甲状腺眼症の新しい治療薬(テプロツムマブ)
https://doi.org/10.57554/2025-0099
はじめに
甲状腺眼症は、バセドウ病に合併して発症する自己免疫性の眼窩疾患である。眼瞼腫脹、眼球突出、羞明、眼痛など多彩な症状を呈し、重症例では複視や視力低下など視機能の低下に至ることもある。慢性かつ再燃性の経過をとることが多く、患者のQOLに与える影響は極めて大きい。
1.甲状腺眼症の治療法
治療法の詳細は『バセドウ病悪性眼球突出症(甲状腺眼症)の診断基準と治療指針2023(第3次案)』(日本甲状腺学会・日本内分泌学会)1)を参照されたい。高度の眼球突出や複視を伴う中等症~重症例で、Clinical Activity Score(CAS)が高値を示す、あるいはMRIで明らかな炎症所見を認めるような活動性甲状腺眼症に対しては、従来ステロイドパルス療法が第一選択であった。しかし、3日間連続投与を3週繰り返す「Daily法」では入院が必要であり、週1回投与を12週継続する「Weekly法」では改善までに時間を要する。さらに、眼球突出の改善は得られにくく、副作用のリスクも高いなど、ステロイドパルス療法には課題があった。
このような背景のもと、病態メカニズムに基づく分子標的薬として登場したのが、IGF-1受容体に対するヒト型モノクローナル抗体「テプロツムマブ」である。甲状腺眼症では、眼窩線維芽細胞が病態の中心的役割を担っているが、その表面には甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体が発現しており、バセドウ病に伴うTSH受容体抗体による刺激を受け、炎症・浮腫や脂肪増生などの組織変化を誘導することが知られている。一方、テプロツムマブの標的であるIGF-1受容体はTSH受容体と共発現し、クロストークを介したシグナル伝達によって、これらの変化に寄与していると考えられている。