骨粗鬆症は高齢者の骨折の原因である。一方で、適切に骨粗鬆症を治療することにより骨折を減らせることが実証されている。高齢者の骨折予防は喫緊の社会的課題であり、医療の最前線を担う多くの内科医が果たすべき役割は大きい。内科医は生活習慣への介入と薬物療法を中心にして治療にあたることから、疾患を病態から診ることが習慣となっている。そのため、骨粗鬆症の診療にあたっても、その病態をしっかりと理解することによって、初めて、自信を持って骨折予防という目的を見据えた治療に臨むことができる。しかしながら、骨折予防は薬剤による骨粗鬆症治療で完結するものではなく、骨に大きな外力が及ぶことを予防することも必要である。そのためには、適切な運動および食事の指導による転倒予防やフレイル対策など、非薬物療法が重要である。さらに、薬物療法は長期にわたって継続して初めて骨折予防が可能となることから、治療を継続するための患者支援も必要となる。これらの対応は、糖尿病をはじめとする生活習慣病を診療する内分泌代謝・糖尿病内科医が日々実践しているものであり、そのような診療姿勢を骨粗鬆症診療にも適用することに障壁はないと思われる。 このような背景から、本特集は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの読者に向けた、骨粗鬆症診療のエッセンスを網羅した内容になっている。治療を必要とする患者のスクリーニング、内分泌代謝の視点からみた病態、多くの内分泌疾患や糖尿病と骨粗鬆症との関係について、各々の領域の第一人者に解説していただいている。さらに、薬物療法の考え方や集学的治療、そして骨粗鬆症治療の支援に至るまで幅広い内容を網羅している。本特集は、これまで骨粗鬆症に馴染みの薄かった医師にとってはもちろんのこと、ある程度日々の診療で対応していた医師にとっても、明日からの骨粗鬆症診療の実践の糧となる充実した内容となっているものと確信している。多忙な中、労を惜しまず充実した論文を執筆していただいた筆者の皆様に感謝するとともに、読者の皆様の診療に活用していただけることを願って止まない。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System制度(DPC/PDPS:1日当たりの包括評価制度)は、2003年に82の特定機能病院を対象に導入された、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度であり、DPCは「診断群分類」を、PDPSは「1日ごとの支払い方式」を意味し「包括医療費支払い制度」とも呼ばれている 1)。その後、2年ごとの診療報酬改定時には対象病院は段階的に拡大され、2022年の診療報酬改定時には対象病院1,764病院483,425床、準備病院259病院22,464床となり 2)、急性期一般入院基本料などに該当する病床の約85%を占める 3)。そして2022年においてもDPC/PDPSが改定されている。 よって今回は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの第1回(通算64回)連載のテーマとしてDPC/PDPSを選び、2022年の診断群分類点数表や定義テーブルなどの改定内容に基づき、制度の基本的概要および糖尿病に係るDPC/PDPSについて概説する。 1.2022年度診療報酬改定におけるDPC/PDPSの基本的概要 1, 3) DPC/PDPS対象の医療機関(DPC対象病院)は、診断群分類ごとに設定される在院日数に応じた3段階の定額点数(表1の入院期間Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ) 4)に、医療機関ごとに設定される医療機関別係数を乗じた点数を算定する(図1)。 表1 厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法の一部を改正する件 診断群分類点数表 糖尿病に関わる箇所の抜粋(文献5より) 画像をクリックすると拡大します 表1 厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法の一部を改正する件 診断群分類点数表 糖尿病に関わる箇所の抜粋(文献5より) $(".vol1_r14_01").modaal(); 図1 包括評価部分(文献1より) 医療機関別係数は、基礎係数、機能評価係数Ⅰ、機能評価係数Ⅱ、激変緩和係数の合計であり、基礎係数は医療機関群(大学病院本院群、DPC特定病院群、DPC標準病院群)ごとの基本的な評価、機能評価係数Ⅰは医療機関における全ての入院患者が算定する項目について係数化、機能評価係数ⅡはDPC対象病院ごとに6つの係数(保険診療係数、効率性係数、複雑性係数、カバー率係数、救急医療係数、地域医療係数)を基本的な項目として評価、激変緩和係数は診療報酬改定時の激変を緩和するため、改定年度1年間に限り設定している係数である。
正直に告白しよう。もう、かれこれ1年ほどサイクリングをしていない。最後にロードバイクに跨がったのは、2021年11月14日に立川の国営昭和記念公園を往復した84kmの行程である。自転車通勤に至っては、同年11月4日が最後になっている。 最大の要因は、部長室の荒廃振りである。未整理の書類や雑誌、学会誌などが、林立する高層タワーマンション群のようにそびえ立ち、コンパクトにまとめられることが取り柄の折りたたみ自転車ですら、その存在を許す余地が残されていないのである(写真1)。かつてはここにも、悠々とロードバイクを置いておけるだけのスペースがあったはずなのだが(写真2)、時代の波には逆らえず、遊び場を奪われた子どものように、狭くなった部屋で縮こまっている。 写真1 林立する高層マンションにより荒廃した部⾧室写真2 かつてはロードバイクを置く余裕もあったはずなのだが… 次なる要因として、我が愛車MGBマーク1の復活を挙げねばなるまい。1964年製のこの車を購入したのは1996年5月のことであるが、2019年11月1日に順天堂大学の前で致命的なエンジン故障を起こし、長期にわたる修理期間を余儀なくされた。エンジンをオーバーホールして、ついでにボディも全部塗り替えた。元の姿に戻って納車されたのは、2020年の10月である(写真3)。それからは、慣らし運転や細かな不具合の確認のためと言いながら、車に乗る機会が増えてしまった。折しもコロナ禍のため、近場なら自転車で行くのだが、15km以上離れたところへとなると、感染を恐れて鉄道ではなく、自動車を使わざるを得なかった。 写真3 レストアされたMGB Mk1 若洲海浜公園でのMGB 60th Anniversary Meetingにて
はじめに 世界保健機関(WHO)から「Adherence to long-term therapies : evidence for action」という報告書 1)が発せられ、特に慢性疾患における服薬アドヒアランスの重要性が強調されてから20年もの月日が経過した。この間に経口血糖降下薬は9つの薬効群にまで増え、さらには糖尿病治療薬においてもOD錠や配合錠などが登場し、治療選択肢が格段に増えた。しかしながら、長期にわたる日々の治療の主体は患者であり、医学的に適切な薬剤が処方されたとしても、適切な服薬が遂行されなければ、期待される効果は得られにくくなる。したがって、服薬アドヒアランスは薬物治療の土台として重要な要素である。服薬アドヒアランスは患者だけにその責任が押し付けられるものではなく、医療者とともに作り上げるべきものであり、医療者の関わり方や工夫でその方向性がいかようにも変わり得る可能性が多面的に示唆されている。なお、服薬アドヒアランスとは、患者自ら理解して積極的に薬物治療に参加することと定義されている。 2型糖尿病患者を対象に、服薬アドヒアランスとHbA1c値の関係を検討した海外の報告 2)によると、服薬アドヒアランス良好群は不良群と比較して、HbA1c値が1.3%有意に低値であったことは注目に値する。 服薬アドヒアランスが良くないことを服薬ノンアドヒアランスと呼ぶこともある。服薬ノンアドヒアランスは、副作用・費用・手間などに起因した自己判断による「意図的」なノンアドヒアランスと、服用の意思はあっても失念や多忙を理由とした「非意図的」なノンアドヒアランスに分類される 3, 4)こともあり、この考え方に基づいたアプローチも服薬アドヒアランスの改善において一助となる可能性がある。 図1のように、服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因を考える際には薬剤側、患者側、医療者側の3つに分けて考えられることが多いが 5)、各要因は相互に複雑に絡み合っていることも想定され、一つ一つひもときつつ、定期的・継続的な評価を繰り返すという地道な取り組みが必要になると考えている。本稿では服薬アドヒアランスに影響し得る要因のいくつかを紹介してみたい。 図1 服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因(文献5より改変) 近年はスティグマという観点から、「服薬アドヒアランス」との用語を「服薬実施率」などの表現に変換することが推奨されることもあるが、本稿では引用文献などの記載に基づき「服薬アドヒアランス」を使わせていただく。 1.服薬アドヒアランス向上のヒント 1)用法について 服薬アドヒアランスの低い患者群では、「薬を服用する時間が煩雑だ」という回答が多く、また、昼の服薬アドヒアランスは、朝・夕・就寝前と比較して有意に低いとの報告 6)がある。したがって、複数の併用薬の用法が1日においてできるだけシンプルであることが望ましく、さらには昼に服薬をしなくても済むような薬剤の活用を検討することは意義があると考えられる。 服用薬剤数が6種類以上であっても服薬状況が良好な患者は、そのほとんどが朝1回の用法に集中していたとの報告 7)もあり、検討の余地があるのであれば1日1回に集約するような工夫によって服薬アドヒアランスの改善が期待できる可能性もある。 1錠中に2成分を含有している配合錠の活用を検討することは、表面的な服用錠数を減らすという意味では用法の簡素化の一助として期待され、さらには配合錠の方が薬価としても割安になる点はメリットの一つと考えられる。ただし、2成分が含有されていることを、患者および服薬補助者などが適切に理解しておくことがリスクマネジメントなどの観点では肝要と考えられる。 服用回数を大幅に減らすという観点では、DPP-4阻害薬の週1回製剤も挙げられるが、服薬アドヒアランスへの影響については患者背景なども考慮する必要がある。週1回という服用頻度がシンプルかつ簡便で服薬管理に好意的なケースもあれば、併用中の他剤との兼ね合いからそこまでのメリットを享受できず、飲み忘れのリスクが懸念されるケースも想定されることから、患者の意思や服薬環境を各医療スタッフの視点で確認・評価することも大切であると思われる。
はじめに 2型糖尿病における腎機能障害は、スルホニル尿素(SU)薬による低血糖やビグアナイド薬による乳酸アシドーシスなど、経口血糖降下薬による臨床上重要な有害事象と関連が深い。薬剤により異なる、代謝および排泄における腎の寄与や、代謝物の血糖低下作用を理解することが、有害事象回避のために重要である。近年は、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下やアルブミン尿の抑制に効果のある薬剤の登場により、腎機能低下を有する2型糖尿病の治療は大きく変わりつつある。すなわち、腎機能の低下につれて選択肢が狭まっていく、という消極的な薬剤調整だけではなく、腎保護作用を期待しあえて選択する、という積極的な調整ができるようになった。本稿では、薬物代謝と糖代謝が腎機能低下によってどう変化するかについて述べ、腎機能低下時の薬剤選択における注意点、腎保護作用を持つ薬剤の現時点でのエビデンスについて概説する。 1.腎機能低下が糖代謝および薬物代謝に与える影響 腎臓は、糖新生の約25%を担っており、肝臓に次ぐ糖新生臓器である 1)。2型糖尿病では糖新生が亢進するが、非糖尿病と比較した臓器別の糖新生増加率は、肝臓が約1.3倍に対し腎臓が約3倍と、肝よりも腎の増加が顕著である 2)。加えて、腎はインスリンの分解を部分的に担っており、その機能低下によりインスリンの代謝および排泄が遅延し、高インスリン血症が生じる。したがって腎機能低下時には糖新生およびインスリンクリアランスが低下し、低血糖が起きやすく、また遷延しやすくなる。一方、主に骨格筋におけるインスリン抵抗性は、eGFR 45(mL/min/1.73m2)未満となる慢性腎臓病(CKD)分類ステージ3b以降で増大する 3)。 腎機能低下時は、薬剤の代謝および排泄能力も低下するため、薬剤効果が増強および遷延する。肝代謝の薬剤であっても、中間代謝産物が血糖降下作用を有しており、投与量の調整が必要な場合がある。
はじめに 2型糖尿病は心血管疾患のリスクファクターであり、実際に心血管疾患を発症することはまれなことではない。本稿では心血管疾患のある2型糖尿病患者に対して、どの糖尿病治療薬を使用すべきか検討したい。 近年、経口血糖降下薬が増え、多くの介入試験が施行されている。われわれは治療薬それぞれの持つ作用を理解するとともに、イベント抑制効果が十分に実証されているかどうかについても理解しておく必要がある。そして、特に心血管疾患のある2型糖尿病患者で注目したい薬剤がSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬であり、その2製剤を中心に概説する。また、糖尿病患者において低血糖がしばしば問題になるが、低血糖と心血管イベントとの関係についても触れておきたい。 1.SGLT2阻害薬 1)SGLT2阻害薬の作用機序 SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮する。さらに体重減少、降圧、脂質改善といった効果なども認められている。また、インスリンを介した作用とは異なるため、単独では低血糖を来す可能性は低い。ただし、血糖低下作用は近位尿細管を介する作用であり、腎機能が低下した患者ではその効果が減弱するため、腎不全や透析例に血糖コントロール目的には使用しない。 2)SGLT2阻害薬の多面的効果 大規模臨床試験において、SGLT2阻害薬は心血管疾患を有するといった心血管リスクの高い2型糖尿病患者の心血管イベントを有意に減少させることが実証されている。心血管疾患のある2型糖尿病患者を対象にしたEMPA-REG OUTCOME試験では、エンパグリフロジンの使用により主要評価項目である心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中を合わせた複合心血管イベントのリスクが有意に低下した(図1A) 1)。また、心血管死、全死亡、心不全入院のリスクも有意に低下した(図1B ~ D) 1)。また、心血管リスクの高い2型糖尿病患者(50%以上に心血管疾患の既往あり)を対象にしたCANVAS試験においても、カナグリフロジンの使用により心血管イベントリスクが有意に低下した 2)。 画像をクリックすると拡大します 図1. エンパグリフロジン使用による心血管イベントと全死亡について(文献1より) 図1. エンパグリフロジン使用による心血管イベントと全死亡について(文献1より) $(".vol1_t5_01").modaal();
はじめに 病院や診療所を受診する2型糖尿病患者の7割が65歳以上とされる現在、高齢者糖尿病診療の質の向上は重要なテーマである。高齢糖尿病患者の診療機会が著しく増加している状況を受けて、日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同委員会を設置し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表した。患者の特徴・健康状態に基づく「カテゴリー分類」と、「重症低血糖が危惧される薬剤」の使用有無の組み合わせによってHbA1cの目標値を個別に設定するコンセプトは、高齢者における薬物療法の効果や安全性が薬物の種類のみで決定されるのでなく、若年者以上にさまざまな要因による複合的な影響を受けることを反映している。 1.高齢2型糖尿病の治療の注意点 高齢者の健康状態は若年世代と比べ個人差が大きい。健康で活発な高齢者が珍しくない一方で、糖尿病自体が臓器障害に加えて認知症やADL低下などのリスクを増大させる危険因子となることから、加齢による健康状態への影響を考慮する必要性が通常より高い。 高齢者糖尿病の特徴として、食後に血糖値が上昇しやすく、必ずしも空腹時血糖が高くない点が挙げられる。高齢糖尿病患者は低血糖に対する自覚症状がはっきりせず典型的でない(頭がふらふらする、ぼうっとするなど)ことがしばしばあり、対処が遅れがちで重症化しやすい。さらに、重症低血糖と認知機能低下はお互いのリスクを上昇させる 1)。そのため、高齢者では若年者以上に低血糖リスクを回避することが重要となる。 糖尿病を有する高齢者は非糖尿病者と比較して筋肉量や筋力が低下しやすく、サルコペニアが進みやすいことが知られている 2)。糖尿病を有していると転倒や骨折のリスクも高く、基本的ADLと手段的ADLの両者ともに低下しやすい 3)。
1.2型糖尿病と肥満の現状 日本における「国民健康・栄養調査 2019年」によると、HbA1c 6.5%以上または糖尿病の治療を受けていると答えた、「糖尿病が強く疑われる」人の割合は、男性 19.7%、女性 10.8%であった。前年度に比べ、男性で1.0ポイント、女性で1.5ポイント上昇し、2009年以降で最も高い数値を示した。また、肥満に関しても、体格指数(body mass index:BMI)が25kg/m2以上の肥満の割合は、男性で33.0%、女性で22.3%に上り、男性では2013年から有意に増加している。特に男性では40代(39.7%)、50代(39.2%)、と働き盛りとされる中高年世代の40%近くが肥満となっている 1)。 全国の糖尿病専門クリニックに通院する患者を中心とする多施設共同研究である、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)に登録された2型糖尿病患者の平均 BMIは、調査開始時の2003年には平均24.2kg/m2だったが、2013年に25.0kg/m2、2021年は24.8kg/m2となっており、肥満を伴う2型糖尿病患者が増加していることがうかがえる 2)。 これまで、欧米人と比較するとインスリン分泌能が低く高度肥満になりにくいとされてきた日本人ではあるが、上記のように肥満者・高度肥満者の割合が上昇していることからも、2型糖尿病患者における肥満対策は喫緊の課題である。 2.肥満を伴う患者に対する薬剤の選択について ―2型糖尿病に対する薬物療法のアルゴリズムより― この数年、SGLT2阻害薬(SGLT2i)やGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が慢性腎臓病(CKD)の進展を抑制し、また心血管死や心不全のリスクを低下させ、予後を改善させる作用を有することが多く報告され、糖尿病薬としては今までにない画期的な存在となりつつある 3~6)。 それを受け、2022年9月23日には、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)から、「ADA/EASD 2型糖尿病の血糖管理に関するコンセンサスステートメント」の2022年度版が共同で発表されたが、上記のSGLT2iとGLP-1RAの心血管および腎臓のアウトカム試験の結果を取り入れ、心腎保護のための広範な推奨事項を示している。さらに、糖尿病とアテローム性動脈硬化性心血管疾患(CVD)、心不全(HF)、CKDなどを併発する高リスク患者に対する治療サポートについても盛り込まれた 7)。今回特筆すべきは、血糖降下薬の選択に際して体重コントロール達成を前面に出した項目が拡大されたことである(図1)。また、前回と同様に各薬剤における体重への影響の有無を示している(図2)。 画像をクリックすると拡大します 図1 2型糖尿病に対する血糖降下薬の使い方(ADA/EASDコンセンサスステートメントより)(文献7より) 図1 2型糖尿病に対する血糖降下薬の使い方(ADA/EASDコンセンサスステートメントより)(文献7より) $(".vol1_t3_01").modaal(); 画像をクリックすると拡大します 図2 各血糖降下薬の特徴(ADA/EASDコンセンサスステートメントより)(文献7より) 図2 各血糖降下薬の特徴(ADA/EASDコンセンサスステートメントより)(文献7より) $(".vol1_t3_02").modaal();
はじめに 2型糖尿病は、インスリン抵抗性とインスリン分泌不全をその病態とする。一般に欧米人では前者が主体で、日本人を含むアジア人は両者が半々である 1)。病態に適した血糖降下薬を選択するのが理に適っているが、病態生理学には限界があることがあり、必ずしも理論・期待通りに糖尿病のアウトカムが改善するとは限らない。また、糖尿病は自覚症状が少ないので中断するケースが多く、最近では経済的理由で中断するケースが増加してきている現状 2)を鑑み、コストも無視できない 3)。 本稿では、糖尿病発症初期・糖尿病合併症のない場合を主体に、ビグアナイド薬(メトホルミン)を第一選択薬 4)として解説する。 1.糖尿病治療の目標 糖尿病診療の目的は血糖コントロールを良好にすることだけではなく、血糖およびリスク因子のコントロールと合併症抑制をして、最終的には糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを確保することである(図1) 5)。実臨床においては、病態だけでなく合併症・併発症や臨床的アウトカムのエビデンスなどを元に薬物を選択することが重要であり、日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会の「糖尿病標準診療マニュアル2022」 4)はその方針に則って作成された実用性の高い指南書である。 図1 糖尿病治療の目標(文献5より)
Web版糖尿病・内分泌プラクティス(『糖尿病・内分泌プラクティスWeb』)の記念すべき劈頭を飾る特集として、今、まさしく百花繚乱ともいえる賑わいを見せている糖尿病の非インスリン療法に着目し、心置きなく縦横に企画を立案させていただいた。今回の特集では、糖尿病診療のいわば要石ともいえるこの領域を、絢爛無比な執筆陣によって多彩な観点から論考していただいている。まさに糖尿病診療の近未来を予見しうる企画となっているものと自負している。 本特集では、冒頭、能登 洋先生に、2型糖尿病において一般的に最初に勧められる薬剤をテーマに、2型糖尿病治療の現状から説き起こして主題へと肉薄し、結論を浮き彫りにしていただいた。次いで、加藤さやか先生と浅原哲子先生には、肥満を伴う糖尿病患者に対する薬剤の選択について、内外の知見を概観したうえで各薬剤の特徴について詳述していただいている。さらに、鈴木 亮先生には、高齢者糖尿病診療の注意点を高齢者の薬物動態の側面から論を進めつつ、各薬剤クラスの適応とシックデイにおける対応までへも敷衍していただいた。 後半では、まずは辻本哲郎先生に、心血管疾患のある2型糖尿病患者の治療法について、薬剤の作用機序とエビデンスの側面を中心に、要を得た解説を展開していただき、次いで、角谷佳則先生と繪本正憲先生には、腎機能低下時の薬剤選択について、腎保護作用を期待しうる積極的な方策を含めて、臨床の現場に則してご記載いただいている。最後に、藤井博之先生に、2型糖尿病における服薬アドヒアランスや、それを向上させる調剤手法なども含めて、薬剤師の立場から、日頃のご経験も踏まえて、糖尿病処方の問題点を具体的に描出していただいた。 本特集の執筆陣は、名実ともにその分野に専門性を有する方々であり、それぞれに糖尿病の経口血糖降下薬(非インスリン)療法に光を当てていただいた。ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、有用な知識の提供されている今回の解説群により、読者諸賢の理解が一段と深まり、それによって得られたものを臨床の現場にフィードバックしていただければ、特集の企画者としてこのうえない喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに インスリンは生体の糖代謝において、血糖降下作用や同化作用を持つ。膵ランゲルハンス島(膵島)の膵β細胞で合成され、分泌小胞に蓄えられたのちに血中へ分泌される。インスリンの分泌量は、短期的には日々の摂食に応じて変動し、血糖値(血漿グルコース濃度)の恒常性を保っている。より長期的には、肥満や妊娠をはじめとするインスリンが効きにくくなる状態で、分泌が慢性的に増強し、インスリン抵抗性を代償する。 1.インスリンの血中濃度変動 正常耐糖能者で血糖値の日内変動を調べると、摂食の都度上昇が確認され、食後2~3時間でおおよそ元のレベルに戻る 1)(図1)。一般に、血糖値のような制御対象を一定の範囲内に収め、生体の恒常性を保つシステムを「ホメオスタシス」と呼ぶ。制御対象が変化したことを感知する器官と、その変化を抑制する器官(効果器)が連携することで恒常性が保たれる。血糖値の変動は、膵島細胞や視床下部などで感知されている。 図1 血糖値の日内変動(文献1より) グルコース負荷試験で正常耐糖能を示した434人を対象に連続血糖測定を実施。各時刻における上位5%、平均値、下位5%の血糖値を示す。 摂食後に血糖値が上昇すると、膵β細胞からインスリンが分泌され、まずは門脈を通って肝臓に運ばれる。肝臓では糖新生を抑え、血中から取り込んだグルコースを材料に、高分子グリコーゲンを合成することで血糖値を下げる。インスリンは肝臓をいったん通過する間に約半分が分解されるので、肝臓に達するインスリン濃度は他の臓器に比べて高く、重要な標的器官といえる。肝臓で分解を免れたインスリンは全身に運ばれ、骨格筋や脂肪細胞などのインスリン受容体に結合し、グルコース輸送体を細胞表面に多く発現させ、血液中のグルコースを細胞内に取り込ませて血糖値を下げる。 一方、絶食時や睡眠時にも血糖値は下がり続けることなく、おおむね70mg/dL以上に保たれる(図1)。この期間にもインスリンは少量ながら分泌され、血糖上昇作用を持つ他のホルモン、例えばグルカゴン、コルチゾール、成長ホルモンなどと協調して血糖値を調節する。このような睡眠時や絶食時におけるインスリン分泌は「基礎分泌」、食後に速やかに起こる分泌は「追加分泌」と呼ばれる 2)(図2)。インスリン補充療法においても活用されている概念である。 図2 インスリン血中濃度の日内変動(文献2より一部改変) インスリンの分泌は基礎分泌と追加分泌に分けられ、後者は主に摂食で誘発される。肥満者においては基礎分泌と追加分泌の双方が増強する。
1.ポイント ・糖尿病とがんには直接の相互関連性がある。・糖尿病では発がん・がん死のリスクが高まる。・一方、がん(特に膵臓がん)罹患に伴い糖尿病発症リスクも高まる。・がん患者が糖尿病を合併すると死亡リスクが高まる。・糖尿病を合併したがん患者の至適な血糖管理目標・治療法の確立が今後の課題である。 2.総論 2型糖尿病は発がん・がん死リスクの上昇と関連している 1)。また、糖尿病患者は糖尿病を有していないがん患者よりもがんの予後が悪いことも報告されている。糖尿病患者ではがん全般のリスクが約10~20%高まる 1~3)が、日本人糖尿病患者では肝臓がん・膵臓がん・大腸がんのリスクが有意に増加することが判明している 4)(表1)。なお、1型糖尿病とがんリスクの関連性についてはまだ結論に至っていない。 表1 糖尿病と臓器別がんリスクの国内データ(文献4より) 糖尿病とがんには生活習慣的側面が大きい共通のファクターが多数あるが、これらの影響とは無関係に直接の相互関連性があることが究明されてきている 5)(図1)。 図1 糖尿病とがんのリスクファクター(文献5 より作成) 糖尿病でがんのリスクが増加する機序として、高インスリン血症・高血糖の関与が提唱されている 5)。HbA1cや血糖値の変動幅との関連も示唆されている 6~8)。 がんで高血糖・糖尿病発症リスクが高まる機序は、病態生理学的ファクターだけでなく精神的ファクターや薬剤の影響など多岐にわたる(表2)。同時に、がん細胞からのIGF-II(insulin-like growth factor II)(血糖降下作用がある)や、肝腎機能低下による糖新生減少や、摂食量低下のために低血糖になることもあり、がん患者の血糖値は乱高下しやすい。 表2 がんに伴う高血糖・糖尿病の機序
Q&A編はこちら はじめに 近年、訪日外国人総数は年々増加し、2019年には約3,188万人と過去最高を記録した 1)。しかしながら、2020年1月下旬以降は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックに伴い、訪日外国人数は激減。入国制限の緩和された2022年11月現在も2019年同月比61.7%減となっているが 1)、今後は入国制限のさらなる緩和、インバウンドの本格的な再開に伴い、その数は次第に増加してくるものと思われる。 また全世界の糖尿病患者数は現在5億3,700万人を超え、今後も増加の一途をたどり、2045年には7億8,300万人に達すると予想されている 2)。このような世界的な糖尿病事情を鑑みると、本邦において外国人糖尿病患者に対応する機会は今後も増え続けると思われる。 本稿では外国人糖尿病患者の診療上の留意点について、特に食事栄養療法のポイントについて概説する。 1.言語のハードル 糖尿病診療においては検査結果とともに、食生活、運動習慣等の生活習慣の聞き取りが重要である。そのためには良好なコミュニケーションが必要であるが、言語が異なれば、そのコミュニケーション自体が困難となる。 近年、自動翻訳機等のツールも増えているが、その精度と翻訳スピードには依然改善の余地がある。また英語であれば通訳可能なスタッフが対応している病院が増えているが、その他の言語の場合は多くの病院で同伴者の通訳に頼らざる得ない状況にある。同伴者は家族や友人の場合が多いが、メディカルツーリズムの一環としての受診であると、関係業者が立ち会って通訳する場合もある。いずれの場合もプロフェッショナルではない通訳による誤訳の可能性や患者のプライバシー保護が問題となる。電話医療通訳サービスの利用や、医療通訳派遣の依頼という方法もあるが、その場合の料金支払いルールや、急な受診や夜間休日など医療通訳対応が難しい場合の対応は、あらかじめ各施設で検討しておく必要がある。 実地診療に際し慌てないためにも、普段から関連サイトを検索し、糖尿病診療に関する多言語資料を用意しておくことが望ましい。例えば、国立国際医療研究センター糖尿病情報センターでは、英語版の各種療養指導ツールを作成・掲載している 3)。また「糖尿病リソースガイド」というサイトには「母国語で学ぶ糖尿病」というコーナーがあり、ポルトガル語、スペイン語、フランス語、ヒンディー語、インドネシア語、中国語、韓国語、英語による糖尿病関連のサイトやツールが紹介されている 4)。
Q&A編はこちら はじめに 経口糖尿病薬はこの10年余りで種類が大幅に増え、個々の患者の病態に適した薬剤選択が可能となった。一方、その選択に必要な知識や情報が同様に増え、専門性が高まったこともまた事実である。 本稿では、病棟で2型糖尿病患者の担当になった場合、その患者の血糖値推移やその他の情報からどのように薬剤選択をするか、いくつかのポイントを立てて解説する。薬剤選択に決まった正解はないが、やみくもに組み合わせるのではなく、個々の患者により適した(利益が大きくリスクの少ない)選択ができるよう役立てていただければ幸いである。 1.症例(図1) 図1 症例 ポイント⓪ 経口糖尿病薬の大まかな機序、効果の把握 薬剤選択に入る前に、まず最低限の知識として経口糖尿病薬の種類とそれぞれの作用機序、効果を簡単に把握しておく(すべての把握が困難であればいつでも参照できるようメモとして持っておくとよい)。 特に、各薬剤が「食後」をターゲットとしているのか、「24時間(食後だけでなく早朝空腹時から夜間まで全体の血糖値)」をターゲットにしているのかを分けて考えるとわかりやすい(図2)。 図2 経口糖尿病薬の種類と特徴
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