2.3大栄養素の量と質を考慮した食事療法

  • 梶原伸宏 Kajihara, Nobuhiro
    熊本大学大学院生命科学研究部附属 健康長寿代謝制御研究センター 特任助教
    窪田直人 Kubota, Naoto
    熊本大学大学院生命科学研究部 代謝内科学講座 教授
公開日:2024年11月15日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(6): 0081./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(6): 0081.
https://doi.org/10.57554/2024-0081

はじめに

 糖尿病患者における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しく食事を摂取することにより、合併症の発症または進展の抑制を図る糖尿病治療である。栄養バランスとしてのエネルギー産生栄養素(3大栄養素)の量(比率)、また量だけではなく質も、血糖管理や合併症の抑制において重要である。本稿では、3大栄養素の量と質を考慮した食事療法について解説する。

1.糖尿病食事療法における最近の基本的な考え方

 糖尿病食事療法は、運動療法や薬物療法と並んで糖尿病治療の三本柱の一つであり、薬物の使用の有無にかかわらず、全ての糖尿病患者にとって生涯にわたり重要な治療法である。特に2型糖尿病では、まず十分な食事療法と運動療法を実践し、それでも効果が不十分な場合に薬物療法を検討することが治療の基本となる。
 2型糖尿病における食事療法の重要性は、全身の代謝状態を良好に保つことで合併症の発症を予防し、その進行を抑制することにある。インスリンは糖代謝だけでなく、脂質やタンパク質の代謝にも関与しており、これらの代謝は互いに密接に関連している。そのため、食事療法を行う際には、個々の病態に応じて高血糖だけでなく、さまざまな側面からその妥当性を検証する必要がある。
 2型糖尿病の病態は人種差による影響が大きく、わが国を含む東アジア人患者は欧米人患者より肥満度が低いことが以前から知られている 1)。また、日本人のインスリン分泌能は北欧白人よりも低下しやすいことを示唆する報告もある 2)。さらに食事内容や食習慣においては民族差が影響する。従って、糖尿病食事療法は、各国の臨床エビデンスに基づき、国ごとに確立することが求められる。
 糖尿病診療における新ガイドラインである『糖尿病診療ガイドライン2024』では、エネルギー摂取量の制限は「過体重・肥満を伴う2型糖尿病患者の血糖コントロールにおいて推奨」と明記されているが、過体重・肥満を伴わない2型糖尿病患者や1型糖尿病の血糖コントロールに対するエネルギー摂取量の制限の効果については文献が乏しく、今後のさらなる科学的根拠の集積が必要とされている。このように、わが国においても、糖尿病食事療法に関して個々の病態に応じた治療方針の変化がみられている。最近の糖尿病食事療法は、従来までの「エネルギー摂取量の制限」に重きを置いた食事療法から「患者背景や病態を考慮し栄養バランスを重視する」食事療法へ変化しつつある。糖尿病の病態が多様化している現在、患者一人ひとりの状況に応じて、食事療法は量的にも質的にも個別化する必要がある。

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