6.内分泌代謝疾患における遺伝医療と医療倫理
https://doi.org/10.57554/2025-0055
はじめに
近年、わが国における遺伝学的検査の体制は急速に整備されており、先天性・遺伝性疾患の診断を目的とした検査は、医療機関のみならず、多様な提供形態を通じて実施されるようになっている。内分泌代謝疾患を専門とする医師を含む医療従事者が日常診療において遺伝性疾患に直面する機会は年々増加しており、診療現場では、遺伝学的検査や遺伝カウンセリングに関する基礎的かつ実践的な知識が求められる場面が増加している 1)。さらに、疾患の遺伝形式に関する説明や遺伝学的診断にとどまらず、保因者診断、出生前診断、発症前診断などの多様な対応が求められることがある。検査結果を説明した患者およびその家族に対しては、社会的・心理社会的背景を踏まえ、将来的な生活設計(ライフプラン)について共に検討していくことも、医療者の重要な役割のひとつである。本稿では、内分泌代謝専門医が日常診療で遭遇することの多い遺伝性疾患に対する遺伝学的検査の現状と、その適切な取り扱いに関する基本的な考え方について概説する。
1.内分泌代謝疾患における遺伝性疾患 2, 3)
1)概要
環境要因によって生じる外傷後の合併症や手術後の内分泌異常、ビタミン欠乏症などを除くと、多くの内分泌代謝疾患は多因子遺伝病として位置づけられる。一方で、単一遺伝子の病的バリアントによって発症する大多数の内分泌代謝疾患はそれぞれの疾患の有病率は低く、希少疾患に分類されるものの、その原因遺伝子の数は非常に多い。また、染色体異常に起因する症候群の一部では、内分泌疾患を合併することが知られている。これらの疾患の中には、遺伝学的診断が治療方針の決定や介入に直結するものも少なくない。
疾患の診断には、診察による理学所見に加えて、内分泌学的検査を含む体系的な臨床検査の実施が基本となる。加えて、発症年齢の特徴を理解し、遺伝学的検査を実施する時期(生後日齢や月齢など)について留意することも重要である。
遺伝子検査が臨床症状の出現よりも先行して行われる場合(例:発症前診断や胎内診断)には、一般的な診療の枠組みを超える対応が求められ、臨床遺伝専門医による適切な遺伝カウンセリングの提供が不可欠である。