5.高齢者の食事療法
https://doi.org/10.57554/2024-0084
はじめに
高齢化するわが国の糖尿病患者について、エネルギー管理を主とする過剰栄養対策とサルコペニア・フレイルなどの低栄養対策のどちらを主とするのかについてフォーカスし、栄養食事管理に関わるエビデンスを基に解説する。
1.高齢者の低栄養の要因
高齢者では徐々に体組成に変化を生じ、身長、体重の減少、脂肪組成の割合が増加し、筋肉・骨格などの除脂肪(lean body mass:LBM)が減少する。さらに、インスリン分泌低下、身体活動量の低下に伴いインスリン抵抗性を増大させている 1, 2)。
また、複数の疾患と病態を合併している多くのケースは、生活機能障害が高頻度に発生し、その病像を複雑にしている。そこに生活の質(QOL)が低下し、さらに栄養状態の低下が加わることで、看護・介護を必要にしている。糖尿病では糖尿病でない患者と比較してMNA®評価による低栄養が多い 3)。
たんぱく質、エネルギーの過不足状態の持続は体重を減少し、次いでLBMの減少に強く影響する。筋肉・骨格の減少による関節・骨疾患の発症は日常の生活活動を低下させ、栄養摂取量を低下させる4)。
消化器官では、唾液・胃液・胆汁・膵液などの分泌量が減少し、咀嚼機能・嚥下反射・食道および蠕動運動の低下が起こり、消化・吸収機能は全体的に低下する。口腔内では、口腔の乾燥、舌乳頭や味蕾数の減少、味細胞機能の減退などにより味覚の低下が起こり、舌や口腔粘膜の温度覚、触圧覚の減退により嗜好の変化が認められる。また、うつ症状、認知機能障害、意欲低下などの精神障害、孤独感、不安感、疎外感に起因した摂食量の低下も見られ、栄養摂取量の低下は医学的、身体的、心理的、社会的要因を重複し引き起こされる(表1)。
葛谷は、過栄養が健康障害へ関与しているとし、一方では一般に75歳を超えると徐々に体重が減少し、フレイルやサルコペニアを介して、要介護状態に至るプロセスの存在を明示している(図1) 5)。
高齢者糖尿病の入院患者(平均年齢78歳)の調査では、39.1%が低栄養の高リスク状態にあり、21.2%はMNA®スコア低値の低栄養だった。また低栄養素では基本的ADL低下、握力低下、下肢の身体能力低下(椅子から立ち上がり試験)、QOL低下、在院日数の延長、在宅復帰率の減少、死亡率の増加との関連を示していた 6, 7)。
これらは、高齢糖尿病の治療目標となるサロゲートに筋肉・骨格の減少の阻止、関節・骨疾患の発症予防への栄養状態保持を説明づけるものである。
