妊娠中の甲状腺疾患への対応
公開日:2024年8月14日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(4): 0061./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(4): 0061
https://doi.org/10.57554/2024-0061
https://doi.org/10.57554/2024-0061
はじめに
バセドウ病や慢性甲状腺炎に代表される甲状腺疾患は女性に多く、若年で診断される頻度が高い 1)。このため、内分泌疾患を診療する医師であれば、甲状腺疾患患者の妊娠に関連したマネージメントに携わる機会は多い。本稿では、代表的な甲状腺疾患であるバセドウ病、甲状腺機能低下症、甲状腺腫瘍について、妊娠前、妊娠中、産後のそれぞれの時期に注意すべきポイントについて概説する。
1.バセドウ病
バセドウ病は最も頻度の高い内分泌疾患の一つである。妊娠期間中にバセドウ病を新規に発症する症例も妊娠女性の0.05%に存在するが 2)、元々バセドウ病と診断されている症例が多く、妊娠に関連したマネージメントができるようにしておく。甲状腺ホルモンが高い状態で妊娠した場合、流産、早産、妊娠高血圧症候群などのリスクが上がる。バセドウ病の原因として知られるTSH受容体抗体(thyroid stimulating hormone receptor antibody:TRAb)や甲状腺刺激抗体(thyroid stimulating antibody:TSAb)は胎盤を通過するため、妊娠中の抗体価が高ければ胎児および新生児甲状腺機能亢進症を引き起こす。抗甲状腺薬の選択や調整を含め、バセドウ病合併妊娠の診療において以下の3点に特に注意する。
- 妊娠後の母胎合併症リスクが高い症例(未治療状態、高用量の抗甲状腺薬でコントロール不十分、TRAb抗体価が高いなど)を見極め、妊娠前から介入する(図1)。
- 妊娠5週から9週6日まではチアマゾールを中止する。チアマゾール関連奇形症候群について正しく認識し、適切な患者説明に努める。
- 産後の抗甲状腺薬の調整には、産後にバセドウ病の病勢が悪化すること、授乳を意識した抗甲状腺薬の投与量調整の2点を意識する。