はじめに 糖尿病患者における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しく食事を摂取することにより、合併症の発症または進展の抑制を図る糖尿病治療である。栄養バランスとしてのエネルギー産生栄養素(3大栄養素)の量(比率)、また量だけではなく質も、血糖管理や合併症の抑制において重要である。本稿では、3大栄養素の量と質を考慮した食事療法について解説する。
はじめに インスリンは血糖恒常性の維持に必須のホルモンであるが、持続する高血糖は膵β細胞からのインスリン分泌不全を惹起する(糖毒性)。糖毒性によるインスリン分泌不全はさらなる高血糖を引き起こすことで一種の悪循環が形成される。高血糖はβ細胞に酸化ストレスやERストレスなどを惹起することでインスリン分泌不全を引き起こすことが知られていたが、近年の研究の結果、糖毒性の背景に膵β細胞の低酸素化という現象が存在していることが明らかになってきた。本稿では、高血糖が膵β細胞に低酸素を惹起するメカニズムおよび低酸素によるインスリン分泌不全機構について概説する。
はじめに 食事療法・運動療法は、糖尿病診療と合併症予防を考える上で、根源的な治療法である。しかしながら、糖尿病患者に対してどの程度のエネルギー設定をすればよいのか、実は明確なエビデンスが乏しい。本稿では、日本糖尿病学会刊行の『糖尿病治療ガイド2022-2023』および『糖尿病診療ガイドライン2024』を補完する形で、エネルギー設定について解説する。また、二重標識水法を用いた糖尿病患者のエネルギー代謝の実態調査に基づいて、エネルギー設定に関して考察する。
糖尿病をもつ人における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しい食事を実践し、合併症の発症または進展の抑制をはかることができる食事療法を実践することである。非肥満の糖尿病、特に高齢者では食事の制限ではなく適切な量のエネルギーを摂取する必要がある。一方、肥満症例ではエネルギー管理が必要となる。食欲のマネジメントは大変重要であり、食後の高血糖、血糖スパイクが血管障害、臓器障害のリスクになるということを考えると食習慣の調整が重要となる。すなわち、よく噛んでゆっくり食べる、野菜・主菜(たんぱく質食品)を先に摂取する、食物繊維を多く含んだグリセミックインデックスの低い食物を摂取することなどに加えて、夜遅い時刻に食べると肥満や高血糖を助長するので、分割食にすることも有効である。また、食事は朝型(朝食を充実)にすることが肥満抑制、血糖値の改善、筋肉を増やすなどメリットが大きく、時間栄養学も考慮した食事療法が推奨されている。 一方、わが国では世界に類を見ない糖尿病患者の高齢化が進んでおり、どのような食事療法を実施していくかは重要な課題である。すなわち、筋肉量を維持することが転倒防止、ADLを維持するために重要であるが、高齢者はanabolic resistanceの状態で筋肉が増えにくい、また糖尿病患者では筋肉が減りやすいため十分な量の良質なたんぱく質、またエネルギーの摂取が必要である。一方で腎機能障害を合併した高齢者におけるたんぱく質の摂取量には議論があるところではあるが、高齢者糖尿病においてはサルコペニアの発症・進展抑制も目指した治療を行うことが重要であり、そのために適切な食事療法を実施することが望まれている。 本特集では、この分野でのエキスパートの方々から最新の食事療法についてのエビデンスに基づく新機軸の話題提供をいただいた。今後、読者の皆様の日常診療において本誌が一助となる内容となっているものと自信を持っており、糖尿病治療の目標である、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを実現するためには、医学的に最適な食事療法と、食事のおいしさや楽しさ、豊かさなどを両立することを考え、是非に、ご活用いただけるようにと切に願っている。 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 尿酸は、生体におけるエネルギーの通貨と呼ばれるATPをはじめとしたプリン体の代謝によって生じる。多くの哺乳類は尿酸代謝酵素を有しており、尿酸はさらに代謝されてアラントインに変換された後に体外へと排泄されるが、ヒトを含む多くの高等霊長類では遺伝的に尿酸代謝酵素を欠いているため、尿酸がプリン体の最終代謝産物となる。尿酸は体内に蓄積することで痛風の原因となるほか、心血管疾患や慢性腎臓病との関連も指摘されていることから、「悪玉」と見なされることが多い。しかしながら、尿酸は強い抗酸化作用を有することも知られており、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患に対して尿酸が保護的に働く可能性も示唆されている。これらを踏まえ、近年では、血清尿酸値が至適濃度よりも高値となる高尿酸血症と、低値となる低尿酸血症を併せた疾患概念である尿酸異常症(dysuricemia)が提唱されるようになった 1)。本稿では、尿酸の体内動態制御機構を踏まえ、尿酸異常症に用いられる治療薬について概説する。
はじめに 2024年度診療報酬改定において、診療報酬は+0.88%(医科 +0.52%、歯科 +0.57%、 調剤 +0.16%)、薬価は-0.97%の改定率となり、改定に当たっては以下に示す4点が基本的視点として示された 1)。 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進 ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や 医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進 安心・安全で質の高い医療の推進 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上 そして、これらの視点ごとに具体的方向性が示され、個別項目の改定がなされた。 内分泌疾患に係る改定は、主に医科診療報酬点数表の第1章基本診療料第2部入院料等、第2章特掲診療料第1部医学管理等および第3部検査であり、今回は改定された項目の告示、通知および施設基準について概説する。なお、本連載では内分泌疾患を対象にするのは初めてであるため、診療報酬の改定箇所のほかに、医科点数表の内分泌疾患に係る主な算定項目についても概説する。また、DPC(Diagnosis Procedure Combination:包括評価)制度については別途概説する。
今年の夏休みは、一人旅に出かけた。6月下旬の土曜日、札幌に用事があったので、その後ひたすら西へ東へと乗り物を乗り継ぐことにしたのだ。今回、銀輪は持参しなかった。
Q&A編はこちら はじめに 妊娠糖尿病は、日本において妊婦の12.1%で合併する妊娠中の比較的頻度の高い合併症であり 1)、母体の高血糖によって、母体の妊娠高血圧症候群・早産・帝王切開のリスク、胎児の巨大児・肩甲難産・高ビリルビン血症・低血糖・呼吸障害・NICU入室などのリスクが増大する 2)。一方で、妊娠中に血糖を良好に管理することでそれらの合併症を抑制できる 3)ことが知られているが、妊娠糖尿病と診断された妊婦は、その病気の受容や治療管理に関わる負担は大きいことが臨床の場面では多く経験される。妊娠中は精神的にも不安定な状態になりやすいこともあり、適切なサポートには多職種で取り組む心理的配慮が大変重要であろう。 多職種医療従事者の各知見をもとに、妊娠糖尿病に対するチーム医療と心理的配慮に注目した新たな取り組みとして、近年関心を集めているモバイル・アプリケーションやオンライン診療について先進的な取り組みも含めて紹介する。
はじめに 高尿酸血症(>7.0mg/dL)は結晶沈着による痛風性関節炎を引き起こすのみならず、メタボリックシンドローム発症や心血管疾患・死亡との関連も多数報告されている。一方で、低尿酸血症(≦2.0mg/dL)も腎障害リスクがあり、注意が必要な場合がある。本稿では、尿酸異常症が患者や一般住民に及ぼす問題について解説し、日常臨床や健康診断における尿酸値測定の意義を述べる。
はじめに Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)は細胞膜タンパク質における最大のファミリーで、ヒトでは800種を超えるメンバーから構成される。ホルモン、神経伝達物質、感覚刺激などさまざまな細胞外シグナル分子(リガンド)に対する細胞応答を仲介する。多様な生理反応に関わり、数多くの疾患に関わることも報告されていることから、創薬の標的としても注目度が高く、実際にGPCRを標的とした治療薬が臨床で用いられている。昨今、糖尿病および肥満症の治療薬として使用され、適応外使用でも問題となっているGLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬も、その分子標的であるGLP-1受容体はGPCRである。
はじめに 脂質異常症は冠動脈疾患を中心とする動脈硬化性疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)の予後を決定する重要な危険因子であり、遺伝的な脂質異常症においてでさえ食生活の是正が予防や治療の基本である 1)。そのため、食事に関する脂質(エネルギー源である脂肪とエネルギー源でないコレステロールを合わせたもの)の生化学的な代謝と臨床的なエビデンスを正しく知ることが重要になる。またダイエットパターンとしての日本食や地中海食、dietary approach to stop hypertension diet(DASH食)が注目されている。本稿では、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』 1)と『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』 2)を中心にASCVD予防のための食事療法を解説する。なお、内容の詳細や引用文献、また食物繊維(穀物、野菜、果物)、果糖を含む加工品、海藻、ナッツ類などは誌面の都合上割愛するが上記ガイドラインを参照されたい。
Q&A編はこちら はじめに Glucagon-like peptide-1(GLP-1)は小腸の消化管内分泌細胞であるL細胞から分泌されるペプチドである。食事による血糖上昇に応答する形で膵β細胞のGLP-1受容体に結合し、β細胞からのインスリン分泌を促進するため、血糖上昇時のみにインスリン分泌をもたらすことが特徴である。GLP-1はdipeptidyl peptidase-4(DPP-4)により分解され活性を失うため、GLP-1受容体作動薬はDPP-4による分解を受けにくい構造を持ち、GLP-1受容体を刺激することで血中GLP-1を薬理学的濃度まで上昇させ血糖降下作用が得られるように開発された。GLP-1の膵外作用として、胃内容物排泄遅延、食欲中枢における食欲抑制も認めることから、GLP-1受容体作動薬には体重減少効果も期待される。加えて、近年では心血管イベントや腎イベント進行抑制のエビデンスも明らかとなってきていることから、実臨床で使用されるケースが年々増加しており、本稿では各製剤の特徴および実際に使用した症例に関して解説する。
はじめに 高トリグリセライド血症(高TG血症:hypertriglyceridemia)は、血中トリグリセライド濃度(TG値)が異常高値となる状態であり、高コレステロール血症とともに脂質異常症の代表的な疾患である 1)。TG値が空腹時採血で150mg/dL以上、または随時採血で175mg/dL以上であれば高TG血症となる(表1)。高TG血症は動脈硬化性疾患の重要な危険因子の一つであるほか、TG値が著明高値の状態は急性膵炎の発症要因である 2)。一般外来で日常的に遭遇する高TG血症は、そのほとんどがいわゆる生活習慣病として生活習慣の改善を含めた治療介入を必要とする。本稿では高TG血症の病態とともに、治療介入のポイントについて、特に動脈硬化性疾患発症予防の観点でどのようにすべきかを中心に解説する。
ポイント NAFLD患者はわが国で2,000万人以上存在するといわれている。 NAFLD/NASHは肝硬変および肝がんに至る病態である。 NAFLD/NASHに対する薬物治療について多くの臨床試験が進行中である。 新たな概念として脂肪肝をSLDという形でまとめ、その下でのMASLD/MASHなどの新しい名称による疾患分類が提唱された。 MASLD/MASHは代謝、循環器など臓器横断的な疾患としての意味合いも包含している。
はじめに 家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)は、LDL受容体関連遺伝子の変異を原因とする常染色体顕性遺伝疾患である。その臨床的特徴は高LDL-C血症、アキレス腱肥厚をはじめとする腱または皮膚結節性黄色腫、早発性冠動脈疾患の3つである。 高LDL-C血症患者を診察する際はFHを常に念頭に置く必要がある。本稿では、『成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022』を基にFH診断のコツ(行間・考え方)と積極的な脂質低下治療の重要性について概説する。また、1人のFH患者を診断した後には、家族スクリーニングを実施し、家族も早期に治療することが若年死の予防につながることを忘れてはならない。
この原稿が読者である先生方のお目に届くのはおそらく食欲の秋が到来した頃と思われるが、私どもが本原稿を執筆しているのは「土用の丑の日」を過ぎたばかりの酷暑真っ只中である。「土用の丑の日」というのは江戸時代の名コピーライター平賀源内翁による夏場のウナギ販促コピーであると伝えられているが、そのような事情を抜きにしても、滋養強壮に優れたウナギは実際に夏バテ対策として適した食品である。 さてウナギの栄養価を食品成分表で確認してみると、100g当たり炭水化物3.5gに対して脂質5.3g、そしてタンパク質13gと、高脂質高タンパクの食材である。すなわち、ウナギのような「滋養強壮に効く」食材は、脂質異常症と高尿酸血症を惹起しやすいのである(血中尿酸は食品内プリン体に由来するのが20~30%で、残りの70~80%はアミノ酸からのde novo経路を介した合成に由来する)。そしてウナギに限らず、われわれが美味しいと思うものをたくさん摂取することは、脂質異常症と高尿酸血症の発症に直結するわけである。 近代から現代にかけての食糧事情の改善は、われわれが欲する食料品へのアクセスを容易にし、それに伴い脂質異常症や高尿酸血症を含む生活習慣病はコモンディジーズとなった。ちなみに、かつて「成人病」と称されていた疾患群を「成人になることが病気を作るのではなく、われわれを取り巻く現代の生活習慣が病気を作るのだ」と喝破して「生活習慣病」と呼び換えたのは、昭和から平成にかけての医療界における名コピーライター日野原重明先生(元聖路加国際病院 院長)である。 今回の特集は、脂質異常症および高尿酸血症(尿酸異常症)に関して日常診療で直ちに役立つ内容とすべく、脂質異常症に関しては原が、高尿酸血症(尿酸異常症)に関しては寺脇が、現時点において最もお教えをいただきたい先生方に原稿のご執筆をお願いした。そして結果として、いずれも編者らの期待を大きく超えるすばらしい論文をご執筆いただき、脂質異常症・高尿酸血症(尿酸異常症)に関して大掴みできる一冊に仕上がった。今回の特集が平賀源内翁と日野原重明先生にちなみ、読者諸賢の「臨床現場での“滋養強壮に効く”」「診療の“習慣”が変わる」のに役立つことを、強く願う次第である。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:原 眞純;講演料(興和、ノボ ノルディスク ファーマ、住友ファーマ、日本べーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、第一三共、アステラス製薬)、寺脇博之;アドバイザー料(アプローズ)、講演料(協和キリン、持田製薬) 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 2024年度診療報酬改定については、2023年12月20日予算大臣折衝を踏まえ、診療報酬の改定率は+0.88%(医科 +0.52%、歯科 +0.57%、調剤 +0.16%)となった 1)。そして2024年1月12日付けの厚生労働大臣諮問に対し、2月14日に中央社会保険医療協議会より改定案が答申された 2)。答申書では、賃上げ全般、医療DX(Digital Transformation)、働き方改革・人材確保など、28項目の附帯意見が記載され、これらの意見に従って個別項目が改定され、「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」は、6月1日からの適用となった 3)。 よって今回は、改定された医科点数表の、糖尿病に係る項目の告示、通知および施設基準について、表1に示す「個別改定項目」 4)に従って概説する。なお、本稿で示す各表では、新設・改定箇所を青字で記した。また次回では、内分泌疾患を中心に改定内容を概説し、DPC (Diagnosis Procedure Combination:包括評価)制度については、別途概説する。
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