2.1型糖尿病への再生医療 ―現在地と将来展望、移植新章の幕開け―
https://doi.org/10.57554/2025-0070
はじめに
現在、本邦では1型糖尿病に対する再生医療として、保険適用下で膵臓移植、膵島移植が行われている。一方で、2020年代に入り各国で1型糖尿病に対する幹細胞由来細胞移植の臨床試験が開始された。長期成績についても報告が始まっており、移植新章の幕開けを予期させる結果となっている。本邦でも、京都大学とオリヅルセラピューティクス社にてiPS細胞由来膵島細胞シートの第1/1b相の医師主導治験を開始、2025年2月に第1例の移植を施行し、新たな時代を迎えた。また、遺伝子改変による免疫回避システムを利用した免疫抑制剤フリーの膵島移植も臨床応用フェーズに入っており、1型糖尿病における再生医療が目まぐるしく進歩を遂げている。膵臓移植、膵島移植の概説も併せ、糖尿病治療における再生医療の現状と今後の展望について解説を行う。
1.膵臓移植
膵臓移植は1966年の膵腎同時移植の成功を契機に発展し、免疫抑制剤や手術技術の進歩により欧米を中心に普及した。日本では1984年に筑波大学で初の脳死下膵移植が行われ、1997年の臓器移植法施行後より普及が進み、2006年には保険適用となり、現在では全国の認定施設で移植が実施されている。術式は、膵腎同時移植(simultaneous pancreas-kidney transplantation:SPK)、腎移植後膵移植(pancreas after kidney transplantation:PAK)、膵単独移植(pancreas transplantation alone:PTA)の3種類に分類される。SPK、PAKは腎不全を伴う糖尿病患者で腎臓移植の適応があり(または腎移植後)、かつ内因性インスリン分泌が著しく低下している症例、PTAは専門的な治療でも血糖安定性の乏しい1型糖尿病症例が適応となる。SPKは末期腎不全を伴う糖尿病に対し、血糖と腎機能の両面から有効であり最も多く行われる。日本ではIL-2RA(Interleukin-2 receptor antagonist)や抗胸腺グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG)を用いた導入療法、タクロリムス(tacrolimus:TAC)・ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil:MMF)・ステロイドを併用した維持療法が主流である。米国ではATG単剤導入が多く、ステロイドフリーの維持療法も進んでいる。
2000〜2023年に日本で行われた膵臓移植555例のうち、SPKが86%、PAKが11%、PTAが3%であった。患者生存率は1年で95.9%、5年で92.2%、膵グラフトの生着率は1年で86.4%、5年で76.7%であり、SPKがほかの術式に比べて良好な成績を示している。一方でPAK/PTAでは免疫調整の難しさから拒絶反応の頻度が高く(25.3%)、SPKが2.4%であるのに比べ、生着維持が困難な傾向にある。移植後の悪性腫瘍は32例で、9例(28%)がPTLD(移植後リンパ増殖性疾患)であり、注意深い長期フォローが求められる 1, 2)。米国では年間約900例が行われ、SPKが90%を占める。2022年に施行された膵移植の1年後の膵グラフト生着率はSPKで90.8%、PTAで87.5%、PAKで84.4%であった。若年レシピエントでは拒絶率が高く、またEpstein-Barrウイルス(EBV)未感染者ではPTLDリスクが高いため、感染歴も考慮した術後管理が重要とされる 3)。