糖尿病と歯周病の最新エビデンス

  • 塚原悠太 Tsukahara, Yuta
    東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野
    大杉勇人 Ohsugi, Yujin
    東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔生命医科学分野 助教
    片桐さやか Katagiri, Sayaka
    東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔生命医科学分野 教授
公開日:2024年7月31日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(4): 0058./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(4): 0058.
https://doi.org/10.57554/2024-0058

ポイント

  • 糖尿病と歯周病は相互リスク因子である。
  • 糖尿病は歯周病の発症頻度を上昇させ、さらに悪化させる。
  • 2型糖尿病患者の歯周病治療はHbA1cの値を改善する。
  • 糖尿病治療は歯周病を改善する可能性がある。

1.総論

 歯周病と糖尿病の相互作用は現在では既知となり、医療従事者はもちろん、患者、一般の人々にも認知されつつある。本稿では近年改訂された「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン2023」1)と「糖尿病診療ガイドライン2019」2)を反映しつつ、最新のエビデンスを紹介、解説していく。

1)歯周病と糖尿病は相互リスク因子

 歯周病に罹患すると、糖尿病患者に限らず、プラークに対する炎症反応として、歯周組織でIL(interleukin)-6や腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-αなどの炎症性サイトカインが産生される。炎症性サイトカインは局所的な歯槽骨の吸収を生じさせ、支持組織の喪失を招く。歯周ポケット内面は微小潰瘍となっており、細菌が産生したLPSなどの病原因子も血行性に全身に還流し、菌血症を引き起こす。つまり、この歯周ポケット内の炎症は口腔内の局所だけでなく、血液を介して血清レベルで全身性に影響を及ぼす。炎症性サイトカインを介してC反応性タンパク質(C-reactive protein:CRP)の増加やインスリン抵抗性の低下もしくはインスリン感受性の低下を招いていると考えられている 2)。加えて、近年では口腔内細菌叢の変化による腸内細菌叢の変化を介した影響も報告されている 3)
 糖尿病に罹患すると、口腔乾燥が生じて唾液の自浄作用が低下すること、白血球の遊走能・貪食能・殺菌能などの機能低下を生じて免疫応答が低下すること、血中ブドウ糖がタンパク質と結合して最終糖化産物(AGEs)が歯周組織のコラーゲンなどの機能的な性質を変化させてしまうことが知られており、歯周病が悪化する原因と考えられている 2)。また、糖尿病に罹患すると歯周病の発症率が増加することが最近の研究でも報告されており、Zhengらのメタアナリシスによると糖尿病患者の歯周炎有病率が67.8%、非糖尿病患者では35.5%とあり、糖尿病患者で有意に高い(OR:1.85、95%信頼区間:1.61~2.11)4)。さらに、糖尿病に罹患すると歯周病の発症率が増加するだけでなく、歯周病が増悪するとの研究結果もある。Inagakiらの研究では、日本において、糖尿病患者6,099人のHbA1cと口腔内所見を検討すると、1型糖尿病ではHbA1c 7.0%以上で現在歯数が20歯未満になるオッズ比が2.38、2型糖尿病ではHbA1c 8.0%以上で現在歯数が20歯未満になるオッズ比が1.16となり、糖尿病患者の血糖コントロールが悪化すると歯の喪失リスクが高まることが報告されている 5)

このコンテンツは糖尿病・内分泌プラクティスWebをご購読後にお読みいただけます。

明日の臨床に役立つ時宜を捉えたテーマについて、内分泌代謝・糖尿病内科領域のエキスパートが解説。
毎週論文が更新され、いつでも “オンライン” で日常診療に役立つ情報をアップデートできます。

最新のアップデートに加え、これまでの掲載してきた100論文以上を読み放題です。
この機会に読みたかった論文に加え、気になる特集やセミナーを見つけてください。

■特 集(https://practice.dm-rg.net/main
内分泌代謝・糖尿病内科領域から押さえておきたい選りすぐりのテーマを、エキスパートが徹底解説。

■セミナー( https://practice.dm-rg.net/special
セミナー基礎医学から臨床に役立つ実践的な内容まで、多種多様なコーナーが学びをサポート。

■連 載(https://practice.dm-rg.net/series
独自の切り口と多彩な情報が満載、知的好奇心を刺激する連載。

エビデンスでみる糖尿病・内分泌疾患 一覧へ 『2巻4号(2024年7・8月号)』(発行号ページ)へ

セミナー

連載