はじめに 小児期発症1型糖尿病の医療的ケアはライフステージ(乳幼児期、学童期、思春期)により異なる。それは子どもの成長段階におけるセルフケア能力が異なり、かつ病気の理解力、考える能力も異なるからである。多くの場合、初期治療は入院で行われ、その後、外来で子どもの血糖管理状況を把握し、より良くしていくための診療が行われる。その際に、時々長期的な視点で子どもの発達状況に応じ、少し先を見据えて、病気に関するセルフケアを増やしていき、親のケアが自然に少なくなるように導くことができれば理想的である。本稿では、ライフステージごとの診療上の留意点を解説しながら、どのように先を見据えて診療していけばいいのかについて考察した。
「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年10月1日現在の日本の高齢化率は29.1%である。65歳以上の人口は1950年(昭和25年)には総人口の5%に満たなかったが、1995年には14%を超え、2005年には20.2%となり、以降も上昇を続けている。さらに2050年には37.1%に達すると推定されている。平均寿命は男性81.09年、女性87.14年と、わが国は世界に誇る長寿国である(厚生労働省「令和5年簡易生命表」)。 一方で、健康寿命は平均寿命より約10年短く、個人の生活の質(QOL)の低下を防ぎ、社会的負担を軽減する上で、健康寿命の延伸が今後の大きな課題となっている。ベストセラーとなったリンダ・グラットン氏の著書『LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略-』で提唱された「人生100年時代」。この長い道のりを健やかに、自分らしく生き抜くために、医療従事者が果たす役割の重要性はますます増している。 本特集では、ライフステージ特有の問題を有し、医療ケアが大きく異なる内分泌学的疾患を取り上げ、各分野のエキスパートに執筆をお願いした。小児期発症1型糖尿病について、子どもの成長段階に応じた医療ケアや成人期への移行を見据えたセルフケア能力の習得について、神野和彦先生に執筆いただいた。また、中村伸枝先生には、看護師の立場から、小児・思春期1型糖尿病患者とその家族への指導・支援における心のケアや社会との関わりの重要性について執筆いただいた。さらに、依藤亨先生には、小児がんサバイバーが小児期以降も抱え続ける内分泌後遺症について、ライフステージごとの診療ポイントと成人期医療へのスムーズな移行のための対応について執筆いただいた。そして、人生100年時代の中盤〜後期にかけて、QOLに大きな影響を与え得る女性更年期障害とLOH症候群について、それぞれ北島百合子先生、小川純人先生にその病態と診断・治療の詳細を執筆いただいた。 エキスパートの詳細かつ実践的で読み応えのある本特集の論文が、ライフステージごとのさまざまな臨床現場で活用いただけることを願っている。 著者のCOI (conflicts of interest)開示:菊池 透;講演料(ノボ ノルディスク ファーマ)、原稿料(エムティーアイ) 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 高齢化するわが国の糖尿病患者について、エネルギー管理を主とする過剰栄養対策とサルコペニア・フレイルなどの低栄養対策のどちらを主とするのかについてフォーカスし、栄養食事管理に関わるエビデンスを基に解説する。
はじめに DPC(Diagnosis Procedure Combination)/PDPS(Per-Diem Payment System)は、2003年4月より82の特定機能病院を対象に導入された、急性期入院医療を対象とする診断群分類に基づく1日当たり包括払い制度である。そして2024年6月1日時点で1,786病院・約48万床が対象となり、「急性期一般入院基本料等」に該当する病床の約85% 1)を占める。 今回は、このように普及したDPC/PDPSについて、糖尿病・内分泌疾患を対象に、2024年診療報酬改定に基づいた内容を概説する。
脂溶性ビタミンの一種であるビタミンDは、食事からの摂取のほか、紫外線の作用により皮膚でかなりの量が産生されるユニークな栄養素である。ビタミンDの最も基本的作用は、腸管におけるカルシウム・リンの吸収促進であることから、ビタミンD不足は骨の脆弱化を招き、骨折リスクを高める。フィンランドの若年男性を対象とした研究では、ビタミンD栄養状態の指標である血中25ヒドロキシビタミンD(25OHD)濃度の低値において、疲労骨折の発生率が増加したことを示しており 1)、スポーツ現場における骨障害予防の観点からもビタミンDの栄養状態を良好に保つことは重要なテーマといえる。さらに近年、ビタミンDと免疫、骨格筋、脂質代謝、心血管疾患などとの関連があるなど、アスリートのコンディショニングや競技パフォーマンスを向上させる可能性のあるエルゴジェニック特性がある栄養素としても注目されている 2)。
はじめに 糖尿病を有する患者も高齢化が進んでおり、高齢者糖尿病は腎症を含む最小血管症や動脈硬化性疾患のほか、認知症、サルコペニアなどの併存疾患をきたしやすい 1)。 糖尿病性腎症の食事療養基準として、「CKDステージによる食事療法基準」(表1)を参照するが、CKDは病期の進展とともに、たんぱく質やリン、カリウム、食塩の制限が必要になる。そして、これらは摂取エネルギー不足となり、Protein Energy Wasting(PEW)をはじめとする低栄養状態を招くことが多い。その上、糖尿病や腎臓病は病態そのものからくる炎症性代謝亢進も加わるため、さらに注意が必要である。 これらのことを踏まえ、サルコペニアを有する高齢者糖尿病性腎症の食事療法について概説する。
北原白秋、本名隆吉が生まれたのは1885年(明治18年)1月25日(戸籍上は2月25日)であった。実家は江戸時代から柳川藩の御用達であった豪商一族で、長男が死去していたため、事実上長男として育った。2歳で腸チフスに罹患し、同時期にかかった乳母は死去した。1897年(明治30年)2年の飛び級で福岡県立の尋常中学伝習館に進むも、いくばくの成績が足りず2年生に落第、この留年が心の傷となり5年生の後半にノイローゼで休学、結局は退学し、私立である早稲田大学英文科予科に入学した。白秋は中学3年生の頃から表現活動を始め、同時期に島崎藤村の『若菜集』に没頭した。実はこの時期に白秋の生家が大火にて類焼し酒倉が焼け落ち、以降没落していった 1, 2)。早稲田入学時には潤沢な仕送りがあったが、1909年(明治42年)、白秋が24歳の処女詩集『邪宗門』が刊行される年には破産に至った。その2年後、詩集『思ひ出』を上梓、人妻とのスキャンダルもあったが、歌集や童謡集などさまざまな分野で作品を発表し文壇での地位を確立した。
はじめに われわれ人間が生きるために必要なエネルギーは全て食物から得ている。従って、摂食行動は生命活動の根源である。摂食行動は、体内貯蔵エネルギーが不足することによって作り出される空腹感(hunger)によって引き起こされる。そして、食物摂取によって得られる飽満感(satiation)によりその空腹感が満たされ、結果として摂食行動が終了する。食物摂取によって食物への欲求が満たされると満腹感(satiety)が生じる。満腹感の持続は、空腹感の抑制に働き、次の摂食行動開始までの間隔を作り出す 1)(図1)。食物への欲求→摂食行動は、空腹感だけでなく、食欲(appetite)によっても調節される。食欲は、内部環境因子(快楽的因子、病的要因、特定栄養素に対する欲求など)と外部環境因子(学習による嗜好/嫌悪、心理的因子、社会的因子、生活環境因子など)によって調節され、特定の食物への欲求に作用する。従って、空腹感と食欲は摂食行動を刺激する異なる因子であり、脳の高次機能が発達した人間においては摂食調節における食欲の関与は大きい。
ポイント SGLT2阻害薬は、血糖改善作用に加えた、additional benefitを期待し得る薬剤である。 心血管疾患・心不全・CKDのイベント発症リスクを低減させることが知られる。 適応拡大される中で、使用する個々人の特性に配慮した適正使用が求められる。
Q&A編はこちら はじめに 骨粗鬆症治療の目的は骨折を予防することである。骨折は健康寿命のみならず、生命予後を短縮させる。閉経後の原発性骨粗鬆症に加え、原発性副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、2型糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣に関連する疾患が骨粗鬆症の原因となるため、内分泌代謝内科は骨折予防の第一線を担うべき診療科といえる。骨粗鬆症治療薬として、従来から用いられてきた骨吸収抑制薬に加え、骨形成促進薬が使用可能となっている。骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者に対しては骨形成促進薬を先行して投与する「アナボリックファースト」により、大幅な骨量増加を目指せる。骨粗鬆症治療を安全に行うために薬剤ごとの注意点を理解する必要がある。本稿では、これから骨粗鬆症治療に関わる方を対象に、治療のエッセンスをまとめた。
Q&A編はこちら はじめに 糖尿病性神経障害は、糖尿病を有する患者に最も高頻度にみられる合併症である。糖尿病性神経障害の自覚症状は多岐にわたり、QOLを損なうだけでなく、足潰瘍および下肢切断、心血管死のリスクを上昇させる。糖尿病を有する患者の増加に伴い、糖尿病性神経障害を有し、足病変や心血管死のリスクが高い患者が増加していくことが考えられる。ほかの合併症と同様、定期的に神経障害の有無や症状を評価し、必要に応じて対症療法やフットケアを行う必要がある。
はじめに 糖尿病患者における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しく食事を摂取することにより、合併症の発症または進展の抑制を図る糖尿病治療である。栄養バランスとしてのエネルギー産生栄養素(3大栄養素)の量(比率)、また量だけではなく質も、血糖管理や合併症の抑制において重要である。本稿では、3大栄養素の量と質を考慮した食事療法について解説する。
はじめに インスリンは血糖恒常性の維持に必須のホルモンであるが、持続する高血糖は膵β細胞からのインスリン分泌不全を惹起する(糖毒性)。糖毒性によるインスリン分泌不全はさらなる高血糖を引き起こすことで一種の悪循環が形成される。高血糖はβ細胞に酸化ストレスやERストレスなどを惹起することでインスリン分泌不全を引き起こすことが知られていたが、近年の研究の結果、糖毒性の背景に膵β細胞の低酸素化という現象が存在していることが明らかになってきた。本稿では、高血糖が膵β細胞に低酸素を惹起するメカニズムおよび低酸素によるインスリン分泌不全機構について概説する。
はじめに 食事療法・運動療法は、糖尿病診療と合併症予防を考える上で、根源的な治療法である。しかしながら、糖尿病患者に対してどの程度のエネルギー設定をすればよいのか、実は明確なエビデンスが乏しい。本稿では、日本糖尿病学会刊行の『糖尿病治療ガイド2022-2023』および『糖尿病診療ガイドライン2024』を補完する形で、エネルギー設定について解説する。また、二重標識水法を用いた糖尿病患者のエネルギー代謝の実態調査に基づいて、エネルギー設定に関して考察する。
糖尿病をもつ人における最適な食事療法とは、適正なエネルギー量で、栄養バランスがよく、規則正しい食事を実践し、合併症の発症または進展の抑制をはかることができる食事療法を実践することである。非肥満の糖尿病、特に高齢者では食事の制限ではなく適切な量のエネルギーを摂取する必要がある。一方、肥満症例ではエネルギー管理が必要となる。食欲のマネジメントは大変重要であり、食後の高血糖、血糖スパイクが血管障害、臓器障害のリスクになるということを考えると食習慣の調整が重要となる。すなわち、よく噛んでゆっくり食べる、野菜・主菜(たんぱく質食品)を先に摂取する、食物繊維を多く含んだグリセミックインデックスの低い食物を摂取することなどに加えて、夜遅い時刻に食べると肥満や高血糖を助長するので、分割食にすることも有効である。また、食事は朝型(朝食を充実)にすることが肥満抑制、血糖値の改善、筋肉を増やすなどメリットが大きく、時間栄養学も考慮した食事療法が推奨されている。 一方、わが国では世界に類を見ない糖尿病患者の高齢化が進んでおり、どのような食事療法を実施していくかは重要な課題である。すなわち、筋肉量を維持することが転倒防止、ADLを維持するために重要であるが、高齢者はanabolic resistanceの状態で筋肉が増えにくい、また糖尿病患者では筋肉が減りやすいため十分な量の良質なたんぱく質、またエネルギーの摂取が必要である。一方で腎機能障害を合併した高齢者におけるたんぱく質の摂取量には議論があるところではあるが、高齢者糖尿病においてはサルコペニアの発症・進展抑制も目指した治療を行うことが重要であり、そのために適切な食事療法を実施することが望まれている。 本特集では、この分野でのエキスパートの方々から最新の食事療法についてのエビデンスに基づく新機軸の話題提供をいただいた。今後、読者の皆様の日常診療において本誌が一助となる内容となっているものと自信を持っており、糖尿病治療の目標である、糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを実現するためには、医学的に最適な食事療法と、食事のおいしさや楽しさ、豊かさなどを両立することを考え、是非に、ご活用いただけるようにと切に願っている。 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容に関連して特に申告なし 本論文のPDFをダウンロードいただけます
はじめに 尿酸は、生体におけるエネルギーの通貨と呼ばれるATPをはじめとしたプリン体の代謝によって生じる。多くの哺乳類は尿酸代謝酵素を有しており、尿酸はさらに代謝されてアラントインに変換された後に体外へと排泄されるが、ヒトを含む多くの高等霊長類では遺伝的に尿酸代謝酵素を欠いているため、尿酸がプリン体の最終代謝産物となる。尿酸は体内に蓄積することで痛風の原因となるほか、心血管疾患や慢性腎臓病との関連も指摘されていることから、「悪玉」と見なされることが多い。しかしながら、尿酸は強い抗酸化作用を有することも知られており、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患に対して尿酸が保護的に働く可能性も示唆されている。これらを踏まえ、近年では、血清尿酸値が至適濃度よりも高値となる高尿酸血症と、低値となる低尿酸血症を併せた疾患概念である尿酸異常症(dysuricemia)が提唱されるようになった 1)。本稿では、尿酸の体内動態制御機構を踏まえ、尿酸異常症に用いられる治療薬について概説する。
はじめに 2024年度診療報酬改定において、診療報酬は+0.88%(医科 +0.52%、歯科 +0.57%、 調剤 +0.16%)、薬価は-0.97%の改定率となり、改定に当たっては以下に示す4点が基本的視点として示された 1)。 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進 ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や 医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進 安心・安全で質の高い医療の推進 効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上 そして、これらの視点ごとに具体的方向性が示され、個別項目の改定がなされた。 内分泌疾患に係る改定は、主に医科診療報酬点数表の第1章基本診療料第2部入院料等、第2章特掲診療料第1部医学管理等および第3部検査であり、今回は改定された項目の告示、通知および施設基準について概説する。なお、本連載では内分泌疾患を対象にするのは初めてであるため、診療報酬の改定箇所のほかに、医科点数表の内分泌疾患に係る主な算定項目についても概説する。また、DPC(Diagnosis Procedure Combination:包括評価)制度については別途概説する。
今年の夏休みは、一人旅に出かけた。6月下旬の土曜日、札幌に用事があったので、その後ひたすら西へ東へと乗り物を乗り継ぐことにしたのだ。今回、銀輪は持参しなかった。
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