1.画像所見と臨床所見に基づいた下垂体疾患の診断
https://doi.org/10.57554/2025-0084
はじめに
下垂体疾患の鑑別診断には画像診断、特にMRIが重要である。MRIは禁忌(喘息、高度の腎機能障害、造影剤アレルギーなど)がなければ可能な限り造影を行う。シーケンスはspin echo法のT1およびT2強調画像の冠状断と矢状断が基本であるが、疾患の診断に合わせて軸位断やspoiled gradient echo法、T2*強調画像などのシーケンスを追加する。また、磁場の高いMRIを用いるとS/N比が高くなり、画像が鮮明になる。石灰化の検出にはCTが有用である。しかしながら、画像のみで完全に診断をつけることは難しい場合があるため、ほかの臨床所見と組み合わせて診断を進めることが重要である。
1.下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)
PitNETは下垂体前葉内部から発生する腫瘍であるため、腫瘍周囲を正常下垂体が覆っていることがほとんどである。腫瘍が大きくなると主に前葉は上方~後方へ圧排され、左右はいずれかに偏ることが多い。下垂体は強い造影効果を伴い造影T1強調画像で高信号となるが、PitNETは正常下垂体と比べると造影効果がやや弱いため前葉と区別できる(less enhancement)(図1)。また、造影を行うと前葉よりも遅れて造影効果が生じ、約90秒前後で最も正常下垂体とのコントラストが強くなる(golden time)。造影後、短時間での撮像を繰り返すことでこのコントラストが強い時間を用いてmicrotumor(微小腫瘍)の検出を行うダイナミックMRIがある。ただし、ダイナミックMRIは短時間の撮影を行うことで解像度が悪くなるため、近年はこのgolden time前後で解像度の高い撮影を行うことが多くなっている。
腫瘍はサイズによって10mm未満をmicrotumor、10mm以上をmacrotumorと呼ぶ。また、40mm以上をgiant tumorとする場合もある。PitNETは球形のみではなく、しばしば不整形に上方や外側へ進展し、トルコ鞍底の骨破壊を伴い蝶形骨洞や斜台に進展することもある。上部では鞍隔膜部分で腫瘍がくびれてダンベル型(または雪だるま型)と呼ばれる形態となるものがある。この場合、手術時に鞍上部部分が下降しにくく、全摘出が困難なことがあるため注意が必要である 1)。左右側方への伸展は、冠状断の内頸動脈膝部が見えるスライスで上下の内頸動脈(C3、4)を基準として、どの程度外側へ伸展しているかを分けるKnosp分類を用いることが一般的である。Knosp分類は腫瘍が内頸動脈内側にとどまる場合をgrade 0、内頸動脈の中心を越えない場合をgrade 1、中心を越えて外側を越えない場合をgrade 2、外側を越える場合をgrade 3、内頸動脈を取り囲む場合をgrade 4とする 2)。Gradeが上がると海綿静脈洞浸潤が増加し、先端巨大症では寛解率が異なることが報告されている 3)。また、grade 3は膝部より外側に進展する場合を3A、C4より下で内頸動を外側に越える場合を3Bと分けられ、BはAよりも寛解率が悪い 4)。
疾患別では、先端巨大症では病理亜型のdensely granulated somatotroph PitNETではT2強調画像で低信号となりやすく、薬物療法が有効であることを予測しやすい 5)。クッシング病は約半数がmicrotumorであり、中には腫瘍の描出が難しい場合がある。微小な腫瘍ではthin slice(薄層撮像)の3D撮影が有効で、特にspoiled gradient echo法は腫瘍と正常下垂体とのコントラストが強く診断に有用である 6)。非機能性PitNETのうち、TPITが陽性となるsilent corticotroph PitNETは一般に女性に多く、上方よりも側方の伸展が強く、T2強調画像でmicrocyst(小嚢胞)が多数認められることが特徴である 7, 8)(図2)。