6.カリウム代謝と緊急症―高/低K血症の鑑別診断と緊急時対応のポイント

  • 菱田吉明 Hishida, Yoshiaki
    聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科 助教
    曽根正勝 Sone, Masakatsu
    聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科 主任教授
公開日:2023年6月15日

はじめに

 ナトリウムイオン(Na+)が細胞外液の主要な陽イオンであるのに対し、カリウムイオン(K+)は細胞内液の主要な陽イオンである。全身のK貯蔵量は約3,000mEq(50~75mEq/kg体重)であり、細胞内にはこの約98%が存在することになる。細胞内K濃度は約150mEq/L、また細胞外は約3.5~5.5mEq/Lであり、この濃度勾配が細胞の静止膜電位の最重要形成因子である 1)。これは細胞膜に存在するNa-K-ATPaseにより、能動的に細胞内へ2つのK+を取り込み、細胞外へ3つのNa+を放出することによって成立している。静止膜電位は正常な神経・筋の機能に不可欠な活動電位発生に寄与しており、細胞外K濃度が低くなると静止膜電位はより陰性になり(=過分極)、細胞外K濃度が高くなると静止膜電位は陰性が減弱する(=脱分極)。この変化に最も影響を受ける臓器は筋肉と心臓であり、低K血症と高K血症は共に麻痺、痙攣、あるいは致命的な不整脈を引き起こし得る。ここではその診断と緊急時の対応について述べることとする。

1.体内のカリウム調節機構

 Naと違い、細胞外液のK濃度は約4mEq/Lと低い濃度にコントロールされており、Kの摂取はその濃度の急上昇につながりかねない。そのため、体内にはいくつかのカリウム調節機構が存在する。急性調節機構(分単位)として細胞内Kシフトを行い、慢性調節機構(時間単位)として腎臓あるいは腸管からK排泄を行っている。そのため、低K血症あるいは高K血症はこれらの調節機構に異常をきたした場合に発症する。
 細胞内Kシフトには主に3つの関連因子が存在し、それはインスリン、β2カテコールアミン(甲状腺ホルモン)、および酸塩基平衡異常である。インスリンは細胞膜上のインスリン受容体に結合することでNa/H交換輸送体が活性化して細胞内Na濃度が上昇し、そのためNa-K-ATPaseが活性化されKの取り込みが亢進する。インスリンと同様に、β2カテコールアミン(および甲状腺ホルモン)は骨格筋のNa-K-ATPaseを活性化し、Kの取り込みを亢進する。また、β2カテコールアミン受容体は内向きのNa-K-2Cl共輸送体も活性化し、カテコールアミンに対するK取り込み反応の3分の1を占めると考えられている 2)。酸塩基平衡異常に関して、まず代謝性アルカローシスにおいては電気的中性を維持するために細胞内からH+が細胞外に移行し、Na/H交換体が活性化し、Na-K-ATPaseが活性化されK+の取り込みが亢進する(=低K血症をきたす)。代謝性アシドーシスにおいてはその原因によりK+の移動が異なる。尿細管アシドーシス(RTA)や下痢などに代表される無機酸アシドーシス(すなわちアニオンギャップ非開大性代謝性アシドーシス)では、H+に伴う陰イオン(Cl- など)が細胞内に取り込まれず、H+のみが細胞内に入るために、代わりにK+が細胞外に移動する(=高K血症をきたす)。しかしながら乳酸アシドーシスや糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に代表される有機酸アシドーシス(すなわちアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシス)では、その有機アニオンがH+を伴って細胞内に入るため、K+の移動はきたさない。この移動にはNa-有機アニオン共輸送体(sodium-organic anion cotransporter)の関与が論じられている 3)。呼吸性の酸塩基平衡異常に関しては、その血清K変動は極めて小さいことが報告されているが 4)、メカニズムはよく分かっていない 3)
 次に主な慢性調節機構である腎臓でのカリウム排泄について簡単に述べる。糸球体で濾過されたK+はそのほぼ全てが近位尿細管とヘンレループの上行脚で再吸収されるため、排泄されるK+は遠位尿細管から主に皮質集合管の主細胞から分泌されたものに由来する 5)。そのため、腎臓におけるカリウム排泄には皮質集合管における3つの因子が重要とされ、図1に示す。1つ目が皮質集合管腔における非吸収性陰イオンの存在で、皮質集合管腔に多くの陰イオン(HCO3-や一部のケトン体など)があると、これに引っ張られてK+分泌が増加する。2つ目がアルドステロン作用で、図1のようにアルドステロンはENaC(アミロライド感受性上皮型Naチャンネル)、ROMK1、およびNa-K-ATPaseのそれぞれの発現数を増加させ活性化して尿中へのK排泄を増加させる 6~8)。3つ目が皮質集合管への十分なNaと水の到達することであり、皮質集合管へのNaの十分な到達(distal Na delivery)は、ENaCでの十分なNa再吸収とこれに伴うROMK1でのK排泄に関与しており、十分な水の到達は尿流の増加によってK分泌を促進するbig K+ channel(BK)に関与する。

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