5.骨代謝疾患、骨系統疾患

  • 入江航生 Irie, Koki
    東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科
    伊東伸朗 Ito, Nobuaki
    東京大学大学院医学系研究科 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授/東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター 副センター長
公開日:2025年8月7日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(4): 0054./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(4): 0054.
https://doi.org/10.57554/2025-0054

はじめに

 骨代謝疾患はカルシウムやリン、ビタミンDなどの代謝障害により、また骨系統疾患は骨や軟骨の発生、成長、分化の障害により骨格の形態や構造に異常をきたす疾患の総称である。骨系統疾患の多くが単一遺伝子疾患であり、個々の疾患単位としてはまれだが、最新版である2023年の国際分類においては41グループに分けられ、771疾患もの分類が記載されている 1)。疾患により骨形態の異常や低身長、関節の機能不全、易骨折性、骨変形などさまざまな症状・合併症を呈し、患者の日常生活にも支障をきたす。従来は対症療法が主であったが、近年では病態の解明に伴い治療薬の開発が進む疾患もいくつか存在する。本稿では、比較的疾患頻度の高い骨代謝疾患である低リン血症性くる病と、代表的骨系統疾患として低ホスファターゼ症、骨形成不全症、大理石骨病やその類縁疾患について概説する。

1.低リン血症性くる病と高リン血症性腫瘍状石灰沈着症

 くる病・骨軟化症はいずれも骨石灰化障害により類骨が増加した病態であり、骨端線の閉鎖前・後でそれぞれくる病・骨軟化症と分類される。骨量全体が減少する骨粗鬆症とは異なる病態であり、くる病・骨軟化症では骨密度が低下しない症例も多いことに注意したい。くる病では、成長障害やO脚・X脚などの骨変形が特徴的であり、X線検査で骨端線の拡大や毛羽立ち、骨幹端における杯状陥凹(cupping)などが確認される。骨軟化症では、骨形成の低下によるマイクロクラックの蓄積に起因する偽骨折が多発し、全身の骨痛および歯髄炎や歯肉膿瘍を呈する。肋骨、大腿骨頭、長管骨の骨幹部、踵骨、中足骨などに偽骨折に伴う疼痛が多発し、骨シンチグラフィーで上記の特異的な箇所の骨折や偽骨折部位への集積を確認することが、骨粗鬆症やほかの全身性に疼痛を生じ得る疾患との鑑別に有用である。
 先天性低リン血症性くる病の原因として、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)23関連疾患、腎尿細管障害、ビタミンD代謝異常が挙げられ、それぞれに複数の原因遺伝子が知られている(表1 2)PHEX遺伝子が原因でFGF23関連低リン血症を惹起するX染色体連鎖性低リン血症性くる病(X-linked hypophosphatemic rickets:XLH)は国内外でおよそ2万人に1人の有病率と推定され、先天性低リン血症性くる病の中で最多である 3)
 くる病・骨軟化症が上述の症状および画像検査から診断された場合、原因の精査として図1のように血清P(およびアルブミン補正Ca)、アルカリフォスファターゼ(ALP)や骨型ALP(BAP)、副甲状腺ホルモン(PTH)、25(OH)ビタミンD、1,25(OH)2ビタミンD、intact FGF23を適宜測定し、蓄尿または尿中クレアチニンなどで補正した尿中P排泄を評価して診断を進める 4)。XLHなどのFGF23関連低リン血症の遺伝子検査はかずさDNA研究所で実施可能だが、保険適用にはなっていない。またlarge deletionなどによる病態も多く、エキソーム解析のみでは診断感度に限界があることに注意したい。
 FGF23関連疾患に対する治療として、完全ヒト型抗FGF23モノクローナル抗体(ブロスマブ)が病態に即しており、標準治療として確立されつつある。ビタミンD依存症に対しては、天然型および活性型ビタミンD製剤を適宜選択し治療を行う。その他の尿細管障害による慢性低リン血症などの治療では、経口リン製剤と活性型ビタミンD製剤が使用される。ただし経口リン製剤の過剰投与は長期的に二次性・三次性副甲状腺機能亢進症、および高Ca尿症に伴う尿路結石症と尿濃縮力障害による腎前性腎不全を繰り返すことで慢性腎臓病の進展リスクが高まるため注意が必要である。経口リン製剤による血清リン濃度の上昇は1~2時間程度しか認められないため、1日4〜6回に分けて投与する必要がある。また上記合併症の発症リスクを低減させるため、投与後約1時間で血清リン濃度が基準範囲下限前後となる程度に1回あたりの投与量を調整することが望ましい。経口リン製剤や活性型ビタミンD製剤の長期服用中は血液検査で二次性、三次性副甲状腺機能亢進症をモニターし、三次性副甲状腺機能亢進症発症時には即座に副甲状腺摘出術やカルシウム感知受容体作動薬の開始を検討することが推奨される。
 高リン血症性家族性腫瘍状石灰沈着症(hyperphosphatemic familial tumoral calcinosis:HFTC)はGALNT3FGF23、KLOTHO遺伝子の両アレルにおける機能喪失型バリアントが原因の遺伝性疾患である。本疾患では、FGF23作用障害による慢性高リン血症が大関節周囲に粗大な皮下石灰沈着を惹起し、低リン血症性くる病・骨軟化症とは対極をなす病態といえる 5)

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