はじめに 超高齢社会の進行とともに原発性骨粗鬆症による脆弱性骨折の発生が、健康寿命の延伸にとり大きな足かせとなっている。特に一度臨床的骨折を発症した患者は、再骨折の発生率が高く、骨折直後からの治療介入が極めて重要である。しかしながら、骨折後の治療率が低いことが世界的な問題となっており、新しい診療支援の取り組みが必要となってきた。海外で始まった骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)は、まさに骨折直後の診療支援を推進するものであるが、わが国ではさらに一次予防や社会啓発も含めた骨粗鬆症リエゾンサービス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)が日本骨粗鬆症学会により策定された 1)。令和4年4月の診療報酬改定では、手術を行った大腿骨近位部骨折患者に対するFLSに対して、新しく二次性骨折予防継続管理料が設けられ、OLS活動の一部が経済的な担保を得られるようになった 2)。 1.二次性骨折予防継続管理料について 令和4年4月の診療報酬改定で、大腿骨近位部骨折の手術患者に対して、二次性骨折予防継続管理料の算定が認められた 2)(表1)。最も注意すべきポイントは、あくまで「骨折予防」を「継続管理」するための診療報酬であり、ガイドラインとクリニカルスタンダードに則った、計画的かつ経時的な管理を行い、骨折予防をすることが求められていることである。そもそも、初期計画が作られていなければ、継続管理を行うことは不可能なため、手術を行った急性期病院で、二次性骨折予防継続管理料1を算定することが、その後継続管理をする施設で管理料を算定するための必須要件となる。「大腿骨近位部骨折を発症し、手術治療を担う保険医療機関の一般病棟に入院している患者であって、骨粗鬆症の有無に関する評価および必要な治療などを実施した者」が対象患者であるが、この管理料1を算定するためにはいくつかの必要要件がある。基本となる治療開始を行う急性期病院における算定要件の骨子は、 医療機関ならびに入院病棟が施設基準に適合し届け出されていること 二次性骨折予防を目的として骨粗鬆症の計画的な評価・治療がされていること 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインならびに骨折リエゾンサービス(FLS)クリニカルスタンダードに沿った適切な評価および治療がされていること であり、その施設基準としては、 骨粗鬆症の診療を行うにつき十分な体制が整備されていること 骨粗鬆症診療を担当する医師、看護師および薬剤師が適切に配置されていること 急性期一般入院基本料、地域一般入院基本料または7対1入院基本料もしくは10対1入院基本料に関わる届け出がされていること である。 この初期計画と診療開始がされた患者に対して、施設基準を満たした回復期病院などへの転院後、リハビリテーションなどを担う地域包括ケア病棟または回復期リハビリテーション病棟へ入院し、急性期病院で開始された治療を継続管理した場合に、入院中一回に限り二次性骨折予防継続管理料2が算定可能である。さらに、外来診療に移行した後は、継続して骨粗鬆症の計画的な評価および治療が行われた場合、二次性骨折予防継続管理料3の算定開始月から12カ月間月一回管理料3が算定可能である。外来診療で管理料3を算定する医療機関もあらかじめ届け出を行う必要があるが、これは管理料1もしくは管理料2を算定した医療機関と同一であっても別の医療機関であってもよい。なお薬剤師に関しては、常勤薬剤師が配置されていない場合、連携する医療機関などと連携して医療体制を整えてもよい、とされている。 この二次性骨折予防継続管理料が新設されたことで、これまで医療現場で自主的に行われてきた骨折予防の取り組みの一部に経済的な支援が可能となったことは画期的である。外来診療で継続管理料3の算定する医療機関は、整形外科には限定されず、他の慢性疾患管理を同時に行う内科などにその役割が求められることも多い。リエゾンサービスによる二次性骨折予防継続に対する正しい理解と連携体制のさらなる構築が求められている。
1.ポイント ・高LDL-C血症は動脈硬化リスクとなる。特に遺伝的な高LDL-C血症(家族性高コレステロール血症:FH)はリスクが高く見逃さないように気をつける。・LDL-C低下薬は動脈硬化リスクを軽減する。動脈硬化リスクが高いほど、LDL-Cの管理目標値を低く設定して治療する(the lower, the better)。・まず内服薬をエビデンスの順に(スタチン>小腸コレステロールトランスポーター阻害薬[エゼチミブ]>陰イオン交換樹脂[レジン])適宜組み合わせて使用し、内服でも管理目標値に達しなければPCSK9阻害薬を用いる。・二次予防の場合など、速やかなLDL-C低下が望ましい場合は、スタチンに加えて早期のPCSK9阻害薬の導入を検討する。・高LDL-C血症の動脈硬化リスクは、LDL-C値が高いほど、またその期間が長いほど高くなる(cholesterol x years risk:生涯コレステロールリスク)。どのくらい下げるか、とともに、いつから下げるか、いかに早期に診断し治療を進めるか、が大切である(the lower, the earlier, the better)。 2.総論 高LDL-C血症は動脈硬化の最大のリスクの一つである。そのリスクは、動脈硬化の危険因子(加齢、男性、脂質異常症[LDL-C、HDL-C]、高血圧、耐糖能異常、喫煙など)を多く有するほど高い。糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)を有する場合はリスクが高く、遺伝的な高LDL-C血症(家族性高コレステロール血症:FH)がある場合にはさらにリスクが高い。また、一次予防よりも二次予防(冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞)ではリスクが高くなる 1)。 多くの臨床研究から、LDL-C低下薬を用いると、LDL-C低下とともに動脈硬化リスクが減少すること(the lower, the better)が確立されてきた。LDL-Cは治療可能かつ治療効果の高い動脈硬化リスクである。動脈硬化リスクの高い人ほどLDL-Cをしっかりと下げることが大切である。 日本動脈硬化学会によるガイドライン(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)はこの基本に基づいて作られている。2022年版では、従来版よりもLDL-Cの管理目標値がより詳しく、個々のリスクに対応できるように設定されている。一次予防では、リスクに応じて低リスクは160mg/dL未満、中リスクは140mg/dL未満、高リスクは120mg/dL未満だが、さらにハイリスクな高リスク(糖尿病かつ「PAD、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙あり」の場合)では<100mg/dLを考慮する。二次予防(冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞)では基本的に100mg/dL未満だが、さらにハイリスクな二次予防(「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞[明らかなアテロームを伴うその他の脳梗塞も含む]」のいずれかを合併する場合)では70mg/dL未満を考慮する 1)。 管理目標の達成のため、内服薬をエビデンスと薬価を考慮して用いる(スタチン>エゼチミブ>レジン)ことが基本となるが、それでも下がらない場合は、PCSK9(プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)阻害薬が適応となる。 PCSK9阻害薬は、LDL受容体の分解を促進する蛋白PCSK9(図1)に対する抗体医薬(皮下注)である。LDL受容体の発現増強を介して、強力なLDL低下作用(約60%減)を有し、心血管イベント抑制のエビデンスが示されている。PCSK9阻害薬処方にあたっては、薬価が高いこと、長期的な安全性は今後の課題でもあることに留意し、適応は慎重に判断する 2〜4)。適正使用の観点からは、①FH、②心血管イベントのハイリスク病態(主に冠動脈疾患二次予防)、③スタチン不耐、がPCSK9阻害薬の良い適応となる。
Q&A編はこちら はじめに 低Na血症は、日常臨床において最も遭遇する頻度の高い電解質異常である。高度な急性低Na血症は種々の神経学的症状をきたし、致死的なこともある。一方、慢性的な低Na血症は転倒や骨折、骨粗鬆症、認知機能低下などさまざまな病的状態に関連する。低Na血症の症状は基本的に低浸透圧血症による。実臨床においては、診断がつかないままに放置されている低Na血症や鑑別に難渋する例が少なくない。本稿では基本事項として血漿浸透圧についての再確認と、低Na血症の診断・治療について実際の症例を提示しながら考えていきたい。 1.低ナトリウム血症の定義 血清Na濃度135mEq/L未満 2.血漿浸透圧の考え方 ・浸透圧とは・・・溶質中の粒子の数(モル数)に比例する。・循環血漿(細胞外液)中には、NaやK、Clなどの陽イオンや陰イオンと、ブドウ糖などの非電解質が存在し、浸透圧を形成する。血漿中に最も多く存在するイオンがNa+であり、血漿浸透圧に最も影響を与える。 図1に示すように、間質液と血漿の間をNaは自由に行き来するので、細胞に接する間質のNa濃度は血漿と同じと考えて良い。細胞外液のNa濃度が低下(=低浸透圧血症)すると細胞内へ水が流入し、細胞容積が増大する。一方、細胞外液のNa濃度が上昇(=高浸透圧血症)すると細胞内の水が細胞外へ流出し、細胞容積が縮小する。このように、血清Na濃度の変化が問題になるのは血漿浸透圧の変化により、主に脳細胞が影響を受けるからである。 図1 血漿浸透圧の基本
1.薬物療法の開始基準 骨粗鬆症の治療の目標は、合併症としての脆弱性骨折を防ぐことである。では、骨粗鬆症の薬物療法はいつから開始すべきなのだろうか。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」には、原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準が定められている 1)。まず、大腿骨近位部骨折または椎体骨折の脆弱性骨折がある場合には、骨密度に関係なく骨粗鬆症として薬物療法の開始が推奨されている。肋骨や骨盤(恥骨、坐骨、仙骨を含む)、上腕骨近位部、橈骨遠位端、下腿骨に脆弱性骨折がある場合には、骨密度が若年成人平均値(young adult mean:YAM)の80%未満で薬物療法を開始する。脆弱性骨折がない場合は、骨密度がYAMの70%以下あるいはTスコアー2.5以下で薬物療法を開始する。骨密度がYAMの70%より大きく80%未満の場合についても、大腿骨近位部骨折の家族歴がある場合、あるいはFRAX®の10年間の骨折確率(主要骨折)15%以上の場合には、薬物療法の開始が推奨される。これらに加えて、「生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド2019年版」においては、試案ではあるものの、2型糖尿病、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)で骨折リスクが高いと判断される場合には、薬物療法の開始が推奨されている 2)。ちなみに、2型糖尿病では、罹病歴10年以上、HbA1c 7.5%以上、インスリン使用、閉経後女性チアゾリジン使用、喫煙、重症低血糖が危惧される薬剤の使用、転倒リスクが高い場合を骨折リスクが高い状態と考える。 2.薬物療法の選択の根拠 現在、多彩な骨粗鬆症治療薬が使用可能な状況となっており、症例ごとに薬剤選択の根拠は何かを考える必要がある。これにはいくつかのポイントがある。まず、骨粗鬆症の薬物療法の目的は、前述のように合併症としての脆弱性骨折を予防することにあるので、実際に骨折抑制効果のエビデンスのある薬剤を選択するということである。次に、骨粗鬆症治療薬は骨吸収抑制薬と骨形成促進薬に大別されるが、その作用機序から症例ごとの病態に合わせて薬物療法を選択するという考え方もある。また、骨形成促進薬は重症骨粗鬆症が適応となっていること、薬剤によっては留意すべき有害事象や使用期間の制限があり、これらの点に配慮することも求められる。場合によっては、薬剤の切り替えを検討する必要がある。最後に、骨粗鬆症治療薬の剤形や投与方法、投与間隔から、骨粗鬆症患者がアドヒアランスを確保しやすいように工夫することも、日常臨床において重要なポイントである。
はじめに 多くの高齢者は何らかの疾患を持っていて、内科医を受診することが多い。骨粗鬆症は高齢者に頻度が高く、それに起因する骨折はADL、QOLを損ない、要支援・要介護の主要な原因の一つになっている。しかし骨粗鬆症は、症状がなく日常的に受診していても見逃されやすく、薬物治療率は骨粗鬆症女性患者の約30%程度と低率である。 65歳以上の人口割合が29%に達した超高齢社会において、潜在的な骨粗鬆症・骨折の危険性が高い患者を判別して、骨粗鬆症の診断・骨折リスクの評価から、薬物治療介入へつなげることは大切である。 1. 骨粗鬆症の診断 原発性骨粗鬆症は、骨折既往の有無と骨密度の組み合わせで診断される(図1左) 1)。 骨折既往がある場合、軽微な外力(立った姿勢からの転倒か、それ以下の外力)による椎体骨折、大腿骨近位部骨折の既往があれば骨粗鬆症と診断される。その他の脆弱性骨折(肋骨、骨盤、上腕骨近位部、橈骨遠位部、下腿骨)既往がある場合は、骨密度YAM(Young Adult Mean)80%未満で骨粗鬆症と診断される。 骨折がない場合には、骨密度がYAM 70%以下または-2.5SD以下で骨粗鬆症と診断される。骨密度は原則、DXA法(二重X線エネルギー吸収法)による椎体(L1~L4またはL2~L4)または大腿骨近位部骨密度とし、複数部位で測定した場合には、より低い値を採用する。これらの部位の測定ができない場合は、橈骨、第二中手骨の骨密度とするが、この場合は%値を使用する。なお、超音波法(QUS)による骨量判定は、診断には使われない。 以上のように、骨粗鬆症の診断は、まず「骨折既往歴」を尋ねることである。骨折がない場合には、診断には骨密度測定が必要であるが、DXAがある施設は限られているため、骨密度測定が必要な人をスクリーニングするツールとして次項のOSTAが活用される。 図1 原発性骨粗鬆症の診断基準と薬物治療開始基準(2015年版)(文献1より作図)
はじめに 脳や末梢臓器では、食欲亢進または食欲抑制作用を持つ多数の物質が産生され、神経回路網や血流を介してその情報が伝達される。減量を成功させるためには、適正な摂食行動ならびに食事の量や質が、必要となる。摂食調節機構の解明や、その知見を応用した治療法の開発が重要である。摂食調節と内分泌疾患との関連を学び直すために、視床下部を取り上げる。この分野の基礎研究は大きく進歩しており、顕著な減量効果を示す薬剤も開発されている 1)。摂食調節研究に関する近年の知見も紹介し、またわが国でも処方が期待される食欲制御薬の機序について言及する。 1.視床下部による摂食調節 視床下部は自律神経の最吻側に発生し、自律神経中枢としての機能を持つ。視床下部は他に摂食、体液量、内分泌機能、性行動、情動行動、体温、体内リズム、成長に関する情報も出力している。図1に示す4つの部位が主な摂食調節中枢である。かつてFröhlich症候群と呼ばれた肥満と低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を合併した症例は、視床下部に病変がある視床下部性肥満である。Kallmann症候群、Prader-Willi症候群、Bardet-Biedl症候群などに加え、肥満をもたらす脳内の遺伝子異常が同定されている(表1)。 図1 視床下部の摂食調節中枢 視床下部の4つの部位で産生される摂食調節物質を示す。赤は摂食亢進物質、青は摂食抑制物質である。AgRP:agouti-related peptideCART:cocaine and amphetamine-regulated transcriptCRH:corticotropin-releasing hormoneMCH:melanin-concentrating hormoneNPY:neuropeptide YPOMC:proopiomelanocortinTRH:thyrotropin-releasing hormone 表1 肥満をもたらす脳内遺伝子 PVH:視床下部室傍核BDNF:brain-derived neurotrophic factor
後に第35代アメリカ合衆国大統領となるジョン・フィッツジェラルド・ケネディ(図)は、1917年5月29日ブルックリンに生まれた。曽祖父がアイルランドからアメリカに移民し、祖父のパトリック・ジョセフ・ケネディが実業家、政治家として成功したため裕福な家庭であった。ジョンは次男であっため長男ほどの大騒ぎはされなかったが、誕生がボストンの新聞にお披露目された 1, 2)。ケネディは幼少期に気管支炎、水疱瘡、風疹、麻疹、おたふく風邪、猩紅熱、百日咳にかかり、ベッドでの生活が長かった。3歳前にかかった猩紅熱は重篤で2カ月の入院と2週間の療養を要した 2)。10代になっても病気がちで、チョート校に入学後も風邪などで入退院を繰り返している 1)。 図 ジョン・F・ケネディ(WikiImagesによるPixabayからの画像)
はじめに 糖尿病治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命と日常生活の質(quality of life:QOL)を保つことである。そのためにはさまざまな合併症の予防が重要であり、これを実現するためには、血糖のみならず、血圧や脂質なども含めた統合的な治療が求められる。近年では加えて、糖尿病で認めることの多い併存症にも配慮する必要性が指摘されており 1)、骨粗鬆症や骨折もその中に含めて捉えるべきと考えられる。 本稿では糖尿病と骨粗鬆症・骨折の関連について概説するとともに、われわれが進めてきた臨床試験のサブ解析の結果を紹介しながら、日常臨床においてどのようにアプローチをすべきか考えていきたい。 1.糖尿病と骨粗鬆症・骨折 糖尿病と骨粗鬆症、ならびに骨折の関連について注目されるようになってきたのは、比較的最近のことである。1990年代に発表されたRotterdam studyなどがその嚆矢となり、その後多くの研究によって、糖尿病症例においては1型・2型を問わず、骨折のリスクが上昇することが示されてきた。骨粗鬆症の診断におけるゴールドスタンダードは骨密度であるが、特に2型糖尿病においては骨密度がむしろ上昇することが知られ、骨密度の低下ではなく骨質の低下が、糖尿病症例における骨折リスクの上昇に寄与するとの考え方が受け入れられている 2~6)。 骨折の高リスク者の同定は重要な課題であり、さまざまな方法が提唱されているが、中でも汎用されているのがFracture Risk Assessment Tool(FRAX)スコアである。これは向こう10年間の主な骨粗鬆性骨折(上腕骨折、前腕骨折、脊椎圧迫骨折、大腿骨近位部骨折)などの発症率を予測するリスクエンジンであり、ウェブ上で公開されている 7)。必要な項目としては、年齢、性別、体重、身長、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、ステロイドの投与、関節リウマチの既往、続発性骨粗鬆症の既往、飲酒、骨密度の12個が挙げられるが、骨密度のデータは省略することもできる。本邦のガイドラインにおいては、これまでの疫学的検討から、主な骨粗鬆性骨折15%/10年以上を一般に高リスクとして扱い、治療開始を検討すべきとされている 8)。 FRAXスコアの項目のうち、1型糖尿病は続発性骨粗鬆症に含まれるものの、2型糖尿病に関する項目は含まれていない。実際、FRAXスコアが2型糖尿病に合併した骨折のリスクを過小評価しているとの課題が指摘されており 9)、また同スコアの日本人の糖尿病症例における有用性も必ずしも確立していなかった。なお国際骨粗鬆症財団が最近発表したガイドラインでは、2型糖尿病では関節リウマチの既往ありとしてFRAXスコアを算出し、それによって骨粗鬆症治療の開始を検討することを提唱している 4)。 糖尿病と骨折の関連がさらに複雑なのは、糖尿病に対する治療も骨折リスクに影響を与えるからであり、血糖コントロール不良や低血糖がそのリスクを高めることが以前から知られている。インスリン治療を受けている症例では骨折リスクが上昇するが、それが罹病期間や神経障害などの細小血管症の影響によるものか否かは明らかでない。加えて経口血糖降下薬の中でチアゾリジン誘導体が、骨折リスクを上昇させることが報告されている 4, 5)。チアゾリジン誘導体は、核内受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(peroxisome proliferator-activated receptor:PPAR)γの作動薬であり、これによって間質前駆細胞から脂肪細胞への分化が促進される一方、同前駆細胞から骨芽細胞への分化が鏡面的に抑制されることが、機序の一つとして考えられている 10)。
前編 医師の立場から Q&A編はこちら はじめに 糖尿病の合併症が進行した患者の足病変は、チーム医療なくしては下肢切断を回避できない。順天堂医院「足の疾患センター」のような多職種が参加したチーム医療で関わることが望ましいが、多職種でのチーム医療を単一の医療機関で実施できない施設もあると思われる。特に足病変発生リスクが高い透析病院においては、他の医療機関と連携することが必須だと思われる。これは筆者の所属する大学病院においても例外ではなく、足病変予防期間、治療後の再発予防期間の管理をする医療機関なくしては足病医療の実施は不可能であり、医療機関を超えたチーム医療が必要となる。日本の医療制度は病院の機能分化を推進しており、地域全体でチーム医療を行っていくという考え方が必要だと思われる 1)。 1.順天堂医院のチーム医療の歩み われわれは、順天堂医院「足の疾患センター」設立前、下肢救済チームとして自主的に活動していた期間が6年間程あった。その当時のチームメンバーは形成外科、循環器内科、皮膚科、糖尿病内科、腎臓内科、看護師だけであった。整形外科や血管外科の仲間がいない状況の中、自分たちにできる医療を尽くして下肢救済に取り組んでいた。院内でのチーム医療に尽力することはもちろんのこと、われわれは年に1~2回は院外講演会を開催し下肢救済チームの広報活動を行っていた。在院日数の短縮化や医療機関の機能分化の流れに則したチーム医療のために、院外の医療機関と連携関係を構築することも重要であると考えての活動であった。そのような活動をコツコツと積み上げていくことによって、下肢救済チームの活動が院内外に少しずつ認知され、紹介患者の増加につながった。講演会を通じて、透析クリニック、訪問看護ステーション、在宅医療機関などと連携をつなげることができ下肢切断が回避できた症例も少なくない。そうした歩みを経て2019年に「足の疾患センター」を設立するに至った。
はじめに 1991年にコペンハーゲンで開催された骨粗鬆症のコンセンサス会議にて、骨粗鬆症は「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患」と定義された 1)。遺伝的素因、生活環境、閉経および加齢以外に明らかな原因疾患を特定できない骨粗鬆症を「原発性骨粗鬆症」と診断するのに対し、骨量や骨質の低下を来す背景疾患を認める病態を「続発性骨粗鬆症」と区別する。一般的に続発性骨粗鬆症を来す病態では、骨形成と骨吸収のバランスが破綻し、骨密度の明らかな低下がなくても骨質の劣化により骨折リスクは上昇していることが多い。骨粗鬆症の患者の中で、閉経後女性の30%、男性の50~80%が続発性骨粗鬆症と推定されるが、続発性骨粗鬆症の管理における原則は、原疾患の治療と原因薬物の減量ないしは中止である。そのため、適切なマネジメントを行う上で病態の評価は不可欠である。 続発性骨粗鬆症を来す原因疾患を表1に列挙する 2)。本稿では、内分泌疾患を原因とする骨粗鬆症に着目し、病態や骨折リスク、治療後の経過を中心に考察する。なお、性腺機能低下症や糖尿病による骨粗鬆症については、本特集の別稿や成書を参照されたい。男性の性腺機能低下症に伴う続発性骨粗鬆症でも、テストステロン低下ではなくそれに伴うエストロゲン低下が骨強度低下の主要な原因となることを補足しておく。 表1 続発性骨粗鬆症の原因疾患(文献2より作成) 1.副腎 1)クッシング症候群 クッシング症候群は、副腎からのコルチゾールの過剰分泌により、満月様顔貌、中心性肥満といった特徴的な身体所見(クッシング徴候)を呈する疾患である 3)。クッシング症候群患者の30~65%に骨粗鬆症を認め、骨量低下まで含めると60~80%の患者が該当する 4)。コルチゾールは、① Wnt/β-カテニン経路を介した骨芽細胞前駆細胞の分裂や分化を阻害し、② 骨芽細胞のアポトーシスを誘導し、③ 骨芽細胞の機能を直接阻害する作用が合わさって、骨形成を抑制する。破骨細胞分化因子のRANKL(receptor activator of nuclear factor-kappa B ligand)やマクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony stimulating factor : M-CSF)の発現を誘導し、破骨細胞分化抑制因子のオステオプロテゲリン(osteoprotegerin : OPG)の発現を抑制する。結果として、破骨細胞の形成が促進され、骨吸収が亢進する。コルチゾール過剰により成長ホルモンやゴナドトロピン(LH、FSH)の分泌が低下することで、骨強度はさらに低下する。機序は不明だが、コルチゾールはビタミンDによる腸管でのカルシウム吸収を抑制するとも報告されている。上記の作用の総和として骨粗鬆症が進行する。 骨密度の低下が顕在化する前から骨折リスクは上昇するとされるが、コルチゾールの過剰で骨細胞がアポトーシスを起こし、骨表面でのリモデリングの調整が破綻している影響が想定される。骨折は、海綿骨の豊富な脊椎や、大腿骨頸部で起こりやすい。ある報告によると、クッシング症候群患者の76%に脊椎骨折(そのうちの48%は無症候性)がみられたとされている 5)。クッシング症候群では低エネルギー外傷による骨折が正常人に比べて5倍多く発生しており、診断前の骨折リスクが特に高いが、治療を開始すると骨折リスクは低下するため、速やかな診断・治療が肝要である。クッシング症候群の治療により骨密度低下は改善し、3~5年程度で基準範囲に回復し得る。ただし、重度のコルチゾール過剰により骨に不可逆的変化が起こり、治療後も骨粗鬆症が改善しないケースもあり得ることに注意する。
後編 医療スタッフの立場から はじめに 糖尿病の足病変は、無症候性から不可避的な切断を伴う致命的な難治性潰瘍までさまざまである。主な病因は虚血、神経障害、および感染症であり、外傷、末梢浮腫、足の変形が加わると、糖尿病性足潰瘍の切断のリスクがさらに高まる可能性がある。単一診療科では治療困難であり、多職種、複数科がそれぞれの専門の知識を統合し、足病変から生じる症状を一つずつ順番に管理・解決して、予防から治療までチームで取り組む必要がある 1)。 糖尿病性足潰瘍の発症の要因には全身的要素、患部局所的要素、精神的・教育的要素が存在する。全身的要素として血糖コントロール不良、腎不全、低栄養などが潰瘍悪化を招き、これらは内科医師・糖尿病認定看護師・糖尿病病態栄養専門管理栄養士などによる治療が必要となる。潰瘍を生じる局所の病態の主な背景には末梢神経障害、血流障害、感染、骨の変形がある 2)。局所の病態に関しては、形成外科、整形外科、皮膚科、血管外科、循環器内科、理学療法士、義肢装具士、看護師などさまざまな専門家によるアセスメントと治療と予防が必要となる。糖尿病性末梢神経障害は、知覚障害、ハンマートゥ、クロウトゥ、外反母趾などは足変形を来し、自律神経障害は皮膚の乾燥や亀裂、シャルコー変形、胼胝などを生じる。これらの症状に発展する前に、足病変をアセスメントして、足のスキンケアとフットケアとフットウエアによる除圧や免荷などの治療を行わなければならない 3)。 糖尿病は動脈硬化を生じやすく、下肢の虚血が進行すると足壊疽を生じ下肢切断の誘因となる。フットケアの段階でSPP(Skin perfusion pressure:皮膚灌流圧)、ABI(Ankle brachial index:足関節上腕血圧比)、TcO2(Transcutaneous oxygen tension:経皮的酸素分圧)の測定を行い、血行状態を判断し、その結果をもって循環器内科・血管外科による血行再建を行う必要がある 4)。 神経障害と血行障害が進行し、潰瘍が生じた場合には、皮膚科・形成外科が潰瘍治療に当たる。骨髄炎、壊死性筋膜炎などの感染を併発した場合には、感染症の専門家と相談しながら適切な抗菌薬の投与を行う。形成外科は壊死組織除去術(デブリードマン)5)、断端形成術、皮弁形成術などにより潰瘍治癒を目指すが、血流障害が認められる創傷を治癒することは困難であり、循環器内科医・血管外科医による血行再建は必須となる。創傷までしっかり血流が保たれていなければ潰瘍は治らない。虚血下肢においては形成外科と循環器内科・血管外科との連携は必要不可欠となる。 潰瘍治療中・潰瘍治癒後におけるリハビリテーション科・理学療法士によるADLの維持や歩行訓練も重要な取り組みである。また、歩行を維持しながら潰瘍治療を行うためには潰瘍面を免荷できる装具が必要となる。潰瘍治癒後には再発予防のための装具を準備する。フットケアから潰瘍治療、そして治療後の再発予防において、上記に述べた診療科すべての協力なしには糖尿病性足潰瘍の治療は完結しない。これらの取り組みは糖尿病性潰瘍の下肢切断を回避でき、潰瘍治癒率を促進することが可能であり必ず実施しなければならないチーム医療である 1, 3)。 1.日本における足病医療の現状 欧米には足の診療を専門にする学問である足病学(Podiatry)があり、その診療を専門にする足病医(Podiatrist)という国家資格が存在する。「足が痛い」という症状一つにおいてもさまざまな疾患より足の痛みは生じる(図1)。日本の患者は足の症状について自身で考え、診療科を選択し受診する必要があるが、欧米では足病医を受診することで足に関するすべての疾患を診てくれる。足病・足外科認定医の主な診療内容は、足のイボ、ガングリオン、シャルコー足、モートン病、外反母趾、靴のトラブル、足根管症候群、中足骨骨頭痛、足底腱膜炎、足底線維腫、水虫、内反小趾、糖尿病性足潰瘍、虚血下肢など多彩な疾患を取り扱う(図2)。しかし、日本では足病学による教育や専門医制度がないため、疾患により形成外科、整形外科、外科、血管外科、循環器内科、皮膚科などの診療科が各科で足病患者の診療に当たっている。しかし、チーム医療や横断的な診療がなされていない場合には、それぞれの専門外の疾患については対応が困難なケースが生じる。また、日本においては、「足が痛い」と感じたとしても、原因が分からない段階でどの診療科を受診してよいか分からないため、足の症状を放置する患者が多く存在することが想像される 6)。図3に示すように「足が痛い」という主訴で来院された患者をアセスメントするとさまざまな疾患が認められ、それらすべてが関与して足の痛みを呈している。これらの疾患すべてに治療介入することで患者の症状を改善する。また、同時にフットケアとフットウエアを処方することで生涯歩ける足を守ることが可能となる。
はじめに 骨粗鬆症は骨強度の低下により脆弱性骨折を来す症候群である。一般に骨強度は約70%が骨密度で、残りの約30%が骨質で規定されると考えられている。原発性骨粗鬆症は加齢依存性の疾患であり、高齢者に多い。どのようにして加齢が骨密度低下および骨質劣化をもたらすのか?本稿では主に内分泌代謝の視点からその病態を概説する。 1.骨代謝と骨粗鬆症 骨は骨吸収―骨形成の一連の過程からなるリモデリングによって常に活発な代謝を営んでいる。リモデリングはリモデリング単位という骨表面の無数の微小空間において、一見同調せずにランダムに起こる。ある瞬間のこの総和が生体全体での骨吸収、骨形成として捉えられることになる。リモデリングにおいて骨吸収は必ずほぼ同程度の骨形成を伴うことから、全体として骨吸収と骨形成はほぼ平衡状態にあり、骨の量は一定に保たれている。この骨代謝の恒常性の破綻が骨粗鬆症をもたらすことになる。 リモデリングは劣化した骨を改変再構築するために必要な現象である(図1) 1)。骨形成低下などに基づきリモデリングが減少すると、骨密度はあまり低下しないが、骨の質が悪くなり骨強度が低下する。これを低骨代謝回転型骨粗鬆症と呼ぶ。加齢そのものや、糖尿病や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの生活習慣病においてみられる病態である。一方、リモデリングが過剰に活発化すると吸収ー形成バランスが負に傾き骨密度低下をもたらす。同時にリモデリング単位数の増加自体が骨微細構造を変化させて骨強度の低下をももたらす。これが高骨代謝回転型骨粗鬆症の基本病態であり、閉経後骨粗鬆症や原発性副甲状腺機能亢進症などで典型的にみられる。これらの病態は独立して起こるのではなく、実際の生体においては混在して複雑な病態を形成していると考えられる。また、後述するように性ホルモンや副甲状腺ホルモン(PTH)など、さまざまなホルモンが骨代謝回転の生理的な制御に関わっており、内分泌環境の変化は骨代謝に大きな影響を及ぼす。 図1 骨代謝回転(リモデリング)と骨強度との関係(文献1より改変)
骨粗鬆症は高齢者の骨折の原因である。一方で、適切に骨粗鬆症を治療することにより骨折を減らせることが実証されている。高齢者の骨折予防は喫緊の社会的課題であり、医療の最前線を担う多くの内科医が果たすべき役割は大きい。内科医は生活習慣への介入と薬物療法を中心にして治療にあたることから、疾患を病態から診ることが習慣となっている。そのため、骨粗鬆症の診療にあたっても、その病態をしっかりと理解することによって、初めて、自信を持って骨折予防という目的を見据えた治療に臨むことができる。しかしながら、骨折予防は薬剤による骨粗鬆症治療で完結するものではなく、骨に大きな外力が及ぶことを予防することも必要である。そのためには、適切な運動および食事の指導による転倒予防やフレイル対策など、非薬物療法が重要である。さらに、薬物療法は長期にわたって継続して初めて骨折予防が可能となることから、治療を継続するための患者支援も必要となる。これらの対応は、糖尿病をはじめとする生活習慣病を診療する内分泌代謝・糖尿病内科医が日々実践しているものであり、そのような診療姿勢を骨粗鬆症診療にも適用することに障壁はないと思われる。 このような背景から、本特集は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの読者に向けた、骨粗鬆症診療のエッセンスを網羅した内容になっている。治療を必要とする患者のスクリーニング、内分泌代謝の視点からみた病態、多くの内分泌疾患や糖尿病と骨粗鬆症との関係について、各々の領域の第一人者に解説していただいている。さらに、薬物療法の考え方や集学的治療、そして骨粗鬆症治療の支援に至るまで幅広い内容を網羅している。本特集は、これまで骨粗鬆症に馴染みの薄かった医師にとってはもちろんのこと、ある程度日々の診療で対応していた医師にとっても、明日からの骨粗鬆症診療の実践の糧となる充実した内容となっているものと確信している。多忙な中、労を惜しまず充実した論文を執筆していただいた筆者の皆様に感謝するとともに、読者の皆様の診療に活用していただけることを願って止まない。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System制度(DPC/PDPS:1日当たりの包括評価制度)は、2003年に82の特定機能病院を対象に導入された、急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度であり、DPCは「診断群分類」を、PDPSは「1日ごとの支払い方式」を意味し「包括医療費支払い制度」とも呼ばれている 1)。その後、2年ごとの診療報酬改定時には対象病院は段階的に拡大され、2022年の診療報酬改定時には対象病院1,764病院483,425床、準備病院259病院22,464床となり 2)、急性期一般入院基本料などに該当する病床の約85%を占める 3)。そして2022年においてもDPC/PDPSが改定されている。 よって今回は、糖尿病・内分泌プラクティスWebの第1回(通算64回)連載のテーマとしてDPC/PDPSを選び、2022年の診断群分類点数表や定義テーブルなどの改定内容に基づき、制度の基本的概要および糖尿病に係るDPC/PDPSについて概説する。 1.2022年度診療報酬改定におけるDPC/PDPSの基本的概要 1, 3) DPC/PDPS対象の医療機関(DPC対象病院)は、診断群分類ごとに設定される在院日数に応じた3段階の定額点数(表1の入院期間Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ) 4)に、医療機関ごとに設定される医療機関別係数を乗じた点数を算定する(図1)。 表1 厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法の一部を改正する件 診断群分類点数表 糖尿病に関わる箇所の抜粋(文献5より) 画像をクリックすると拡大します 表1 厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法の一部を改正する件 診断群分類点数表 糖尿病に関わる箇所の抜粋(文献5より) $(".vol1_r14_01").modaal(); 図1 包括評価部分(文献1より) 医療機関別係数は、基礎係数、機能評価係数Ⅰ、機能評価係数Ⅱ、激変緩和係数の合計であり、基礎係数は医療機関群(大学病院本院群、DPC特定病院群、DPC標準病院群)ごとの基本的な評価、機能評価係数Ⅰは医療機関における全ての入院患者が算定する項目について係数化、機能評価係数ⅡはDPC対象病院ごとに6つの係数(保険診療係数、効率性係数、複雑性係数、カバー率係数、救急医療係数、地域医療係数)を基本的な項目として評価、激変緩和係数は診療報酬改定時の激変を緩和するため、改定年度1年間に限り設定している係数である。
正直に告白しよう。もう、かれこれ1年ほどサイクリングをしていない。最後にロードバイクに跨がったのは、2021年11月14日に立川の国営昭和記念公園を往復した84kmの行程である。自転車通勤に至っては、同年11月4日が最後になっている。 最大の要因は、部長室の荒廃振りである。未整理の書類や雑誌、学会誌などが、林立する高層タワーマンション群のようにそびえ立ち、コンパクトにまとめられることが取り柄の折りたたみ自転車ですら、その存在を許す余地が残されていないのである(写真1)。かつてはここにも、悠々とロードバイクを置いておけるだけのスペースがあったはずなのだが(写真2)、時代の波には逆らえず、遊び場を奪われた子どものように、狭くなった部屋で縮こまっている。 写真1 林立する高層マンションにより荒廃した部⾧室写真2 かつてはロードバイクを置く余裕もあったはずなのだが… 次なる要因として、我が愛車MGBマーク1の復活を挙げねばなるまい。1964年製のこの車を購入したのは1996年5月のことであるが、2019年11月1日に順天堂大学の前で致命的なエンジン故障を起こし、長期にわたる修理期間を余儀なくされた。エンジンをオーバーホールして、ついでにボディも全部塗り替えた。元の姿に戻って納車されたのは、2020年の10月である(写真3)。それからは、慣らし運転や細かな不具合の確認のためと言いながら、車に乗る機会が増えてしまった。折しもコロナ禍のため、近場なら自転車で行くのだが、15km以上離れたところへとなると、感染を恐れて鉄道ではなく、自動車を使わざるを得なかった。 写真3 レストアされたMGB Mk1 若洲海浜公園でのMGB 60th Anniversary Meetingにて
はじめに 世界保健機関(WHO)から「Adherence to long-term therapies : evidence for action」という報告書 1)が発せられ、特に慢性疾患における服薬アドヒアランスの重要性が強調されてから20年もの月日が経過した。この間に経口血糖降下薬は9つの薬効群にまで増え、さらには糖尿病治療薬においてもOD錠や配合錠などが登場し、治療選択肢が格段に増えた。しかしながら、長期にわたる日々の治療の主体は患者であり、医学的に適切な薬剤が処方されたとしても、適切な服薬が遂行されなければ、期待される効果は得られにくくなる。したがって、服薬アドヒアランスは薬物治療の土台として重要な要素である。服薬アドヒアランスは患者だけにその責任が押し付けられるものではなく、医療者とともに作り上げるべきものであり、医療者の関わり方や工夫でその方向性がいかようにも変わり得る可能性が多面的に示唆されている。なお、服薬アドヒアランスとは、患者自ら理解して積極的に薬物治療に参加することと定義されている。 2型糖尿病患者を対象に、服薬アドヒアランスとHbA1c値の関係を検討した海外の報告 2)によると、服薬アドヒアランス良好群は不良群と比較して、HbA1c値が1.3%有意に低値であったことは注目に値する。 服薬アドヒアランスが良くないことを服薬ノンアドヒアランスと呼ぶこともある。服薬ノンアドヒアランスは、副作用・費用・手間などに起因した自己判断による「意図的」なノンアドヒアランスと、服用の意思はあっても失念や多忙を理由とした「非意図的」なノンアドヒアランスに分類される 3, 4)こともあり、この考え方に基づいたアプローチも服薬アドヒアランスの改善において一助となる可能性がある。 図1のように、服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因を考える際には薬剤側、患者側、医療者側の3つに分けて考えられることが多いが 5)、各要因は相互に複雑に絡み合っていることも想定され、一つ一つひもときつつ、定期的・継続的な評価を繰り返すという地道な取り組みが必要になると考えている。本稿では服薬アドヒアランスに影響し得る要因のいくつかを紹介してみたい。 図1 服薬ノンアドヒアランスを招く諸要因(文献5より改変) 近年はスティグマという観点から、「服薬アドヒアランス」との用語を「服薬実施率」などの表現に変換することが推奨されることもあるが、本稿では引用文献などの記載に基づき「服薬アドヒアランス」を使わせていただく。 1.服薬アドヒアランス向上のヒント 1)用法について 服薬アドヒアランスの低い患者群では、「薬を服用する時間が煩雑だ」という回答が多く、また、昼の服薬アドヒアランスは、朝・夕・就寝前と比較して有意に低いとの報告 6)がある。したがって、複数の併用薬の用法が1日においてできるだけシンプルであることが望ましく、さらには昼に服薬をしなくても済むような薬剤の活用を検討することは意義があると考えられる。 服用薬剤数が6種類以上であっても服薬状況が良好な患者は、そのほとんどが朝1回の用法に集中していたとの報告 7)もあり、検討の余地があるのであれば1日1回に集約するような工夫によって服薬アドヒアランスの改善が期待できる可能性もある。 1錠中に2成分を含有している配合錠の活用を検討することは、表面的な服用錠数を減らすという意味では用法の簡素化の一助として期待され、さらには配合錠の方が薬価としても割安になる点はメリットの一つと考えられる。ただし、2成分が含有されていることを、患者および服薬補助者などが適切に理解しておくことがリスクマネジメントなどの観点では肝要と考えられる。 服用回数を大幅に減らすという観点では、DPP-4阻害薬の週1回製剤も挙げられるが、服薬アドヒアランスへの影響については患者背景なども考慮する必要がある。週1回という服用頻度がシンプルかつ簡便で服薬管理に好意的なケースもあれば、併用中の他剤との兼ね合いからそこまでのメリットを享受できず、飲み忘れのリスクが懸念されるケースも想定されることから、患者の意思や服薬環境を各医療スタッフの視点で確認・評価することも大切であると思われる。
はじめに 2型糖尿病における腎機能障害は、スルホニル尿素(SU)薬による低血糖やビグアナイド薬による乳酸アシドーシスなど、経口血糖降下薬による臨床上重要な有害事象と関連が深い。薬剤により異なる、代謝および排泄における腎の寄与や、代謝物の血糖低下作用を理解することが、有害事象回避のために重要である。近年は、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下やアルブミン尿の抑制に効果のある薬剤の登場により、腎機能低下を有する2型糖尿病の治療は大きく変わりつつある。すなわち、腎機能の低下につれて選択肢が狭まっていく、という消極的な薬剤調整だけではなく、腎保護作用を期待しあえて選択する、という積極的な調整ができるようになった。本稿では、薬物代謝と糖代謝が腎機能低下によってどう変化するかについて述べ、腎機能低下時の薬剤選択における注意点、腎保護作用を持つ薬剤の現時点でのエビデンスについて概説する。 1.腎機能低下が糖代謝および薬物代謝に与える影響 腎臓は、糖新生の約25%を担っており、肝臓に次ぐ糖新生臓器である 1)。2型糖尿病では糖新生が亢進するが、非糖尿病と比較した臓器別の糖新生増加率は、肝臓が約1.3倍に対し腎臓が約3倍と、肝よりも腎の増加が顕著である 2)。加えて、腎はインスリンの分解を部分的に担っており、その機能低下によりインスリンの代謝および排泄が遅延し、高インスリン血症が生じる。したがって腎機能低下時には糖新生およびインスリンクリアランスが低下し、低血糖が起きやすく、また遷延しやすくなる。一方、主に骨格筋におけるインスリン抵抗性は、eGFR 45(mL/min/1.73m2)未満となる慢性腎臓病(CKD)分類ステージ3b以降で増大する 3)。 腎機能低下時は、薬剤の代謝および排泄能力も低下するため、薬剤効果が増強および遷延する。肝代謝の薬剤であっても、中間代謝産物が血糖降下作用を有しており、投与量の調整が必要な場合がある。
はじめに 2型糖尿病は心血管疾患のリスクファクターであり、実際に心血管疾患を発症することはまれなことではない。本稿では心血管疾患のある2型糖尿病患者に対して、どの糖尿病治療薬を使用すべきか検討したい。 近年、経口血糖降下薬が増え、多くの介入試験が施行されている。われわれは治療薬それぞれの持つ作用を理解するとともに、イベント抑制効果が十分に実証されているかどうかについても理解しておく必要がある。そして、特に心血管疾患のある2型糖尿病患者で注目したい薬剤がSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬であり、その2製剤を中心に概説する。また、糖尿病患者において低血糖がしばしば問題になるが、低血糖と心血管イベントとの関係についても触れておきたい。 1.SGLT2阻害薬 1)SGLT2阻害薬の作用機序 SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮する。さらに体重減少、降圧、脂質改善といった効果なども認められている。また、インスリンを介した作用とは異なるため、単独では低血糖を来す可能性は低い。ただし、血糖低下作用は近位尿細管を介する作用であり、腎機能が低下した患者ではその効果が減弱するため、腎不全や透析例に血糖コントロール目的には使用しない。 2)SGLT2阻害薬の多面的効果 大規模臨床試験において、SGLT2阻害薬は心血管疾患を有するといった心血管リスクの高い2型糖尿病患者の心血管イベントを有意に減少させることが実証されている。心血管疾患のある2型糖尿病患者を対象にしたEMPA-REG OUTCOME試験では、エンパグリフロジンの使用により主要評価項目である心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中を合わせた複合心血管イベントのリスクが有意に低下した(図1A) 1)。また、心血管死、全死亡、心不全入院のリスクも有意に低下した(図1B ~ D) 1)。また、心血管リスクの高い2型糖尿病患者(50%以上に心血管疾患の既往あり)を対象にしたCANVAS試験においても、カナグリフロジンの使用により心血管イベントリスクが有意に低下した 2)。 画像をクリックすると拡大します 図1. エンパグリフロジン使用による心血管イベントと全死亡について(文献1より) 図1. エンパグリフロジン使用による心血管イベントと全死亡について(文献1より) $(".vol1_t5_01").modaal();
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