7.カルシウム代謝と緊急症―高/低Ca血症の鑑別診断と緊急時対応のポイント
はじめに
血清Ca濃度は、i)腸管からのCa吸収、ii)骨吸収によるCa動員、および iii)腎尿細管でのCa再吸収で規定され、共用基準範囲は8.8~10.1mg/dLである。このうち生理作用に関わるのは約50%を占める遊離イオン化Caだが、血清蛋白の影響を受けるため、アルブミン濃度が4.0mg/dL未満では以下のように補正して評価する。
補正Ca濃度(mg/dL)=実測Ca濃度(mg/dL)+〔4 -血清アルブミン濃度(g/dL)〕
軽度で緩徐な基準範囲の逸脱は気付かれないことが多い。一方、症状を伴う血清Caの異常値は適切な対応を必要とする緊急症である。
1.高Ca血症
1)症状・症候
軽度の高値や慢性経過例では、ほとんど自覚症状がないか、食欲不振や易疲労感、便秘などの非特異的症状であり気付かれにくい。尿濃縮障害による低張性多尿が存在するため、脱水症になりやすく、尿Ca排泄量が低下すると血清Caが上昇し、記憶障害や傾眠などの中枢神経障害に至る。表1に高Ca血症の症候を示す 1)。

2)病態生理
血清Ca濃度は、主に副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)と活性型ビタミンD(1α, 25(OH)2 vitamin D)によって恒常性が維持されている。これらの液性因子が標的臓器に作用し、腸管からのCa吸収、破骨細胞を介する骨吸収によるCa動員および腎からのCa再吸収による体内Ca増加量が、腎排泄量を上回ると高Ca血症に至る。高Ca血症では腎近位尿細管のヘンレループ上行脚のCa感知受容体が活性化され、抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)作用とCa再吸収が抑制される。この結果、尿量および尿中Ca排泄が増加し、短期的には高Ca血症に対し抑制的に作用する。しかし二次性の腎性尿崩症による多尿は脱水症を招き、体液喪失により尿量が低下すると腎Ca排泄低下がさらに低下し血清Caが急激に上昇する悪循環に至る。