4.甲状腺機能低下症の鑑別診断と治療

  • 中嶋遥美 Nakashima, Yomi
    長崎大学病院 内分泌・代謝内科(第一内科) 助教
    今泉美彩 Imaizumi, Misa
    放射線影響研究所 長崎臨床研究部 副部長
公開日:2023年8月2日

はじめに

 甲状腺ホルモンの作用は「代謝の亢進」であり、全身の諸臓器に作用する。甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの作用が不足している状態であり、臨床症状として、全身倦怠感、無気力、動作緩慢、耐寒性の低下、傾眠、体重増加、浮腫、便秘、嗄声、徐脈などを呈する。甲状腺ホルモンは視床下部-下垂体-甲状腺系により制御され、障害部位によって甲状腺におけるホルモン産生・分泌障害に起因する原発性甲状腺機能低下症と、視床下部・下垂体障害による中枢性甲状腺機能低下症に大別される。また重症度により顕性と潜在性に分類され、潜在性甲状腺機能低下症を含めると人口のおよそ10%を占める頻度の高い疾患である。多くは慢性甲状腺炎による原発性甲状腺機能低下症だが、病型や患者背景によって治療目標や治療上の注意点が異なるため、鑑別診断が重要である。

1.検査の組み立て方

 甲状腺機能低下症の診断ガイドラインを表1に示す 1)。びまん性の甲状腺腫を認める場合や、甲状腺機能低下症を示唆する症状(易疲労感、耐寒性低下、便秘、体重増加、浮腫、不妊)や一般生化学・生理検査の異常(総コレステロール高値、クレアチンキナーゼ高値、肝機能異常、貧血、徐脈、心拡大など)があれば、遊離サイロキシン(FT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定する。FT4が低値を甲状腺機能低下症と診断し、同時に測定したTSHが高値なら原発性甲状腺機能低下症、低値~正常値であれば中枢性甲状腺機能低下症と診断する。中枢性甲状腺機能低下症の場合は、他の下垂体前葉ホルモンの分泌異常がないかを確認し、下垂体MRIにより腫瘍や炎症、外傷の有無を評価する。

表1 甲状腺機能低下症の診断ガイドライン(日本甲状腺学会: 甲状腺疾患診断ガイドライン2021(https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html#teika)より)
表1 甲状腺機能低下症の診断ガイドライン(日本甲状腺学会: 甲状腺機能低下症の診断ガイドライン. 甲状腺疾患診断ガイドライン2021(https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html#teika)より)

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