はじめに 糖尿病関連腎臓病(DKD)はわが国の末期腎不全の主たる原因疾患である。近年、腎保護効果を持つ薬剤の登場により、DKDからの末期腎不全への進展抑制が大きく期待できるようになった。これらの背景から『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』そして『糖尿病診療ガイドライン2024』においても、DKDの薬物療法に関して大幅なアップデートがなされている。共通しているのはSGLT2阻害薬を中心に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、GLP-1受容体作動薬を併用していくという考え方である。従来から用いられているレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬を加えた、これら4つの薬剤がDKD治療の重要な柱になると考えられる。本稿では、これらの薬剤のクリニカルエビデンスとガイドラインでのポジショニング、今後の展望について述べる。
ポイント 男性性腺機能低下症は原発性(高ゴナドトロピン性)と続発性(低ゴナドトロピン性)がある。 器質的な異常のないLOH症候群が男性更年期障害として徐々に認知されつつある。 男性性腺機能低下症は臨床症状と血中総テストステロン低値から診断されることが多い。 テストステロン補充療法は男性性腺機能低下症に関連した性機能低下などの改善に有効である。 テストステロン補充療法に伴う前立腺癌や心血管疾患のリスク増加に関しては否定的な研究が多い。 日本ではテストステロン製剤は筋注製剤が中心であり、塗布製剤や貼付製剤などより安定した血中濃度が得られる薬剤の承認が求められている。
はじめに 糖尿病性腎症は、2011年に透析患者の主要原疾患の第一位となり、現在維持透析患者の約4割を占めるに至っている。さらに近年、典型的な糖尿病性腎症の臨床経過をたどらない症例を含めた糖尿病関連腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)という概念が提唱され話題を呼んでいる。糖尿病性腎症においては、腎症進行を抑制する目的でタンパク質の摂取制限が行われてきた。一方で社会の高齢化とともに、DKDを含む慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)患者におけるサルコペニア・フレイルが注目され、また進展したCKD・DKDでは特徴的な栄養障害であるprotein-energy wasting(PEW)も大きな問題となっている。従って、タンパク質摂取制限が望ましくない症例が増加している可能性がある。そのため、DKDの食事療法としては、腎機能と栄養状態の維持を両立させるためのプローチが求められている。本稿ではDKD進行予防のための食事療法やDKDにおける栄養障害、実際の食事療法の考え方について考える。
はじめに 薬物が生体に投与されると、その多くは小腸から吸収され、門脈を経て、肝臓を通過する。この過程で、薬物の一部は代謝される。その後、薬物は血流によって体内の各組織に分布し、標的分子に作用する。そして、尿中や胆汁中に排泄される。効果を発揮するために必要な作用部位における薬物濃度は、こうした薬物の体内動態により決定される。すなわち、副作用を抑え、十分な薬効を得るためには、薬物の体内動態を把握することが必要不可欠である。この過程は、吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の頭文字をとってADMEと呼ばれる。本稿では、薬物の消失に関わる代謝および排泄について概説し、薬物の効果や薬物相互作用との関係について述べる。
はじめに 糖尿病を持つ方は、臨床的特徴、すなわち、病態、合併症の起こり方、治療反応性などが個々で異なるため、これらすべて考慮しながら、一人ひとりに最適な医療をすすめることが推奨される 1)。これを、糖尿病の個別化医療(personalized or individualized medicine)と呼ぶ 1)。糖尿病を持つ方の個別化医療を考える場合、合併症の病態と(発症と進展の)プロセスを明らかにすることが肝腎である。近年、糖尿病を持つ方の腎障害の多様性に注目が集まっている 2)。本稿では、糖尿病を持つ方の腎障害の多様性を、人工知能を用いた糖尿病分類という視点から考えてみたい。
はじめに 糖尿病の併存疾患の中で慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は主要なものの一つである。しかし、その腎障害を表現する名称に関してはDiabetic Nephropathy、Diabetic Kidney Disease、CKD with Diabetes、あるいはDiabetes and CKDなど呼称に関して世界的にもさまざまな混乱がある。同様の混乱は本邦でも認めていた。そこで、2024年より日本糖尿病学会、日本腎臓学会は米国を中心として世界で多く使われている「Diabetic Kidney Disease」に対応する日本語訳を「糖尿病関連腎臓病」とし、その概念を定義した。本稿では、糖尿病症例における腎臓合併症の歴史的背景を振り返るとともに、疾病概念の定義と定義が必要となった背景も概説する。
糖尿病における持続的な高血糖状態は、細胞内代謝異常や糸球体過剰濾過を引き起こし、糸球体障害を主な病変とする糖尿病性腎症を発症させる。そして、糖尿病性腎症では、糸球体障害に伴うアルブミン尿の増加が腎予後の悪化リスクとなることが明らかになっている。このため、厳格な血糖マネジメントやレニン・アンジオテンシン系阻害薬を用いた集学的治療によりアルブミン尿を予防・改善することが、糖尿病性腎症治療の最優先課題として確立された。その結果、現在ではわが国における糖尿病性腎症からの新規透析導入者数は減少に転じつつある。一方で、糖尿病治療の進歩に伴い、糖尿病患者の高齢化が進んでおり、その結果、アルブミン尿を伴わずに緩やかに腎機能が低下する症例が増加するなど、糖尿病患者が呈する腎障害の病態は多様化している。そこで、これら多様な病態を包括的に表現するため、「糖尿病関連腎臓病」という新たな概念が定義された。治療においては、従来の食事・運動療法を含む血糖・血圧の厳格なマネジメントを基本としつつ、Sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬、Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬、非ステロイド型Mineralocorticoid receptor(nsMR)拮抗薬といった新しい薬剤の使用により、さらに腎予後を改善することが可能となっている。このように、高齢化や治療の進展が急速に進むわが国において、糖尿病関連腎臓病のさらなる予後改善を目指した診療の実践が求められている。そこで本特集では、糖尿病関連腎臓病研究および診療のエキスパートである金﨑啓造先生(島根大学)、島袋充生先生(福島県立医科大学)、森克仁先生(大阪公立大学)、川浪大治先生(福岡大学)、豊田雅夫先生(東海大学)、内田治仁先生(岡山大学)に、それぞれ糖尿病関連腎臓病の「定義と概念」、「病態の多様性」、「食事療法」、「薬物療法」、「多職種連携」、「地域連携」をテーマに解説いただいた。いずれも糖尿病関連腎臓病の理解を深め、明日の診療に役立つ内容となっている。本誌が皆様の糖尿病関連腎臓病診療のさらなる向上にお役立ていただければ幸いである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:繪本正憲;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、協和キリン)奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム)、久米真司;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、協和キリン、アステラス製薬、アストラゼネカ、田辺三菱製薬)、研究費・助成金(日本ベーリンガーインゲルハイム)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、住友ファーマ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 男性においては、加齢に伴う性ホルモン低下と男性更年期障害との関連性が知られており、中には骨強度低下、筋肉量減少、筋力低下を伴うことにより運動機能や身体機能の低下を引き起こすことが指摘されている。加齢に伴うさまざまな機能変化の中でも、運動機能、歩行能力などの人間の身体機能、生理機能は年齢とともに低下していくことが知られている。また、生殖内分泌器官の機能低下により性ホルモンの動態も大きく変化し、性ホルモンレベルの低下、アンドロゲン受容体(AR)をはじめとする性ホルモン受容体シグナルの減弱が考えられる。男性において、加齢による性ホルモン低下は、抑うつ、性欲低下、性機能の減退、知的活動や認知機能の低下、睡眠障害をはじめとする男性更年期障害とも関連し、Partial androgen deficiency in aging male(PADAM)あるいはLate-onset hypogonadism(LOH)という概念が提唱されている。また、加齢に伴い骨強度の低下、筋肉量の減少、筋力低下(サルコペニア)を認め、高齢者の身体機能は一層低下し、activities of daily life(ADL)の自立がより困難となり、結果的に転倒、骨折による要介護状態に陥る場合も多い。このように、骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折やサルコペニアなどは、運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを規定し、高齢者本人、介護者のquality of life(QOL)を低下させてしまう場合が多く、その対策は重要である。
はじめに 医科診療報酬点数表の第2部在宅医療は、第1節在宅患者診療・指導料、第2節在宅療養指導管理料、第3節薬剤料、第4節特定保険医療材料料に分かれ、その第2節の第1款が在宅療養指導管理料(35項目)、第2款が在宅療養指導管理材料加算(33項目)である。今回は、在宅自己注射指導管理料をはじめとする糖尿病に係る在宅療養指導管理料と在宅療養指導管理材料加算について概説する。
Q&A編はこちら はじめに 本邦では毎年のように、さまざまな場所で、さまざまな災害が発生している。糖尿病患者は大規模災害に被災した際には、糖尿病をもつ人として生きることよりも生き延びることが最優先され、特に食事・運動療法の継続が困難となり、血糖管理状況が悪化することが報告されている 1)。そのため、災害発生時に糖尿病患者が困らないように普段から指導や教育を行うことが重要であり、いざ災害が発生したら、可及的速やかに支援することが望まれる。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が協働して、糖尿病医療支援チーム(Diabetes Medical Assistance Team:DiaMAT)の体制構築を進めている。各都道府県に災害対応チームを設置すると同時に、インスリン依存状態の糖尿病患者の登録や情報発信、メディカルスタッフへの教育や登録などを準備している。今後、起こり得る大規模災害に医療者全員が自分事として捉え、まずわれわれ自身が準備をし、加えてわれわれが直接関わる患者も災害に対する準備をするように働きかけることが大事である。本稿では、糖尿病をもつ人たちが、災害発生時にできるだけ困らないようにするために、私たち医療者がチームとしてどのように関わるべきか、活動すべきか概説する。
Q&A編はこちら 1.糖代謝異常妊娠の定義 妊娠中の糖代謝異常は、①妊娠糖尿病、②妊娠中の明らかな糖尿病、③糖尿病合併妊娠に分類される。また糖尿病合併妊娠は、①妊娠前にすでに診断されている糖尿病、②確実な糖尿病網膜症があるものに分けられる(表1)。 妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)は妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない軽い糖代謝異常であり、現在の定義と診断基準は、The International Association of the Diabetes and Pregnancy Study Groups(IADPSG)が The Hyperglycemia and Adverse Pregnancy Outcome(HAPO) Study 1)をもとに、世界統一の妊娠糖尿病診断基準を提唱したのち 2)、わが国でも2010年7月から取り入れられた。2015年8月に、日本糖尿病学会の診断基準と日本産科婦人科学会、日本糖尿病・妊娠学会の診断基準の一部不一致を統一し、現在の診断基準に至っている 3)。
はじめに 女性は、卵巣から分泌されるエストロゲンの影響を大きく受ける。10代の思春期にはエストロゲン分泌が増加し二次性徴や初経が発来する。20〜30代の性成熟期を経て40代になると卵巣機能は急激に低下しエストロゲン分泌が低下する。卵巣機能の低下によって、月経が1年間発来せず、永久に停止すると「閉経」となる。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であり、閉経の前後5年ずつの合計10年を更年期と呼ぶ 1)。この更年期の時期に出現するさまざまな症状を更年期症状といい、そのうち日常生活に支障をきたすものを更年期障害という。更年期障害はいわゆる不定愁訴と呼ばれ、さまざまな要因が絡み合って生じることが指摘されているが、卵巣機能低下によるエストロゲン分泌の低下が主な要因である。本稿では、女性の更年期障害の病態と診断・治療について解説する。
はじめに Exercise Oncology(運動腫瘍学)は、がん治療の各段階において身体活動や運動が及ぼす影響を評価し、適切な運動処方を目指す新しい学問分野である。近年の研究により、がんサバイバーに対する運動療法は、身体機能の向上だけでなく、精神心理面や生活の質(QOL)の改善、有害事象の減少、生命予後の改善など、多面的な効果があることが明らかになってきている 1)。
はじめに 令和5年(2023年)の日本人の平均寿命は、男性81.1年、女性87.1年となり、女性は90歳で約半数が生存するなど 1)、人生100年時代を迎えている。また、糖尿病のある症例の平均死亡年齢は、男性74.4 歳、女性77.3 歳で、日本人一般の平均寿命に比して短命ではあるものの、その差は縮まってきている 2)。人生は長くなっても小児の成長発達のスピードは変わらないため、相対的に短くなった小児・思春期の中で、その後の長い人生の基礎が培われるようになったといえる。近年、糖尿病医療は、持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)と持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)を組み合せたSAP(sensor-augmented pump)療法、CGMと連動しグルコース値に応じてベーサルインスリン量を自動的に増減する機能をもつHCL(Hybrid Closed Loop)が開発されるなど、急速に進歩している。1型糖尿病のある小児を取り巻く社会や医療が大きく変化する中で、小児期から成人期への移行を見据え、小児自身が力をつけていくための支援について看護師の立場から述べていきたい。
今回の論文 Perkovic V, Tuttle KR, et al. ; FLOW Trial Committees and Investigators : Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2024; 391(2): 109-121. [PubMed] はじめに 今回から3回にわたって「エビデンスの裏側 ―眼光紙背に徹す論文読解学―」として論文を読んでいきます。エビデンスにはいくつかのレベルがあり、専門家の意見(expert opinion)もエビデンスに含まれますが、最も信頼度の低いエビデンスに分類されます。逆に最も信頼度が高いのは複数のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析とされます。しかし、専門家の査読(peer review)を経て学術ジャーナルに発表された臨床論文を正しく解釈することが肝要です。
はじめに 生体に投与された薬物が効果を出すためには、何らかの方法によって薬物が目的とする作用部位へと到達する必要がある。薬物の投与方法にはさまざまなものがあるが、全身に薬物を運ぶ血流に直接薬物を乗せる静脈投与や動脈投与以外の方法で薬物が投与された場合、例えば臨床で利用されている経口投与や筋肉注射、坐剤による直腸内投与などの場合には、投与された部位から血流に薬物が乗るために「吸収(absorption)」という重要なプロセスを踏む。生体に投与された薬物は、その後「分布(distribution)」、「代謝(metabolism)」、「排泄(excretion)」という働きかけを生体により受ける。生体が薬物に対して行うこれら4つの作用について、それぞれの頭文字をとってADME、あるいは薬物動態と呼ぶ。薬物が生体に投与された後、薬物動態の第一段階としてどのように吸収されるかは臨床現場で薬物治療を行う際に重要な情報である。
1.小児がん診療の現況 近年のがん診療の進歩に伴い、予後の改善が目覚ましい。とりわけ、治療感受性の高い血液腫瘍、脳腫瘍の多い小児がんにおいては成人のがんに先駆けて高い生存率を示しており、2002~2006年の時点ですでに80%近い発症時5年生存率を示してきた 1)。わが国の小児がん発生率を年間2,000~2,300人 2)とすると、各年齢層の約500~600人に1人が小児がんサバイバー(Childhood Cancer Survivor:CCS)ということになる。また、生物学的に悪性腫瘍ではない頭蓋咽頭腫なども治療後合併症の多さから慣例的にCCSの一部として扱われる。
ポイント インクレチン(GLP-1・GIP/GLP-1)受容体作動薬には注射薬と経口薬がある。 セマグルチドには2型糖尿病治療薬と肥満症治療薬がある。 チルゼパチドはGIP/GLP-1受容体作動薬であり、GLP-1受容体作動薬とは異なる。 各剤の評価のポイントは血糖降下作用、体重への影響、心血管イベントや腎イベント抑制など。
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