3.下垂体副腎系の緊急症―副腎クリーゼと下垂体卒中、褐色細胞腫による緊急症

  • 柳瀬敏彦 Yanase, Toshihiko
    誠和会牟田病院 院長
公開日:2023年5月30日

はじめに

 副腎クリーゼ(急性副腎不全症)や褐色細胞腫クリーゼは、放置すれば致死的病態に至る内分泌性緊急症の代表的疾患である。副腎クリーゼではステロイドが急激に絶対的または相対的に欠乏することで循環障害やショックに至る。慢性副腎不全症患者に種々のストレス(感染、外傷など)が加わり、ステロイド需要量が増加した場合や膠原病、自己免疫疾患などで長期服用中のステロイド薬が不適切に減量・中止された場合の発症が多い 1)。ステロイド補充や投与の病歴聴取が診断の鍵となるが、症状が非特異的であるため、救急対応において診断に難渋する場合も少なくない。下垂体卒中は副腎クリーゼの成因の一つであり、下垂体腺腫の突然の出血や梗塞によってACTH、コルチゾールの急激な分泌低下をきたす 2)。一方、褐色細胞腫・パラガングリオーマは副腎髄質または副腎外傍神経節に存在するクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生性の神経内分泌腫瘍で、潜在的に転移性であることから、悪性腫瘍の取り扱いとなっている。薬剤、造影剤、食事、排尿など種々の要因によりカテコールアミンの急激な過剰分泌をきたし、顕著な高血圧(高血圧クリーゼ)や標的臓器障害が誘発される 3)。本稿ではこれらの病態と加療について概説する。

1.急性副腎不全症(副腎クリーゼ)の病態、原因、診断、加療

1)病態

 副腎皮質ステロイドとしては、球状層からアルドステロン、束状層からのコルチゾール、網状層から副腎アンドロゲン(DHEA、DHEA-S)の3つの主要なホルモンが合成分泌され、特に前2者はそれぞれ糖質代謝、電解質バランスの調節に関与し、われわれの生命維持に不可欠の役割を果たしている。急性副腎不全症(副腎クリーゼ)は、グルココルチコイド(glucocorticoid:GC)を中心とするステロイドの生体内での必要量に比べて供給量が絶対的または相対的に欠乏するために起こる循環不全を中心とする内分泌緊急症である。GC欠乏だけでなくアルドステロンなどのミネラルコルチコイド欠乏によるナトリウムの喪失と体液量の減少、GCの影響下にあるカテコールアミンの合成と作用の低下、クリーゼ発症誘発の契機となった疾患の循環動態障害などがそれぞれ病態に関与する 1)
 423例の慢性副腎不全症(原発性221例、続発性202例)を後方視的に解析した報告では100人当たり8.3件の副腎クリーゼが観察されている 4)。458例の副腎不全を解析した別報告では、副腎クリーゼの誘因としては胃腸炎が最も多かったと報告されている 5) 。わが国のアジソン病の疫学調査では副腎クリーゼの誘発要因は感染症が半数以上を占め、次いでステロイド薬の中断が多かった 6)

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