臨床における薬物動態
https://doi.org/10.57554/2025-0038
はじめに
臨床現場で用いられる薬物について“どのような薬(what)を” “どのように(how)”使うかと考えながら診療に従事するが、薬物動態(pharmacokinetics)を理解することで、年齢や合併症などで患者に薬物療法を最適化させる際に役立つと考えられる。本稿では臨床現場に役立つ薬物動態のポイントを解説する。
1.薬物の体内動態
投与された薬物が薬効を示し、体内から消失するまでの間に吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の過程を経る。経口投与された薬物の場合、消化管から吸収され、血流に乗り、静脈内投与ではそのまま血流に乗って全身へ運ばれ作用点に到達し薬物はその効果を発揮するが、同時に代謝を受けており、最終的に尿中や胆汁中へ排泄されることとなる。
2.吸収
吸収とは、薬物が投与部位から主に循環血液へ取り込まれることをいう。経口投与の場合、多くの薬物は胃内で崩壊し、放出された薬物が消化管液に溶解されて主に小腸から吸収されるが、一部は胃、大腸などで吸収されるものもある。投与経路が異なれば鼻粘膜(点鼻薬)、口腔粘膜(舌下錠、バッカル錠)、直腸(坐薬)、皮膚(貼付薬)、皮下や筋肉(皮下注、筋注)から吸収される(図1) 1, 2)。
静脈内投与の場合、薬物は直接血管内に投与されるため投与した薬物は全量が循環血液へ移行する。しかし、先ほど示したその他の投与経路では、静脈注射と比較して循環血液へ移行する薬物の割合は低くなる。経口投与の場合、主に小腸で吸収され毛細血管に移行した薬物は、全身循環血に移行する前に消化管上皮細胞や肝臓で代謝(初回通過効果)を受ける。これにより、全身循環血へ移行する薬物の量は、消化管に投与される量よりも少なくなる。薬物の投与量に対する全身循環血へ移行した薬物量の割合を生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)というが、インドメタシンのように98%と高いものもあれば、骨粗鬆症治療薬のアレンドロン酸のように2~3%と低いものと大きな差がある。