(扉)特集にあたって

  • 鈴木 亮 Suzuki, Ryo
    東京医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学分野 主任教授
    矢部大介 Yabe, Daisuke
    京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 教授
公開日:2025年9月4日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(5): 0068./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(5): 0068.
https://doi.org/10.57554/2025-0068

 糖尿病治療は近年飛躍的に進歩し、選択肢が大きく広がった。1型糖尿病についても、新規治療法の長期にわたる開発努力が国際的に進み、一部は実装に向かいつつある。同時に診療現場においては、実用化された技術や機器を活用するため、知識のアップデートが求められる。本特集の企画にあたっては、治療の変革がもたらす近未来像を提示することに加え、一般に経験が重視される1型糖尿病の診療において、質の向上に直接役立つ具体的な知識の共有を目的とした。
 欧米では1型糖尿病の臨床的発症前の段階からステージ分類が確立され、teplizumabによる発症予防効果が立証されている。中條大輔先生には、わが国における臨床的発症前のスクリーニングやモニタリングに関する観察研究(PREP-T1D)の取り組みについて紹介していただいた。
 iPS細胞由来膵島細胞シートを用いた1型糖尿病対象の医師主導治験は、大きな注目と期待を集めている。中村聡宏先生と藤倉純二先生には、従来の膵臓移植や膵島移植から、最新の幹細胞由来細胞移植や低免疫原性膵島移植に至る広範な再生医療について、現状と今後の展望を詳しく解説していただいた。
 現状、先進医療機器の進歩の中核はAIDとCGMであり、これらを使いこなすことは1型糖尿病診療の質に直結する。菅井啓自先生には、インスリンポンプやCGMの運用方法について、概要の説明ならびに外来ですぐ使えるTIPSとしてレポートの使い方を教示していただいた。
 1型糖尿病の治療が進歩した一方で、腎不全が進行し透析導入が必要となる人は今もなお多く、膵腎同時移植について適切な情報提供がなされる機会の確保が望まれる。加来啓三先生と中村雅史先生には、移植登録の流れを含め、制度やアクセス手段についてわかりやすく説明していただいた。
 1型糖尿病の治療を実践する際に、しばしば直面する障壁の代表がカーボカウントである。茂山翔太先生と真壁昇先生には、基礎カーボカウントと応用カーボカウントについて、また調理習慣がなく外食中心の人にカーボカウントを実践してもらう「取っ掛かり」をつかむ工夫について、詳しく解説していただいた。
 いずれの項目も非常に読み応えがあり、1型糖尿病の診療に関わる医療従事者としての新たな気づきが得られる内容になっている。執筆にあたられた皆様に深く感謝申し上げるとともに、本特集が読者にとって日々の診療の質向上に役立つことを心から願っている。

著者のCOI (conflicts of interest)開示:鈴木 亮;講演料(田辺三菱製薬、ノボ ノルディスク ファーマ、アステラス製薬、グラクソ・スミスクライン、日本イーライリリー、住友ファーマ、MSD、日本ベーリンガーインゲルハイム)、矢部大介;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、住友ファーマ、田辺三菱製薬)、研究費・助成金(テルモ、日本ベーリンガーインゲルハイム)、寄附講座(ノボ ノルディスク ファーマ、大正製薬、アークレイ)

1型糖尿病の治療を一歩深める ―診療技術の発展と疾患克服をめざして― 一覧へ