(扉)特集にあたって

  • 福井道明 Fukui, Michiaki
    京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学 教授
    幣憲一郎 Shide, Kenichiro
    武庫川女子大学 食物栄養科学部 教授
公開日:2024年11月8日
糖尿病・内分泌プラクティスWeb. 2024; 2(6): 0079./J Pract Diabetes Endocrinol. 2024; 2(6): 0079.
https://doi.org/10.57554/2024-0079

 糖尿病をもつ人における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しい食事を実践し、合併症の発症または進展の抑制をはかることができる食事療法を実践することである。非肥満の糖尿病、特に高齢者では食事の制限ではなく適切な量のエネルギーを摂取する必要がある。一方、肥満症例ではエネルギー管理が必要となる。食欲のマネジメントは大変重要であり、食後の高血糖、血糖スパイクが血管障害、臓器障害のリスクになるということを考えると食習慣の調整が重要となる。すなわち、よく噛んでゆっくり食べる、野菜・主菜(たんぱく質食品)を先に摂取する、食物繊維を多く含んだグリセミックインデックスの低い食物を摂取することなどに加えて、夜遅い時刻に食べると肥満や高血糖を助長するので、分割食にすることも有効である。また、食事は朝型(朝食を充実)にすることが肥満抑制、血糖値の改善、筋肉を増やすなどメリットが大きく、時間栄養学も考慮した食事療法が推奨されている。
 一方、わが国では世界に類を見ない糖尿病患者の高齢化が進んでおり、どのような食事療法を実施していくかは重要な課題である。すなわち、筋肉量を維持することが転倒防止、ADLを維持するために重要であるが、高齢者はanabolic resistanceの状態で筋肉が増えにくい、また糖尿病患者では筋肉が減りやすいため十分な量の良質なたんぱく質、またエネルギーの摂取が必要である。一方で腎機能障害を合併した高齢者におけるたんぱく質の摂取量には議論があるところではあるが、高齢者糖尿病においてはサルコペニアの発症・進展抑制も目指した治療を行うことが重要であり、そのために適切な食事療法を実施することが望まれている。
 本特集では、この分野でのエキスパートの方々から最新の食事療法についてのエビデンスに基づく新機軸の話題提供をいただいた。今後、読者の皆様の日常診療において本誌が一助となる内容となっているものと自信を持っており、糖尿病治療の目標である、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを実現するためには、医学的に最適な食事療法と、食事のおいしさや楽しさ、豊かさなどを両立することを考え、是非に、ご活用いただけるようにと切に願っている。

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし

最適な糖尿病食事療法を探る―エビデンスと病態生理からの新機軸― 一覧へ