はじめに 糖尿病関連腎臓病(DKD)はわが国の末期腎不全の主たる原因疾患である。近年、腎保護効果を持つ薬剤の登場により、DKDからの末期腎不全への進展抑制が大きく期待できるようになった。これらの背景から『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』そして『糖尿病診療ガイドライン2024』においても、DKDの薬物療法に関して大幅なアップデートがなされている。共通しているのはSGLT2阻害薬を中心に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬、GLP-1受容体作動薬を併用していくという考え方である。従来から用いられているレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬を加えた、これら4つの薬剤がDKD治療の重要な柱になると考えられる。本稿では、これらの薬剤のクリニカルエビデンスとガイドラインでのポジショニング、今後の展望について述べる。 1.SGLT2阻害薬のエビデンス 腎アウトカム試験を完了したSGLT2阻害薬はカナグリフロジン(CREDENCE試験)、ダパグリフロジン(DAPA-CKD試験)、エンパグリフロジン(EMPA-KIDNEY試験)の3つの試験において、2型糖尿病合併あるいは非糖尿病CKD患者に対し、腎保護作用を示している 1~3)。『CKD診療ガイド2024』においてもクリニカルエビデンスのあるSGLT2阻害薬としてこの3剤が挙げられ、積極的な使用が推奨されている 4)。 1)CREDENCE試験(カナグリフロジン) CREDENCE試験(Evaluation of the Effects of Canagliflozin on Renal and Cardiovascular Outcomes in Participants With Diabetic Nephropathy)は、30歳以上の慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)合併2型糖尿病患者を対象に、カナグリフロジン100mg1日1回投与の効果をプラセボと比較検討した試験である 1)。主要評価項目は末期腎不全(透析、腎移植、またはeGFR 15mL/min/1.73m2未満の持続)、血清クレアチニン値の倍化、腎または心血管死である。計4,401例をカナグリフロジン群またはプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付け、中央値2.62年間にわたって追跡した。ベースラインにおける平均HbA1cは8.3%、eGFRは56.2mL/min/1.73m2であった。主要評価項目のイベントは、プラセボ群に比べてカナグリフロジン群で有意に低く30%低下していた(ハザード比〔HR〕0.70〔95%信頼区間(CI)0.59~0.82〕、p=0.00001)(図1)。
ポイント 男性性腺機能低下症は原発性(高ゴナドトロピン性)と続発性(低ゴナドトロピン性)がある。 器質的な異常のないLOH症候群が男性更年期障害として徐々に認知されつつある。 男性性腺機能低下症は臨床症状と血中総テストステロン低値から診断されることが多い。 テストステロン補充療法は男性性腺機能低下症に関連した性機能低下などの改善に有効である。 テストステロン補充療法に伴う前立腺癌や心血管疾患のリスク増加に関しては否定的な研究が多い。 日本ではテストステロン製剤は筋注製剤が中心であり、塗布製剤や貼付製剤などより安定した血中濃度が得られる薬剤の承認が求められている。 1.総論:男性性腺機能低下症について 性腺は生殖や性ステロイドに関与する組織であり、男性は精巣、女性は卵巣が該当する。性腺から分泌される性ステロイドは、視床下部や下垂体からのホルモンの調節を受け、ネガティブフィードバック機構が存在する。男性性腺機能低下症は、男性の精巣にある内分泌機能や精子形成能のなどが障害された状態である。精巣そのものが障害された原発性と、精巣より上位が障害された続発性に分類される(表1)。続発性では精巣に作用する黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が低下した低ゴナドトロピンであり、原発性では精巣からのテストステロンの産生や分泌低下が起き、ネガティブフィードバックが作用しないためにLH、FSHが増加した高ゴナドトロピンである。また、器質的異常のない加齢による血中テストステロンの低下とそれに伴う種々の症候を呈するものはlate-onset hypogonadism(LOH症候群)と呼ばれ、男性更年期障害として徐々に認知されつつある。 表1 男性性腺機能低下症の分類
はじめに 糖尿病性腎症は、2011年に透析患者の主要原疾患の第一位となり、現在維持透析患者の約4割を占めるに至っている。さらに近年、典型的な糖尿病性腎症の臨床経過をたどらない症例を含めた糖尿病関連腎臓病(Diabetic Kidney Disease:DKD)という概念が提唱され話題を呼んでいる。糖尿病性腎症においては、腎症進行を抑制する目的でタンパク質の摂取制限が行われてきた。一方で社会の高齢化とともに、DKDを含む慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)患者におけるサルコペニア・フレイルが注目され、また進展したCKD・DKDでは特徴的な栄養障害であるprotein-energy wasting(PEW)も大きな問題となっている。従って、タンパク質摂取制限が望ましくない症例が増加している可能性がある。そのため、DKDの食事療法としては、腎機能と栄養状態の維持を両立させるためのプローチが求められている。本稿ではDKD進行予防のための食事療法やDKDにおける栄養障害、実際の食事療法の考え方について考える。 1.目標体重の目安 DKDの食事療法の目的は、腎機能低下を抑制するとともに良好な代謝・栄養状態を維持することにより、(生命)予後を改善することにある。従来、1989年代に実施された職域健診において、異常所見が最も少ないBMIが22であるとする研究結果からこれを標準体重としてきた。しかしながら、BMIと死亡率との関係を検討した最近の研究では、アジア人において最も死亡率が低いBMIは、20~25であるとが示されている 1)。2型糖尿病においても、日本人では総死亡率が最も低いBMIは20~25の範囲であり、75歳以上の高齢者ではBMIが25以上でも死亡率の増加は認められていない 2, 3)。また、BMIが非肥満の範囲であっても、脂質異常症や高血圧などメタボリックシンドロームの症候を有する場合には、健康な非肥満者と比較して死亡率が明らかに高くなるが 4)、メタボリックシンドロームのない肥満者では、死亡率の増加が認められないことから 5)、BMIのみでは健康状態を十分に評価できないと言える。つまり、死亡率を考慮する場合、望ましいBMIは20~25の範囲とされ、BMI 22を一様に厳守しなければならない基準とするのは適切ではない。また、目標とする体重は患者の年齢や病態、身体活動量などに応じて個別化して設する必要があるため、日本糖尿病学会のコンセンサスステートメントでは以下のように目標体重の初期設定が提唱されている。 <目標体重(kg)の目安> 65歳未満:[身長(m)]2×22 65歳から74歳:[身長(m)]2×22~25 75歳以上:[身長(m)]2×22~25※ ※75歳以上の後期高齢者では現体重に基づき、フレイル、(基本的)ADL低下、併発症、体組成、身長の短縮、摂食状況や代謝状態の評価を踏まえ、適宜判断する。
はじめに 薬物が生体に投与されると、その多くは小腸から吸収され、門脈を経て、肝臓を通過する。この過程で、薬物の一部は代謝される。その後、薬物は血流によって体内の各組織に分布し、標的分子に作用する。そして、尿中や胆汁中に排泄される。効果を発揮するために必要な作用部位における薬物濃度は、こうした薬物の体内動態により決定される。すなわち、副作用を抑え、十分な薬効を得るためには、薬物の体内動態を把握することが必要不可欠である。この過程は、吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の頭文字をとってADMEと呼ばれる。本稿では、薬物の消失に関わる代謝および排泄について概説し、薬物の効果や薬物相互作用との関係について述べる。 1.薬物の代謝 生体にとって異物である薬物は、体内で排泄されやすい形に変えられる。その過程が代謝であり、主に肝臓に存在する薬物代謝酵素により触媒される。通常、薬物は親水性が増加するように代謝を受ける。親水性の増加により膜透過性が低下し、腎尿細管での再吸収の減少、排泄の増加につながる。薬物の中には、代謝を受けることで活性を示すようになるものもあり、こうした薬物はプロドラッグと呼ばれる。薬物代謝酵素は基質特異性が低いという特徴があり、ひとつの酵素が多くの薬物を代謝する。薬物の薬物代謝酵素に対する親和性や発現量、同じ薬物代謝酵素の基質となる薬物の共存などにより、薬物の代謝は大きく変化する。 肝臓では、血漿タンパク非結合型の脂溶性薬物が肝細胞に取り込まれ、そのうち薬物代謝酵素の基質となる薬物が代謝を受ける。すなわち、肝臓で代謝されるのは門脈血中の薬物の一部であり、肝臓を通過した血液中では、代謝され変化した代謝産物と代謝されなかった未変化体が共存する。活性を持つ薬物が代謝後どの程度残っているか、排泄されやすい親水性に変化した薬物がどの程度存在するかが、薬理効果の発現にとって重要である。薬物代謝は、第Ⅰ相反応である酸化、還元、加水分解と第Ⅱ相反応である抱合とに大別される。 第Ⅰ相反応では、薬物のヒドロキシ化、エポキシ化、脱アルキル、脱アミノなどの酸化や、ニトロ基、アゾ基、オキシドなどの還元、エステル、アミド、ヒドラジドなどの加水分解が起こり、ヒドロキシ基やアミノ基、カルボキシ基などの極性基が生成あるいは導入される。酸化反応の多くは、活性中心にヘム鉄を有するヘムタンパク質シトクロムP450(CYP)により行われる。CYPには多くの分子種が存在し、分子種ごとに代謝する薬物は異なるが、基質特異性は低い。CYPはアミノ酸の相同性に基づいて命名されており、接頭語のCYPに続いて、ファミリーを示すアラビア数字、サブファミリーを示すアルファベット、分子種を示すアラビア数字の組合せで表される。ヒトでの薬物代謝に主に関与しているCYPは、CYP3A4、CYP2D6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2E1、CYP1A2の6つである。 第Ⅱ相反応である抱合では、極性基に生体内極性成分が結合して、さらに極性が増す。抱合には、①UDP-グルクロン酸(UDPGA)を補酵素としてUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)により触媒されるグルクロン酸抱合、②活性硫酸(PAPS)を補酵素として硫酸基転移酵素(ST)により触媒される硫酸抱合、③グルタチオンS-転移酵素(GST)によりグルタチオンと結合するグルタチオン抱合などがある。抱合により、極性が増すだけでなく負の電荷を帯びるため、腎近位尿細管において有機アニオントランスポーターにより分泌されて排泄が増加する。
はじめに 糖尿病を持つ方は、臨床的特徴、すなわち、病態、合併症の起こり方、治療反応性などが個々で異なるため、これらすべて考慮しながら、一人ひとりに最適な医療をすすめることが推奨される 1)。これを、糖尿病の個別化医療(personalized or individualized medicine)と呼ぶ 1)。糖尿病を持つ方の個別化医療を考える場合、合併症の病態と(発症と進展の)プロセスを明らかにすることが肝腎である。近年、糖尿病を持つ方の腎障害の多様性に注目が集まっている 2)。本稿では、糖尿病を持つ方の腎障害の多様性を、人工知能を用いた糖尿病分類という視点から考えてみたい。 1.糖尿病関連腎臓病:糖尿病による腎障害の多様性 糖尿病を持つ方が慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を合併・併発するパターンは、糖尿病性腎症(diabetic nephropathy:DN)、糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)、慢性腎臓病を合併した糖尿病(Diabetes with CKD)の3つに分けられる 3)。典型的なDKDは、アルブミン尿・蛋白尿の出現後に糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)が低下することが特徴で、古典的なDKDあるいはDNとされる。近年、アルブミン尿・蛋白尿を伴わずにGFRが低下する非古典的なDKDが増加している。また、DKDの発症と伸展の経過を、古典的DKD(蛋白尿出現後eGFR低下≒DN)、非アルブミン尿性または非蛋白尿性DKD、アルブミン尿退縮、急速低下(rapid decliner)の4つの軌跡(trajectory)で分けることもある 2)。 金﨑らは、「DKD」の日本語訳として「糖尿病性腎臓病」を「糖尿病関連腎臓病」とすることを提唱した 4)(図1)。「糖尿病性」という用語は、全例が「糖尿病状態によって生じる慢性腎臓病である」という誤解を生む懸念があり、「糖病性腎臓病」の使用は、順次中止するとしている。糖尿病関連腎臓病は、糖尿病と関連する病態、併存疾患、治療の影響など、糖尿病状態が病態に影響を及ぼす可能性があるもの全てを含み、糖尿病を持つ方が一生の中で経験する全てのCKDと定義される。糖尿病状態に特有のDNは糖尿病関連腎臓病の中に含まれる。糖尿病に併存するその他のCKDは、糖尿病関連腎臓病と区別するが、糖尿病歴が長期になれば糖尿病状態の影響を受けるため、両者の鑑別はしばしば困難である 4)。
はじめに 糖尿病の併存疾患の中で慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は主要なものの一つである。しかし、その腎障害を表現する名称に関してはDiabetic Nephropathy、Diabetic Kidney Disease、CKD with Diabetes、あるいはDiabetes and CKDなど呼称に関して世界的にもさまざまな混乱がある。同様の混乱は本邦でも認めていた。そこで、2024年より日本糖尿病学会、日本腎臓学会は米国を中心として世界で多く使われている「Diabetic Kidney Disease」に対応する日本語訳を「糖尿病関連腎臓病」とし、その概念を定義した。本稿では、糖尿病症例における腎臓合併症の歴史的背景を振り返るとともに、疾病概念の定義と定義が必要となった背景も概説する。 1.糖尿病における腎臓合併症の歴史 糖尿病症例におけるタンパク尿(らしい物)の存在を示唆する所見として、Cotugnoは尿を加熱した際に凝固物が形成されることを報告している 1)。1982年にVibertiら 2)により1型糖尿病、Mogensenら 3)により2型糖尿病症例における糖尿病性腎症の早期診断マーカーとしてアルブミン尿の意義が報告された。糖尿病性腎症における病理所見として有名な結節性病変を、Kimmelstielら 4)が1936年に報告した。しかし、その20年前の1916年には、東京帝国大学病理学教授 長與又郎が夏目漱石の遺体を解剖して糖尿病の腎病変を確認しており、1927年に糖尿病の剖検例3例における特徴的腎病変として世界に先駆け報告している 5)。1921年にトロント大学のバンティングとベストが膵臓抽出液からインスリンを見出し、その臨床応用が1922年になされた。従って、長與又郎やKimmelstielらが報告した糖尿病症例に特徴的な腎病変は、糖尿病状態に伴う未治療・純粋な病理学医的変化であった。また、アルブミン尿の糖尿病性腎症における意義が報告された時代の治療内容は現在とは根本的に異なるのは言うまでもない(レニン・アンジオテンシン系〔RAS〕阻害薬以前の時代)。このように「尿」と「腎臓組織所見」に関しての歴史背景のもと、先人たちの手により糖尿病症例における腎臓合併症の診療・研究が確立されてきたが、もちろんこれらは血糖管理が十分になされていない1型糖尿病や未治療2型糖尿病などの観察から得られた情報が基軸となってきた。
糖尿病における持続的な高血糖状態は、細胞内代謝異常や糸球体過剰濾過を引き起こし、糸球体障害を主な病変とする糖尿病性腎症を発症させる。そして、糖尿病性腎症では、糸球体障害に伴うアルブミン尿の増加が腎予後の悪化リスクとなることが明らかになっている。このため、厳格な血糖マネジメントやレニン・アンジオテンシン系阻害薬を用いた集学的治療によりアルブミン尿を予防・改善することが、糖尿病性腎症治療の最優先課題として確立された。その結果、現在ではわが国における糖尿病性腎症からの新規透析導入者数は減少に転じつつある。一方で、糖尿病治療の進歩に伴い、糖尿病患者の高齢化が進んでおり、その結果、アルブミン尿を伴わずに緩やかに腎機能が低下する症例が増加するなど、糖尿病患者が呈する腎障害の病態は多様化している。そこで、これら多様な病態を包括的に表現するため、「糖尿病関連腎臓病」という新たな概念が定義された。治療においては、従来の食事・運動療法を含む血糖・血圧の厳格なマネジメントを基本としつつ、Sodium-glucose cotransporter 2(SGLT2)阻害薬、Glucagon-like peptide-1(GLP-1)受容体作動薬、非ステロイド型Mineralocorticoid receptor(nsMR)拮抗薬といった新しい薬剤の使用により、さらに腎予後を改善することが可能となっている。このように、高齢化や治療の進展が急速に進むわが国において、糖尿病関連腎臓病のさらなる予後改善を目指した診療の実践が求められている。そこで本特集では、糖尿病関連腎臓病研究および診療のエキスパートである金﨑啓造先生(島根大学)、島袋充生先生(福島県立医科大学)、森克仁先生(大阪公立大学)、川浪大治先生(福岡大学)、豊田雅夫先生(東海大学)、内田治仁先生(岡山大学)に、それぞれ糖尿病関連腎臓病の「定義と概念」、「病態の多様性」、「食事療法」、「薬物療法」、「多職種連携」、「地域連携」をテーマに解説いただいた。いずれも糖尿病関連腎臓病の理解を深め、明日の診療に役立つ内容となっている。本誌が皆様の糖尿病関連腎臓病診療のさらなる向上にお役立ていただければ幸いである。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:繪本正憲;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ、協和キリン)奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム)、久米真司;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、協和キリン、アステラス製薬、アストラゼネカ、田辺三菱製薬)、研究費・助成金(日本ベーリンガーインゲルハイム)、奨学(奨励)寄附(日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー、住友ファーマ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 男性においては、加齢に伴う性ホルモン低下と男性更年期障害との関連性が知られており、中には骨強度低下、筋肉量減少、筋力低下を伴うことにより運動機能や身体機能の低下を引き起こすことが指摘されている。加齢に伴うさまざまな機能変化の中でも、運動機能、歩行能力などの人間の身体機能、生理機能は年齢とともに低下していくことが知られている。また、生殖内分泌器官の機能低下により性ホルモンの動態も大きく変化し、性ホルモンレベルの低下、アンドロゲン受容体(AR)をはじめとする性ホルモン受容体シグナルの減弱が考えられる。男性において、加齢による性ホルモン低下は、抑うつ、性欲低下、性機能の減退、知的活動や認知機能の低下、睡眠障害をはじめとする男性更年期障害とも関連し、Partial androgen deficiency in aging male(PADAM)あるいはLate-onset hypogonadism(LOH)という概念が提唱されている。また、加齢に伴い骨強度の低下、筋肉量の減少、筋力低下(サルコペニア)を認め、高齢者の身体機能は一層低下し、activities of daily life(ADL)の自立がより困難となり、結果的に転倒、骨折による要介護状態に陥る場合も多い。このように、骨粗鬆症に伴う脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折やサルコペニアなどは、運動機能、身体機能を低下させるばかりでなく、生命予後、ADLを規定し、高齢者本人、介護者のquality of life(QOL)を低下させてしまう場合が多く、その対策は重要である。 1.LOH症候群とは LOH症候群の症状、徴候としては、①抑うつ、不安、疲労感などの「精神症状」、②睡眠障害、記憶や集中力の低下、肉体的疲労感、筋肉量と筋力の低下、骨塩量の低下などの「身体症状」、③性欲低下、勃起障害などの「性機能関連症状」の3つに大別される 1)。 LOH症候群では、不定愁訴で受診する場合も少なくなく、質問紙を通じた問診、スクリーニング、他疾患との鑑別を実施し、血中テストステロン濃度の測定をはじめとするホルモン学的検査を中心に、性腺機能を評価することが重要である。一般に、男性ではテストステロンは主として精巣ライディッヒ細胞より分泌され加齢とともに低下する一方で、その程度には個人差を認める場合が多い。また、性ステロイドの前駆体であるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は、その硫酸抱合体である。 DHEA-sulfate(DHEA-S)とともにそのほとんどが副腎で産生され、それ自体が弱いアンドロゲン活性を有することから副腎アンドロゲンといわれている。DHEA、DHEA-Sは20代以後加齢とともに直線的に減少することが明らかとなってきている。加齢に伴い、テストステロン血中濃度は徐々に低下する一方で、性ホルモン結合グロプリン(SHBG)の増加を認め、生理活性の強い遊離テストステロンの加齢による低下はより顕著となる 2)(図1)。これらの結果として、男性におけるテストステロンの低下は、うつ症状、性欲低下、勃起障害といった男性更年期障害(PADAM、LOH)や、サルコペニア・フレイル、骨粗鬆症、肥満、脂質異常症、認知症をはじめとする老年疾患や生活習慣病と関係することが指摘されている。
はじめに 医科診療報酬点数表の第2部在宅医療は、第1節在宅患者診療・指導料、第2節在宅療養指導管理料、第3節薬剤料、第4節特定保険医療材料料に分かれ、その第2節の第1款が在宅療養指導管理料(35項目)、第2款が在宅療養指導管理材料加算(33項目)である。今回は、在宅自己注射指導管理料をはじめとする糖尿病に係る在宅療養指導管理料と在宅療養指導管理材料加算について概説する。 1.在宅療養指導管理料の通則について(表1)1, 2) 在宅療養指導管理料は、医師が療養上必要な事項について適正な注意および指導を行った上で医学管理を十分に行い、かつ、各在宅療養の方法、注意点、緊急時の措置に関する指導などを行い、併せて必要十分な量の衛生材料および保険医療材料を支給した場合に算定する。衛生材料または保険医療材料の支給に当たっては、訪問看護事業者から、訪問看護計画書により必要量の報告があった場合、医師は、その報告を基に衛生材料などを支給する。訪問看護報告書により衛生材料などの使用実績について報告があった場合は、医師は、衛生材料の量の調整、種類の変更などの指導管理を行う。また医師は、訪問看護計画書などを基に衛生材料を支給する際、保険薬局に対して、必要な衛生材料の提供を指示することができる。 在宅療養指導管理料は、特に規定する場合を除き月1回に限り算定するが、1月以内に指導管理を2回以上行った場合は、第1回の指導管理の時に算定する。2以上の在宅療養指導管理を行った場合は、主たる指導管理の所定点数のみを算定し、在宅療養を指示した根拠、指示事項、指導内容の要点を診療録に記載する。 入院中の患者に対して、退院時に退院後の在宅療養指導管理を行った場合は、退院日1回に限り、在宅療養指導管理料の所定点数を算定できるが、退院月に外来、往診または訪問診療にて行った指導管理の費用は算定できない。死亡退院および他の病院・診療所へ入院するため転院した場合も算定できない。よって、退院日に在宅療養指導管理料を算定していない場合に限り、退院月に外来、往診または訪問診療において在宅療養指導管理を行った場合は在宅療養指導管理料を算定することができる。また、退院日に在宅療養指導管理料を算定した保険医療機関以外の保険医療機関において在宅療養指導管理料を算定する場合には、診療報酬明細書の摘要欄に当該算定理由を記載する必要がある。 表1 在宅療養指導管理料の通則(文献1, 2より) 画像をクリックすると拡大します 表1 在宅療養指導管理料の通則(文献1, 2より) $(".n0015_h1").modaal();
Q&A編はこちら はじめに 本邦では毎年のように、さまざまな場所で、さまざまな災害が発生している。糖尿病患者は大規模災害に被災した際には、糖尿病をもつ人として生きることよりも生き延びることが最優先され、特に食事・運動療法の継続が困難となり、血糖管理状況が悪化することが報告されている 1)。そのため、災害発生時に糖尿病患者が困らないように普段から指導や教育を行うことが重要であり、いざ災害が発生したら、可及的速やかに支援することが望まれる。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会が協働して、糖尿病医療支援チーム(Diabetes Medical Assistance Team:DiaMAT)の体制構築を進めている。各都道府県に災害対応チームを設置すると同時に、インスリン依存状態の糖尿病患者の登録や情報発信、メディカルスタッフへの教育や登録などを準備している。今後、起こり得る大規模災害に医療者全員が自分事として捉え、まずわれわれ自身が準備をし、加えてわれわれが直接関わる患者も災害に対する準備をするように働きかけることが大事である。本稿では、糖尿病をもつ人たちが、災害発生時にできるだけ困らないようにするために、私たち医療者がチームとしてどのように関わるべきか、活動すべきか概説する。 1.DiaMATについて DiaMATは、災害の事前準備のための医療者および患者への災害教育や災害発生時に、当該都道府県および地区の関係団体と連携して迅速な被災者支援を行うことにより、糖尿病に伴う災害関連死を防ぐことを目的に創設され、災害が起こる前の防災訓練から発災時の支援まで、トータルに糖尿病患者を災害から守るチームである。DiaMATを構成するのは、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会を中心に、各地域のそれぞれの支部とその関係者、そして日本糖尿病療養指導土(CDEJ)や地域糖尿病療養指導士(CDEL)の有資格者である 。 DiaMATの活動には、平時に行うものと災害発生時に行うものに分けられる(図1)。平時には、糖尿病患者や医療スタッフへの災害教育や、行政や医師会(日本医師会災害医療チーム:JMAT)との連携、患者登録システムの構築、治療薬や医療機器の備蓄などを行う。特に患者への災害教育は重要であり、患者に災害時における対応策を定期的に、かつ集団だけでなく個別化した形で教育を行うことが必要がある。 図1 平時および災害時の糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)の活動内容
Q&A編はこちら 1.糖代謝異常妊娠の定義 妊娠中の糖代謝異常は、①妊娠糖尿病、②妊娠中の明らかな糖尿病、③糖尿病合併妊娠に分類される。また糖尿病合併妊娠は、①妊娠前にすでに診断されている糖尿病、②確実な糖尿病網膜症があるものに分けられる(表1)。 妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)は妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない軽い糖代謝異常であり、現在の定義と診断基準は、The International Association of the Diabetes and Pregnancy Study Groups(IADPSG)が The Hyperglycemia and Adverse Pregnancy Outcome(HAPO) Study 1)をもとに、世界統一の妊娠糖尿病診断基準を提唱したのち 2)、わが国でも2010年7月から取り入れられた。2015年8月に、日本糖尿病学会の診断基準と日本産科婦人科学会、日本糖尿病・妊娠学会の診断基準の一部不一致を統一し、現在の診断基準に至っている 3)。 表1 妊娠中の糖代謝異常と診断基準(日本糖尿病・妊娠学会と日本糖尿病学会との合同委員会: 妊娠中の糖代謝異常と診断基準の統一化について. 糖尿病. 2015; 58(10): 801-803より) 2.糖尿病合併妊娠について 糖代謝異常合併妊婦は正常妊婦と比べて周産期合併症のリスクが高いため、妊娠前からの厳重な血糖管理を行い、計画的な妊娠が必要である。妊娠中には週数に応じた急激な変化に合わせて厳格に血糖管理をしていく必要がある。本項では妊娠前のプレコンセプションケアから糖代謝異常合併妊娠の周産期の管理、そして産後の管理についても触れたい。
はじめに 女性は、卵巣から分泌されるエストロゲンの影響を大きく受ける。10代の思春期にはエストロゲン分泌が増加し二次性徴や初経が発来する。20〜30代の性成熟期を経て40代になると卵巣機能は急激に低下しエストロゲン分泌が低下する。卵巣機能の低下によって、月経が1年間発来せず、永久に停止すると「閉経」となる。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であり、閉経の前後5年ずつの合計10年を更年期と呼ぶ 1)。この更年期の時期に出現するさまざまな症状を更年期症状といい、そのうち日常生活に支障をきたすものを更年期障害という。更年期障害はいわゆる不定愁訴と呼ばれ、さまざまな要因が絡み合って生じることが指摘されているが、卵巣機能低下によるエストロゲン分泌の低下が主な要因である。本稿では、女性の更年期障害の病態と診断・治療について解説する。 1.女性の更年期障害の病態 女性におけるエストロゲンは、子宮・乳房などの成熟、骨密度の上昇、周期的な排卵・月経、妊娠・分娩といった女性特有の生理機能に重要な役割をもつ。卵巣の原始卵胞数は生涯で増加することなく年齢とともに徐々に減少し、35~38歳を過ぎた頃から急激に減少する 2)(図1)。この急激な卵巣機能の低下によってエストロゲン分泌が低下することが更年期障害の原因の一つである。この時期のエストロゲンは直線的に低下するのではなく、視床下部-下垂体-卵巣軸のホルモン動態の影響を受けてエストロゲン分泌は「ゆらぎ」を生じる 3)(図2)。この「ゆらぎ」の影響を受けて出現するのも更年期障害の特徴である。さらに、エストロゲン受容体は女性の全身のあらゆる部分に存在するため、更年期障害は多岐にわたる。 図1 年齢による卵巣の原始卵胞数の推移(文献2より作成)
はじめに Exercise Oncology(運動腫瘍学)は、がん治療の各段階において身体活動や運動が及ぼす影響を評価し、適切な運動処方を目指す新しい学問分野である。近年の研究により、がんサバイバーに対する運動療法は、身体機能の向上だけでなく、精神心理面や生活の質(QOL)の改善、有害事象の減少、生命予後の改善など、多面的な効果があることが明らかになってきている 1)。 1.診療ガイドラインなど、国内外の動向 国際的な診療ガイドラインとして、American Cancer Society(ACS) 2)、American College of Sports Medicine(ACSM) 3)、American Society of Clinical Oncology(ASCO) 4)が、がん患者への運動療法に関する推奨を発表している。ASCOは2022年に発表したガイドラインで、がん治療の副作用軽減のために積極的治療中の運動を推奨している。日本でも2019年に『がんのリハビリテーション診療ガイドライン』が改訂され、がん種や治療目的別の運動の推奨が示されている 5)。 これらのガイドラインで推奨される運動量は、週150分の中強度~高強度の有酸素運動と週2~3回の筋力トレーニングでおおむね一致している。運動療法は一般的に安全であり、有害事象の報告は少ないとされているが 6, 7)、乳がんサバイバーのリンパ浮腫患者では弾性着衣の装着が必要となるなど、特定の状況での注意点も示されている。
はじめに 令和5年(2023年)の日本人の平均寿命は、男性81.1年、女性87.1年となり、女性は90歳で約半数が生存するなど 1)、人生100年時代を迎えている。また、糖尿病のある症例の平均死亡年齢は、男性74.4 歳、女性77.3 歳で、日本人一般の平均寿命に比して短命ではあるものの、その差は縮まってきている 2)。人生は長くなっても小児の成長発達のスピードは変わらないため、相対的に短くなった小児・思春期の中で、その後の長い人生の基礎が培われるようになったといえる。近年、糖尿病医療は、持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)と持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)を組み合せたSAP(sensor-augmented pump)療法、CGMと連動しグルコース値に応じてベーサルインスリン量を自動的に増減する機能をもつHCL(Hybrid Closed Loop)が開発されるなど、急速に進歩している。1型糖尿病のある小児を取り巻く社会や医療が大きく変化する中で、小児期から成人期への移行を見据え、小児自身が力をつけていくための支援について看護師の立場から述べていきたい。 1.成長発達を中心に据えた支援 1型糖尿病はどの年代でも発症し、生涯にわたり生活の中で管理していくことが求められる。また、1型糖尿病はライフステージや罹病期間が変化しても、インスリンの補充と血糖モニタリング、そして食事や運動、ストレス管理などの健康的な生活が療養の基本となる。成人では年齢というより、生活習慣や糖尿病管理、慢性合併症などの状況、セルフケア能力などをアセスメントし支援が行われる。一方、成長発達の途上にある小児では、成長発達段階により身体の構造や生理・機能、認知機能や社会性などが大きく異なるため、成長発達段階を中心に据えて支援が行われる特徴がある。 1型糖尿病発症時の成長発達段階により、発症時に必要な支援だけでなく、思春期に必要となる支援も異なってくる。幼児期から小学校低学年の年少で発症した思春期患者では、糖尿病のある生活体験が豊富で疾患管理が普通になっており、成長とともに少しずつ疾患管理ができるようになっている。一方で、親や周囲からサポートされてきたことで、思春期に自ら説明したり医療者と直接話すことに困難を生じやすく、小児自身で判断し行動できるような支援が重要となる。思春期発症の患者では、発症時に本人が大きなショックを受けやすく、短期間で基本的な疾患管理ができるようになっても、退院と同時に多様な場で適切な疾患管理を求められ、状況に応じたインスリン調整や生活の工夫、周囲への説明やストレス対処などが必要となり、周囲からのサポートを必要としている。その一方では、医療者と親を介さずに話ができ、疾患管理が役立つと認識できると前向きに捉えられる強みもある 3)。患者がCSIIやCGMなどの知識や技術を習得していても、患者の気持ちや生活での困りごと、周囲のサポートについてよく話を聞き、本人の望む生活が実現できるように具体的に情報提供をしたり相談に乗る支援が重要になる。 疾患管理の基盤となる生活習慣についても、小児は生活習慣を築いていく過程にあり、糖尿病の有無によらず、生きるための基本で小児の健全育成に必須となる健康的な生活習慣を育む視点が重要である 4)。小児期に獲得された生活習慣は生涯にわたり継続されやすいとされており、小児期に健康的な生活習慣を育む支援は、成人期以降の健康的な生活習慣のためにも必要である。
今回の論文 Perkovic V, Tuttle KR, et al. ; FLOW Trial Committees and Investigators : Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2024; 391(2): 109-121. [PubMed] はじめに 今回から3回にわたって「エビデンスの裏側 ―眼光紙背に徹す論文読解学―」として論文を読んでいきます。エビデンスにはいくつかのレベルがあり、専門家の意見(expert opinion)もエビデンスに含まれますが、最も信頼度の低いエビデンスに分類されます。逆に最も信頼度が高いのは複数のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析とされます。しかし、専門家の査読(peer review)を経て学術ジャーナルに発表された臨床論文を正しく解釈することが肝要です。 臨床試験にはいろいろな試験デザインがありますが、RCT以外の臨床試験は介入と結果との因果関係を考察できないので、本連載ではRCTのみを取り上げます。臨床的問題を解決するために論文を選択して読む方法論としては、EBMの手順を使用することが便利です。EBM(Evidence Based Medicine)の実践手順は「STEP1:臨床問題の定式化」、これはPICO(Patient, Intervention, Comparison, Outcome)を用います。「STEP2:情報収集」、これは具体的には論文検索ですがPubMedにこだわらずGoogleでも十分可能です。「STEP3:論文の批判的吟味」、ここでは後述する論文の内的妥当性(internal validity)を評価します。「STEP4:情報の患者への適用」、ここでは結果の一般化可能性(generalizability)も評価します。そして「STEP5:STEP1~4のフィードバック」の5STEPになります 1)。 糖尿病性腎症(DN)は糖尿病の3大合併症の一つで、現在でも透析導入の主要原因疾患の一つです。しかし近年では疾患概念としては古典的なDNではなく、糖尿病関連腎臓病(DKD)とする捉え方が広まりつつあります。以前は蛋白尿を呈したDKDに対する薬物療法としてはレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(アンジオテンシン変換酵素〔ACE〕阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬〔ARB〕)のみでしたが、ご存じのようにここ数年はRAS阻害薬の次の一手としてのSGLT2阻害薬の位置づけがほぼ確立しました。さらに非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンの有効性も明らかになっています。 一方、GLP-1受容体作動薬は体重減少作用に加えて動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の再発抑制作用が明らかにされてきました。リラグルチドのLEADER試験はGLP-1受容体作動薬の総死亡抑制効果を初めて示した試験ですが、その試験の後付け解析でリラグルチドのDKD進展抑制効果が報告されました 2)。その後も複数の心血管アウトカム試験CVOT(cardiovascular outcome trials)のメタ解析でGLP-1受容体作動薬のDKD抑制効果が示唆されましたが、臨床的腎アウトカムを主要評価項目としたRCTはこれまで報告がありませんでした。それに答えたのが本試験FLOW(Evaluate Renal Function with Semaglutide Once Weekly)になります。
はじめに 生体に投与された薬物が効果を出すためには、何らかの方法によって薬物が目的とする作用部位へと到達する必要がある。薬物の投与方法にはさまざまなものがあるが、全身に薬物を運ぶ血流に直接薬物を乗せる静脈投与や動脈投与以外の方法で薬物が投与された場合、例えば臨床で利用されている経口投与や筋肉注射、坐剤による直腸内投与などの場合には、投与された部位から血流に薬物が乗るために「吸収(absorption)」という重要なプロセスを踏む。生体に投与された薬物は、その後「分布(distribution)」、「代謝(metabolism)」、「排泄(excretion)」という働きかけを生体により受ける。生体が薬物に対して行うこれら4つの作用について、それぞれの頭文字をとってADME、あるいは薬物動態と呼ぶ。薬物が生体に投与された後、薬物動態の第一段階としてどのように吸収されるかは臨床現場で薬物治療を行う際に重要な情報である。 1.生体膜の透過性 薬物の吸収は、その他の薬物の体内動態様式である分布・代謝・排泄と同様に、細胞膜を通して行われる。その細胞膜を薬物が通過する際に重要なのは、薬物の分子の大きさと形、溶解性、タンパク結合率、イオン化の程度、脂溶性などである。一般に細胞膜を通過できる薬物は非イオン型で、タンパクと結合していない遊離型である。また、分子量が100〜200以下の薬物はイオン型でも細胞膜の細孔を通って膜を通過できる。細胞膜は脂質の二重構造の中にタンパク質が浮かぶ形をとっている。このような構造上の特徴から、水溶性の薬物より脂溶性の薬物のほうが膜を通過しやすい。多くの薬物は膜の両側の濃度の差(電気化学ポテンシャル)に従って受動拡散(passive diffusion)するか、あるいは油・水分分配係数に比例して膜に溶解して浸透する。 薬物動態を考えるにあたり、さらに重要な膜透過の機序は(輸送)担体(トランスポーター)の介在する膜輸送(carrier-mediated transport)である。このメカニズムには二種類があり、①エネルギーを必要とする能動輸送(active transport)と、②エネルギーを必要としない促進拡散(passive facilitated diffusion)がある。両者に共通する特徴は、薬物の選択性、類似物質による競合的阻害、輸送速度の限界(可飽和性)である。トランスポーターの介在する膜輸送は、投与された薬物の吸収のみならず、薬物の作用機序や内因性物質の膜透過に重要な役割をもっている。 薬物はその多くが弱酸または弱塩基を示し、溶液中では非イオン型とイオン型分子が平衡状態を保って存在している。一般に薬物分子は分子量が小さいため、膜の脂質成分を介する拡散により膜を透過する。非イオン型は通常脂溶性であり細胞膜を通過できるが、イオン型は水溶性が高く容易に膜を通過できない。 薬物には固有のpKaがあり、周囲のpHとともにその薬物の非イオン型とイオン型の割合が決定される(Henderson-Hasselbalchの式)。 Henderson-Hasselbalchの式 酸性薬物:pKa=pH+log(非イオン型モル濃度/イオン型モル濃度) 塩基性薬物:pKa=pH+log(イオン型モル濃度/非イオン型モル濃度)
1.小児がん診療の現況 近年のがん診療の進歩に伴い、予後の改善が目覚ましい。とりわけ、治療感受性の高い血液腫瘍、脳腫瘍の多い小児がんにおいては成人のがんに先駆けて高い生存率を示しており、2002~2006年の時点ですでに80%近い発症時5年生存率を示してきた 1)。わが国の小児がん発生率を年間2,000~2,300人 2)とすると、各年齢層の約500~600人に1人が小児がんサバイバー(Childhood Cancer Survivor:CCS)ということになる。また、生物学的に悪性腫瘍ではない頭蓋咽頭腫なども治療後合併症の多さから慣例的にCCSの一部として扱われる。 2.内分泌後遺症の実態 高い生存率は達成されたが、その全てが後遺症なく治癒したわけではない。がん自体、またはその治療による後遺症はさまざまな臓器に及ぶが、中でも内分泌合併症は最も高頻度である 3)。小児がんは成人発症のものと異なる疾患スペクトルを持ち(図1)4)、小児期に多い白血病、脳腫瘍、リンパ腫や乳児期に多い肝芽腫、ウィルムス腫瘍、網膜芽腫などが特徴的である。脳腫瘍のうちでも小児期はmidlineの腫瘍(胚細胞腫、頭蓋咽頭腫、髄芽腫など)が多いことが知られている。主要な内分泌晩期合併症の概略を以下に述べる。疾患の種類、治療の種類によってあらかじめ起こり得る内分泌異常を予測し、モニタリング、加療することは極めて重要で、詳細については日本小児内分泌学会編『小児がん内分泌診療の手引き』 5)(以下、手引き)に記載されている(表1)。小児がんの内分泌診療について、治療中から治療後に至るまでのモニタリング、診断から具体的な治療方法に至るまで詳述されている。 図1 地域がん登録における小児・AYAがんの内訳(2009~2011年)(がん研究振興財団: がんの統計2023. 2023, p.105より作図)
ポイント インクレチン(GLP-1・GIP/GLP-1)受容体作動薬には注射薬と経口薬がある。 セマグルチドには2型糖尿病治療薬と肥満症治療薬がある。 チルゼパチドはGIP/GLP-1受容体作動薬であり、GLP-1受容体作動薬とは異なる。 各剤の評価のポイントは血糖降下作用、体重への影響、心血管イベントや腎イベント抑制など。 はじめに 日本で初めてGLP-1受容体作動薬のリラグルチドが発売されたのは2010年である。その後、エキセナチド(バイエッタ、ビデュリオン)、リキシセナチド(リキスミア)、デュラグルチド(トルリシティ)、セマグルチド注射薬(オゼンピック、ウゴービ)と経口セマグルチド(リベルサス)と開発が進むにつれ、注射投与間隔が毎日から週一回に延び、経口薬の選択肢も出てきて投与のハードルが下がった。また、注射薬の投与デバイスの開発も並列して進み、よりいっそう使いやすいデバイスになった。もはや糖尿病の注射治療といえばインスリン、という時代ではない。 GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬(以下、合わせてインクレチン受容体作動薬)の血糖降下作用は既存の経口糖尿病治療薬を上回り、SU薬、グリニド薬やインスリンと併用しない限りは重篤な低血糖を起こさない、という作用機序であることから糖尿病を専門としない医師からの処方も増やすことになった。 GLP-1受容体作動薬セマグルチドは2型糖尿病治療(オゼンピック)のみならず、肥満症の治療薬(ウゴービ)としても承認された。そして2型糖尿病や肥満症において大血管症や腎疾患、肝疾患に対する効果に関するエビデンスも出つつある 1~9)。 ここでは日本で多く使用されているGLP-1受容体作動薬セマグルチド、デュラグルチドと、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(表1)を中心に最新エビデンスを交えながら解説する。 表1 主なインクレチン受容体作動薬
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