1.見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
https://doi.org/10.57554/2024-0066
はじめに
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)は、LDL受容体関連遺伝子の変異を原因とする常染色体顕性遺伝疾患である。その臨床的特徴は高LDL-C血症、アキレス腱肥厚をはじめとする腱または皮膚結節性黄色腫、早発性冠動脈疾患の3つである。
高LDL-C血症患者を診察する際はFHを常に念頭に置く必要がある。本稿では、『成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022』を基にFH診断のコツ(行間・考え方)と積極的な脂質低下治療の重要性について概説する。また、1人のFH患者を診断した後には、家族スクリーニングを実施し、家族も早期に治療することが若年死の予防につながることを忘れてはならない。
1.FHの頻度と心血管リスク
FHヘテロ接合体は一般人口の約300人に1人の頻度で存在すると考えられ、特に冠動脈疾患症例においては30人に1人、早発性冠動脈疾患患者に限れば15人に1人という高頻度でFHが存在することが海外から報告されており 1)、決してまれな疾患ではない。わが国の急性冠症候群患者に占めるFHの割合2.7~5.7%と一般人口に占める割合である約0.3%(約300人に1人)よりも著しく高く、若年ではさらに高い 2, 3)。FHに起こりやすい動脈硬化性心血管疾患は冠動脈疾患が最も多く、脳血管疾患リスクは冠動脈疾患ほど高くないと考えられている。FHホモ接合体では、大動脈弁上狭窄や大動脈瘤をきたす症例も経験する。
FH患者で心血管リスクが高い理由は生下時からの高LDL-C血症の持続であると考えられている。これは「LDL-C蓄積仮説」と呼ばれている。重要なことは早期診断と積極的な脂質低下治療により、LDL-Cの蓄積を減らすことが可能で、冠動脈疾患の発症を遅らせることが可能だということである。
しかし、FH患者の早期診断は実現されておらず、未診断患者や残念ながら急性冠症候群を発症してから診断される症例が多い。その理由として、疾患啓発が十分でないことやFHの診断自体が難しいという一般医家の先生方からのご意見も拝聴することが多い。