4.自己免疫性下垂体疾患:新たな疾患概念とその臨床的意義

  • 浦井 伸 Urai, Shin
    奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科/神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学
    髙橋 裕 Takahashi, Yutaka
    奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科 教授
公開日:2025年12月4日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2025; 3(6): 0087./J Pract Diabetes Endocrinol. 2025; 3(6): 0087.
https://doi.org/10.57554/2025-0087

はじめに

 視床下部下垂体炎は、ほかの自己免疫疾患を合併する例、種々の自己抗体の陽性例、さらに下垂体へのリンパ球浸潤がみられることから、自己免疫的機序の関与が示唆されている。中でもリンパ球性下垂体炎は、その代表的な病態である。下垂体炎は原発性、二次性に分類され、さまざまな疾患との鑑別を要する(表1)。下垂体機能低下症や中枢性尿崩症(アルギニンバソプレシン〔arginine vasopressin:AVP〕欠乏症)に対しては、適切な評価を踏まえたホルモン補充が基本的治療となる 1, 2)。自己免疫性下垂体炎の病態として、近年、本邦からの報告を中心に、リンパ球性下垂体炎、免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)関連下垂体炎、傍腫瘍性自己免疫性下垂体炎に関する新たな知見が蓄積されつつある。

表1 下垂体炎の原因と鑑別
表1 下垂体炎の原因と鑑別

1.リンパ球性下垂体炎

 リンパ球性下垂体炎は、下垂体や視床下部にリンパ球や形質細胞浸潤を認め、主たる炎症の病変部位により、リンパ球性下垂体前葉炎、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎(lymphocytic infundibulo-neurohypophysitis:LINH)、リンパ球性汎下垂体炎に分類される。LINHの診断は、中枢性尿崩症の臨床・検査所見とMRI画像所見(下垂体茎の肥厚または下垂体後葉の腫大、病変部位の均一な強い造影増強効果)から総合的に診断する 1, 2)。下垂体腫瘍やその他の炎症性/肉芽腫性疾患などとの鑑別が困難なこともまれではなく、診断上の課題も多い。機能と画像所見の両面から、さらに経時的変化を踏まえた判断が必要となる。
 近年、自己免疫性下垂体炎の中でも下垂体後葉や漏斗部を主病変とする中枢性尿崩症の症例において、血中に抗ラブフィリン3A抗体が高頻度に検出され、ラブフィリン3AがLINHの原因抗原であることが示された 3, 4)
 ラブフィリン3Aはエキソサイトーシスを含む小胞輸送の重要な制御因子であり、下垂体後葉と視床下部のAVPニューロンに発現する 3)。ラブフィリン3Aをマウスに免疫原として投与すると、下垂体後葉および視索上核にリンパ球浸潤が生じ、低張尿の増加などLINHに類似した病態を呈した。この結果から、ラブフィリン3Aが病原性抗原として機能し、特異的T細胞の免疫応答による炎症がLINHの発症に関与することが示唆された 5)。さらに、ラブフィリン3Aのユビキチン化を制御する分子(cullin-associated NEDD8-dissociated protein 1:CAND1)も関与する可能性が示され、病因・病態の解明が進みつつある 6)

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