4.糖尿病性腎症の食事療法

  • 川手由香 Kawate, Yuka
    社会福祉法人 京都社会事業財団 京都桂病院 栄養科 科長
公開日:2024年12月13日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(6): 0083./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(6): 0083.
https://doi.org/10.57554/2024-0083

はじめに

 糖尿病を有する患者も高齢化が進んでおり、高齢者糖尿病は腎症を含む最小血管症や動脈硬化性疾患のほか、認知症、サルコペニアなどの併存疾患をきたしやすい 1)
 糖尿病性腎症の食事療養基準として、「CKDステージによる食事療法基準」(表1)を参照するが、CKDは病期の進展とともに、たんぱく質やリン、カリウム、食塩の制限が必要になる。そして、これらは摂取エネルギー不足となり、Protein Energy Wasting(PEW)をはじめとする低栄養状態を招くことが多い。その上、糖尿病や腎臓病は病態そのものからくる炎症性代謝亢進も加わるため、さらに注意が必要である。
 これらのことを踏まえ、サルコペニアを有する高齢者糖尿病性腎症の食事療法について概説する。

表1  CKDステージによる食事療法基準(日本腎臓学会: 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版. 東京医学社, 東京, 2014, p.2より改変)
表1  CKDステージによる食事療法基準(日本腎臓学会: 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版. 東京医学社, 東京, 2014, p.2より改変)
『慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版』で示されている「CKDステージによる食事療法基準」をベースに、食塩については『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』の内容を考慮し、下限値を外した。
※別表については本出典元を参照のこと

1.サルコペニアを有する高齢者糖尿病性腎症の食事療法

1)エネルギー

(1)CKDステージによる食事療法基準

 エネルギー(表1)は、CKDステージ1~5まで同様で、25~35kcal/kgBW/日と幅がある。CKDはステージが進展すると、たんぱく質をはじめとする各種の栄養素制限が必要になり、それによりエネルギー不足になる患者も多い。そのため、病態、現体重と目標体重の差、身体活動レベルなどを考慮した個別のエネルギー適正量の設定のための幅であると考えられる。

(2)エネルギー不足の傾向と対策

 2型糖尿病を有する高齢患者を対象とした研究で、サルコペニアを有する患者は、サルコペニアを有さない患者に比較して、たんぱく質ではなく、エネルギーと脂質の摂取量が少なかったとの報告がある 2)。サルコペニア対策となると、たんぱく質に注目しがちだが、必要エネルギー量が摂れているのかを確認し、糖質や少量高エネルギー源の脂質の上手な摂取方法を指導すべきである。
 高齢になるとあっさりしたものや口当たりのよい食べ物を好む傾向にあり、脂質の摂取比率が減り、炭水化物では水分が多く、口当たりがよい果物が増え、エネルギーと植物性たんぱく質の大切な供給源の穀類が減る 3)。『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』で確認すると、100g当たりの「米飯」は156kcal、「果物 生」94品の平均は52kcalとなっている。
 当院では入院食で、中鎖脂肪酸油と低リン・低カリウムのプロテインパウダーを使用した少量・高エネルギー・高たんぱく・低リン・低カリウムの粥、味噌汁、スープ、ゼリーなどを栄養サポートチーム(NST)介入とともに提供している。外来患者には中鎖脂肪酸油は高額で、町のスーパーでは容易に入手できないため、ごま油を勧めている。醤油との相性もよく、香ばしいため食欲をそそり、昔からなじみの深い食品である。おすすめレシピは軟らかめのご飯にサケフレークを混ぜ入れ、ごま油と醤油で混ぜた「鮭のやわらかご飯」である。筆者自身、父の介護時に活用し、食欲がなく食べてくれない時でも、このメニューは口を開けてくれた。美味かつ時短のおすすめのメニューである。

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