1.甲状腺疾患診療の基礎知識
はじめに
甲状腺疾患の特徴は、甲状腺腫と甲状腺機能異常に基づく多彩な症状を呈することである。表1は、種々の甲状腺疾患を甲状腺腫(びまん性または結節性)の有無と甲状腺機能によって分類したものである。それぞれの疾患の詳細は各論を参照されたい。

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1.甲状腺疾患の頻度
甲状腺疾患は、頸部の腫れや甲状腺機能異常の症状で自ら医療機関を受診し診断される場合と、検診や人間ドックで無症状(または有症状と自覚していない)ながらも医師によって甲状腺ホルモン疾患が疑われて検査・診断される場合がある。したがって、頻度を考える場合は、母集団の選び方によるバイアスを考慮しなければならない。たとえば、ドックによる検出では、有症状ですでに医療機関を受診している集団があらかじめ除外されている可能性がある。逆に、潜在性の甲状腺機能異常症はドックや健診でないと見過ごされてしまう。そのことを意識しながら以下の統計を参考にされたい。
1)甲状腺機能異常の頻度
(1)人間ドック
ある施設の調査では、2,074人中、顕性甲状腺機能低下症0.5%、潜在性甲状腺機能低下症4.7%、顕性甲状腺機能亢進症0.4%、潜在性甲状腺機能亢進症0.8%で、抗サイログロブリン抗体(TgAb)陽性9.5%、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)陽性16.0%であった 1)。別の施設の調査では、1,818人中、顕性甲状腺機能低下症0.7%、潜在性甲状腺機能低下症5.8%、顕性甲状腺機能亢進症0.7%、潜在性甲状腺機能亢進症2.1%であった。TgAbまたはTPOAbがいずれか陽性は、男性で17.7%、女性で31.4%であった 2)。