2.薬物によるMASLDの治療戦略

  • 藤吉真英 Fujiyoshi, Masahide
    久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 助教
    戸次鎮宗 Bekki, Shigemune
    久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 助教
    中野 暖 Nakano, Dan
    久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 助教/副外来医長
    天野恵介 Amano, Keisuke
    久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 助教/医局長
    川口 巧 Kawaguchi, Takumi
    久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科部門 主任教授
公開日:2026年1月15日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2026; 4(1): 0003./J Pract Diabetes Endocrinol. 2026; 4(1): 0003.
https://doi.org/10.57554/2026-0003

はじめに

 脂肪肝に心代謝リスク因子を併発する代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、成人の約25%に認められる有病率の高い疾患であり、罹患しているだけでなく、肝硬変や肝細胞がんの主な要因のひとつである。現時点では、日本においてMASLDの治療薬として承認された薬物は存在しない。しかし近年、抗肥満薬、抗糖尿病薬や脂質異常症治療薬が各代謝異常の改善とともにMASLDにも影響を及ぼすことが報告されている。また、MASLD患者を対象としたセマグルチドやチルゼパチドの臨床試験も進行している。本稿では、これらの薬物に関する最新のエビデンスを概説し、MASLDに対する新たな治療戦略の展望について論述する。

1.ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬

 われわれは、第III相臨床試験の統合メタ解析により、SGLT2阻害薬であるルセオグリフロジンが、肝臓の脂肪蓄積と線維化、さらに心代謝リスク因子に及ぼす効果を検討した 1)。本研究では、日本人糖尿病患者493人を対象とし、ルセオグリフロジンを24週間投与した結果、脂肪肝指数(fatty liver index)をはじめとする脂肪肝の指標が有意に改善された(adjusted coefficient -5.423, 95%CI -8.760~-2.086, P=0.0016)。さらに、ALT>30 U/Lの患者群では肝線維化の指標であるhepamet fibrosis scoreも有意に改善した(adjusted coefficient -0.039, 95%CI -0.077~-0.001, P=0.0438)。また、HbA1c、HOMA-IR、BMIに加え、尿酸値やHDLコレステロール値など複数の心代謝リスク因子も改善した。このことから、ルセオグリフロジンはMASLDを併発する糖尿病患者に対して、有用な治療薬となり得ることが示唆された。
 さらにわれわれは、日本の医療保険データベースを用いた大規模後ろ向きコホート研究において、2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬とジぺプチジルペプチダーゼ-Ⅳ(DPP-4)阻害薬の効果を比較検討した 2)。その結果、SGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬と比較して、ALT値およびFIB-4 indexを改善させることが明らかとなった。また、SGLT2阻害薬は、食道静脈瘤の発症を抑制することも明らかとなった(HR 0.12, 95%CI 0.01~0.95, P=0.044)。この機序は明らかではないが、SGLT2阻害薬による体水分量の減少や肝線維化の改善が寄与している可能性が考えられる。さらに、SGLT2阻害薬は肝がん以外のがんの発症も抑制する効果が示された(HR 0.50, 95%CI 0.30~0.84, P=0.009)(図1A)。この抗腫瘍効果は65歳以上、ALT>30U/L、HbA1c<7%、中性脂肪>150mg/dLの集団で顕著であった(図1B)。本研究では、がん種に関する検討は行っていないが、これまでにSGLT2阻害薬は大腸がん、膵臓がんや成人T細胞白血病など、さまざまながんに対して抑制的に作用することが報告されている 3)。また、この抗腫瘍効果の機序としては、がん細胞内への糖の取り込み阻害とともに、がん細胞のミトコンドリア電子伝達系に作用し、アデノシン三リン酸(ATP)の産生を抑制することが報告されている 4)。食道静脈瘤とがんはMASLD患者の重篤なイベントであり、これらのイベントを抑制し得るSGLT2阻害薬は、MASLDを併発する糖尿病患者の予後を改善する可能性が期待される。

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