後に第35代アメリカ合衆国大統領となるジョン・フィッツジェラルド・ケネディ(図)は、1917年5月29日ブルックリンに生まれた。曽祖父がアイルランドからアメリカに移民し、祖父のパトリック・ジョセフ・ケネディが実業家、政治家として成功したため裕福な家庭であった。ジョンは次男であっため長男ほどの大騒ぎはされなかったが、誕生がボストンの新聞にお披露目された 1, 2)。ケネディは幼少期に気管支炎、水疱瘡、風疹、麻疹、おたふく風邪、猩紅熱、百日咳にかかり、ベッドでの生活が長かった。3歳前にかかった猩紅熱は重篤で2カ月の入院と2週間の療養を要した 2)。10代になっても病気がちで、チョート校に入学後も風邪などで入退院を繰り返している 1)。
はじめに 糖尿病治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(quality of life:QOL)を保つことである。そのためにはさまざまな合併症の予防が重要であり、これを実現するためには、血糖のみならず、血圧や脂質なども含めた統合的な治療が求められる。近年では加えて、糖尿病で認めることの多い併存症にも配慮する必要性が指摘されており 1)、骨粗鬆症や骨折もその中に含めて捉えるべきと考えられる。 本稿では糖尿病と骨粗鬆症・骨折の関連について概説するとともに、われわれが進めてきた臨床試験のサブ解析の結果を紹介しながら、日常臨床においてどのようにアプローチをすべきか考えていきたい。
前編 医師の立場から Q&A編はこちら はじめに 糖尿病の合併症が進行した患者の足病変は、チーム医療なくしては下肢切断を回避できない。順天堂医院「足の疾患センター」のような多職種が参加したチーム医療で関わることが望ましいが、多職種でのチーム医療を単一の医療機関で実施できない施設もあると思われる。特に足病変発生リスクが高い透析病院においては、他の医療機関と連携することが必須だと思われる。これは筆者の所属する大学病院においても例外ではなく、足病変予防期間、治療後の再発予防期間の管理をする医療機関なくしては足病医療の実施は不可能であり、医療機関を超えたチーム医療が必要となる。日本の医療制度は病院の機能分化を推進しており、地域全体でチーム医療を行っていくという考え方が必要だと思われる 1)。
はじめに 1991年にコペンハーゲンで開催された骨粗鬆症のコンセンサス会議にて、骨粗鬆症は「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患」と定義された 1)。遺伝的素因、生活環境、閉経および加齢以外に明らかな原因疾患を特定できない骨粗鬆症を「原発性骨粗鬆症」と診断するのに対し、骨量や骨質の低下を来す背景疾患を認める病態を「続発性骨粗鬆症」と区別する。一般的に続発性骨粗鬆症を来す病態では、骨形成と骨吸収のバランスが破綻し、骨密度の明らかな低下がなくても骨質の劣化により骨折リスクは上昇していることが多い。骨粗鬆症の患者の中で、閉経後女性の30%、男性の50~80%が続発性骨粗鬆症と推定されるが、続発性骨粗鬆症の管理における原則は、原疾患の治療と原因薬物の減量ないしは中止である。そのため、適切なマネジメントを行う上で病態の評価は不可欠である。
後編 医療スタッフの立場から はじめに 糖尿病の足病変は、無症候性から不可避的な切断を伴う致命的な難治性潰瘍までさまざまである。主な病因は虚血、神経障害、および感染症であり、外傷、末梢浮腫、足の変形が加わると、糖尿病性足潰瘍の切断のリスクがさらに高まる可能性がある。単一診療科では治療困難であり、多職種、複数科がそれぞれの専門の知識を統合し、足病変から生じる症状を一つずつ順番に管理・解決して、予防から治療までチームで取り組む必要がある 1)。
はじめに 骨粗鬆症は骨強度の低下により脆弱性骨折を来す症候群である。一般に骨強度は約70%が骨密度で、残りの約30%が骨質で規定されると考えられている。原発性骨粗鬆症は加齢依存性の疾患であり、高齢者に多い。どのようにして加齢が骨密度低下および骨質劣化をもたらすのか?本稿では主に内分泌代謝の視点からその病態を概説する。
骨粗鬆症は高齢者の骨折の原因である。一方で、適切に骨粗鬆症を治療することにより骨折を減らせることが実証されている。高齢者の骨折予防は喫緊の社会的課題であり、医療の最前線を担う多くの内科医が果たすべき役割は大きい。内科医は生活習慣への介入と薬物療法を中心にして治療にあたることから、疾患を病態から診ることが習慣となっている。そのため、骨粗鬆症の診療にあたっても、その病態をしっかりと理解することによって、初めて、自信を持って骨折予防という目的を見据えた治療に臨むことができる。しかしながら、骨折予防は薬剤による骨粗鬆症治療で完結するものではなく、骨に大きな外力が及ぶことを予防することも必要である。そのためには、適切な運動および食事の指導による転倒予防やフレイル対策など、非薬物療法が重要である。さらに、薬物療法は長期にわたって継続して初めて骨折予防が可能となることから、治療を継続するための患者支援も必要となる。これらの対応は、糖尿病をはじめとする生活習慣病を診療する内分泌代謝・糖尿病内科医が日々実践しているものであり、そのような診療姿勢を骨粗鬆症診療にも適用することに障壁はないと思われる。 このような背景から、本特集は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの読者に向けた、骨粗鬆症診療のエッセンスを網羅した内容になっている。治療を必要とする患者のスクリーニング、内分泌代謝の視点からみた病態、多くの内分泌疾患や糖尿病と骨粗鬆症との関係について、各々の領域の第一人者に解説していただいている。さらに、薬物療法の考え方や集学的治療、そして骨粗鬆症治療の支援に至るまで幅広い内容を網羅している。本特集は、これまで骨粗鬆症に馴染みの薄かった医師にとってはもちろんのこと、ある程度日々の診療で対応していた医師にとっても、明日からの骨粗鬆症診療の実践の糧となる充実した内容となっているものと確信している。多忙な中、労を惜しまず充実した論文を執筆していただいた筆者の皆様に感謝するとともに、読者の皆様の診療に活用していただけることを願って止まない。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System制度(DPC/PDPS:1日当たりの包括評価制度)は、2003年に82の特定機能病院を対象に導入された、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度であり、DPCは「診断群分類」を、PDPSは「1日ごとの支払い方式」を意味し「包括医療費支払い制度」とも呼ばれている 1)。その後、2年ごとの診療報酬改定時には対象病院は段階的に拡大され、2022年の診療報酬改定時には対象病院1,764病院483,425床、準備病院259病院22,464床となり 2)、急性期一般入院基本料などに該当する病床の約85%を占める 3)。そして2022年においてもDPC/PDPSが改定されている。 よって今回は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの第1回(通算64回)連載のテーマとしてDPC/PDPSを選び、2022年の診断群分類点数表や定義テーブルなどの改定内容に基づき、制度の基本的概要および糖尿病に係るDPC/PDPSについて概説する。
正直に告白しよう。もう、かれこれ1年ほどサイクリングをしていない。最後にロードバイクに跨がったのは、2021年11月14日に立川の国営昭和記念公園を往復した84kmの行程である。自転車通勤に至っては、同年11月4日が最後になっている。
はじめに 世界保健機関(WHO)から「Adherence to long-term therapies : evidence for action」という報告書 1)が発せられ、特に慢性疾患における服薬アドヒアランスの重要性が強調されてから20年もの月日が経過した。この間に経口血糖降下薬は9つの薬効群にまで増え、さらには糖尿病治療薬においてもOD錠や配合錠などが登場し、治療選択肢が格段に増えた。しかしながら、長期にわたる日々の治療の主体は患者であり、医学的に適切な薬剤が処方されたとしても、適切な服薬が遂行されなければ、期待される効果は得られにくくなる。したがって、服薬アドヒアランスは薬物治療の土台として重要な要素である。服薬アドヒアランスは患者だけにその責任が押し付けられるものではなく、医療者とともに作り上げるべきものであり、医療者の関わり方や工夫でその方向性がいかようにも変わり得る可能性が多面的に示唆されている。なお、服薬アドヒアランスとは、患者自ら理解して積極的に薬物治療に参加することと定義されている。 2型糖尿病患者を対象に、服薬アドヒアランスとHbA1c値の関係を検討した海外の報告 2)によると、服薬アドヒアランス良好群は不良群と比較して、HbA1c値が1.3%有意に低値であったことは注目に値する。 服薬アドヒアランスが良くないことを服薬ノンアドヒアランスと呼ぶこともある。服薬ノンアドヒアランスは、副作用・費用・手間などに起因した自己判断による「意図的」なノンアドヒアランスと、服用の意思はあっても失念や多忙を理由とした「非意図的」なノンアドヒアランスに分類される 3, 4)こともあり、この考え方に基づいたアプローチも服薬アドヒアランスの改善において一助となる可能性がある。 図1のように、服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因を考える際には薬剤側、患者側、医療者側の3つに分けて考えられることが多いが 5)、各要因は相互に複雑に絡み合っていることも想定され、一つ一つひもときつつ、定期的・継続的な評価を繰り返すという地道な取り組みが必要になると考えている。本稿では服薬アドヒアランスに影響し得る要因のいくつかを紹介してみたい。
はじめに 2型糖尿病における腎機能障害は、スルホニル尿素(SU)薬による低血糖やビグアナイド薬による乳酸アシドーシスなど、経口血糖降下薬による臨床上重要な有害事象と関連が深い。薬剤により異なる、代謝および排泄における腎の寄与や、代謝物の血糖低下作用を理解することが、有害事象回避のために重要である。近年は、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下やアルブミン尿の抑制に効果のある薬剤の登場により、腎機能低下を有する2型糖尿病の治療は大きく変わりつつある。すなわち、腎機能の低下につれて選択肢が狭まっていく、という消極的な薬剤調整だけではなく、腎保護作用を期待しあえて選択する、という積極的な調整ができるようになった。本稿では、薬物代謝と糖代謝が腎機能低下によってどう変化するかについて述べ、腎機能低下時の薬剤選択における注意点、腎保護作用を持つ薬剤の現時点でのエビデンスについて概説する。
はじめに 2型糖尿病は心血管疾患のリスクファクターであり、実際に心血管疾患を発症することはまれなことではない。本稿では心血管疾患のある2型糖尿病患者に対して、どの糖尿病治療薬を使用すべきか検討したい。 近年、経口血糖降下薬が増え、多くの介入試験が施行されている。われわれは治療薬それぞれの持つ作用を理解するとともに、イベント抑制効果が十分に実証されているかどうかについても理解しておく必要がある。そして、特に心血管疾患のある2型糖尿病患者で注目したい薬剤がSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬であり、その2製剤を中心に概説する。また、糖尿病患者において低血糖がしばしば問題になるが、低血糖と心血管イベントとの関係についても触れておきたい。
はじめに 病院や診療所を受診する2型糖尿病患者の7割が65歳以上とされる現在、高齢者糖尿病診療の質の向上は重要なテーマである。高齢糖尿病患者の診療機会が著しく増加している状況を受けて、日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同委員会を設置し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表した。患者の特徴・健康状態に基づく「カテゴリー分類」と、「重症低血糖が危惧される薬剤」の使用有無の組み合わせによってHbA1cの目標値を個別に設定するコンセプトは、高齢者における薬物療法の効果や安全性が薬物の種類のみで決定されるのでなく、若年者以上にさまざまな要因による複合的な影響を受けることを反映している。
1.2型糖尿病と肥満の現状 日本における「国民健康・栄養調査 2019年」によると、HbA1c 6.5%以上または糖尿病の治療を受けていると答えた、「糖尿病が強く疑われる」人の割合は、男性 19.7%、女性 10.8%であった。前年度に比べ、男性で1.0ポイント、女性で1.5ポイント上昇し、2009年以降で最も高い数値を示した。また、肥満に関しても、体格指数(body mass index:BMI)が25kg/m2以上の肥満の割合は、男性で33.0%、女性で22.3%に上り、男性では2013年から有意に増加している。特に男性では40代(39.7%)、50代(39.2%)、と働き盛りとされる中高年世代の40%近くが肥満となっている 1)。
はじめに 2型糖尿病は、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全をその病態とする。一般に欧米人では前者が主体で、日本人を含むアジア人は両者が半々である 1)。病態に適した血糖降下薬を選択するのが理に適っているが、病態生理学には限界があることがあり、必ずしも理論・期待通りに糖尿病のアウトカムが改善するとは限らない。また、糖尿病は自覚症状が少ないので中断するケースが多く、最近では経済的理由で中断するケースが増加してきている現状 2)を鑑み、コストも無視できない 3)。 本稿では、糖尿病発症初期・糖尿病合併症のない場合を主体に、ビグアナイド薬(メトホルミン)を第一選択薬 4)として解説する。
Web版糖尿病・内分泌プラクティス(『糖尿病・内分泌プラクティスWeb』)の記念すべき劈頭を飾る特集として、今、まさしく百花繚乱ともいえる賑わいを見せている糖尿病の非インスリン療法に着目し、心置きなく縦横に企画を立案させていただいた。今回の特集では、糖尿病診療のいわば要石ともいえるこの領域を、絢爛無比な執筆陣によって多彩な観点から論考していただいている。まさに糖尿病診療の近未来を予見しうる企画となっているものと自負している。 本特集では、冒頭、能登 洋先生に、2型糖尿病において一般的に最初に勧められる薬剤をテーマに、2型糖尿病治療の現状から説き起こして主題へと肉薄し、結論を浮き彫りにしていただいた。次いで、加藤さやか先生と浅原哲子先生には、肥満を伴う糖尿病患者に対する薬剤の選択について、内外の知見を概観したうえで各薬剤の特徴について詳述していただいている。さらに、鈴木 亮先生には、高齢者糖尿病診療の注意点を高齢者の薬物動態の側面から論を進めつつ、各薬剤クラスの適応とシックデイにおける対応までへも敷衍していただいた。 後半では、まずは辻本哲郎先生に、心血管疾患のある2型糖尿病患者の治療法について、薬剤の作用機序とエビデンスの側面を中心に、要を得た解説を展開していただき、次いで、角谷佳則先生と繪本正憲先生には、腎機能低下時の薬剤選択について、腎保護作用を期待しうる積極的な方策を含めて、臨床の現場に則してご記載いただいている。最後に、藤井博之先生に、2型糖尿病における服薬アドヒアランスや、それを向上させる調剤手法なども含めて、薬剤師の立場から、日頃のご経験も踏まえて、糖尿病処方の問題点を具体的に描出していただいた。 本特集の執筆陣は、名実ともにその分野に専門性を有する方々であり、それぞれに糖尿病の経口血糖降下薬(非インスリン)療法に光を当てていただいた。ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、有用な知識の提供されている今回の解説群により、読者諸賢の理解が一段と深まり、それによって得られたものを臨床の現場にフィードバックしていただければ、特集の企画者としてこのうえない喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに インスリンは生体の糖代謝において、血糖降下作用や同化作用を持つ。膵ランゲルハンス島(膵島)の膵β細胞で合成され、分泌小胞に蓄えられたのちに血中へ分泌される。インスリンの分泌量は、短期的には日々の摂食に応じて変動し、血糖値(血漿グルコース濃度)の恒常性を保っている。より長期的には、肥満や妊娠をはじめとするインスリンが効きにくくなる状態で、分泌が慢性的に増強し、インスリン抵抗性を代償する。
1.ポイント ・糖尿病とがんには直接の相互関連性がある。・糖尿病では発がん・がん死のリスクが高まる。・一方、がん(特に膵臓がん)罹患に伴い糖尿病発症リスクも高まる。・がん患者が糖尿病を合併すると死亡リスクが高まる。・糖尿病を合併したがん患者の至適な血糖管理目標・治療法の確立が今後の課題である。
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