Q&A編はこちら はじめに 糖尿病患者を介した眼科医と内科医などで連携する手帳が、2種存在する。1つ目は日本糖尿病協会による「糖尿病連携手帳」である。ホームページによると、年間発行部数は約200万部、累計約2,000万部の発行実績である 1)。一方は、日本糖尿病眼学会による「糖尿病眼手帳」である。2020年3月末時点で280万部以上が発行 2)とのことで、眼科医の筆者としても、臨床上の実感に合致する。今回、2種の手帳の記載項目を比較し、視力障害の療養支援、特に歩行、生活訓練の観点から検討してみる。 1.糖尿病連携手帳 糖尿病連携手帳(図1)にしかない項目が「光凝固:未・済」である。実はこれが、注目すべき項目で求心性視野障害が想起される。増殖網膜症患者で汎網膜光凝固術が施行された場合に、中心10度程度の求心性視野障害を合併することがある。ただし、増殖網膜症でない(単純、増殖前網膜症)の場合には、汎網膜でなく、局所網膜での光凝固術であることが多く、視野障害は生じにくい。増殖網膜症で光凝固済のケースでは、求心性視野狭窄による歩行障害を確認する必要がある。
はじめに 家族性高コレステロール血症(FH)は、①高LDLコレステロール(LDL-C)血症、②早発性冠動脈疾患、③腱・皮膚黄色腫を3主徴とする常染色体遺伝性疾患である。FH患者では生下時から高LDL-C血症が持続し、若年時から冠動脈硬化症の進展を認めるため、FHは単独できわめて冠動脈疾患のリスクが高い疾患である。未治療のFHヘテロ接合体(HeFH)では、冠動脈疾患発症リスクが約13倍高いことが報告されている。 日本人においても他国と同様300人に1人という高頻度でHeFHが存在し、30万人以上の患者がいると考えられる。早期診断により適切な治療につなげることで、FHは確実に予後を改善できる病気であることを念頭に診療にあたり、本人、さらには家族スクリーニング(カスケードスクリーニング)を実施することにより、若年死の予防が可能になる。 1.FHの病態 1)高LDL-C血症 日本人HeFHの未治療時の平均LDL-Cは248mg/dLで、男女差は認めなかった 1)。HeFHの血清総コレステロール値は正常者の約2倍、FHホモ接合体(HoFH)は約4倍の値を示す。LDL-C値が高い場合、特に薬物治療への反応が悪い場合にはFHを疑うべきである。 2)早発性冠動脈疾患 早発性冠動脈疾患患者は全てFHの可能性がある。高LDL-C血症があれば、FHの可能性が高い。急性冠症候群(ACS)の急性期にはLDL-C値が低下することが知られており、注意が必要である。 3)腱・皮膚黄色腫 FHの診断において、腱黄色腫や皮膚黄色腫の存在が重要である。特にHoFHでは若年から黄色腫が顕著になるが、黄色腫がない場合でもFHを否定するべきではなく、遺伝学的検査が診断上重要な位置を占める。 4)角膜輪 50歳未満のFH患者に見られる角膜輪は診断的価値が高いが、高齢者にも類似の症状が見られ、鑑別が必要である。 5)FHにおけるその他のリスク因子 HeFHにおける冠動脈疾患のリスク因子として、糖尿病、低HDL-C血症、喫煙、高LDL-C、アキレス腱肥厚、高トリグリセライド(TG)血症などが挙げられる。また、高Lp(a)血症がリスク因子であることも報告されている。これらにより、動脈硬化のリスクを評価して、制御できるリスクをできる限り低下させることが重要である。
要約 当院のインスリン注射患者数は172名(2022年10月時点)である。使用デバイスはプレフィルド製剤(使い捨て)141名(82.0%)に対して、カートリッジ製剤(詰め替え)31名(18.0%)と少ない現状がある。カートリッジ製剤には詰め替えの手間があるが、低価格、廃棄物削減が考えられる。インスリン注射中の患者を抽出し対象者に情報提供し、その後、カートリッジ製剤の変更者にアンケート(横断調査)を実施した。結果は情報提供56名、変更者45名(80.4%)、アンケート回収43名、変更してよかった38名(88.4%)であった。メリットは経済性、ゴミの減量などだけでなく、冷蔵庫を占拠していた保管スペースが減り、家族のストレスがなくなったとの回答もあった。デメリットは詰め替えが面倒、デバイスが重たいなどの回答があった。なお、窓口負担の減額により、CGMの提案やスポーツジムの提案ができた。今後はチーム医療で患者に十分なデバイスの説明を行い、患者の意向を尊重したインスリン導入、継続支援ができるよう努める必要があると考える。
ポイント リアルタイムCGMを併用したインスリンポンプ療法のことを、Sensor Augmented Pump(SAP)と呼び、さらにCGMと連動し自動で基礎インスリンを増減する注入方法を、Automated Insulin Delivery(AID)と呼ぶ。 AIDの中で、手動によりボーラスインスリンを投与可能なものがHybrid Closed Loop(HCL)療法とされる。 HCLに、追加インスリンによる自動補正を加えたものをAdvanced Hybrid Closed Loop(AHCL)と呼び、メドトロニック社のMiniMedTM780G Systemと、Tandem社のt:slim X2TM insulin pump with Control-IQ+ technologyが該当する。 1.総論 持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII、通称:インスリンポンプ療法)はデバイスやシステムの進化が血糖コントロールの改善に直結するといっても過言ではなく、現代の治療法の理解のために、まず現在までの開発の歴史を示す(図1) 1)。1976年に遡るが、インスリンポンプとして市販された最初のデバイスは、ベッドサイド据置型の大型のものであった 2)。そして持続血糖モニター(continuous glucose monitoring:CGM)が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)に初めて承認されたのは1999年で、2015年にメドトロニック社のMiniMedTM640G SystemがCGMによる低血糖発生時の自動注入停止(predictive low glucose suspend:PLGS)を備えた初めてのモデルで発売となり、ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)でも低血糖の発生を抑制している 3)。 HCLのAIDとして初めて市販されたのは2016年で、メドトロニック社のMiniMedTM670G Systemであるが、日本では発売されていなかったが、その後Bluetooth機能を追加で有したMiniMedTM770G Systemが世界に遅れること2022年に導入となった。 そしてさらにMiniMedTM780G Systemのモデルから追加インスリンによる自動補正も加わったAHCLとして呼称されるAIDとなり、2023年に世界で使用できるようになっている。また、MiniMedTM770G SystemからMiniMedTM780G Systemへのアップデートは追加インスリンによる自動補正だけでなく、オートモードの目標血糖値が120mg/dLに加えて、110mg/dLや100mg/dLとより低い値が選択できるようにもなっている。その他、ガーディアンTM4センサーのキャリブレーションも必要としなくなったことで、実際に使用する患者側の負担も大きく軽減された。MiniMedTMでのHCLとAHCLによる12週間の治療期間のRCTでは、AHCL群で低血糖を増やさず高血糖を抑制している 4)。 本稿ではAHCLのAIDに関する有効性のエビデンスを解説し、MiniMedTM780G System使用の実例や今後期待されるインスリンポンプの未来を紹介する。
はじめに 多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)は複数の内分泌臓器に腫瘍を生じる疾患で1型(MEN1)と2型(MEN2)に大別される。両者とも有病率は3~4万人に1人程度と推定され 1)、常染色体顕性遺伝を示すが家族歴のないde novo変異による発症例も存在する。本稿ではこれらについて概説する。 1.MEN1 2) 1)病因 11番染色体長腕(11q13.1)にあるMEN1遺伝子の機能喪失型変異による。MEN1遺伝子がコードするmeninが腫瘍形成促進因子JunDの働きを抑制することなどから、MEN1遺伝子はがん抑制遺伝子と考えられている。すなわち、片親から異常MEN1遺伝子を受け継ぎ、もう片親由来の正常MEN1遺伝子の機能が欠失などで失われると細胞が腫瘍化すると考えられる。 2)臨床像 原発性副甲状腺機能亢進症・膵消化管神経内分泌腫瘍・下垂体前葉神経内分泌腫瘍を3主徴とする(表1) 1, 3)。ほぼ全例で40~50歳までにまず原発性副甲状腺機能亢進症を発症するが、他主徴の先行例もあること、3主徴以外にも多くの内分泌組織に腫瘍を生じ得ること、膵消化管神経内分泌腫瘍の一部と胸腺神経内分泌腫瘍は悪性度が高いことなどに注意を要する。ホルモン非産生腫瘍としては、中枢神経系の髄膜種(MEN1の約8%にみられる)・上衣種(同約1%)、皮膚の顔面血管線維腫(同約85%)・コラゲノーマ(同約70%)・脂肪腫(同約30%)、さらに甲状腺腫瘍、乳癌、子宮筋腫などを合併する。なお、MEN1変異のタイプと臨床像や予後の関連を示す研究も存在するが、実臨床で役立つほどのものではない。
はじめに インスリン抵抗性は、インスリンの血糖降下を含む代謝作用が低下している状態を示す。本稿では肥満に伴うインスリン抵抗性の成因を中心に概説し、臨床的に使用されるインスリン抵抗性の指標、およびインスリン抵抗性を改善する薬物とその薬理作用について紹介する。 1.脂肪細胞における糖・脂質代謝 脂肪組織は単に脂肪分が体内に蓄積しているだけでなく、脂肪細胞、血管などの間質細胞、免疫細胞など多くの細胞種により構成される。脂肪細胞は周囲を毛細血管や神経線維に覆われている。インスリンが脂肪細胞表面に存在するインスリン受容体に作用すると、インスリンシグナル伝達を介して細胞質のグルコース輸送体(glucose transporter:GLUT4)が細胞膜表面へとトランスロケーションし、血液中のグルコースが脂肪細胞内へと取り込まれ、血糖が低下する。グルコースは解糖系、TCAサイクルを経てクエン酸へと代謝され、これを基質として脂肪酸が合成・伸長されるが、インスリンはこの同化作用を促進する。脂肪酸はエステル化され中性脂肪となり、脂肪滴内に貯蔵される。一方で、脂肪組織の神経末端から分泌されるカテコラミンは脂肪細胞のβ3アドレナリン受容体に作用し、プロテインキナーゼA(PKA)の活性化を介して脂肪滴の表面に存在するホルモン感受性リパーゼなどのリン酸化を引き起こす。その結果脂肪分解が促進され、脂肪酸とグリセロールを血中に遊離することで、栄養素を必要な臓器に供給する(図1) 1)。このように、インスリンは脂肪細胞の代謝制御因子として重要な機能を担っている。 図1 脂肪細胞の脂質蓄積に対するインスリンとカテコラミンの作用(文献1より改変)
はじめに ミトコンドリア糖尿病(maternally inherited diabetes and deafness:MIDD)は糖尿病全体の1~2%を占め、MIDDが疑われる症例に遭遇することはまれではない。しかし、多くの医療従事者にとってミトコンドリアは高校や大学基礎課程で学習した程度であり、2018年の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」改訂以前は医学教育にミトコンドリア病を含む臨床遺伝学は含まれていなかった。ミトコンドリアを標的とする新規糖尿病治療薬の登場や、遺伝学的検査の広がりによってミトコンドリアやMIDDに関する関心が高まっている。本稿では、ミトコンドリア機能の低下によって発症するミトコンドリア病ならびにMIDDについて解説し、MIDDの対応に必要な知識をまとめた。ミトコンドリア病の一疾患としてのMIDDに対する理解が深まれば願ってもないことである。 1.ミトコンドリアとは何か ミトコンドリアは細胞質に存在する小器官で、その最も重要な働きがアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)合成である。このATPは生命活動のためのエネルギーである。ミトコンドリアの形状はコッペパンのように描かれていることが多いが、実際には互いに融合と分離を繰り返してダイナミックに動いている(図1) 1)。細胞内のミトコンドリア数には著しい差異が認められ、代謝の盛んな組織では1細胞あたり1万個以上、リンパ球では数個、また赤血球では認められない 2)。ミトコンドリア1個あたりのDNAは2~10個(コピー)とされている。 ミトコンドリアが独自のDNAを持つことから示唆されるように、元々は別の生物であったとされる。今から16~20億年ほど前、われわれの遠い祖先にあたる真核細胞の前身で酸素を利用できなかった単細胞生物(古細菌、アーキア)に、ミトコンドリアの先祖にあたるプロテオバクテリア(酸素を使う好気性細菌の一種)が寄生し、共生と進化を経て現在のような「絶対共生」に到達したと考えられている。 ATPは、解糖系の最終代謝産物であるピルビン酸がミトコンドリア内膜の内側のマトリックスに入り、トリカルボン酸回路(tricarboxylic acid cycle:TCA回路)と呼吸鎖複合体を経て合成される。酸素を利用するTCA回路では、1分子のグルコースから最大で32分子のATPを合成することができるが、解糖系のみではたった2分子しか合成できない(図2) 3)。ミトコンドリアのTCA回路を得たわれわれの遠い祖先は、極めて効率よくエネルギーを産生する能力を獲得した。ATP1分子が加水分解(主にATP→ADP+Pi)の際に放出するエネルギーは約1.2×10−20calとされている。また、1日に合成されるATPの総量は体重に相当するともいわれている。 ミトコンドリアは血中に溶け込んだ酸素を用いて、摂取した栄養素を化学エネルギーに変換している。つまり、われわれが、日々食事を摂って呼吸することは究極的に生命維持に必須のATP合成に帰着している。この辺りのことをさらに知りたい方には、『忙しい人のための代謝学 ミトコンドリアがわかれば代謝がわかる』田中文彦著(羊土社)をお勧めする。
はじめに 若年発症成人型糖尿病(maturity-onset diabetes of the young:MODY)は単一遺伝子異常による糖尿病であり、糖尿病全体の0.1~0.2%程度を占めると考えられている。常染色体顕性遺伝形式をとり、若年発症、非肥満、およびインスリン分泌能低下を特徴とする 1)。MODYはそれぞれ若年発症の糖尿病という共通点をもつことに加え、独自の表現型を呈することが知られている。本稿ではわが国で遭遇する頻度が高いMODYについて、表現型および治療方針について概説する。 1.MODYの定義 従来、典型的なMODYは25歳以下で発症し、3世代以上にわたる糖尿病の家族歴を有するものと定義されてきた 2)。しかし近年では、20歳代以降に診断される例や孤発例の報告が蓄積されたことで、スクリーニング基準の検討が求められている。われわれもこれまでに新たなスクリーニング基準を提案した(表1) 3)。現在までにMODYの原因遺伝子は14種類が同定されているが、本邦で特に頻度が高いのはMODY1(HNF4A-MODY)、MODY2(GCK-MODY)、MODY3(HNF1A-MODY)、およびMODY5(HNF1B-MODY)である(表2)。またMODY関連遺伝子は相互に関連しており、表現型にも影響を及ぼすことが知られている(図1)。 表1 新たなスクリーニング基準(文献3より) *孤発例もあるため、必須の情報ではない。 表2 MODYの臨床像の特徴 図1 MODY関連遺伝子の相関図
近年のゲノム解析技術の進歩に伴って、遺伝子異常が惹起する代謝疾患、内分泌疾患への理解は飛躍的に深まってきている。これらの多くは、遺伝子変異によるホルモンの分泌異常や代謝経路の障害を伴い、その臨床像や治療戦略はそれによって大きく規定されている。 本特集では、これらの遺伝子異常に基づく代表的な内分泌代謝疾患を取り上げて、その病態生理や診断法から最新の治療アプローチに至るまでを、国内外の最新研究成果も交えつつ、斯界をリードする執筆陣によって、縦横に解説していただいた。さらに、遺伝学的検査の役割や遺伝カウンセリングの重要性についても、臨床現場における実践的な知見として提供するべく、広い視野で企画を進めた。 まずは冒頭において、髙橋佳大先生、堀川幸男先生に、MODYの定義から臨床像、診療上の留意点までを手際よくおまとめいただき、次いで、岩﨑直子先生によって、ミトコンドリア遺伝子異常による糖尿病について、ミトコンドリアの基礎医学からその疾患の臨床経過までを俯瞰していただいた。 また、主に内分泌領域に目を向ければ、石川敏夫先生にMENの病因から診断、治療の実際を、広範な視点から十二分に敷衍していただき、そして斯波真理子先生には、進捗著しい領域の一つである家族性高コレステロール血症について、その病態から今後の治療法に関してまでを、臨床の現場に即して記載していただいた。さらに入江航生先生、伊東伸朗先生には、骨代謝疾患、骨系統疾患について、多様な疾患の臨床像から診断、治療に至る道筋を余さずご解説いただき、のみならず田部勝也先生には、特徴的な疾患であるウォルフラム(Wolfram)症候群について、要点を漏らすことなく掻い摘まんでいただいている。 また、井原健二先生には、内分泌代謝疾患の領域における遺伝医療について、その倫理的側面も交えて網羅していただき、浦尾悠子先生には、遺伝学的検査におけるSDM(shared decision making)について、現状と具体例に基づいて詳述していただいた。 本特集の執筆陣は、その分野に広範な経験と知識を有する専門家の方々である。ご執筆の先生方のご尽力を多とするとともに、本特集によって、読者諸賢の理解が深まり、単一遺伝子異常による内分泌代謝疾患へのより適切な診断・治療の進歩に寄与し得る一助となれば、企画者としてこの上ない喜びである。今後も遺伝子研究の進展とともに、個別化医療の実現に向けた取り組みが一層強固となることを念頭に置きつつ、この「扉」を擱筆する。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 2024年の診療報酬改定では、特定疾患療養管理料および特定疾患処方管理加算の対象疾患から糖尿病、脂質異常症および高血圧症が除外され、代わりにこの3疾患を対象として、検査などを包括しない生活習慣病管理料(II)が新設された。そして、糖尿病に係る管理料は、脂質異常症や高血圧症よりも多く、主な管理料は10にも及ぶ。よって今回は、糖尿病と内分泌疾患に係る管理料について、医科点数表告示・通知、施設基準を基に概説する。 1.B000 特定疾患療養管理料について 1~4)(表1) 特定疾患療養管理料は、表1の施設基準告示別表第一に示す「甲状腺障害」および「処置後甲状腺機能低下症」を含む厚生労働大臣が定めた疾患を主病とする患者に対し、治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合に算定し、管理内容の要点を診療録に記載する。 「地域のかかりつけ医師」 が管理を行った場合、「1 診療所の場合」は225点、「2 許可病床数が100床未満の病院の場合」は147点、「3 許可病床数が100床以上200床未満の病院の場合」は87点を月2回に限り算定するが、200床以上の病院では算定できない。 初診日または初診日から1月以内に行った管理の費用は初診料に、退院日から1月以内に行った管理の費用は入院基本料に含まれ、算定できない。 情報通信機器が整備され届け出た保険医療機関において、医学管理をオンライン指針に沿って診療情報通信機器を用いて行った場合は、「1」、「2」、「3」の所定点数に代えて、それぞれ196点、128点、76点を算定する。 必要やむを得ない場合には、看護している家族などを通して療養上の管理を行った時も、特定疾患療養管理料を算定できる。
はじめに ―ギッテルマン症候群の頻度と認知度― ギッテルマン症候群については、多くの医療関係者でもすでに理解している方は少ないかもしれない。しかし、日本人における患者数は約500人に1人とされており、遺伝性疾患の中では最も頻度が高い病気である。この病気は必ずしも軽症とは限らず、多くの患者が慢性的な症状に苦しんでいる。ただ、医療関係者が症状を正しく理解しないために患者が適切に診断されないことや、自らの症状を「体が弱いから」と捉え、患者が病気の可能性を考えてない場合もある。偶然の血液検査で低カリウム血症が見つかる患者の多くはギッテルマン症候群の疑いがある。医療関係者は低カリウム血症を見つけても、症状がないために無視してしまうことがあるかもしれない。しかし、そうした患者の中には日常生活に支障をきたしている方も多くいる。このようなギッテルマン症候群患者は、適切な治療によって症状が改善し、日常生活を取り戻すことができる。本稿では、ギッテルマン症候群について詳しく解説する。 1.ギッテルマン症候群とは? ギッテルマン症候群は、腎臓の尿細管でナトリウムを再吸収する役割を持つナトリウムクロライド共輸送体(NCCT)をコードする遺伝子(SLC12A3)の異常により、尿中に大量のナトリウムが漏れ出し、それを補おうとする過程でカリウムも尿中に流出する。その結果、低カリウム血症が引き起こされる。
はじめに 水バランスは、口渇による水分摂取とバソプレシン(arginine vasopressin:AVP)の作用による腎臓における水の再吸収で調節されている。水バランスの破綻が、血清ナトリウム(Na)濃度の異常となって現れる。血清Na濃度135mEq/L未満の病態が低Na血症 1)と定義される。 1.水バランスの調節 血清Na濃度すなわち浸透圧が上昇すると、①下垂体後葉からAVPが分泌され、腎集合管で水の再吸収が促進される、②口渇感が生じ水分摂取が促される、という2つの調節機構により血漿浸透圧は低下するように調節される 2)。血漿浸透圧が低下した場合(血清Na濃度は低下)はその逆が生じる。これらの調節機構により、日々の塩分や水の摂取量が変化しても血漿浸透圧は1~2%の変動に抑えられる。 AVPの分泌は、非浸透圧性の刺激、すなわち循環血漿量の低下によっても促進される。この非浸透圧性の刺激は、有効循環血漿量が15%以上減少すると活性化されるが 3)、この刺激は浸透圧性の刺激より強く、浸透圧が低い状況においてもAVPの分泌は促進され得る。これは、浸透圧調節よりも有効循環血漿量を維持することのほうが重要であるためと考えられ、一部の低Na血症の病態の発症に関与している。
はじめに 2023年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると肥満(BMI≧25kg/m2)の割合は男性31.5%、女性21.1%である。日本肥満学会は肥満の中でも糖尿病や脂質異常症、高血圧などの健康障害を合併する場合、または現在健康障害がなくても内臓脂肪型肥満と診断される場合は肥満症と診断し、医学的に減量を要する病態と定義している 1)。 肥満症の治療の基本は食事療法、運動療法を含めた生活習慣の改善であり、それでも困難な場合、薬物療法となる。しかし、肥満症治療薬として現在西洋薬で保険適用となるのはセマグルチド、チルゼパチド、マジンドールで、対象となるのがセマグルチド、チルゼパチドはBMI 27kg/m2以上、マジンドールは35kg/m2以上と高度の肥満症に限られており、早期からの介入で予後を改善し得る肥満症に対して西洋薬による対応は十分とはいえない。 一方、漢方医学には、本来肥満症や耐糖能異常、高血圧、脂質異常症といった疾患概念はないが、養生を基本とする独自の治療体系を有し、肥満症に対しても対応し得る薬剤が少なくない。つまり、陰陽、虚実、表裏、寒熱、六病位、気血水、五臓など漢方特有の概念に基づいて、漢方医学的診断である「証」を決定し、その人にあった養生を勧め、方剤を選択する。病名を診断して治療する西洋医学とは異なった、「随証治療」という独自の治療戦略をもつ。特に、「虚実」は大切な基本的概念で、病になった時に跳ね返す力、生命力の強さを表わし、「実」とは病に対する抵抗力が充実している状態、「虚」とは病に抵抗する力が衰えて虚ろな状態である。 防風通ぼうふうつう聖散しょうさんは「食毒」の薬で、実証の肥満の代表的方剤である。実証は体力があって筋肉質でがっちりし、血色や肌つやがよく、声は大きくて太い、胃腸が強くて食欲が旺盛、便秘気味、暑がり、少しぐらい無理をしても平気でつい食べ過ぎてしまう、などの特徴がある。一方、虚証は色白の水太りタイプで冷えてむくみやすく、体力がないため疲れやすい。虚証の肥満の代表的方剤は防己黄耆ぼういおうぎ湯とうである 2)。
はじめに 体重減少は日常的に遭遇する症候である。「医学的に対処すべき体重減少」に関する明確な共通認識は国際的に確立されていない。一般的に、「医学的に対処すべき体重減少」は「意図的な体重管理を行っていないにもかかわらず、半年から1年の期間で5kg以上の体重減少、あるいは、体重の10%以上の減少が見られる場合」と定義される 1)。体重は個人差が大きく、健康な状態で長期間にわたって安定的な低体重(やせ)を呈する場合は医学的に対処すべき体重減少とはみなされない。本稿では「医学的に対処すべき体重減少」に該当する可能性のある疾患群を概説し、特に、糖尿病・内分泌領域に関連する疾患群を詳述する。 1.体重減少をきたす疾患群 体重減少を引き起こす疾患群の中で頻度が高いものの筆頭格は消化器疾患である。高頻度に遭遇する疾患として胃十二指腸潰瘍や逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群が挙げられる。また、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患や動脈硬化に関連する慢性腸管膜虚血も体重減少の原因となる。まれではあるが、ガストリン産性腫瘍や血管作動性腸管ペプチド(vasoactive intestinal polypeptide:VIP)産生腫瘍などの吸収不良症候群も体重減少を引き起こす可能性がある 2)。次いで種々の悪性腫瘍である。胃がん、膵がん、肝がんなど消化器系悪性腫瘍や肺がんなどの呼吸器系悪性腫瘍、悪性リンパ腫や白血病などの血液がんが進行すると高度の体重減少(カヘキシア)を呈する 3)。カヘキシアは悪性腫瘍だけではなく、うっ血性心不全や慢性閉塞性肺疾患、慢性肝不全、慢性腎不全、関節リウマチや血管炎などの膠原病、制御不充分な慢性感染症(結核、HIV、寄生虫)など、持続的炎症を伴う疾患でも生じる 4)。 加齢自体もサルコペニアやフレイルを引き起こし、結果として体重減少をもたらす。高齢者においては歯牙の減少、嚥下機能低下、味覚・嗅覚の低下に伴い食欲も低下し、体重減少が生じることがある 5)。多くの高齢者が医薬を内服しており、副作用としての味覚障害が加齢に関連した食欲低下・体重減少の一因になっている場合も少なくない 6)。また、慢性便秘症に対する下剤の乱用やゾニサミドなどの抗てんかん・抗パーキンソン病薬による薬剤性の体重減少にも注意が必要である。高齢者において有病率が上昇するうつ病やアルツハイマー型認知症、パーキンソン病などの精神・神経変性疾患も体重減少の原因となる。アルコール使用障害(アルコール依存症)や統合失調症、摂食障害も体重減少の原因となり 7~9)、特に神経性やせ症(神経性食欲不振症)では顕著な体重減少が必発である。体重減少をきたす疾患群の全体像を図1 10)に示す。以後は糖尿病・内分泌領域に焦点を当て、診療のポイントを解説する。
Q&A編はこちら はじめに 画像検査の普及により予期せず副腎腫瘍が発見されるケースが増えており、これを副腎偶発腫瘍と呼ぶ。成人での有病率は1~6%と報告されており、加齢とともに指摘される頻度は増加し、70歳以上では約7%となる 1)。新規に指摘された副腎偶発腫瘍では、悪性腫瘍やホルモン産生腫瘍の可能性を評価し、適切な対応を行う必要がある。本稿では副腎偶発腫瘍をみた時に評価すべきポイントと、どのようにマネジメントすればよいかについて、症例を提示しながら考える。 1.病因 本邦における副腎偶発腫瘍3,678例の疫学調査 2)によると、副腎偶発腫瘍の病因はホルモン非産生腺腫が約51%と半数以上を占め、以下コルチゾール産生腺腫、褐色細胞腫、アルドステロン産生腺腫の順であった(図1)。調査時点と現在ではサブクリニカルクッシング症候群の診断基準が異なるため、ホルモン非産生腺腫の中には現在のサブクリニカルクッシング症候群が含まれていると考えられる。その他の中には骨髄脂肪腫、嚢胞、交感神経系腫瘍などが含まれる。 図1 副腎偶発腫瘍の病因別頻度
Q&A編はこちら はじめに 食事療法は、2型糖尿病における治療の基本とされている。しかし、日本人の糖尿病の病態の多様化と患者の高齢化に伴って、一人ひとりに個別化した対応が求められている。本稿ではさまざまな属性を持った糖尿病症例を通して、糖尿病の食事療法の課題と在り方を考えてみたい。 1.糖尿病の病態の多様化 糖尿病はインスリン作用不足による代謝症候群である。2型糖尿病は、膵臓におけるインスリンの合成・分泌に制限のある体質的な要因(インスリン分泌不全)に、内臓に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満によるインスリン作用の低下(インスリン抵抗性)が加味することによって発症すると考えられている。従来、内臓脂肪型肥満の多い欧米人ではインスリン抵抗性が、やせ型の日本人糖尿病はインスリン分泌不全が糖尿病の主たる原因であり、両者は病気の成り立ちが異なると考えられてきた。しかし、最近ではそのように言い切れなくなっている。それは日本でも、肥満者が増えているからである。令和5年国民健康・栄養調査によると、40~50歳の働き盛りの男性に、BMIが25kg/m2を超える肥満者の増加がみられる 1)。現在の日本人の糖尿病には、肥満に伴うインスリン抵抗性が、大きく関与していると考えられる。このことは、糖尿病合併症の疾患構造にも表れている。以前は糖尿病性腎症や糖尿病網膜症といった細い血管の障害(細小血管症)が合併症の中心だったが減少傾向にあり、心血管疾患をはじめとする動脈硬化症(大血管症)が増えている。この変化の裏には、インスリン抵抗性を主因とする欧米型の糖尿病がある。一方、やせ型のインスリン分泌不全を呈する糖尿病患者も混在している。日本人の2型糖尿病の病態は、インスリン分泌不全からインスリン抵抗性まで多様であり、個別の対応が求められる。
はじめに 糖尿病性腎症の発症予防・重症化予防のためには、糖尿病や高血圧などの包括的な管理を行う必要があるが、糖尿病の治療継続者は7割以下である。このため国は平成28年(2016年)に糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定、現在では9割以上の市町村が取り組んでいる。令和6年(2024年)度にプログラム改定が行われた 1)ので、その要点について解説する。 1.糖尿病性腎症重症化予防プログラムと課題 「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」は、国民健康保険などの医療保険者が、健診・レセプトデータをもとに対象者を抽出し、受診勧奨・保健指導などを行うものである。国の実施要件として、①対象者の抽出基準が明確、②かかりつけ医と連携した取り組み、③保健指導には専門職が携わること、④事業評価の実施、⑤糖尿病対策推進会議などとの連携を図ること、の5項目がある。具体的な保健事業としては、糖尿病未治療者に対する受診勧奨、血糖コントロール不良者などに対する保健指導の2種類がある。 大規模実証事業による効果分析では、介入により医療機関受診が増加することが観察されたが、腎機能などのアウトカムの有意な差は認めなかった。その理由として、対象者抽出基準や介入方法などが標準化されていないこと、事業評価が不十分であることが挙げられる。そこで取り組みの標準化と質の向上に向けてプログラムが改定された。
はじめに 大分県では、高齢化と生活習慣病の増加により糖尿病や高血圧が慢性腎臓病(CKD)に進行し、透析導入が増加している。2018年末時点で透析患者数は4,057人、人口100万人あたり3,546人と全国5番目に多く、糖尿病性腎症の重症化予防が急務である。 1.大分県では 2019年12月、大分大学、大分県医師会、大分県は連携協定を締結し、「大分県糖尿病性腎症重症化予防推進に係る効果検討会議」を設立した。この会議では、かかりつけ医と専門医の連携を強化するため「大分県糖尿病性腎症重症化予防診療ガイド」の作成・改定を行い、県独自の紹介基準を設定。令和6年度の改定では新たな項目を加え、令和7年度初頭に県内へ周知予定である。
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