4.代謝疾患としての尿酸異常症(Dysuricemia):予後や臓器障害との関連を含めて
https://doi.org/10.57554/2024-0069
はじめに
高尿酸血症(>7.0mg/dL)は結晶沈着による痛風性関節炎を引き起こすのみならず、メタボリックシンドローム発症や心血管疾患・死亡との関連も多数報告されている。一方で、低尿酸血症(≦2.0mg/dL)も腎障害リスクがあり、注意が必要な場合がある。本稿では、尿酸異常症が患者や一般住民に及ぼす問題について解説し、日常臨床や健康診断における尿酸値測定の意義を述べる。
1.高尿酸血症の定義と疫学
性別や年齢を問わず、高尿酸血症は血清尿酸値が7.0mg/dLを超えた場合と定義される。これは、高尿酸血症が尿酸塩沈着症(痛風性関節炎や痛風腎)の病因という観点において、通常の体温(37℃)やpHの範囲において7.0mg/dL以下の濃度で尿酸塩が溶解する(結晶として沈着しない)ことに基づく。
本邦における高尿酸血症の割合は、食生活の欧米化に伴い1960年代以降の数十年間に急激に増加した。2000年代の大規模な疫学調査に基づくと、成人男性における高尿酸血症の割合は男性で約20~25%とされ、1,000万人を超える 1, 2)。これは、主な生活習慣病である高血圧や糖尿病患者数に近い数値であり、日本人成人男性において重要な生活習慣病の一つである。
女性においては、女性ホルモンによる尿酸排泄促進作用や高尿酸血症と関連があるとされる「体重・ヘマトクリット値・飲酒量」のそれぞれに差があることなどにより、血清尿酸値は男性よりも1.5mg/dL程度低く、男性に比較し高尿酸血症の有病率は2%前後と低い 2~4)。
年代別にみると、男性では、健診での血清尿酸値が>7mg/dLを呈する高尿酸血症の割合は30~40代が最も多く加齢に伴い低下するが 2)、痛風の発症やその他の併発疾患(慢性腎臓病など)により尿酸降下薬治療を受ける患者は加齢に伴い増加する。よって、治療・未治療を合わせた高尿酸血症全体の割合は加齢とともに低下していない。女性では、尿酸値に対して保護的に働いていたエストロゲン作用が加齢により減少するため、血清尿酸値は加齢とともに上昇する 3)。
ヒトの体内尿酸プールは成人男性で約1,200mg、成人女性で約600mgである。食事由来のプリン体摂取、生体内のプリン体合成や細胞崩壊により、1日当たり約700mgのプリン体が尿酸プールに入るが、腎臓から約500mg、腎外(腸管)から約200mgの尿酸が体外に排泄され、尿酸プールは一定に維持される。尿酸の産生量が増加したり排泄量が低下すると、尿酸プールが増大し高尿酸血症をきたす。『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』によると、高尿酸血症は、これまで尿中尿酸排泄に基づいて、産生過剰型、排泄低下型、両者の特徴をもつ混合型に分類されてきた。しかし、腎外(腸管)排泄低下による高尿酸血症の場合は、尿中尿酸排泄が亢進するために、見かけ上は尿酸産生過剰型を呈する。さらに腸管排泄低下となる尿酸トランスポーターABCG2の一塩基多型の頻度が比較的高いことが明らかとなり、尿酸排泄低下型を(腎)排泄低下型と腎外排泄低下型に分類することになった。現在は、新たな考え方に基づいて、高尿酸血症は産生過剰型、(腎)排泄低下型、腎外排泄低下型、混合型に分類される 1)(図1)。