不全」といった適応がある場合に積極的に使われる薬剤であり、合併症のない高血圧では最初の選択とはなりにくい立ち位置であった。しかし、JSH2025ではサイアザイド系利尿薬と合わせて「現状、本来投与されるべきとされる病態への使用率が低く、積極的な投与が望まれる」とされており、積極的な適応がある場合には、処方をためらうべきではない。α遮断薬や中枢性交感神経抑制薬、血管拡張薬は特殊な状況(例:前立腺肥大による排尿障害合併、妊娠高血圧、重症難治性高血圧など)において追加・代替で用いられる補助的な薬剤であり、積極的に使用する薬剤ではないので、本稿での詳細は割愛とした。