無理なく、美味しく ―糖尿病の食事療法―
https://doi.org/10.57554/2025-0040
はじめに
食事療法は、2型糖尿病における治療の基本とされている。しかし、日本人の糖尿病の病態の多様化と患者の高齢化に伴って、一人ひとりに個別化した対応が求められている。本稿ではさまざまな属性を持った糖尿病症例を通して、糖尿病の食事療法の課題と在り方を考えてみたい。
1.糖尿病の病態の多様化
糖尿病はインスリン作用不足による代謝症候群である。2型糖尿病は、膵臓におけるインスリンの合成・分泌に制限のある体質的な要因(インスリン分泌不全)に、内臓に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満によるインスリン作用の低下(インスリン抵抗性)が加味することによって発症すると考えられている。従来、内臓脂肪型肥満の多い欧米人ではインスリン抵抗性が、やせ型の日本人糖尿病はインスリン分泌不全が糖尿病の主たる原因であり、両者は病気の成り立ちが異なると考えられてきた。しかし、最近ではそのように言い切れなくなっている。それは日本でも、肥満者が増えているからである。令和5年国民健康・栄養調査によると、40~50歳の働き盛りの男性に、BMIが25kg/m2を超える肥満者の増加がみられる 1)。現在の日本人の糖尿病には、肥満に伴うインスリン抵抗性が、大きく関与していると考えられる。このことは、糖尿病合併症の疾患構造にも表れている。以前は糖尿病性腎症や糖尿病網膜症といった細い血管の障害(細小血管症)が合併症の中心だったが減少傾向にあり、心血管疾患をはじめとする動脈硬化症(大血管症)が増えている。この変化の裏には、インスリン抵抗性を主因とする欧米型の糖尿病がある。一方、やせ型のインスリン分泌不全を呈する糖尿病患者も混在している。日本人の2型糖尿病の病態は、インスリン分泌不全からインスリン抵抗性まで多様であり、個別の対応が求められる。