骨粗鬆症治療薬の使い分け
https://doi.org/10.57554/2024-0089
はじめに
骨粗鬆症治療の目的は骨折を予防することである。骨折は健康寿命のみならず、生命予後を短縮させる。閉経後の原発性骨粗鬆症に加え、原発性副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、2型糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣に関連する疾患が骨粗鬆症の原因となるため、内分泌代謝内科は骨折予防の第一線を担うべき診療科といえる。骨粗鬆症治療薬として、従来から用いられてきた骨吸収抑制薬に加え、骨形成促進薬が使用可能となっている。骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者に対しては骨形成促進薬を先行して投与する「アナボリックファースト」により、大幅な骨量増加を目指せる。骨粗鬆症治療を安全に行うために薬剤ごとの注意点を理解する必要がある。本稿では、これから骨粗鬆症治療に関わる方を対象に、治療のエッセンスをまとめた。
1.骨粗鬆症の疫学
骨粗鬆症はcommon diseaseの1つである。地域住民を追跡した国内のコホート研究結果を基に、国勢調査データより算出された骨粗鬆症有病者数は1,590万人とされる 1)。加齢により骨折リスクは上昇し、閉経後から椎体骨折が、70歳代からは大腿骨骨折の頻度が増加する。国内でも概念が整理されつつある多疾患併存(multimorbidity)状態においては、骨折リスクに関連する疾患や病態を複数有する。骨関節疾患や脳卒中後の転倒リスク増加、グルココルチコイドや抗凝固薬などによる骨脆弱化など、骨折リスクを意識しながらmultimorbidityに対応するための全身管理は、内科医にとって不可欠な技量といえる。
骨折予防は、心血管疾患や脳卒中の予防と同様に、健康寿命の確保ならびに生命予後の延伸につながる。75歳以上の後期高齢者がひとたび大腿骨近位部骨折をきたせば、1年以内に20%が死亡するとされている 2)。さらに、国内における要介護となる原因の上位を骨折が占めていることは周知の事実であり、女性では脳血管疾患を上回る。