5.肥満がMASLD診療に与えるインパクト
https://doi.org/10.57554/2026-0006
はじめに
近年、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)と名称変更され、肥満や糖尿病など代謝異常を背景とする脂肪性肝疾患として再定義された。世界的な肥満およびメタボリックシンドロームの増加に伴いMASLD/MASHの有病率も上昇し、現在では成人の約4人に1人が本症を有するとの報告がある。わが国においても生活習慣の欧米化により肥満が増加しており、有病率は9~30%に達し、患者数は少なくとも1,000万以上に上ると推計される。さらに、MASLDの診断基準では過体重・肥満や2型糖尿病など代謝異常の存在が重視されるようになり、この変更によってMASLDにおける肥満の重要性が一層明確となった。以上の背景から、肥満とMASLDの関連性に対する臨床的関心が高まっている。そこで本稿では、肥満がMASLDに与えるインパクトについて、疫学的背景や診断基準の変遷を踏まえ概説する。
1.肥満とMASLD診断基準
世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、過体重(overweight)をBody mass index(BMI)25kg/m2以上、肥満(obesity)をBMI 30kg/m2以上と定義している 1)。この定義は白人を対象に設定されたものであり、アジア人においてはoverweightをBMI 23kg/m2以上、obesityをBMI 27.5kg/m2以上とすることが推奨されている 1)。また、この定義は「成人において疾患のリスクが高まるBMIであること」と記載されていることに留意が必要である。一方、日本肥満学会はわが国固有の疫学的状況を踏まえ、WHO基準をそのまま使用せず、BMI 25kg/m2以上を肥満の定義としている 2)。
世界的にみると、2022年時点で18歳以上の成人の43%が過体重であり、16%が肥満状態にあった 3)。さらに、5~19歳の子どもおよび青少年の3億9,000万人以上が過体重であり、そのうち1億6,000万人が肥満状態にあった 3)。他方、YounossiらのメタアナリシスによるとMASLDにおける肥満の合併率は51.34%(95%CI:41.38~61.20%)であった 4)。MASLDの有病率はBMIが上昇するごとに増加することが知られている。筆者らは、Japan Study Group of NAFLD(JSG-NAFLD)に参加中の13の健診施設の受診者からなるコホートを作成した(Metabolic syndrome, chronic kidney disease, and fatty liver in Japan:MIRACLE-J研究)。第1報では、腹部超音波検査を施行された健診受診者71,254名を対象に、MASLDの臨床的特徴に関する検討を行った 5)。MASLDの有病率はBMI<23kg/m2で8.9%、23~25kg/m2で34.0%、25~28kg/m2で55.3%、≧28kg/m2で76.7%とBMIの上昇に従い増加した。さらに男女別の解析では、男性はBMI<23kg/m2で14.2%、23~25kg/m2で39.3%、25~28kg/m2で61.9%、≧28kg/m2で82.8%であった。一方、女性はBMI<23kg/m2で6.6%、23~25kg/m2で28.2%、25~28kg/m2で47.1%、≧28kg/m2で70.1%であった(図1:文献5のサブ解析)。BMIの上昇は性別にかかわらずMASLDの合併率を上昇させることが示され、男性のほうが同じBMIのグループにおけるMASLDの合併率が高いことも明らかになった。