5.ナトリウム代謝と緊急症―高/低Na血症の鑑別診断と緊急時対応のポイント

  • 宮田 崇 Miyata, Takashi
    名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学 特任助教
    有馬 寛 Arima, Hiroshi
    名古屋大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授
公開日:2023年6月8日

はじめに

 血清ナトリウムの異常は最も頻度の高い電解質異常である。本稿では、低ナトリウム血症と高ナトリウム血症の病態、症状、鑑別診断、治療について、原因となる代表的な内分泌疾患とともに述べる。

1.低ナトリウム血症

1)病態

 血清ナトリウム濃度は総ナトリウム量と細胞外液量によって規定され、低ナトリウム血症は血液中のナトリウムの量より水分の量が相対的に多くなっている病態である。低ナトリウム血症は、細胞外液量減少、細胞外液量ほぼ正常(ないし軽度増加)および細胞外液量増加に伴うものの3つに分類される。細胞外液量の減少を伴う低ナトリウム血症では、腎性もしくは腎外性のナトリウム喪失により二次的に細胞外液量が減少するため、脱水所見が認められる。腎性ナトリウム喪失は、利尿薬投与、塩類喪失性腎症、原発性副腎皮質機能低下症などが、腎外性ナトリウム喪失は、嘔吐・下痢、熱傷、急性膵炎などが原因となる。細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症には、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)、続発性副腎皮質機能低下症が含まれる。細胞外液量の増加を伴う低ナトリウム血症は、うっ血性心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群などであり、有効循環血漿量はむしろ低下しているため腎臓でのナトリウムと水の再吸収が増加するが、総ナトリウム量の増加を上回る水貯留のため希釈性低ナトリウム血症をきたす。

2)症状

 低ナトリウム血症では脳浮腫による中枢神経症状を呈するが、その症状は低ナトリウム血症の程度と進行速度によって異なる。血清ナトリウム濃度が120mEq/L以上では全身倦怠感、頭痛、食欲低下などの症状にとどまることが多いが、110mEq/L以下になると意識障害や痙攣、昏睡を呈し、さらには脳浮腫による脳ヘルニアを合併することもある。一方で、低ナトリウム血症が急速に進行する症例では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L程度であっても、意識障害などの重篤な症状を呈することがある。逆に慢性の経過では、重度の低ナトリウム血症でも無症状から軽度の症状であることが多い。

3)鑑別診断

 細胞外液量の評価を行い、細胞外液量減少、細胞外液量ほぼ正常(ないし軽度増加)および細胞外液量増加に伴う低ナトリウム血症を鑑別するが、実臨床では低ナトリウム血症の鑑別診断は困難を伴うことが多く、特に細胞外液量の減少とほぼ正常との間の鑑別が問題となる。細胞外液量減少を示唆する所見として、口腔粘膜乾燥、皮膚ツルゴール低下、体重減少、血圧低下・頻脈、BUN/Cr比上昇、血清尿酸値上昇などが知られているが、実際には治療前には確定的な診断には至らず、治療に対する反応を振り返りながら治療後に鑑別していく症例も少なくない。

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