はじめに 本態性高血圧の成因については複数の因子が互いに関連しながら関与しているという、いわゆるモザイク説が約80年前にPageにより提唱された 1, 2)。その中でも食塩、本稿で述べるところのナトリウム(Na)調節異常は中心的因子といえる。Guytonらは血圧上昇とともに尿中食塩排泄が増えることを発見し、血圧と腎におけるNaと水排泄との関係、すなわち圧利尿(Na利尿)曲線を明らかにし、この曲線が右側にリセットされることにより高血圧が持続するとした。これは高食塩下において腎でのNa排泄が不十分であることが細胞外液増加につながり、心拍出量の増加と末梢血管抵抗が上昇することで血圧が上がるとする理論である 3)。本稿では、高食塩下でのNa(ここでは食塩と同義)調節異常と本態性高血圧について述べる。
Q&A編はこちら はじめに 糖質コルチコイド(以下ステロイド)はどの分野においても診療の中で使用することの多い薬剤である。しかし、ステロイドには血中半減期・生物活性半減期・力価の異なるさまざまな製剤が存在することや、各疾患によって投与量や投与方法、減量速度などが異なること、副作用に注意しなければならないことなどから、煩雑だと感じる医師も少なくない。本稿では各種ステロイドの特徴とその使い分けについての基本事項と、内分泌領域での使用例、ステロイドカバーについて述べ、実際の症例を紹介する。
はじめに 血管調節は血管平滑筋と血管内皮による収縮と弛緩の均衡維持により担われている。本態性高血圧の病態では交感神経系やレニン・アンジオテンシン(RA)系の活性化、酸化ストレス、血行動態の変化、機械的伸展力や物理的刺激の増大によりこの均衡が崩れ、血管収縮の亢進、動脈リモデリング、血管内皮機能障害が生じて、血管緊張(トーヌス)異常をきたし、動脈壁が硬くなり伸展性を失った動脈スティフネスの進行とともに慢性的な高血圧が形成されていく 1, 2)(図1)。本稿では高血圧における血管調節異常の機序を解説し、診断や治療について触れていく。
はじめに 高血圧の発症や進展、高血圧性臓器障害において、交感神経活性化を主体とした神経調節異常が重要な役割を果たしている。交感神経系は、血圧調節に関与する心臓、腎臓、血管などの末梢臓器に強力に作用し、血圧上昇の方向に働く。また、脳は末梢からさまざまな入力を受け、それらを統合・調節し交感神経出力を制御している。本稿では、心・腎・血管の各臓器に対する交感神経系の働きについて概説し、さらに、高血圧における中枢性循環調節機構と、交感神経系亢進の診断と関連する治療について、最新の知見も含めて述べる。
2022年の国民生活基礎調査によると、男女とも「高血圧症」での傷病別通院者率(男性146.7人/人口1,000人、女性135.7人/人口1,000人)が最も高く、その数は年々増加している。高血圧の大半は本態性であるが、近年では検査・治療の進展に伴い二次性高血圧の診断が増えてきている。そこで、この「国民病」に対する造詣をあらためて深め、診療の質の向上を図る企画として本特集を組んだ。 高血圧の最適な診療には、成因・診断・治療エビデンスを適確に理解することが不可欠である。また、高血圧に合併する頻度が高い糖尿病やCKDの病態も同時に把握することが適確な治療薬選択につながる。同時に、近年続々と登場している高血圧およびその関連疾患についての診療ガイドラインの活用も有用である。 本特集では、病因・病態の解説から始まり治療と予後の説明へとシステマティックに展開する読みやすい形式で、この分野のエキスパートドクターにそれぞれ詳説を執筆していただいた。本態性高血圧の成因・診断・治療法に関して、篠原啓介先生には神経調節異常、河原崎和歌子先生には血管調節異常、荒川仁香先生にはナトリウム調節異常の解説をしていただいた。吉田雄一先生・柴田洋孝先生には、主な内分泌性二次性高血圧疾患である原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫・パラガングリオーマを中心とした最新情報を解説していただいた。さらに、角谷裕之先生・杉本 研先生には、本誌の読者にとって非常に関心があるポイントだと思われる糖尿病と高血圧を合併したケースでのマネージメントをご執筆いただいた。また、昨年上梓された「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」を踏まえ、長浜正彦先生には生活習慣修正、亀井啓太先生・今田恒夫先生には降圧薬治療を中心に、 CKD合併高血圧のマネージメントを詳細していただいた。 本特集は、基礎医学的側面と実臨床的側面の両方向からのアプローチによる充実したものとなっていると自負している。読者の方々に、本特集を明日からの日常診療や研究に積極的に活かしていただければ、特集の企画者として至上の喜びである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:下澤達雄;報酬(積水メディカル、EPメディエイト)、講演料(ノバルティス ファーマ、第一三共、サノフィ、大塚製薬)、研究費・助成金(日本ベーリンガーインゲルハイム)、能登 洋;講演料(住友ファーマ、日本イーライリリー、ノボ ノルディスク ファーマ)、研究費・助成金(マルホ) 本記事のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 生体膜の主要な構成成分やエネルギー貯蔵体として重要な役割をもつ脂質の代謝異常はさまざまな疾患の原因となる。肝臓や脂肪細胞での異常は脂肪肝、肥満などのcommonな疾患やまれな脂質蓄積病を引き起こす。また、血中の脂質の大部分を占めるリポタンパクの代謝異常は脂質異常症と動脈硬化症の原因となる。本稿では、これらの臨床的に重要な病態と関連する脂質の代謝異常に関して生化学的観点から概説する。
Q&A編はこちら はじめに 特定薬剤管理指導加算は、適正使用ができていないことで患者に大きな健康被害を及ぼす可能性のあるハイリスク薬に関する服薬指導について、薬剤師の専門的能力を活かし、適正かつ安全な使用ができるよう2010年度調剤報酬改定で新設された。 薬学的知見を最大限活かすことが求められる点数であり、薬剤師の対人業務の中核の一つと言える。 日本薬剤師会が「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン」 1)を策定したことなどを背景とし、ハイリスク薬に関する服薬指導について診療報酬だけでなく、調剤報酬においても処方箋受付1回につき特定薬剤管理指導加算として10点を算定できるようになった。糖尿病薬関連では、「糖尿病用剤」および「膵臓ホルモン剤」が該当する。 つまり、医師のみならず、薬剤師が患者または患者家族に対して、正確に必要な薬剤の情報を伝えることが法的に認められたことを意味し、多くの保険薬局で糖尿病薬を交付する際に責任をもって対応している。しかし、一方で保険薬局での服薬指導にかかる平均時間は3~4分であり 2)、法的に求められる情報提供量を短時間に正確に伝えることは大変難しい。 今回は、糖尿病治療薬の特定薬剤管理指導加算および関連加算の算定条件と、これまでに筆者らがさまざまな背景の患者に対して行ってきた服薬指導について紹介する。
はじめに プロラクチン産生PitNET(プロラクチノーマ)は下垂体前葉から発生するプロラクチン(PRL)を自律分泌する腫瘍である。治療の第一選択はドパミンアゴニスト(DA)、特にカベルゴリンによる薬物療法であり、血清PRLの低下と腫瘍縮小が得られる。プロラクチノーマの多くは女性に発生し、ほとんどはミクロプロラクチノーマ(<10mm)であり、マクロプロラクチノーマ(>10mm)、特に鞍上部進展を伴うものは少ない。高プロラクチン血症は中枢性に性腺機能を抑制し、女性では月経不順や無月経で診断されることが多く、不妊の原因となる 1)。
はじめに 原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)は比較的頻度の高い内分泌疾患であり、40歳以上での発症が多く、男女比は約1:3と女性に多い 1)。そのため、妊娠可能年齢の女性や妊娠中に診断されるケースもある。高カルシウム(Ca)血症をきたしたPHPT合併妊娠では、母体および児にさまざまな合併症をきたし得る。本稿では、妊娠合併PHPTの診断・治療や母体・児への影響について解説する。
ポイント 肥満症患者に外科治療(肥満手術)は有用であり、主に3つの術式が行われているが、本邦で保険適用となっているのは、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)のみである。 2型糖尿病などの肥満関連合併症の改善を目的としたメタボリックサージェリー(代謝改善手術)も近年注目され、先進医療として、腹腔鏡下スリーブバイパス術(LSG-DJB)も行われている。 本邦における手術適応年齢は、現在は18~65歳であるが、世界の動向を鑑みると66歳以上の高齢者や18歳未満の小児・思春期への減量・代謝改善手術も今後行われるようになる可能性が高い。
はじめに 高血圧を合併する妊婦は6~8%であるが、その大部分(88%)は本態性高血圧症で、内分泌性高血圧症は1%未満と非常にまれである 1)。本稿では、妊娠中の内分泌高血圧症として原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)、褐色細胞腫・パラガングリオーマ(pheochromocytoma/paraganglioma:PPGL)の診断・治療について述べる。
はじめに 糖尿病とその合併症に関連した障害に対し、一定の条件を満たす場合には社会保障を受けることが可能であり、その主な社会保障には表1に示すような制度がある。また高額療養費制度、難病医療費助成制度、小児慢性特定疾病医療費助成制度は、費やされた医療費を助成し、障害年金、身体障害者手帳、特別児童扶養手当、心身障害者(等)福祉手当は、生活面を支援する制度である。そして今回は、これらの公的支援制度について、糖尿病に係る内容を概説する。
はじめに 下垂体機能低下症患者では障害されたホルモンに応じて継続的な補充が必要である(表1)。一方で、ホルモンの需要はライフステージやライフイベントにより大きく異なるため、都度調整の必要がある。本稿では妊娠中・出産時・授乳期の女性における課題とホルモン補充について概説する。
Q&A編はこちら はじめに 慢性疾患を有する外来患者へのパーソナルヘルスレコード(personal health record: PHR)をはじめとしたデジタル技術の応用が、治療アドヒアランス、自己管理または自己効力感改善に有効であることが報告されてきている 1)。糖尿病治療においてもデジタル化の波が進んできており、間歇スキャン式持続グルコースモニタリング(intermittently scanned continuous glucose monitoring:isCGM)、コネクテッドインスリンデバイス、PHRを中心とした臨床応用が広がっている。 これら糖尿病関連デジタルデバイスを有効に用いることで、糖尿病治療に関連するさまざまな情報を統合し、治療にフィードバックすることが可能となる。本稿では糖尿病関連デジタルデバイスに関するキーデバイスとその実臨床での応用法、および現在までに得られているエビデンスを含め概説する。
はじめに 妊娠、分娩は女性のライフステージにおいて大きなイベントである。甲状腺疾患は妊娠可能年齢の女性に多く、妊娠前、妊娠中、産褥期のケアについてあらかじめ知識を得ておくことで甲状腺機能異常への対応が臨機応変に可能となり、専門医への紹介のタイミングや産科や新生児科との連携、治療の見通しが立てやすくなる。
はじめに 糖尿病を有する女性は周産期合併症予防のため、妊娠前から妊娠中、分娩後にわたり、厳格な血糖・血圧・体重管理が必要である。妊娠可能年齢の女性には計画妊娠の方法・内容について事前に十分説明しておく必要がある。本稿では、糖尿病を有する女性の妊娠前管理(計画妊娠)と妊娠中、分娩時、授乳期における治療とケアについて解説する。
はじめに 血糖値の恒常性は、インスリンとグルカゴンに代表されるホルモンによって、肝臓の糖産生と末梢組織におけるグルコース利用が調節されることで維持されている。本稿では、これらのホルモンによる肝臓と骨格筋・脂肪組織における糖代謝調節機構について概説する。また後半では、その他の臓器を標的とする糖尿病治療薬としてメトホルミンとSGLT2阻害薬を取り上げ、消化管および腎臓を介した血糖降下作用の機序を紹介する。
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