1.内臓脂肪蓄積・MASLDとメタボリスクの関係性

  • 鎌田佳宏 Kamada, Yoshihiro
    大阪大学大学院医学系研究科 生体物理工学講座 教授
公開日:2026年1月8日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2026; 4(1): 0002./J Pract Diabetes Endocrinol. 2026; 4(1): 0002.
https://doi.org/10.57554/2026-0002

はじめに

 2023年6月、米国肝臓学会、欧州肝臓学会、ラテンアメリカ肝疾患研究協会を中心に、世界各国の研究者がDelphi法を用いて脂肪性肝疾患の名称について議論し、新たにMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)が採択された 1)。Delphi法とは参加者が複数回にわたって匿名で意見を交換し、最終的に合意形成を目指す方法である。2022年から2023年にかけて複数回の検討が行われ、従来のNAFLD(nonalcoholic fatty liver disease)からの呼称変更が決定した。変更理由は「fatty」「alcoholic」が患者へのスティグマにつながる点が大きい。あわせて、NAFLDから派生する病態NASH(nonalcoholic steatohepatitis)もMASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)に改められた。
 従来はNAFLDとアルコール関連肝疾患(ALD)に二分されてきたが、その中間の飲酒群(いわゆるmoderate drinkers)は定義が曖昧であった。今回の再分類では、非アルコール群(女性140g/週未満・男性210g/週未満)、ALD群(女性350g/週超・男性420g/週超)に加え、中間飲酒群をMetALD(MASLD and increased alcohol intake)として新設した。これにより、全ての脂肪性肝疾患を体系的に分類できる構造となった 2)。さらに、疾患の総称もFL(fatty liver)からSLD(steatotic liver disease)へと改められた。薬剤性やライソゾーム病など病因が明確なものは「specific aetiology SLD」、原因不明は「cryptogenic SLD」と位置づけられる。MASLDは脂肪性肝疾患を有し、かつ心代謝危険因子(肥満、糖代謝異常、高血圧、高中性脂肪血症、低HDL-C血症)のいずれか1つ以上を合併することで診断される。報告ではNAFLDとの一致率は95〜99%とされ、実質的には従来の診断と大きく変わらないものの、用語の明確化と患者に配慮した名称へ更新された点が重要である 3)図1)。

図1 新しい脂肪性肝疾患の診断フローチャート(文献2より改変)
図1 新しい脂肪性肝疾患の診断フローチャート文献2より改変)
2023年6月に提唱された新しい脂肪性肝疾患の診断フローチャート。心代謝危険因子の少なくとも1つを有する脂肪性肝疾患を、飲酒量の多少にかかわらず分類可能となった。

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 日本でもこの国際的提案が受け入れられ、日本消化器病学会および日本肝臓学会は賛同を表明した。2024年8月には日本語名称も正式決定し、MASLDは「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」、MASHは「代謝機能障害関連脂肪肝炎」とされた。SLDは日本の成人の約25%が罹患するコモンディジーズで、患者数は約2,000万人と推定されている 4)。その中から肝線維化や肝がんリスクが高い群を選別し、定期的な採血や画像検査で評価することが今後の臨床上の課題である。
 2023年6月、日本肝臓学会はこうした呼称変更と同時に「奈良宣言2023」を発表した。これは「ALTが30U/Lを超える症例は慢性肝疾患の可能性を疑い、専門医への紹介を検討すべき」とする提言である。対象患者に対しては肝炎ウイルス検査、メタボ関連疾患の評価、飲酒歴、薬剤歴、自己免疫性肝炎の除外などを一般医が確認し、その後必要に応じて専門医へ紹介する流れを推奨した。ここで重要なのは「ALTが30U/L未満でも安全とは言えない」という点である。肝硬変が進行すれば炎症や肝細胞数が減少し、ALTはむしろ正常範囲に収まることがあるためである。リスクの見極めには、FIB-4 indexや血小板数のチェックが推奨される 5)。FIB-4 indexが1.3以上(65歳以上は2.0以上)、または血小板数が20万未満の症例は、ALT低値であっても線維化進展例が疑われ専門医紹介が望ましい 6)。大規模コホート研究でも、ALT値30U/L以下のMASLD患者のうち約2割はステージ3以上の線維化を有し、2型糖尿病とFIB-4 index高値を併せ持つ群ではその割合が70%に達することが示された 7)。さらに、臨床的にALTが一度でも30U/Lを超えた症例は何らかの肝疾患を有する可能性が高く、奈良宣言のフローチャートに沿った受診勧奨が重要となる。特に2型糖尿病合併SLDは高リスク群で、過半数が脂肪肝炎に進展し、3〜4割は進行線維化を伴うことが報告されている 8)。この群では肝がんや非代償性肝硬変など肝疾患関連イベントの発生率が高いため、定期的なサーベイランスが必須とされる 9)
 総じて、新しい疾患概念MASLD/MASHおよび分類体系は、患者へのスティグマを回避すると同時に、これまで曖昧であった中間飲酒群の扱いを明確にした点に価値がある。さらに奈良宣言2023によって、ALT値に基づいた早期紹介・精査の流れが提示され、進行線維化例を見逃さない体制構築が期待されている。今後はこの新分類と指針を共有し、膨大な数の潜在患者から高リスク群を的確に抽出し管理することが、医療現場にとって極めて重要となる。

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