今回の論文 Nicholls SJ, Pavo I, et al. : Cardiovascular Outcomes with Tirzepatide versus Dulaglutide in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025; 393(24): 2409-2420. [PubMed] はじめに GLP-1受容体作動薬が登場してから、2型糖尿病治療が激変した印象をお持ちの読者も多いと思います。最初に登場したエクセナチド(商品名:バイエッタ®)はものものしいデバイスで、針が太くて注射時の痛みがかなりあったように記憶しています。その後にリラグルチド(ビクトーザ®)、リキシセナチド(リキスミア®)と続きました。これらは全て毎日投与が必要でしたが、その後週1回投与のGLP-1受容体作動薬である持続性エキセナチド(ビデュリオン®)、デュラグルチド(トルリシティ®)、セマグルチド(オゼンピック®)が登場してからは、筆者の外来ではほとんどの患者が週1回投与製剤に移行しました。 GLP-1の主要な作用は膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリンを分泌する点にあるので、当初は低血糖を起こしにくいインスリン分泌促進薬としての位置づけでした。しかし食欲抑制作用、消化管運動抑制作用を併せ持つことから、肥満を合併した2型糖尿病患者の血糖管理に非常に有用であることが明らかになってきました。冒頭に述べた2型糖尿病治療が激変した理由は、GLP-1受容体作動薬の登場によって初めて食欲をコントロールすることで体重を減らす薬剤が登場したことにあります。さらに、多くの心血管アウトカム試験(CVOT)の結果から、GLP-1受容体作動薬には2型糖尿病患者の心血管イベント抑制作用があることが確立され、ガイドラインにも記載されるようになっています。 チルゼパチドはほかのGLP-1受容体作動薬とは異なり、GIP受容体にも結合するdual agonist作用を有する薬剤であり、これまでの研究から既存のGLP-1受容体作動薬と比較して、血糖降下作用、体重減少作用においては最強であることが示されています。本試験は、チルゼパチドの安全性および心血管イベント抑制作用を検討したCVOTになります。
はじめに 糖尿病と感染症の間には「健康リスク」が存在することが古くから知られている。慢性的な高血糖状態は、感染症リスクや重症化リスクを高める 1)。その結果、糖尿病患者は各種感染症に罹患しやすくなるだけでなく、発症時に急速に重症化し、難治化する傾向にある。さらに、感染症罹患時には炎症反応とストレス反応によりインスリン抵抗性が増大し、血糖管理の悪化やケトアシドーシスをきたし得る。この点は、シックデイ対応としての頻回な血糖モニタリングと治療調整の重要性が指摘されている。 このような「健康リスクの連鎖」を断ち切る上で、ワクチン接種による発症および重症化予防は極めて重要な戦略である。米国糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)のガイドラインをはじめ、国内外の多くの指針で糖尿病患者への積極的な成人予防接種が推奨されている 1)。本稿では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックから得られた教訓を振り返りつつ、日常診療において糖尿病患者に推奨されるワクチンの種類、その予防効果、具体的な投与法、そして公費助成制度の現状について概説する。 1.COVID-19から得られた糖尿病における感染の特徴と教訓 COVID-19パンデミックを通じ、糖尿病患者の感染症に対する脆弱性が改めて浮き彫りとなった。ここで得られた知見は、ほかの呼吸器感染症対策を考える上での重要性を示唆するものである。 1)発症率と重症化リスク 大規模疫学調査の多くは、糖尿病自体がCOVID-19への感染感受性(罹患率)を一般集団より著しく高めるわけではないと報告している。しかし、一度感染した場合の予後は大きく異なる。英国における全人口ベースのコホート研究では、COVID-19院内死亡のオッズ比が1型糖尿病では2.86、2型糖尿病では1.80と有意に上昇し、糖尿病が独立した重症化および死亡リスク因子であることが示された 2)。 2)血糖管理と予後の関係 感染前の血糖管理状態は、感染後の予後因子となる。前述の英国の解析では、HbA1c(NGSP)が10.0%以上の群は、6.5〜7.0%の良好群と比較してCOVID-19による死亡リスクが有意に高まることが確認された 3)。また、入院時の高血糖や血糖変動の増大自体が予後不良因子となるため、感染時のシックデイルールに基づく適切なインスリン調整と頻回なモニタリングが、診療において非常に重要となる。 3)ワクチンの有効性と免疫応答への影響 メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、一般集団と同様に糖尿病患者でも高い発症予防および重症化予防効果を示す。一方で、ワクチンに対する免疫応答もまた血糖管理状態に依存することが知られている。イタリアの研究では、HbA1cが7.0%未満の患者群では接種後の中和抗体価やT細胞応答が十分に得られた一方、接種後1年間の平均HbA1cが7.0%以上の患者群では、ブレイクスルー感染のリスクが有意に高く、免疫応答が減弱していることが報告された 4)。すなわち、ワクチンの有効性を最大化するためにも、平時からの厳格な血糖管理が重要であることが示唆される。
はじめに 糖尿病は感染症の罹患および重症化の重要なリスク因子である。 腎臓感染症、骨髄炎、足の感染症などでリスク上昇が顕著であり、感染種別によって増加の程度が異なる。その背景には、高血糖に伴う免疫応答の変調に加え、皮膚・尿路を中心とした局所環境の変化、血管・神経合併症による防御低下、さらには併存疾患や治療要因が重なることが挙げられる。 本章ではこれらの疫学と機序を概説した上で、糖尿病で特に見逃しが予後に影響し得る気腫性感染症、糖尿病足感染症・壊死性筋膜炎、ムーコル症を中心に整理し、さらにSGLT2阻害薬使用時に注意すべき感染症についても述べる。 1.糖尿病が感染症リスクを上げる 一般集団と比較して、糖尿病患者は感染症関連の入院リスクが2~4倍、外来診療における感染症リスクが1.5倍高いとされる 1)。英国の大規模マッチドコホート研究では、糖尿病患者は全ての感染症の発生率が高く、特に骨・関節感染症、敗血症、蜂窩織炎で増加が大きかった。同研究では感染症関連入院の発生率比(incidence rate ratio:IRR)が1型糖尿病で3.71、2型糖尿病で1.88と推定され、1型糖尿病で相対リスクがより高かった。また、感染症関連入院の約6%、感染症関連死亡の約12%が糖尿病に起因し得ると推定されている 2)。1型糖尿病に限定したマッチドコホート研究でも、外来で診断される感染症がIRR 1.81、感染症入院がIRR 3.37と推定される。さらに同研究では、平均HbA1cが低い群(≦約7.0%)と比較して、高い群(≧約11.0%)では感染症入院がIRR 4.09と推定され、血糖管理不良が重症感染リスクを増幅し得ることが示唆される 3)。 肺炎による入院は糖尿病で増加し、デンマークの症例対照研究では糖尿病全体で調整相対リスク(relative risk:RR)1.26、1型糖尿病でRR 4.43、2型糖尿病でRR 1.23が報告されている 4)。また感染種別にみると、感染症関連入院のリスクは腎臓感染症(3.0~4.9倍)、骨髄炎(4.4~15.7倍)、足の感染症(6.0~14.7倍)が顕著だが、肺炎、インフルエンザ、結核、皮膚感染症、手術部位感染症、全身性敗血症のリスクも高くなる 1)。
糖尿病では感染症の罹患や重症化のリスクが高まることが従来より知られている。近年の日本において感染症は、糖尿病患者の死因としてがんに次ぐ第2位を占める。過日の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが、糖尿病における感染症リスク増加の機序やワクチンによる予防の意義について見直す機会となったのは記憶に新しい。糖尿病やその治療薬により感染症リスクが増大する機序はどこまで解明しているのか、血糖マネジメント状態と感染症重症化の関連性はあるのかなど、臨床上の論点は多い。また、糖尿病患者に推奨されるワクチン接種やフットケアの実践法についても糖尿病診療に携わる医師は要点を整理しておく必要がある。 一方、感染症およびその治療が糖代謝に寄与し得ることも判明してきている。そして感染症の治療により血糖マネジメントが改善する報告もある。では、そのインパクトはどの程度なのか、感染部位や感染症の種類による違いを踏まえて、適切な感染症診療と糖尿病管理を連携させることが重要である。 このように糖尿病と感染症は密接に関連しており、その負のスパイラルを断ち切ることが両者の経過改善につながると強く考えられる。本特集では、糖尿病における感染症リスクとその特徴、予防対策について、エキスパートの先生方にわかりやすく解説していただいた。病態生理学的な解説だけでなく、プラクティスのコツまで幅広くカバーしていることが特筆に値する。同時に、感染症が糖代謝へ及ぼす影響についても取り上げ、相互作用を俯瞰できる構成とした。 読者の方々に、本特集を明日からの日常診療や研究に積極的に活かしていただければ、特集の企画者として無上の喜びである。 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 糖尿病は、食事療法、運動療法、薬物療法、生活習慣の改善、ならびに合併症の予防・管理を、長期的かつ総合的に行う必要がある慢性疾患である。そのため、医師のみで十分な管理を行うことは困難であり、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士などによる多職種連携、いわゆるチーム医療の重要性が高い。診療報酬の医科点数表における糖尿病のチーム医療の評価は、単に診療行為を評価することにとどまらず、質の高い慢性疾患管理を制度として後押しする点にその意義がある。そこで本稿では、糖尿病におけるチーム医療の重要性を踏まえ、医科点数表および調剤点数表における関連算定項目について概説する。 1.医科点数表・調剤点数表の主な算定項目と、多職種(チーム医療)の関与形態(表1)1~3) 医科点数表においては、糖尿病診療を医師単独で完結させるのではなく、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士などの多職種が連携して関与する体制が、各算定項目を通じて評価されている。 外来・入院・集団栄養食事指導料では、医師の指示の下で管理栄養士が専門的に介入することが明確に位置づけられている。また、糖尿病合併症管理料や糖尿病透析予防指導管理料では、専任医師を中心に、看護師(または保健師)や管理栄養士、薬剤師がそれぞれの専門性を生かして関与することが算定要件として示されており、合併症予防を目的としたチーム医療の重要性が強調されている。 さらに、生活習慣病管理料(Ⅰ)(Ⅱ)では、多職種が「連携して実施」することが明記されており、継続的な生活指導・自己管理支援を評価する枠組みとなっている。加えて、薬剤管理指導料や持続血糖測定器加算、運動器リハビリテーション料、調剤後薬剤管理指導料などにおいても、それぞれ専門職の研修要件や同意・指示といった条件が設定され、質の担保されたチーム医療が求められている。 表1 医科点数表・調剤点数表の主な算定項目と、多職種(チーム医療)の関与形態(文献1~3より) 画像をクリックすると拡大します 表1 医科点数表・調剤点数表の主な算定項目と、多職種(チーム医療)の関与形態(文献1~3より) $(".r08_0032_h1").modaal();
はじめに 前回、1970年代から1980年代は今につながる糖尿病学の基礎や臨床の実践の流れが形作られた時期であることをお話ししました。私は、その時期に虎の門病院で糖尿病の専門研修を始めたことが、私の現在の1型糖尿病の臨床や研究につながりました。その後の10年間の研究生活は、私にとって新たな転機のきっかけとなりました。 第18研究室 私は虎の門病院での研修の後、春日雅人先生(朝日生命成人病研究所所長)のグループに入れていただき、大学卒業後4年目の1988年6月から大学の病棟で研修医の面倒を見ながら、研究室で基礎研究のイロハから習うことになりました。春日先生は、1983年にインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性を発見されましたが、インスリン作用の機序はもとより、糖尿病の病態を分子的なレベルから解明しようという研究が世界中で行われていました。当時は、医学分野は遺伝子研究の黎明期で、私は大学に戻って、インスリン分泌を研究されている柴崎芳一先生(前 東京大学先端科学技術研究センター特任教授)のもとで、遺伝子研究の手ほどきを受けることになりました。柴崎先生は本庶佑先生(後にノーベル賞受賞)のもとで医学研究を学ばれ、東京大学医学部第三内科の中に新たに作られた、第18研究室(18研)の一員として研究を始めていました。18研は当時教授であった髙久文麿先生が1987年に2つ目の細胞工学研究室として、旧レントゲン室を改築して作られたものです。各分野から気鋭の先生方が集まり、切磋琢磨していました。 糖尿病の研究室からは柴崎先生のほかに、小田原雅人先生(国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授)、浅野知一郎先生(広島大学医系科学研究科名誉教授)、さらに後には片桐秀樹先生(東北大学大学院医学系研究科教授)、寺内康夫先生(横浜市立大学教授)、窪田直人先生(熊本大学大学院生命科学研究部教授)、山田哲也先生(東京科学大学教授)が加わりました。循環器の研究室からは倉林正彦先生(群馬大学名誉教授)、小室一成先生(国際医療福祉大学副学長・教授)、方山栄哲先生(かたやま医院院長)、後に塩島一朗先生(国立循環器病研究センター研究所長)が加わりました。消化器の研究室からは油谷浩幸先生(東京大学先端科学技術研究センターシニアリサーチフェロー)、金森博先生(東京クリニック院長)、後に和田洋一郎先生(東京大学アイソトープ総合センター教授)、児玉龍彦先生(東京大学名誉教授)が来られました。18研は梁山泊のようなところで、個性的でハードワーカーな先生たちが常に自由闊達な議論を交わし、大変刺激を受けました。18研では古い建物の奥まったところにある薄暗い内科講堂で定期的に合同のリサーチカンファレンスを行っていましたが、熱い議論の中で片桐先生はいつも鋭い質問をぶつけていました。寺内先生はコツコツと確実に自分の研究を進めていました。油谷先生は毎日椅子2つを並べてベッドにして夜な夜な研究され、朝行くとまだ実験を続けているのが当たり前の生活になっていました。児玉先生は動脈硬化の鍵になるスカベンジャー受容体の精製とクローニング 1)で世界をリードされましたが、18研に戻ってからも精力的に研究を進められました。一方で、児玉先生が帰国して研究室のメンバーに声をかけ、月の砂漠で有名な千葉の御宿まで家族連れの小旅行に出かけたことを昨日のことのように覚えています。 余談になりますが、現在、国際医療福祉大学教授をされている小室先生は私が研修医の時の指導医で、研修医時代夕方になると病棟に来られいつも患者さんの病態について深掘りする本質的で鋭い質問をされていました。そのような経験はとても貴重だったと思っています。
Q&A編はこちら はじめに 血清カルシウム(Ca)濃度は、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)と活性型ビタミンD(1α, 25-dihydroxyvitamin D:1,25〔OH〕2D)の2つのホルモンによって調節されている。血清Ca濃度が低下すると副甲状腺からPTHが分泌され、骨吸収の促進、腎遠位尿細管での1,25(OH)2Dとの協調作用によるCa再吸収の亢進、腎近位尿細管での1,25(OH)2D産生促進を介した腸管Ca吸収の亢進により血清Ca濃度を上昇させる。1,25(OH)2D産生の最も強力な因子はPTHであるが、低Ca血症などでも促進され、1,25(OH)2Dによるフィードバックも受ける。これらのホルモン作用が過剰になると高Ca血症を、不足すると低Ca血症をきたす。血清Ca値が急激に変動した場合は臨床症状を伴いやすいが、慢性的な変化では症状に乏しいことが多い。本稿では、症候性の高Ca血症と低Ca血症の症例に基づいて、初期対応と診断アプローチについて概説する。 1.症例:70歳女性 数日前から全身倦怠感と食思不振を訴えていた。意識混濁がみられたため救急搬送となった。頭部CTでは、意識障害の原因となり得る明らかな所見を認めなかった。身体所見では皮膚ツルゴールの低下を認めた。来院時の血液検査では、血清Ca 14.2mg/dL、血清アルブミン(Alb)3.6g/dL、尿素窒素(BUN)25.7mg/dL、クレアチニン(Cr)1.30mg/dL、推算糸球体濾過量(eGFR)29.9mL/min/1.73m2、尿酸(UA)9.0mg/dL、血清リン(P)4.3mg/dLであった。 1)高Ca血症に対する初期対応 1) 低アルブミン血症が存在する場合、血清Ca値は下記のように補正Ca値を算出して評価する。 補正Ca濃度(mg/dL)=血清Ca濃度(mg/dL)+(4-血清アルブミン濃度〔g/dL〕) 補正Ca 10.5mg/dL以上で高Ca血症と診断する。本例の補正Ca値は14.6mg/dLである。高Ca血症の判明時点では、すでに初期対応として細胞外液による点滴が開始されている状況と思われる。高Ca血症では、ほぼ例外なく著明な脱水を認めるため、速やかに輸液速度を速める。循環血漿量の回復と尿中Ca排泄の促進を図るため、細胞外液を少なくとも2~3L/日補液する。また、尿量が確保されていることを確認するため尿道カテーテル留置などを行い、尿量測定を速やかに開始する。大量補液への忍容性については、心臓超音波検査による心機能評価も併せて実施したい。 2)高Ca血症の臨床症状(図1) 高Ca血症の症状としては、全身倦怠感や食思不振・便秘、悪心・嘔吐、脱水、易疲労感などの非特異的なものが多い。しかし、本例のような高度の高Ca血症や血清Ca値が急速に上昇した場合は、傾眠や昏睡などの意識障害を呈することがある。また、脱水による腎前性腎機能障害はさらなる高Ca血症を助長することになる。尿路結石などの合併は慢性的な高Ca血症を示唆する。
はじめに SGLT2(sodium-glucose co-transporter 2;ナトリウム・グルコース共輸送体2)阻害薬は、新しい機序を持つ経口血糖降下薬として本邦では2014年に発売された。2014年4月に発売されたイプラグリフロジンを筆頭に、その後ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジンなどが相次いで発売され、2025年11月時点では6成分が使用されている。当初は糖尿病治療薬として使用されていたが、一部の薬剤で慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)や慢性心不全に対する適応が追加された。今日では糖尿病内科のみならず、循環器内科、腎臓内科、一般内科など幅広い診療科から多くの患者に処方される薬剤となっている。 一方で、本剤は有害事象としてケトーシス、ケトアシドーシスが知られており、使用には注意を要する。古典的なケトアシドーシスとは異なり、血糖値が正常範囲、もしくは軽度高値にとどまる正常血糖糖尿病ケトアシドーシス(euglycemic diabetic ketoacidosis:euDKA)となることが多い。著しい高血糖を伴わないために発見しづらく、治療介入が遅れることが危惧される。本稿では、euDKA、ケトーシスの概要、早期発見、治療などについて概説する。 1.SGLT2阻害薬の作用の概要 本剤の血糖降下作用における主な機序は、腎臓のSGLT2を選択的に阻害することに加え、尿糖排泄を増加させることである。 近位尿細管には曲部にSGLT2が、直部にSGLT1が存在し、糸球体で濾過されたグルコースやナトリウムの再吸収に関与しており、そのうち90%程度をSGLT2が担っている 1)。SGLT2の阻害によりグルコースの再吸収が抑制され、尿中グルコース排泄量の増加、浸透圧利尿が起きる 2)。また、Na+/H+交換輸送体3(NHE3)の阻害によるNa+利尿作用や、遠位尿細管へのNa+到達量が増加して糸球体輸入細動脈の収縮による糸球体過剰濾過の是正といった作用もある 1)。さらにインスリン抵抗性改善など、多面的な作用が指摘されている 1)。 グルコース排泄量については、各薬剤のインタビューフォームによるとおおむね60~100g/日前後とされている。
はじめに 近年多くの糖尿病治療薬が登場し、血糖マネジメントの改善のみならず、心血管イベントや腎症といった合併症の発症や進展の抑制が期待されるようになった。しかし、糖尿病は生涯にわたり治療を続けなければならない。血糖値が改善しても、「疲れやすい」「やる気が出ない」といった自覚症状のために、生活習慣改善を基本とする糖尿病治療の継続が困難となる場合は少なくない。自覚症状への対応として漢方医学、中でも疲労感に対して補ほ中ちゅう益えっ気き湯とうの役割が期待される。 1.なぜいま漢方なのか 糖尿病治療の目標は、血糖、血圧、脂質代謝の良好なコントロール状態と適正体重の維持、および禁煙の遵守を行うことにより、糖尿病の合併症の発症、進展を阻止し、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(QOL)の実現を目指すことである。近年の薬物治療の進歩により、血糖マネジメントの改善や、合併症の発症抑制など、到達度は改善しているが、治療の基本が食事・運動といった生活習慣の改善であり、自己管理行動の継続は容易ではない。治療の複雑化や「頑張らなければならない」という心理的負担が、患者の生活を圧迫している場面も散見される。医療者は患者に寄り添って歩み、自己管理行動の継続のために援助していくことが必要である 1)。そのためには常に患者の訴え、日常生活における疲労感、意欲低下、体力低下といった自覚症状に対して真摯に対応することが肝要である。 漢方医学では、西洋医学のように「病名」を診断するのではなく、患者が訴える症状に対して、陰陽・虚実・表裏・寒熱・気血水・六病位・五臓などの独自のものさしで治療の目標となる病的状態のパターン、つまり「証」として捉える点に特徴がある。従って西洋医学的には問題がない病状における、疲れやすい、冷えやすい、食後に眠くなる、風邪をひきやすいといった症状に対しても、対応可能となるのである。こうして漢方医学を、標準的な西洋医学的治療に取り入れることで、患者の治療意欲を高めることを少ながらず経験する。中でも補中益気湯は、糖尿病のある人にしばしば併存する「気虚」による疲れやすい、消化吸収機能の低下などの症状に、また高齢者糖尿病のサルコペニアや便通異常、易感染性や回復力低下に対しても臨床現場で使いやすい補剤である。
はじめに 1973年、遠藤章博士が青カビ(Penicillium citrinum)の培養液からスタチンの原型となるML-236B(コンパクチン)を発見した。そしてこの発見が、1989年、平成元年世界的に画期的な高コレステロール血症治療薬のプラバスタチン(メバロチン®)につながった。これ以来、LDLコレステロール(LDL-C)値を安全に容易に約20%低下させることが可能になった。その後、strong statin(強力なスタチン)が、2016年には抗体薬のエボロクマブ(レパーサ®)が登場し、さらに2020年に欧州で、2023年にはわが国で、画期的な(innovativeな)siRNAである核酸医薬品のインクリシラン(レクビオ®)が登場し、LDL-C値をベースラインから約50%以上の低下維持が容易になった 1)。しかしながら、虚血性心疾患の発症は明らかに低下したが、わが国において、LDL・酸化LDL仮説(図1)に基づき上記の薬剤の発展がなされたにもかかわらず、平成から令和と約35年経過し、「心疾患(高血圧性を除く)」による死亡数の低下が認められないとの結果である。それどころか、コロナ感染後急増している(図2)。致死的不整脈や心不全にも目を向ける必要もあるが、本稿では「心疾患」による死亡率の低下が認められない理由として、スタチン不耐に注目し、わが国で策定された『スタチン不耐に関する診療指針2018』 2)を中心に解説して述べる。 図1 LDL・酸化LDL仮説 LDL・酸化LDL仮説に基づく動脈硬化と内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)型動脈硬化とでは関与するリポ蛋白が異なる。 図2 わが国の死因別死亡数(厚生労働省: 人口動態調査、人口動態統計の概況より) 1.LDL-C管理達成率の低さの理由 「心疾患」による死亡率の低下が認められない理由として、LDL-C管理達成率の低さにあることも考えられる。達成率を上げ死亡率を低下させるため、わが国では過去ガイドラインが何度か2002年以来5年ごとに改訂が繰り返されてきた。しかしながら、改訂がなされるたびに、LDL-C管理達成率の低さがいつも大きな課題となっている。その背後にある理由として、スタチン不耐 3)、スタチン感受性(薬剤トランスポータなど)、他薬剤併用スタチン薬物動態、LDL-C測定分析、医師の動脈硬化への認識(捉え方)の違いなどを問題とする必要がある 4)。その中でも、スタチン不耐問題は深刻である。スタチン不耐患者の冠動脈CT所見は著しく重症である。速やかに対処しないと突然死する場合が多く、海外ではスタチン不耐患者の頻度は10~30%と高い。わが国では『スタチン不耐に関する診療指針2018』 2)による診断に当てはまらないスタチン服用困難者が多く、スタチン以外の代替薬の開発が急務とされてきた。ようやく、2025年11月にベンペド酸 5, 6)(ATPクエン酸リアーゼ阻害薬、ネクセトール®)が薬価収載された。この薬剤は低分子医薬品で比較的安価であるため、PCSK9抗体薬の次の一手として注目されている 7)。
Q&A編はこちら はじめに 糖尿病診療では「血糖を下げること」だけでは患者の生活は守れない。特にフレイル・サルコペニアを合併すると、転倒・骨折、入退院の反復、認知・抑うつ、服薬自己管理の破綻などが連鎖し、結果として血糖も不安定になりやすくなる。高齢糖尿病では、栄養・運動・薬物療法を“機能(歩く、立つ、外出する、買い物する)の回復”という共通目的に束ね、医師と医療スタッフが同じ地図を見ながら支援することが重要である。糖尿病管理を「代謝」と「機能」の二軸で捉え直すことが、多職種連携の出発点になる 1)。 1.フレイル・サルコペニアと糖尿病の関わり フレイルは、加齢に伴う脆弱性が高まった状態で、代表的には①体重減少、②易疲労感、③筋力低下、④歩行速度低下、⑤身体活動量低下のうち3項目以上で定義される(Friedの表現型モデル) 2)。一方、サルコペニアは筋量および筋力の低下を伴う病態として整理され、アジアではAWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)の基準が臨床でよく用いられる 3)。 糖尿病がこれらを促進する背景には、(1)高血糖による筋蛋白分解・脱水・倦怠感、(2)インスリン抵抗性と慢性炎症、(3)合併症(神経障害、腎症、心不全、視力低下)による活動制限、(4)食欲低下や低栄養、(5)低血糖への恐怖による「動かない」選択、などが重なる。つまり、フレイル・サルコペニアは“血糖悪化の結果”であると同時に、“血糖悪化の原因”にもなる。ここを読み違えると、食事制限のみで対処して体重・筋力をさらに落とす、という悪循環に陥る。高齢糖尿病の診療では、機能評価と生活背景評価を定期的に組み込み、低栄養・サルコペニア・フレイルを治療ターゲットに含めるべきだ、という考え方が近年いっそう明確になっている 1)。
はじめに 肥満が健康に及ぼす悪影響は広く認識されているが、「やせ」(低体重)が引き起こす健康問題については十分に認知されていない。特に、日本の若年女性におけるやせの割合は先進国の中でも突出して高く、深刻な健康課題となっている。本稿では、日本のやせの現状とそのリスク、さらに2025年に日本肥満学会が提唱した新たな疾患概念である女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)について概説する。 1.日本のやせの現状とやせのリスク 令和5年の国民健康・栄養調査によると、20〜30歳代女性における低体重(BMI 18.5kg/m2未満)の割合は20.2%に達し、過去10年で最も高い水準となった 1)。経済協力開発機構(OECD)加盟国との比較においても、日本の成人女性のやせの割合は欧米諸国(約5%)や韓国(約8%)を大きく上回る(図1) 2)。この背景には「やせ=美しい」という価値観の浸透があり、普通体重の女性の過半数が自身を「太っている」と認識しダイエットを行っている実態がある。 低体重や低栄養状態は多様な健康障害と関連する。具体的には、低骨密度による将来の骨粗鬆症リスク、視床下部性無月経や希発月経などの月経異常、耐糖能異常、鉄欠乏性貧血、筋肉量低下などが挙げられる。われわれの研究では、やせた若年女性における耐糖能異常の発現率は標準体重女性の約7倍であり、米国の肥満者における発現率をも上回ることが明らかとなっている 3)。また、妊娠期における母体の低栄養は低出生体重児のリスクを高め、出生児の将来の糖尿病リスクにも影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、これらのリスクの認知率は決して高くなく、そのため強いやせ願望ややせ傾向が続いていると考えられる。近年、体重減少効果を有する糖尿病治療薬が、自由診療において標準体重の女性へ不適切に使用される事例が拡大しており、社会的な課題として懸念されている。
はじめに カピバセルチブ(商品名:トルカプ®)は世界初の経口AKT阻害薬であり、わが国では乳がんに対して2024年3月に承認、同年5月から発売されている。AKT阻害により腫瘍細胞の増殖シグナルを遮断することで抗腫瘍効果を発揮する。一方、AKTはインスリンシグナル伝達経路の重要分子でもあるため、カピバセルチブによる“on target”な有害事象として高血糖や糖尿病ケトアシドーシス(DKA)の発症が知られている。2024年11月に国内でDKAによる死亡例が報告されたことを受け、日本糖尿病学会では2025年4月15日付けで「AKT阻害薬カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起」を発出した 1)。 1.カピバセルチブの適応と作用機序 カピバセルチブの適応症は「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌」である。閉経後ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移・再発乳癌に対しては、通常、内分泌療法としてアロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)の併用療法が行われる。しかし、しばしば耐性を生じることがあり、その機序として腫瘍細胞の遺伝子変異によるPI3K-AKT-PTEN経路の活性化が知られている。カピバセルチブはAKT1/2/3の全てのアイソフォームを阻害し、本経路を抑制する。CAPItello-291試験において、カピバセルチブと選択的エストロゲン受容体抑制薬フルベストラントの併用療法は、フルベストラント単剤に対して病勢進行または死亡のリスクを50%低下させた(ハザード比:0.50、95%信頼区間:0.38~0.65、p<0.001、無増悪生存期間中央値:7.3カ月 vs. 3.1カ月) 2)。
はじめに ソマトスタチン誘導体は先端巨大症、クッシング病、消化管ホルモン産生腫瘍など種々の腫瘍性疾患の薬物療法に用いられている。現在、わが国ではオクトレオチド、ランレオチド、パシレオチドの3種類のソマトスタチン誘導体製剤が承認されている。まれではあるが、本剤では有害事象として高度徐脈が生じることが知られている。本稿ではその頻度、徐脈が誘発されるメカニズム、臨床現場での対応法などについて概説する。 1.ソマトスタチンとその受容体 ソマトスタチンは視床下部、膵臓のランゲルハンス島D細胞、消化管などから分泌され、成長ホルモン(Growth Hormone:GH)、甲状腺刺激ホルモン(Thyroid Stimulating Hormone:TSH)のほか、インスリン、グルカゴン、ガストリン、セクレチンなどの消化管ホルモンの分泌を抑制する作用がある 1)。ソマトスタチンは環状のペプチドホルモンであり、1970年代にウシの視床下部抽出物からまず14個のアミノ酸よりなるSST-14が単離され、その後、28個のアミノ酸からなるSST-28も同定された 2)。SST-28はSST-14のN端にさらに14個のアミノ酸鎖を延長した形態をとっている。ヒトのソマトスタチン遺伝子はひとつしかなく、これらSST-14, 28はいずれも単一遺伝子に由来するプロソマトスタチンから切り出されて生成される。 ソマトスタチン受容体には、SSTR 1からSSTR 5までの5種類のサブタイプがある(表1) 3, 4)。これらはいずれもGタンパク質共役型受容体(G-protein-coupled receptor)に属し、それぞれ異なる染色体上の遺伝子によってコードされている。ソマトスタチン受容体は全身に広く分布しており、前述した種々のホルモンの分泌抑制のみでなく、消化管では腸管運動や胆のう収縮の抑制、外分泌機能の抑制にもかかわっている。ヒトの内分泌組織においてはSSTR 2, 5が優位に発現している。
ポイント 腎機能と高尿酸血症は相関がある。 尿酸降下薬の慢性腎臓病(CKD)への介入はこれまでのところ、腎アウトカムをエンドポイントとした場合にはポジティブな結果は出ていなかった。 推定糸球体濾過(eGFR)スロープをエンドポイントとみると、効果がある可能性が示唆されてきた。 他の標準治療の上乗せとして尿酸降下薬を試みることが推奨される。 1.総論 1)尿酸の基本 食事由来のプリン体と体内の核酸に由来するプリン体は、尿酸の主な供給源であり、腎臓から約70%、腸管から約30%排泄される。尿酸が過剰となった場合には、痛風発作と呼ばれる関節内への尿酸塩結晶の析出による炎症、皮下や関節に尿酸結晶が溜まった尿酸結節、尿路結石をつくる場合や、ミクロに腎臓の髄質に沈着し痛風腎をきたすなど、臨床上のさまざまな問題を起こすことが知られている。 腎臓は尿酸のハンドリングの要であり、URAT1の機能低下による腎性低尿酸血症1型、GLUT9の機能低下による腎性低尿酸血症2型が存在することが知られ、運動後急性腎障害や尿路結石との関連が示唆されている。最近では、OAT10が尿酸の再吸収にかかわることが明らかになりつつある。 2)高尿酸血症と代謝疾患 ヒポクラテスの時代から痛風があったと言う記載が散見されるものの、厳密な引用文献は記載されていないことが多い。本邦においては野口英世の手を治療した近藤次繁が『日本外科學會雑誌』32巻4号712頁(昭和6年7月)に“痛風性關節炎は本邦に於ては稀なる疾患にして明治三十一年濱田の報告以來僅に十例を出す。三十四歳の製糸工場の監督、十年前より右側第1趾の趾間關節に來る腫性腫脹あり、時には肢體全體に疼痛を覚えたり、昭和五年六月に至り患部自潰して中より膿様のもの排出し其中に白堊様のもの認めたりとて之を入院せしめ、切除によりて得たる標本を供覧せり”とある。これより前に、宣教師のルイス・フロイスが『日本史』に「日本には痛風が少ない」と記載している、と川崎桃太著『フロイスの見た戦国日本』(2003年、中央公論新社)にある。 さて、臨床上は心血管死とのリスク、高血圧やメタボリック症候群と尿酸の関係が示されており、CKDにおいても「CKDの発症」、「アルブミン尿の発生」などが示されている。 3)高尿酸血症への介入 上記のことから高尿酸血症が代謝性疾患であることは明白であるにもかかわらず、腎臓に関して行われたさまざまな介入試験では、有意な結果を出すことができなかった。 『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』においてはCQ5-1 保存期CKD患者に尿酸低下療法は推奨されるか?【推奨】高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法は腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい【2C】。となっている。 『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』においてはCQ2 腎障害を有する高尿酸血症の患者に対して、尿酸降下薬は非投薬に比して推奨できるか?→腎障害を有する高尿酸血症の患者に対して、腎機能低下を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることを条件つきで推奨する。であったものの、同ガイドライン(第3版)の治療アルゴリズムにおいては、「腎障害合併例では尿酸降下薬として原則として尿酸生成抑制薬を使用する」と、強い推奨になっている。なぜこのようになったのか。
はじめに 下垂体は、原始口腔外胚葉より生じる前葉(腺性下垂体)と、第三脳室漏斗部より生じる後葉(神経性下垂体)、漏斗部などから構成される内分泌器官である。下垂体前葉には、各種の下垂体前葉ホルモンを産生分泌する細胞と濾胞星状細胞が存在する。下垂体前葉では、成長ホルモン(growth hormone:GH)、乳汁分泌刺激ホルモン・プロラクチン(prolactin:PRL)、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)、性腺刺激ホルモン・ゴナドトロピン(gonadotropin)、卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone:FSH)および黄体形成ホルモン(luteinizing hormone:LH)が産生分泌される。視床下部では、これらの前葉ホルモンの産生・分泌促進ないしは抑制因子が産生され、これら視床下部ホルモンは下垂体門脈系に放出され下垂体前葉に到達する。下垂体後葉からは、抗利尿ホルモン(バソプレシン、antidiuretic hormone:ADH)、オキシトシンが分泌される。本稿では、これら下垂体前葉・後葉について概説する。 1.視床下部・下垂体・標的器官 下垂体前葉ホルモンとそれらを制御する視床下部ホルモン、分泌刺激因子・抑制因子、臨床症状(過剰症・欠損症)についてその概要を表1に提示する。下垂体ホルモンは、視床下部ホルモンと標的器官ホルモンとのポジティブないしネガティブフィードバックを受けているため、下垂体ホルモンとともに標的器官ホルモンを測定する必要がある。また、下垂体ホルモンは、年齢・性・睡眠・妊娠・日内変動などさまざまな生理的因子によりその値が変動する。 表1 視床下部・下垂体・標的器官の概要 画像をクリックすると拡大します 表1 視床下部・下垂体・標的器官の概要 $(".r08_0024_h1").modaal(); 1)下垂体機能異常に対する基本的な考え方 臨床症状は、通常、標的器官のホルモンの過不足によるものであるがゆえに、その原因が視床下部-下垂体-標的器官のいずれにあるか特定する必要がある。下垂体に異常がある場合には、1つの視床下部-下垂体-標的器官の系統の異常にとどまることはむしろ少なく、同時に複数の系統にも異常がみられることが多い。これらの下垂体機能低下症または亢進症を確実に診断するには、個々の視床下部-下垂体-標的器官を別々に検査し評価することが大切である。下垂体機能亢進症は多くの場合、特定の下垂体前葉ホルモンを産生する下垂体神経内分泌腫瘍(pituitary neuroendocrine tumor:PitNET)により発症するが、時に多ホルモン産生性であるので注意が必要である。 2)下垂体前葉ホルモンの分泌刺激試験と抑制試験 1) 各下垂体前葉ホルモンに対する主な分泌刺激試験・抑制試験は表1に示した通りである。ホルモン分泌過剰症状を示す機能性PitNETでは、自律性にホルモンを産生するため視床下部-下垂体-標的器官のネガティブフィードバック機構が作用せず、分泌抑制試験でホルモンの分泌が抑制されないことが多いが、例外も存在することに注意が必要である。また、下垂体機能低下症では、分泌刺激試験を行っても反応が低下ないしは廃絶していることが多い。 3)視床下部機能に対する評価 視床下部ホルモンの末梢血での濃度は極めて低いのが通常である。その測定の意義は異所性視床下部ホルモン産生腫瘍(代表例は成長ホルモン放出ホルモン〔growth hormone releasing hormone:GHRH〕産生腫瘍)に限られる。下垂体ホルモンのパルス状分泌の消失、高PRL血症は、視床下部障害を示唆する。標的器官ホルモンを介するネガティブフィードバックに基づく分泌刺激ないしは抑制試験は、通常、視床下部-下垂体を同時に評価していることになる。下垂体のみを刺激する、視床下部ホルモンに相当する放出ホルモンによる刺激試験を行い、下垂体の機能を把握することにより、間接的に視床下部機能を推測することができる。
はじめに 骨粗鬆症は、骨量の減少と骨組織の微細構造の劣化を特徴とし、骨折リスクの上昇を招く疾患である。骨粗鬆症治療において、ビスホスホネート(BP)製剤やデノスマブなどの骨吸収抑制薬は、脆弱性骨折のリスクを有意に低下させる主要な治療薬として確立されている 1)。しかし、これらの薬剤の長期使用に伴い、まれではあるが重篤な副作用として、顎骨壊死や非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture:AFF)のリスク上昇が報告されるようになり、臨床現場での懸念材料となっている 2)。AFFは、大腿骨転子下または骨幹部に生じる特異な骨折であり、軽微な外力あるいは外傷なしに発生する。その発生率は低いものの、BP製剤の使用期間が長くなるにつれてリスクが増大することが疫学的に示されている。一方で、遺伝性代謝性骨疾患である低ホスファターゼ症(hypophosphatasia:HPP)においても、AFFに類似した骨折が生じることが明らかになってきた 3)。HPPはアルカリホスファターゼ(ALP)の欠損や活性低下を特徴とする疾患であり、骨石灰化障害を呈する。近年、成人のHPP患者が骨粗鬆症と診断され、BP製剤の投与を受けた結果、病態が悪化したりAFFが誘発されたりするケースが報告されている 4)。 1.非定型大腿骨骨折(AFF)の疫学とリスク因子 1)AFFの定義と特徴 AFFは、大腿骨の転子下から顆上部にかけての骨幹部に発生する骨折で、その特徴として、外傷が軽微であること、骨折線が横走または短斜走であること、外側皮質の肥厚(beaking)を伴うことなどが挙げられる 5)(図1)。完全骨折に至る前に、大腿や鼠径部の疼痛(前駆症状)を訴えることが多く、両側性に発生する傾向がある。 図1 71歳女性の左大腿骨非定型骨折(自験例) 2)骨吸収抑制薬との関連 BP製剤の長期使用はAFFのリスク因子である。疫学データによると、AFFの年齢調整罹患率は、BP使用期間が2年未満では10万人年あたり1.8人であるが、8年以上の使用では113人に上昇すると推定されている 6)。デノスマブについても、BP製剤ほどの蓄積データはないものの、使用患者におけるAFFの報告が散見される。AFFの発生メカニズムとしては、強力な骨吸収抑制により骨リモデリングが過度に抑制され(frozen bone)、微細損傷(microdamage)の修復が妨げられて蓄積することが想定されている。
はじめに 内分泌臓器である副腎は、ステロイドホルモンを産生する「皮質」と、エピネフリンに代表されるカテコールアミンを産生する「髄質」に分かれる。皮質は外側よりアルドステロン(鉱質コルチコイド;mineralocorticoid:MC)を産生する球状層、コルチゾール(糖質コルチコイド;glucocorticoid:GC)を産生する束状層、DHEA(dehydroepiandrosterone)などの副腎アンドロゲンを産生する網状層からなる。これらのホルモンのうち、その分泌不全が低血糖の出現と関連するコルチゾール、エピネフリンについて概説する。救急医療の現場で低血糖を認めた際には、鑑別診断のひとつとして、コルチゾールの低下によって引き起こされる副腎不全症があることを想起することが重要である。 1.血糖とエピネフリンの関係 血糖を低下させるホルモンはインスリンのみであるが、血糖を上昇させるホルモンには、カテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン)、コルチゾール、成長ホルモン、グルカゴンがあり、いずれも低血糖に対する防御ホルモンとして作用している。低血糖時には、まずエピネフリンとグルカゴンが分泌され、やや遅れて、コルチゾールと成長ホルモンが分泌される(図1) 1)。 副腎髄質から分泌されるエピネフリンは肝臓において、グリコーゲンの分解と糖新生を促すことで肝臓からグルコースを放出させ、血糖を上昇させる。末梢では、主に脂肪組織における脂肪分解と骨格筋におけるインスリン拮抗作用により血糖を上昇させ、血糖の恒常性維持に寄与している。一方、急激な低血糖の出現時には、最初の防御反応として副腎髄質からエピネフリンが放出されるが、同時にエピネフリンの急激かつ過剰な分泌は、低血糖症状として振戦、動悸、発汗、不安などの諸症状を引き起こす(図1) 1)。 副腎皮質から出るコルチゾールは、皮質から髄質への血流を介して、髄質のエピネフリン合成酵素のフェニルエタノールアミンN-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)活性を刺激することで、エピネフリンの合成を高める方向に作用している(図2)。そのため、後述の副腎皮質機能低下症(副腎不全症)では、コルチゾールの分泌低下による低血糖に加えて、エピネフリンの合成、分泌低下も低血糖の発現を助長する。特に、原発性副腎不全症の成因が結核性の場合には、副腎髄質そのものが結核組織で破壊されている場合があり、より顕著に副腎髄質からのエピネフリン分泌が低下していることが知られている 2)。
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