はじめに 女性は、卵巣から分泌されるエストロゲンの影響を大きく受ける。10代の思春期にはエストロゲン分泌が増加し二次性徴や初経が発来する。20〜30代の性成熟期を経て40代になると卵巣機能は急激に低下しエストロゲン分泌が低下する。卵巣機能の低下によって、月経が1年間発来せず、永久に停止すると「閉経」となる。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であり、閉経の前後5年ずつの合計10年を更年期と呼ぶ 1)。この更年期の時期に出現するさまざまな症状を更年期症状といい、そのうち日常生活に支障をきたすものを更年期障害という。更年期障害はいわゆる不定愁訴と呼ばれ、さまざまな要因が絡み合って生じることが指摘されているが、卵巣機能低下によるエストロゲン分泌の低下が主な要因である。本稿では、女性の更年期障害の病態と診断・治療について解説する。
はじめに Exercise Oncology(運動腫瘍学)は、がん治療の各段階において身体活動や運動が及ぼす影響を評価し、適切な運動処方を目指す新しい学問分野である。近年の研究により、がんサバイバーに対する運動療法は、身体機能の向上だけでなく、精神心理面や生活の質(QOL)の改善、有害事象の減少、生命予後の改善など、多面的な効果があることが明らかになってきている 1)。
はじめに 令和5年(2023年)の日本人の平均寿命は、男性81.1年、女性87.1年となり、女性は90歳で約半数が生存するなど 1)、人生100年時代を迎えている。また、糖尿病のある症例の平均死亡年齢は、男性74.4 歳、女性77.3 歳で、日本人一般の平均寿命に比して短命ではあるものの、その差は縮まってきている 2)。人生は長くなっても小児の成長発達のスピードは変わらないため、相対的に短くなった小児・思春期の中で、その後の長い人生の基礎が培われるようになったといえる。近年、糖尿病医療は、持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)と持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)を組み合せたSAP(sensor-augmented pump)療法、CGMと連動しグルコース値に応じてベーサルインスリン量を自動的に増減する機能をもつHCL(Hybrid Closed Loop)が開発されるなど、急速に進歩している。1型糖尿病のある小児を取り巻く社会や医療が大きく変化する中で、小児期から成人期への移行を見据え、小児自身が力をつけていくための支援について看護師の立場から述べていきたい。
今回の論文 Perkovic V, Tuttle KR, et al. ; FLOW Trial Committees and Investigators : Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2024; 391(2): 109-121. [PubMed] はじめに 今回から3回にわたって「エビデンスの裏側 ―眼光紙背に徹す論文読解学―」として論文を読んでいきます。エビデンスにはいくつかのレベルがあり、専門家の意見(expert opinion)もエビデンスに含まれますが、最も信頼度の低いエビデンスに分類されます。逆に最も信頼度が高いのは複数のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析とされます。しかし、専門家の査読(peer review)を経て学術ジャーナルに発表された臨床論文を正しく解釈することが肝要です。
はじめに 生体に投与された薬物が効果を出すためには、何らかの方法によって薬物が目的とする作用部位へと到達する必要がある。薬物の投与方法にはさまざまなものがあるが、全身に薬物を運ぶ血流に直接薬物を乗せる静脈投与や動脈投与以外の方法で薬物が投与された場合、例えば臨床で利用されている経口投与や筋肉注射、坐剤による直腸内投与などの場合には、投与された部位から血流に薬物が乗るために「吸収(absorption)」という重要なプロセスを踏む。生体に投与された薬物は、その後「分布(distribution)」、「代謝(metabolism)」、「排泄(excretion)」という働きかけを生体により受ける。生体が薬物に対して行うこれら4つの作用について、それぞれの頭文字をとってADME、あるいは薬物動態と呼ぶ。薬物が生体に投与された後、薬物動態の第一段階としてどのように吸収されるかは臨床現場で薬物治療を行う際に重要な情報である。
1.小児がん診療の現況 近年のがん診療の進歩に伴い、予後の改善が目覚ましい。とりわけ、治療感受性の高い血液腫瘍、脳腫瘍の多い小児がんにおいては成人のがんに先駆けて高い生存率を示しており、2002~2006年の時点ですでに80%近い発症時5年生存率を示してきた 1)。わが国の小児がん発生率を年間2,000~2,300人 2)とすると、各年齢層の約500~600人に1人が小児がんサバイバー(Childhood Cancer Survivor:CCS)ということになる。また、生物学的に悪性腫瘍ではない頭蓋咽頭腫なども治療後合併症の多さから慣例的にCCSの一部として扱われる。
ポイント インクレチン(GLP-1・GIP/GLP-1)受容体作動薬には注射薬と経口薬がある。 セマグルチドには2型糖尿病治療薬と肥満症治療薬がある。 チルゼパチドはGIP/GLP-1受容体作動薬であり、GLP-1受容体作動薬とは異なる。 各剤の評価のポイントは血糖降下作用、体重への影響、心血管イベントや腎イベント抑制など。
はじめに 小児期発症1型糖尿病の医療的ケアはライフステージ(乳幼児期、学童期、思春期)により異なる。それは子どもの成長段階におけるセルフケア能力が異なり、かつ病気の理解力、考える能力も異なるからである。多くの場合、初期治療は入院で行われ、その後、外来で子どもの血糖管理状況を把握し、より良くしていくための診療が行われる。その際に、時々長期的な視点で子どもの発達状況に応じ、少し先を見据えて、病気に関するセルフケアを増やしていき、親のケアが自然に少なくなるように導くことができれば理想的である。本稿では、ライフステージごとの診療上の留意点を解説しながら、どのように先を見据えて診療していけばいいのかについて考察した。
「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年10月1日現在の日本の高齢化率は29.1%である。65歳以上の人口は1950年(昭和25年)には総人口の5%に満たなかったが、1995年には14%を超え、2005年には20.2%となり、以降も上昇を続けている。さらに2050年には37.1%に達すると推定されている。平均寿命は男性81.09年、女性87.14年と、わが国は世界に誇る長寿国である(厚生労働省「令和5年簡易生命表」)。 一方で、健康寿命は平均寿命より約10年短く、個人の生活の質(QOL)の低下を防ぎ、社会的負担を軽減する上で、健康寿命の延伸が今後の大きな課題となっている。ベストセラーとなったリンダ・グラットン氏の著書『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略-』で提唱された「人生100年時代」。この長い道のりを健やかに、自分らしく生き抜くために、医療従事者が果たす役割の重要性はますます増している。 本特集では、ライフステージ特有の問題を有し、医療ケアが大きく異なる内分泌学的疾患を取り上げ、各分野のエキスパートに執筆をお願いした。小児期発症1型糖尿病について、子どもの成長段階に応じた医療ケアや成人期への移行を見据えたセルフケア能力の習得について、神野和彦先生に執筆いただいた。また、中村伸枝先生には、看護師の立場から、小児・思春期1型糖尿病患者とその家族への指導・支援における心のケアや社会との関わりの重要性について執筆いただいた。さらに、依藤亨先生には、小児がんサバイバーが小児期以降も抱え続ける内分泌後遺症について、ライフステージごとの診療ポイントと成人期医療へのスムーズな移行のための対応について執筆いただいた。そして、人生100年時代の中盤〜後期にかけて、QOLに大きな影響を与え得る女性更年期障害とLOH症候群について、それぞれ北島百合子先生、小川純人先生にその病態と診断・治療の詳細を執筆いただいた。 エキスパートの詳細かつ実践的で読み応えのある本特集の論文が、ライフステージごとのさまざまな臨床現場で活用いただけることを願っている。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:菊池 透;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ)、原稿料(エムティーアイ) 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 高齢化するわが国の糖尿病患者について、エネルギー管理を主とする過剰栄養対策とサルコペニア・フレイルなどの低栄養対策のどちらを主とするのかについてフォーカスし、栄養食事管理に関わるエビデンスを基に解説する。
はじめに DPC(Diagnosis Procedure Combination)/PDPS(Per-Diem Payment System)は、2003年4月より82の特定機能病院を対象に導入された、急性期入院医療を対象とする診断群分類に基づく1日当たり包括払い制度である。そして2024年6月1日時点で1,786病院・約48万床が対象となり、「急性期一般入院基本料等」に該当する病床の約85% 1)を占める。 今回は、このように普及したDPC/PDPSについて、糖尿病・内分泌疾患を対象に、2024年診療報酬改定に基づいた内容を概説する。
脂溶性ビタミンの一種であるビタミンDは、食事からの摂取のほか、紫外線の作用により皮膚でかなりの量が産生されるユニークな栄養素である。ビタミンDの最も基本的作用は、腸管におけるカルシウム・リンの吸収促進であることから、ビタミンD不足は骨の脆弱化を招き、骨折リスクを高める。フィンランドの若年男性を対象とした研究では、ビタミンD栄養状態の指標である血中25ヒドロキシビタミンD(25OHD)濃度の低値において、疲労骨折の発生率が増加したことを示しており 1)、スポーツ現場における骨障害予防の観点からもビタミンDの栄養状態を良好に保つことは重要なテーマといえる。さらに近年、ビタミンDと免疫、骨格筋、脂質代謝、心血管疾患などとの関連があるなど、アスリートのコンディショニングや競技パフォーマンスを向上させる可能性のあるエルゴジェニック特性がある栄養素としても注目されている 2)。
はじめに 糖尿病を有する患者も高齢化が進んでおり、高齢者糖尿病は腎症を含む最小血管症や動脈硬化性疾患のほか、認知症、サルコペニアなどの併存疾患をきたしやすい 1)。 糖尿病性腎症の食事療養基準として、「CKDステージによる食事療法基準」(表1)を参照するが、CKDは病期の進展とともに、たんぱく質やリン、カリウム、食塩の制限が必要になる。そして、これらは摂取エネルギー不足となり、Protein Energy Wasting(PEW)をはじめとする低栄養状態を招くことが多い。その上、糖尿病や腎臓病は病態そのものからくる炎症性代謝亢進も加わるため、さらに注意が必要である。 これらのことを踏まえ、サルコペニアを有する高齢者糖尿病性腎症の食事療法について概説する。
北原白秋、本名隆吉が生まれたのは1885年(明治18年)1月25日(戸籍上は2月25日)であった。実家は江戸時代から柳川藩の御用達であった豪商一族で、長男が死去していたため、事実上長男として育った。2歳で腸チフスに罹患し、同時期にかかった乳母は死去した。1897年(明治30年)2年の飛び級で福岡県立の尋常中学伝習館に進むも、いくばくの成績が足りず2年生に落第、この留年が心の傷となり5年生の後半にノイローゼで休学、結局は退学し、私立である早稲田大学英文科予科に入学した。白秋は中学3年生の頃から表現活動を始め、同時期に島崎藤村の『若菜集』に没頭した。実はこの時期に白秋の生家が大火にて類焼し酒倉が焼け落ち、以降没落していった 1, 2)。早稲田入学時には潤沢な仕送りがあったが、1909年(明治42年)、白秋が24歳の処女詩集『邪宗門』が刊行される年には破産に至った。その2年後、詩集『思ひ出』を上梓、人妻とのスキャンダルもあったが、歌集や童謡集などさまざまな分野で作品を発表し文壇での地位を確立した。
はじめに われわれ人間が生きるために必要なエネルギーは全て食物から得ている。従って、摂食行動は生命活動の根源である。摂食行動は、体内貯蔵エネルギーが不足することによって作り出される空腹感(hunger)によって引き起こされる。そして、食物摂取によって得られる飽満感(satiation)によりその空腹感が満たされ、結果として摂食行動が終了する。食物摂取によって食物への欲求が満たされると満腹感(satiety)が生じる。満腹感の持続は、空腹感の抑制に働き、次の摂食行動開始までの間隔を作り出す 1)(図1)。食物への欲求→摂食行動は、空腹感だけでなく、食欲(appetite)によっても調節される。食欲は、内部環境因子(快楽的因子、病的要因、特定栄養素に対する欲求など)と外部環境因子(学習による嗜好/嫌悪、心理的因子、社会的因子、生活環境因子など)によって調節され、特定の食物への欲求に作用する。従って、空腹感と食欲は摂食行動を刺激する異なる因子であり、脳の高次機能が発達した人間においては摂食調節における食欲の関与は大きい。
ポイント SGLT2阻害薬は、血糖改善作用に加えた、additional benefitを期待し得る薬剤である。 心血管疾患・心不全・CKDのイベント発症リスクを低減させることが知られる。 適応拡大される中で、使用する個々人の特性に配慮した適正使用が求められる。
Q&A編はこちら はじめに 骨粗鬆症治療の目的は骨折を予防することである。骨折は健康寿命のみならず、生命予後を短縮させる。閉経後の原発性骨粗鬆症に加え、原発性副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、2型糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣に関連する疾患が骨粗鬆症の原因となるため、内分泌代謝内科は骨折予防の第一線を担うべき診療科といえる。骨粗鬆症治療薬として、従来から用いられてきた骨吸収抑制薬に加え、骨形成促進薬が使用可能となっている。骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者に対しては骨形成促進薬を先行して投与する「アナボリックファースト」により、大幅な骨量増加を目指せる。骨粗鬆症治療を安全に行うために薬剤ごとの注意点を理解する必要がある。本稿では、これから骨粗鬆症治療に関わる方を対象に、治療のエッセンスをまとめた。
Q&A編はこちら はじめに 糖尿病性神経障害は、糖尿病を有する患者に最も高頻度にみられる合併症である。糖尿病性神経障害の自覚症状は多岐にわたり、QOLを損なうだけでなく、足潰瘍および下肢切断、心血管死のリスクを上昇させる。糖尿病を有する患者の増加に伴い、糖尿病性神経障害を有し、足病変や心血管死のリスクが高い患者が増加していくことが考えられる。ほかの合併症と同様、定期的に神経障害の有無や症状を評価し、必要に応じて対症療法やフットケアを行う必要がある。
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