4.甲状腺疾患による緊急症―甲状腺クリーゼと粘液水腫性昏睡
公開日:2023年6月6日
No:a0036/https://doi.org/10.57554/a0036
はじめに
甲状腺クリーゼと粘液水腫性昏睡は、甲状腺疾患(主にバセドウ病や橋本病)を基盤に発症する致死的な内分泌緊急症(死亡率は前者が約10%、後者が約30%)であり、的確な早期診断と迅速な集学的治療の開始が患者の生死を左右する。しかしながら、両緊急症の疫学的データの不足により、2005年ごろに診断基準や治療指針が国際的にも未確立であった経緯があり、日本甲状腺学会は両緊急症の診断基準と治療指針の作成を臨床重要課題に指定した(甲状腺クリーゼは日本内分泌学会でも指定)。甲状腺クリーゼは、全国疫学調査で収集した臨床データをもとに診断基準と治療指針が作成され、「甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017」として刊行されている 1)。粘液水腫性昏睡は、日本甲状腺学会員を対象とした2008年の実態調査により収集した臨床データをもとに診断基準第3次案と治療指針案が作成・公表されている。両緊急症ともに死亡率が高く、緊急治療が必要な病態であるため、救急医・一般内科医・循環器内科医などの非甲状腺専門医が初期診療にあたるケースが多い。そのため、救急診療に携わる医療従事者は本症の診断や治療法についてよく理解しておくことが重要である。本稿では両緊急症の診断基準と治療指針を中心に概説する。